三川みりのレビュー一覧
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“アンの後ろ姿を見つめる。
彼女は、自分で気がついているのだろうか。チビで、細くて、ひょろひょろした手足ばかりが目立っていた一年前に比べて、自分がすこし大きくなっていることを。
すこしだけ背が伸びて、胸や腰あたりにまるみができて、手足のバランスが良くなった。
小柄だが、すらりとした立ち姿だ。髪の色も、わずかに薄くなった。廊下の窓から射しこむ光に照らされる髪は、艶も増している。
たった一年で、少女が娘へと変化しようとしている。ただし中身は、外見ほど変化はしていないらしい。甘い言葉に応えられるようになるのは、まだまだ先かもしれない。
アンの姿が廊下の向こうへ消えると、シャルはふっと笑った。
生まれもった姿が時間とともに変化するのは、妖精からみると不思議なことだった。
人間という生き物の不可解さの一つだ。しかし、それが愛らしい。リズが子供から大人に変化していくのを見守っていた時にも、それを感じた。
しかしアンに対しては愛しさだけでなく、甘い切迫感が同居している。
その時、背を向けていた廊下の端から視線を感じた。ふり返ると、何者かの影が廊下の角を曲がったのが見えた。ふわりとした、紫色のなにかだ。”
シャル視点の時が楽しい。
自分の中でのエリオットへの印象がだんだん良くなってきた。
ヒューの言葉が悲しい。
アンには強く進んでもらいたい。
次くらいにジョナスまたくる?
“背後に立つシャルの手が、強ばるアンの背を軽くなでた。その手が語りかける。怯えるなと。
——誰一人、逃げてない。だからわたしも、逃げはうてない。
ひと呼吸。深く息を吸って吐いて、口を開いた。
「勝負します」
その言葉に、ヒューの背後に控えていたサリムがわずかに驚いた表情で呟く。
「向こう見ずな......」
ヒューは、にやりとした。
「受けてたとう。アン・ハルフォード」
「どうやって勝負するの?」
「砂糖菓子職人同士の勝負だ。砂糖菓子で勝負するしかないな」
しばしヒューは考えを廻らせるように、顎に手をやっていた。しかしすぐに、視線を右翼へ続く廊下の方へ向けた。
「あの妖精。ホリーリーフ城に住み着いていた妖精がいたな。捕まえたが、なにも食べないで、弱っていると」
「ノアのこと?」
「あいつに判断をしてもらおう。あいつなら、どちらの利害にも関係しない。妖精は、砂糖菓子に関して人間以上に目がきく。美しい砂糖菓子には、本能で惹きつけられる。あいつのために砂糖菓子を作る。砂糖菓子を作りあいつが食べる気になったら勝ち。どうだ?もし二人とも食べさせられなかった場合は、引き分けだ。引き分けの場合も、権利はゆずれない」
「わかった」
勝負の方法など、こだわったところで意味はない。自分の実力が、ヒューにおよばないことは変わらない。ただ勝負をする前に白旗をあげては、仕事をする仲間たちに顔向けができない。だから挑むしかない。
「時間が惜しいだろう。悠長にはしてられないな。期限は、明日いっぱい。明後日の朝には、二人とも作品を作りあげて、あの妖精に見せる。どうだ?」
「それでいい」
「楽しみだ。アン」
そう言って微笑したヒューは、嬉しそうだった。” -
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“アンは驚いた。
「そうか……。ほんとうに、そうよね……誰が?ていうか、どうやって……?」
――銀砂糖は最初に誰が作ったの?妖精が作ったって言われてるけど、妖精の誰が作ったの?どうやって!?
見慣れた風景の前に突然、未知の扉が開いたようだった。
銀砂糖は、最初の一握りの銀砂糖がなければ精製できない。けれど最初の一握りの銀砂糖も、銀砂糖がないとこの世に出現しない。銀砂糖は一体どうやってこの世に現れたのか。
それはいいようもなく不可思議な事実だ。なにかの魔法か、奇跡か。人間が知らない、妖精の神秘の技法か。想像するだけで、心が躍った。
「だから最初の銀砂糖には、得体が知れないものって意味もある。あなたは、ただ物珍しいから、期待されているだけよ。実力を買われたわけじゃない。そんな人に、なにができるの?」
最後のブリジットの言葉は、嫌味だろう。くどくどしくて攻撃力に欠けるので、嫌味としては不出来だ。だが嫌味には違いない。
けれどアンは、それどころではなかった。知らされた事実に興奮していた。
「気がつかなかった、今まで!」
「そうよ、だから」
「よく考えればわかったことなのに。わたし今まで、考えた事なかった。ブリジットさん、最初に銀砂糖を精製した人は、ほんとうにどうやって精製したの!?」
問うと、ブリジットは一瞬、なにを問われたのかわからないようにきょとんとした。しかしすぐに、かっとしたように怒鳴った。
「わたしが知るわけないじゃない!?」
彼女の怒声で、はっとする。
――あ…………。怒ってる。
当然だろう。馬鹿にされたと思ったに違いない。
「ご、ごめんなさい。つい」
あせって謝ると、ブリジットの背後で、シャルがくっくと笑いだした。”
どうしようアンがめちゃくちゃ格好いい。
アンがシャルを助けるその言い分とか。キャットの親切を断った理由とか。
彼女は本当真っ直ぐで折れることもあるけれど強いなぁ。
シャルの心境の変化も楽しい。動揺とか葛藤とか。
エリオットは結局、んー、良い人なのかな。中身が読めないけどそこまで悪人でもない。
ブリジットと、幸せになってくれたらとても嬉しいのだけど。
“「ほんとうに、無事でよかった。ありがとうシャル。いつも、守ってくれてる」
力の弱いアンは、シャルと一緒にいれば常に守ってもらうしかない。それはわかっているし、甘えてはいけないと思う。でもシャルが嫌だと言わない限りは、自分からシャルのそばを離れることはできない。もし離れてしまったら、恋しくて恋しくて、どうにかなってしまう。
ずっとシャルの優しさに甘えて、そばにいる自分の身勝手さを感じる。だからできるだけ、彼に負担をかけないようにするしかない。そしてただ感謝して、シャルがアンのそばにいてもいいと思ってくれる気まぐれが、ずっと続くように祈るしかない。
シャルの羽を握ってひきとめるようなことは、アンにはできない。
「待っててくれて、ありがとう。やっと羽を返すことができるね。シャル。あなたのもの」
羽の入った袋を、アンは手を伸ばしてシャルの首にかけた。シャルは微笑んだ。すこしかがみこむと、両掌でアンの頬を包む。そしてゆっくりと顔を近づけた。
「助けられたな」
彼の吐息が、アンの唇に触れた。落ちかかる髪が、さらりとアンの頬に触れる。背すじがしびれるような艶がシャルの瞳にやどり、それに射すくめられて、体の自由がきかなくなる。
「これでおまえは、自分の力で銀砂糖師になったと言える。胸を張って名乗れ。銀砂糖師と」
しばらくなにかを迷うように、シャルは動かなかった。それから思いなおしたように、彼の唇はわずかに位置を変えてアンの額に口づけた。
「銀砂糖師となったおまえに、祝福を」
囁きは優しく、甘かった。
アンは銀砂糖師になった。
飾り蠟燭の炎が揺らめき、聖堂はやわらかな光に満たされている。この世にいるのはたった二人だけだと錯覚しそうなほどに、静かだった。” -
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ネタバレシュガーアップルシリーズ第四巻。
ついに念願の銀砂糖師の称号を手に入れたアン。しかしその受章の影には、シャルに恋するブリジットに自ら羽を渡し、自由を失ったシャルの犠牲があった。
シャルの羽を取り戻すべく、アンはブリジットの居る砂糖菓子職人界の大三派閥のひとつとされるペイジ工房へ乗り込んでいく。
しかし、そこには病床の長とたった五人の職人がいるだけの、とても歴史ある工房とは思えない姿が広がっていた。
工房の長の一人娘、ブリジットからシャルの羽を返してもらうために、ペイジ工房で働くことになるアン。
没落寸前の工房を、銀砂糖師になりたてのアンは立ち直すことができるのか…?
前回の終わり方があんまりだっただけに、読み終わってすぐに四巻を開きました。
CMを挟んで再開したみたいに違和感なくストーリーが続き、すぐにまたハラハラドキドキの連続。
ペイジ工房の個性豊かな職人たちや、三派閥のしがらみ、アンとシャルの関係や、ブリジットの恋心など、なだれ込んでくることがもう盛りだくさんで、本を閉じてもこの世界観から抜け出せない。
どの巻にも増して夢中で読みました。誰もかれもの心情がほんのりと伝わってくるだけに、切なかった…。
特にアンとブリジットの譲れない恋心とか、エリオットの本心とか。
一部の誤植にはちょっと吹き出しましたが…(笑)
いろいろとぶつかりながらも最後にはペイジ工房の職人として、一丸となって砂糖菓子を作り上げていく皆の姿に、今回の登場人物全員が好きになりました。
教会に並んだ砂糖菓子、きれいなんだろうなぁ…。
しかし、最後の最後でそう簡単にハッピーエンドといかないのがシュガーアップル。
これは続きが気になりますね…五巻発売は八月ということで。この夏は、アンの居ない夏になってしまうのか(´;ω;)猛暑を乗り切る糧が…。
それでも待ち続けます。アンが作る砂糖菓子が、皆に幸せを与えてくれることを願って。 -
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“「にやにやするな。おかしな顔が、さらにおかしい」
塩漬けにした魚のスープを目の前に、シャルがずけっと言う。
「え?にやにやしてた?」
「頭の軽さが、露呈する程度にな」
ひどいコメントに、ミスリルは軽くシャルを睨む。そして、
「シャル・フェン・シャル。いつも注意してるだろう。本当のことを言うもんじゃないぞ」
こちらもけっこうひどいコメントをする。
「だって、嬉しかったから、つい……ごめん。不気味だった?」
「なにがそんなに嬉しいんだ?」
ミスリルはスープのうえに手をかざしながら訊ねた。
「キースが、わたしの砂糖菓子を見て、ほめてくれたの。あんな腕のいい人にほめてもらえたら、本当に嬉しい」
するとシャルは、むっとしたような顔をした。”
今回も、内容がぎゅっと詰まってて一息に読んでしまった。
キースは特に悪巧みをなんかはしていない、普通にアンと砂糖菓子の腕を競いたかっただけなんだなー。
最初は、色々と何を企んでいるのかと想像を巡らしてしまったけど。
アンの立場の弱さがしっかりと描かれてる。もし書いてなきゃ、多分気付かなかった。
銀砂糖師の称号を得ることができたアン。だけど、そんな喜びもよそに、シャルの羽がブリジットの手に。
喜んでる暇もない。
続きがすごく気になる。きっとアンは彼を助けるだろうから、その手段とか。
“胸の前で両手でしっかりと王家勲章をにぎりしめながら、動けなかった。
その目の前に、手が差し出された。
「いけないなあ、女の子がこんなとこに座り込んだら。ドレス汚れちゃうよ?」
エリオット・コリンズだった。愛嬌のある垂れ目で、見おろしてくる。
「知らないというのは、哀れだねぇ。俺は女の子の味方だからね、教えてあげよう」
「コリンズ、さん?」
「あの妖精は、君の銀砂糖のありかを聞き出すために、ブリジットに羽を渡したんだよ」
――羽を……?銀砂糖のために……?
衝撃でうまく頭が働かないアンに、さらに追い打ちをかけるように彼は続けた。
「君のために、彼は自由を売った」
そこでエリオットは、すこし意地悪そうな笑みを浮かべた。
「さあ。君、どうするかなあ?アン」” -
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前回からそれほど経っていない時期。
一体どうやって生活をしているのかが分かる巻(笑)
思った通り苦労してるけど楽しそうだな…と思いきや
まだ出てくるのか、という吾人登場。
もしかしなくても、毎度出てくる予定なんでしょうか…?w
大切なものを失って、支えがなくてどうしていいのか分からない。
それをどうにかしたい、と思い、それを実行できる何かがあるなら
自分のすべてを使って支えを作る。
仕事に対する姿勢も考えもすごい、と敬服しますが
そこは逃げた方がいいのでは…と、とりあえず思います。
けれどここで逃げたら、彼女が彼女たる事はないのでしょう。
仕上げようとした時、作り上げると決めた時。
そしてその時間を確保しようと彼が動いた時。
間に合うのか間に合わないのか、ちょっとした緊張の後の
ほっとした瞬間。
良かった、と思わず呟いてしまいました。
ラストの女将さんの宿屋に出てくる、先輩らしき人。
彼は一体どういう地位にいるのでしょうか?
またちょっと気になる所です。 -
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恋、夢、前向き、キラキラ。
強い意志を持って頑張るヒロインは理想。
ただのお姫様より、とても好きです。
頑張ってる様子には勇気づけられるし。
なんとしてもお菓子を完成させるんだ!という意気込みは、とっても応援したくなります。
ヒーローの男の子が、ヒューに言われて一度はヒロインのもとから去ろうとしたその葛藤もよかった。ミスリルの健気な活躍も。
キャラが立ってるんだよなー。
妖精と人との間の確執や葛藤もよんでて面白いです。仲良くしたいけどそうもできなかったりする、世の中のことを描いているようで。
第三弾の発行も決まってるみたいですが、とてもとても楽しみです。 -
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後宮や姫を軸とする人気小説を書いている作家による後宮短編集。どの話も粒揃いで面白かった。舞台が同じ後宮でも国や切り口が全く違っているところも面白かった。ただ、私は後宮だと、不運で埋もれている主人公が、才能など見出されて居場所で輝くとか、シンデレラストーリーみたいなのが好きなので、ハッピーエンドばかりでなかったので★4です。
「後宮の怪聞は蜜の味」天花寺さやか
小琳は貧しい農民から這い上がり皇后つきの次女となった異色の経歴を持つ。後宮での怪聞・奇聞・醜聞などを聞き集める。実は彼女の本心や能力はまだ他にあるのだが、あるとき集めていた噂からとんでもない真実へ行きつき…。
「十式部日記」三川みり
十式部(呪の式部→十じゅう→とおしきぶ)は霊が見える。柊子という美しい皇后を気に入り支えている。
「夜明」小野はるか
そこそこいい家に生まれた蓮花は嫁になるよりも野山を駆け回ったり勉強する方が好き。皇帝が嫁を探すため禁婚令が出され、逆に幸いと婚姻選抜を受け、最終試験まで残って花よめには選ばれずとも宮女になろうとしたら、後宮入りしてしまう。
「皇后の花園」伊勢村朱音
翠玉妃が死んで隣に血を吸った石があった。妃は子を孕んでいた。その後一人の宦官が井戸に身投げして死んだ。宦官の素月は皇后に呼ばれた。蠱毒を作ってほしいという。
「金の鱗を持つ娘」白川紺子
季隗は弦の国王の娘。金の鱗のアザがあり興奮すると金色に光る。柏の成王に嫁ぐ。しかしほったらかしにされたので怒って会いにいく。あなたは意気地なしなの?
後宮の話なので、中学校から。