ジョン・ヴァーリイの作品一覧
「ジョン・ヴァーリイ」の「逆行の夏──ジョン・ヴァーリイ傑作選」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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「ジョン・ヴァーリイ」の「逆行の夏──ジョン・ヴァーリイ傑作選」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
小説・文芸
Posted by ブクログ
全部よかった。テクノロジーの進化に対し適応していく人間の意識や社会の変容を、感傷的にロマンチックに綴る、ハズレなしのSF短編集。翻訳もよいのでしょうが文章が柔らかく軽やかで読みやすい。生々しさと熱を感じさせながらも、冷徹な視点が貫かれています。
「逆行の夏」水星で暮らすぼくの元に、月からクローンの姉がやってくる。新しい家族の形と性のありかた。鮮やかな舞台描写がイメージを刺激する、さわやかな短編。
「さようなら、ロビンソン・クルーソー」今回一番好きです。二度目の子供時代を、冥王星の地下にあるリゾート海浜で送る少年。謎の女性の訪れを契機に、子供でいられる時間の終わりが見えてくる。少しずつ見えてくる社会状況にわくわくする。もう少しだけ子供でいさせてよ。
「バービーはなぜ殺される」個性を排し、同じ姿に身体を改造して共同生活を送る宗教団体の内部で起こる殺人事件、犯人を追う捜査官。個人を捨てた平和なはずの閉鎖社会で起こる犯罪の動機が面白い。
「残像」視聴覚を失った人々のつくるコミューンの特殊な発展と、触覚によるコミュニケーションを掘り下げた傑作。切ない。
「ブルー・シャンペン」リゾート地の〈バブル〉は月の周りを周回する大量の水の球体。その〈バブル〉の職員と、〈バブル〉を訪れたスター女優の苦い苦い恋物語。手足を動かせない彼女を補佐する機械の身体や、人の体験を感覚ごと記憶する装置といった道具立ての面白さが物語と密接に絡み、なにより舞台の美しさに圧倒される。
「PRESS ENTER ■」隣人の死を調べるうちにコンピュータネットワークの闇に潜む何か恐ろしいものの存在に触れてしまう話。不安感とわくわく感の煽りが絶妙な良質のホラーサスペンス。
Posted by ブクログ
ジョン・ヴァーリイはどうしているんだろう、と思っていた矢先の日本オリジナル短編集の登場。1970年代から80年代に独特な未来世界でSFファンの魂をつかんだ作家だ。代表作の〈八世界〉シリーズは地球が異星人に侵略され、月や火星など八つの世界で人類が生き延びているという設定。身体改変技術が発展し、衣服を替えるように性別を替え、身体を環境に適合させ、身体を脱ぎ替える世界。
1990年代以降、ヴァーリイはハリウッドの脚本執筆で成果が上がらず(映画化されたのは『ミレニアム/1000年紀』くらい)、翻訳も先細りして現在に至っているようだ。
本書も既訳作品とその新訳で、1975〜84年のものであり、新しさはないがヴァーリイを思い出してくれ、といったものである。6編収録で2編が〈八世界〉シリーズ、アンナ=ルイーゼ・バッハ・シリーズ2編、シリーズ外2編。ほとんどがSF賞受賞作。
〈八世界〉シリーズは上記のようにクローン技術が当たり前の世界なので、「逆行の夏」と「さようなら、ロビンソン・クルーソー」はそれぞれ次のように書き出される。「クローンの姉が月から来るというその日、」「時は夏。そしてピリは二度目の幼年期を迎えていた。」
「逆行の夏」は金星に住む「ぼく」のもとに3地球年年上のクローンの姉がルナ(月)からやってきて初めて会う話。「ぼく」は男性に生まれ、ママによって2〜3カ月で女性に変えられて15年間過ごしたのち2年前から男性だ。そのうちまた女性にチェンジしようと思っている。クローンの姉がいるというのは珍しい話で、その姉をおいて母とぼくが金星に渡ったのには何かいえない理由があるらしい。
太陽が逆行して訪れる逆行の夏、力場の〈服〉に身を包まれ、沸騰しかかった水銀の池で「泳ぐ」金星人の生活、あまりに異質な世界がまったく現代のわれわれの生活の延長線上のように生き生きと軽やかに語られるのがヴァーリイの特徴だ。お話は結局、家族問題なのだ、〈八世界〉風の。そしてそのエッセンスにおいて現代風の。
ピリは、クローンで子どもの体をつくって、二度目の幼年期を過ごしていたのだ。大人としての記憶は抑圧して。
ところはディズニーランド。〈八世界〉でのディズニーランドとは惑星地下などに地球環境を模して作ったところをいう。ピリのいるのは冥王星地下の建設中のディスニーランド〈パシフィカ〉。海岸の環境で、彼は鰓呼吸と肺呼吸と両方できるように身体改造している。ロビンソン・クルーソー気取りで過ごしているピリが二度目の幼年期と別れを告げねばならないのは……
少年の成長も美しい自然もどちらもシミュラクラなのだが、そこに冥王星という場所と〈八世界〉の経済問題を絡めた佳品「さようなら、ロビンソン・クルーソー」。
バービーといったらみんな同じ顔をした人形だ。日本ならリカちゃん。おっぱいの膨らみはあっても乳首はなく、股間はつるつる。統一教は個人の差異を嫌い、個性も性差もなくしてみな同じ姿に身体改造した信者が共同生活を送っているという宗教。弾圧されて今はツナの一角に居住地を持っている。そこでバービーによるバービーの連続殺人事件が起こる。刑事アンナ=ルイーゼ・バッハが捜査に当たるが、一人称単数を使うことを恥と考えるバービーたちの中にはいって捜査は行き詰まる、「バービーはなぜ殺される」。
風疹の流行で視聴覚障害者が多数生まれる。長じて彼らがコミューンを作り出すと、そこでは新たな社会、新たなコミュニケーションが生まれる。という思考実験を詩的な物語にまとめた「残像」。
ルナの周回軌道に作られたシャンペン・グラス型の建造物。そこに浮かぶ無重力の水のかたまり〈バブル〉というリゾートを舞台に、感情体験そのものを記録する体験テープの女優で、頸椎損傷のため外骨格的補助装置を装着したギャロウェイとプールの救助員クーパーの恋、「ブルーシャンペン」。警察官になるまえのアンナ=ルイーゼが重要な脇役として登場。
「PRESS ENTER ■」、俺の隣人が死んでいるが、コンピュータに仕掛けがあって、遺書がプリントされる。隣人はハッカーで様々な不正をしていたらしく、その死は不審だ。調査のためカリフォルニア工科大からベトナム生まれの女性技師が呼ばれる。彼女と親しくなる俺。やがて迫る危険。パーソナル・コンピュータが普及しだした1980年代にインターネットの得体の知れなさを予言したような話。俺の苗字はアプフェルで、これはドイツ語でアップルだ。
ハインラインからの影響が大きい作家で、性別すら自由に着替えることができる世界を描くが、ハインラインほどの脳天気な自由主義ではない。常に愛(あるいはセックス)があるが、苦い諦念もともにある。それでもなお軽みのある明るさを感じさせるのがヴァーリイの味わい。