2026年4月、入江亜季『北北西に雲と往け』の続編がそれまでのKADOKAWAではなく、雪割草という聞いたことのない出版社から発売されるというちょっとした事件がありました。
雪割草はトーハンとか日販とか大手取次ではなく、トランスビュー経由なので、本屋からするとお客さんから問い合わせがあるのに新刊が入荷していなくて慌てて発注する、みたいなことがあちこちの書店で起きたと思われます。
しかも『北北西に雲と往け 続の1』はA4版で84ページ。薄い雑誌みたいな形態です。
『北北西に雲と往け』はアニメ化も発表されているし、マニアな人気もある。そんな作品がなぜ大手出版社を離れたのか。
『漫画家・森薫と入江亜季 展』を見た人であれば、お二人と担当編集者・大場渉さんとの強い絆も知っているはず。
調べてみると、雪割草は大場さんが独立して2025年10月に立ち上げた漫画専門出版社ということで、入江さん、森薫さんなど、数名の作家が一緒に移動しています。
そこにどんな経緯があったのか、想像するとちょっと怖いんですが、大場渉さんという編集者の熱量を考えると納得もしました。
その大場渉、森薫、入江亜季の共著がこちら。
2025年2月の出版。
漫画家をめざす人のために書かれた実用書で、コマ割り、絵の描き方、ストーリー、キャラの作り方など、基本原理が書かれています。
「主要キャラクターを殺すと、作者はメンタルに大きなダメージを受ける。俺は漫画家という仕事を一生続けてもらいたいから、主要キャラを殺しまくるのはお勧めしない」という冒頭から、大場さんの漫画愛が炸裂。
「コマ割は1ページに7コマくらい」とか「フキダシは4〜8文字×最大5行」とか、なかなかマニアックな基本ルールが書かれています。
フキダシが「ひらがな、カタカナはアンチック書体、漢字がゴシック書体」ということを今さら知ってびっくりしたり。
もちろん、これが絶対の正解ではなく、この基本だとなぜ読みやすいのか、ということが解説されているので、漫画家志望の人だけでなく、漫画の見方が変わる本でもあると思います。
実際、巷のヒット作でもこの基本が守られていない作品はいっぱいあって、それはそれでありなんだろうけど、なぜ読みにくいのかが腑に落ちたりします。
最後の方に大場さんが『コミックビーム』から『Fellows!』、『ハルタ』、『青騎士』へと変遷する経緯が書かれていたり、エンターブレインがKADOKAWAに吸収合併されるときに、森薫さんが『ハルタ』を買おうとした逸話なんかが出てくるので、ここらへんが今回の雪割草独立につながるんじゃないかと思っています。
『北北西に雲と往け 続の1』が雑誌に近い判型なのも納得。
雪割草は電子コミックを発売せず、紙の漫画本を地道に売りたい方針だとか。なかなか険しいやり方だと思いますが、消費されるだけでない漫画を私も支持したい。応援してます。
以下、引用。
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実は、主要キャラクターを殺すと、作者はメンタルに大きなダメージを受けるんです。作者が最初から殺すつもりならまた違うのですが、読者に愛されるキャラクターを作ろうとする過程で、作者はキャラクターを愛します。それを殺したら、作者自身も傷つくのは当然です。
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漫画の書体は、たいていの漫画編集部が「アンチック書体+ゴシック書体」を基本として写植していると思います。「アンチゴチ」などと言われるやつですね。
ひらがなとカタカナに関しては、「かな書体」のアンチック書体。これは明朝体をベースに、線の細い部分を減らした書体です。その上で、漢字部分に関しては線の太さをほぼ一定にしたゴシック書体を使うわけです。
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私はこれ、雨を線で描く表現に近いと考えています。本来雨は線ではないんですが、江戸時代の浮世絵から一般的な表現になって、今でも生き残っていますよね。
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俺は入江さんには何度も何度も何度も何度もモノローグイントロはやめろって言ってます。でも描いてくるんですよ。俺はまったく許容していないのに。
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そもそも、漫画の作品世界は、作者の世界の見方をそのまま反映します。作者の世界の見方に歪みがあれば、それはそのまま作品世界に反映される。
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漫画という表現にも、やはり、漫画でしか伝えられない何かが中心にあるべきです。それは、単純な情報ではなく、おそらく読者と一緒に経験し、感情を共有し、実感してもらうことで、ようやく伝わることです。
入江さんも私も長期連載を抱えていますが、ふたりとも10年、あるいは20年という時間を費やして、ようやく伝えることができる何かを、ずっと机にかじりついて描き続けているわけです。
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『ベルガリアード物語』