浅倉久志のレビュー一覧
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老年の画家ラボー・カラベキアンのもとにサーシ・バーマンという女性作家が転がり込む。カラベキアンは彼女のすすめで自伝を書き始める。自伝そのものの部分と、自伝を書いている過程でのバーマンとのやりとりなどが交互に記されている。
ヴォネガットのいつもの人をばかにしたような文章は影を潜め、比較的淡々と綴られている。物語に抑揚がなく、どこに行き着くのか分からない自伝を読み進めるのは意外ときつい。しかし、最後のシーン。ジャガイモ貯蔵庫に隠しておいたものをバーマンに公開するところに至って、話は感動的な方向に大きく舵を切る。最後まで読んで、読んでよかったと思える。 -
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SFもあり、ちょっといい話風な短編もあり、の短編集。
序文などにもある通り、テレビが普及する前の時代、雑誌の読み物が一般的な娯楽として広く楽しまれていた頃に雑誌に掲載されていたもの。
古きよきアメリカ、的な香りもし、同時に、皮肉のきいた社会批判も織り込まれていて、まだ作家として駆け出しの頃のものでありながら、独特の個性が感じられます。
いちばん印象に残ったのは、「パッケージ The Package」かな。
ちょっと先の未来(書かれた当時はだいぶ先の未来、だったはず)の話、という設定。
苦労して事業を成功させ、念願の新型住居を購入したアールとモードのフェントン夫妻。
世界一周旅行を -
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ヴォネガットの作品中でもこれが一番好きっていう人は、多いのか少ないのか。どうなんだろう。
わたしが思うのは、ヴォネガットの愛情深くセンチメンタルな一面がもっとも強く(あるいはもっともストレートに)出ている作品なんじゃないかなということです。
ストレートって言っても、まあ本当の意味でストレートじゃ当然ないのですが、自分の心には直球で届いた言葉がいくつもあった。
読んでいて、線を引きたい!って思う気持ちに何度かなった。これまでほとんどそういうことはなかったのだけど・・・
手元に本がないので、はっきりと引用できないけど、
勉強にしろスポーツにしろ、才能を周囲から認められている地方在住の少年少女は -
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第三次産業革命により全ての生産手段が機械化、自動化され、一部の技術者や公務員を除く人々は皆閑職しか与えられずにいる、そんな近未来のアメリカが舞台。人事が全てパンチカードで機械によって振り分けられ、技術者や公務員と一般人との居住区が分けられているという、効率・能率優先主義の社会に疑問を持つ人たちが革命を起こすという話でした。機械化による雇用数削減という問題よりも、作中に描かれている格差が今の私たちにリアルに迫ってきます。SFというカテゴリーに入っていますが、それが好きな人も嫌いな人も読める作品です。むしろ、SFという枠を超えた作品であると言えます。長編ですが、すらっと読めるのでおすすめ。
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1991年に出版され、93年に邦訳・上製判として出版された幻の一冊がこのたび初の文庫化となった。カバーは原著の写真を和田誠氏の手でイラスト化されたもので、とても軽やかで好感度がアップしていると思う。また、上製版では割愛されていた「付録の扉のイラスト」が収録されているなど、細かな点でチューンナップが図られていて楽しい。
肝心の本編はヴォネガット節全開で、ところどころにジョークや軽口も見られ、とても読みやすい。本文中では、15,16章あたりが特に力が入っていると感じた。しかし、全体の内容が重いので、読みはじめればページを繰る手は軽快でも、一度本を閉じると次に開くのに少々のためらいを感じる。
た -
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ヴォネガット 1990年の作品。
90年代に入ったヴォネガットは、もうおとぎ話を書けないほど、
母国に対する怒りと悲しみが深くなってしまったようだ。
これまでのヴォネガットには、どんな内容のものであれファンタジーがあった。
偶然の産物があった。涙を誘うペーソスあふれる愛の対象があった。
ところが、「ホーカス・ポーカス」にはそれがあまりない。
登場人物はすべて架空だし、設定も奇想天外なのに、シリアスで、絵空事になっていない。
どちらかといえば、その翌年書かれたエッセイ「死よりも悪い運命」や「国のない男」のテイストに近い。
ヴォネガットのエッセイを読むと思い出すのがマイケル・ムーアの映画だ。
確 -
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ヴォネガット後期で繰り出される「乾いた笑い」と、
前期で用いられる、ラストにオチを持ってきて問題の昇華を図る手法が交差した秀作だと思った。
ヴォネガットは「スローターハウス5」と「チャンピオンたちの朝食」で
転換期を迎えたんだなぁと改めて思う。
エリオットの狂気はなかなかすごいものがある。
こんな夫に振り回されたら、そりゃ嫁はうつ病が発症するわ、と思った。
が、やはり特筆すべきは、父親との対決シーンだろう。
このくだりは、ものすごい迫力がある。オチについては、ニヤリと笑う感じ。
ヴォネガットらしいといえばらしいけど、らしくないといえばらしくないかな。
思想としてはヴォネガットらしいのだけど、 -
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2000年に上製本として発売されていた、ヴォネガットの短編集がこのほどようやく文庫化された。
書かれたのは1950〜60年代で、半世紀も前のもの。
ヴォネガットが短編を生活の糧として量産していた時期があり、
その大半はスリック雑誌に掲載された。
かつて、短編集「モンキー・ハウスへようこそ」が編まれたが、
そこから漏れてしまった23篇がここに収録され、短編の大方が網羅されたことになる。めでたい。
ここに収録されているのは短編で、しかもアーリー・ヴォネガットと言うべき作品群。
彼一流の文明批判や、どうしようもない人への「諦めと愛情いっぱいのまなざし」はすでに健在、
さすがというべき。ただ、長編に