「PRESS ENTER ■」、俺の隣人が死んでいるが、コンピュータに仕掛けがあって、遺書がプリントされる。隣人はハッカーで様々な不正をしていたらしく、その死は不審だ。調査のためカリフォルニア工科大からベトナム生まれの女性技師が呼ばれる。彼女と親しくなる俺。やがて迫る危険。パーソナル・コンピュータが普及しだした1980年代にインターネットの得体の知れなさを予言したような話。俺の苗字はアプフェルで、これはドイツ語でアップルだ。
1作目『逆行の夏』を読んだところではあまりピンと来ていなかったのだが、3作目『バービーはなぜ殺される』あたりからじわじわとハマっていった。SFではあるが文学であり、今こことは異なる地平の世界において、人々は何を感じ、どうやって生き、何を愛するのかという愚直な筆致...続きを読むに心を惹かれる。それは『残像』や『PRESS ENTER ■』での地続きな地平もあれば、こことは全く別の地平もあり、短編間で飛躍する視野が楽しくもあった。