浅倉久志のレビュー一覧
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内容はテンコ盛りだが、あまり記憶に残っていないのは、ヴォネガットに独特の奇想天外な展開がないせいではないか。
サマセット・モームがたしか「要約するとの」の中でプロット(物語の筋立て)の重要性を説いていて、フローベールの「感情教育」はすぐれた作品だけれども、それがないのでひどく読みにくいと言っていた。スティーブン・キングも「スタンド」の前書きで、「ヘンゼルとグレーテル」を例に挙げてその重要性を語っていた。
この作品では、米国の現状を告発する個々のエピソードが積み重ねられていて、それはそれでウィットに富んでいて面白く読めるものの、これまでの目のくらむような展開がなくなった分、読後の印象がモヤつ -
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初ヴォネガット。何だろうこのとっ散らかった文章は(困惑)ストーリーがあるにはあるが、途中で関係のあるような無いような話が様々な角度(しかも急角度)から入り込んでくる。当時のアメリカへ対する皮肉や批判をたっぷり込めた物語だ。終いには著者自身が登場して「私は創造主だ」と主人公と絡む始末。心に残った言葉は「ほかの作家たちには、混沌の中に秩序を持ちこませておけ。わたしは逆に、秩序の中へ混沌を持ちこもう。」頻繁に挿し込まれている著者の描いた挿絵はなかなか味があっていい。いずれにしても、私には早かったようだ。ちょっとどこかに本作の解説がないか探してみよう。
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アフターコロナ。新しい生活様式やら新しい働き方やら。当然のようにindustry 4.0にsociety5.0が声高に叫ばれる。ウイルス拡大において、中国自身の体制の問題も少なからずあるのだけど、何の根拠もない中国陰謀論が跋扈する中で、むしろ資本主義というか、新しい様式によって資本を集中したい一部の企業による陰謀では、とも思ってしまう。
技術の進歩が前面に出てくる時、ディックを読みたくなる。何かが無批判に進行している時、必ず揺り戻しがある。破滅的な結果(例えば3.11による原発の可視化)になることもあれば、問題を巧妙に隠しつつ内実は見るに堪えない状況(今や素人が安易に、何の罪悪感もなく他人のプ -
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なんともけったいな物語。以前「チャンピオンたちの朝食」を読んだときにも同じような印象を受けた記憶がある。高橋源一郎「さよならギャングたち」と同じ(というか高橋がパクったんだろうけど)なんだけど、「さよなら〜」ほど詩的なわけではないなあ。一応ストーリーはあるんだけど、それよりも即興的な文章を味わうべき小説なんだろう。その意味では翻訳で読んでもダメなのかもしれない。訳者あとがきで紹介されていた書評でもそのあたりについて書かれている。以下抜粋。
「ヴォネガットは、カウント・ベイシーがピアノの名人であるのと同じ意味で、文章の名人である−−どちらのスタイルも、簡潔で、おどけていて、リズミカルだ。そのた -
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著者覚え書きで「この小説には何の教訓もない」とある。確かに教訓は無いかもしれない。ただし、麻薬に対する強烈な批判と恐怖を語っている。教訓は小説から得るものではない。読者がどのような教訓を語れるかが本書を読み解くキーになるのかもしれない。本書は普通に読むと、よくあるドラッグ系の小説だ。麻薬でハイになったやつが大暴れするような。読むべきは最後の方でブルースが置かれる立場だ。私は、麻薬だけが悪いのではなく、麻薬の悪用を存在させる社会の仕組みが存在することが悪なのだと解釈した。もちろん、これはひとつの解釈に過ぎず、読者がそれぞれ感じるものは異なるだろう。描写は鮮明ながら、読者に与えるものは形を変えて届
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舞台は第三次世界大戦後のアメリカ。大半の人々はテクノロジーに仕事を奪われ、少数のengineers & managersが富を得る形へと変わっていっていた。そんな物語の主人公は、東海岸に位置する架空の都市、Iliumの大企業Ilium Worksのマネージャー、 Paul Proteus。妻、Anitaと何1つ不自由のない暮らしを送っていた。しかし橋を渡ればそこに住むのは仕事もなく、社会から見放された大勢の人々。明らかな格差と人間の存在意義を問う姿勢が皮肉にも今の世界と通用する。
Vonnegutのデビュー作でもあり、のちの作品の原点とも言える。物語は定番のディストピアを題材としてい -
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浅倉久志訳による新装版「スキャナー・ダークリー」(旧訳「暗闇のスキャナー」)は、著者自身の実体験を踏まえた物語。テーマは、麻薬。
カリフォルニアのオレンジ郡保安官事務所麻薬課の捜査官フレッドは、上司からも自身の姿を隠す「おとり捜査官」である。彼の真の姿は、なんと麻薬中毒者ボブ・アークター。木乃伊取りが木乃伊になるそんな世界で、与えられた新たな任務は「麻薬密売人のボブ・アークターを監視すること」。自分自身を捜査対象にする彼は、麻薬中毒の深刻化も相まってしまい…
「わたしはドラッグの危険性を訴える福音を説こうと誓った」とは、訳者あとがきで引用される著者の言葉。麻薬中毒の経験があり、その目で幾人 -