2020年最後の読書は、温かい雰囲気の小川糸さんの小説で締めました。(レビューだけ年を跨ぎました)
両親を離婚がきっかけでグランマと2人貧しい暮らしをしていた13歳の少年。幼い頃にした病気の治療の影響で成長が止まり、10歳ほどの容姿にしか見えない彼は、ある日これまでの暮らしに決別し憧れのサーカス団・レインボーサーカスに飛び込んだ。
個性豊かな団員たちに囲まれて、体の小さな少年は自分の居場所を見つけていく。
10歳で体の成長が止まり、将来の苦難が見えた少年の「サーカス団に入って自分の道を見つける」という切ない決意から始まる物語。
いわゆる移動式のサーカスを私も昔何度か観に行ったことがあるけれど、サーカスというのは華やかな影にとても物悲しいものが見え隠れするのを感じる。
純粋に芸を志し、心から楽しんで演じる団員も中にはいるだろうけど、マイノリティ的な事情からそれを志すしかなかった団員もいる。
物語に登場するレインボーサーカスは貧しいサーカス団で、華やかで大きなサーカス団であるスーパーサーカスとの対比も何だか寂しい。
だけどその中で働く者たちはとても温かく、少年はそこで働くことで居場所を見つけていく。
ナットー、キャビア、トロなど、団員たちは食べ物の名前をサーカスネームにしている。
その中でも少年に最も影響を与えたのはナットーで、元男性の美人綱渡り師である彼女は天才型の演者だ。
そして少年をいつも近くで見守る、姉御肌のダンサーのローズの存在がとても優しい。
死ぬ覚悟ではなく絶対に死なないと決意することが極意だと少年に教える、プロフェッショナルを育て、そしてたくさんの事故も見てきた団長の厳しさと優しさ。
何でも物事を極めるのは一朝一夕にはいかないということ。
少年は最初は毎日トイレを綺麗にするという仕事を命じられたのだけど、それを必死にやって極めることで団員たちの意識が変わっていく(なるべく汚さないようにしようと)ところにもそれは表されていた。
小さなことでも極めるというのは素晴らしい。
優しくファンタジックな世界観で、緊張感や哀しさがありながらもやはり温かな雰囲気が漂っていた。
がんばれ少年!なんて自然と思ってしまう。(最後に少年についたサーカスネームがまた良いのだ)
移動式サーカス、最近見なくなった。最後に見たの、10年くらい前かもしれない。
だけど一度でも観たことがある人ならば、この刹那的な華やかさを湛えた世界が、目の前に見えるはず。