堂場瞬一のレビュー一覧
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もしも恵の捜索を依頼してきたのが瀧の友人でなかったとしたら。
もしも瀧が武蔵野中央署に転属になっていなかったとしたら。
もしも家庭内のごたごたに気をとられて恵の失踪に気づかなかったとしたら。
そう考えると、知らないところで事件が闇に埋もれてしまっていることは案外あるのかもしれない、と考えてしまう。
堂場さんの物語にしては結論ありきのように感じた物語だった。
瀧が願い出て武蔵野中央署にやってきた理由やあかねの人物像も、 ある結末に導くためのように感じてしまった。
瀧の人物像もピリッとしておらず、珍しく中途半端な感じが残る主人公だった。
前半に差し込まれた場面も、唐突に差し込まれていたため犯人に結びつくものだとすぐにわかってしまう。
これがきっと伏線で、犯人に直接関係しているエピソードなのだなと。
どこがと指摘はできないけれど、どことなく雑な感じを受けた。
堂場さんにしては珍しい。
事件も犯人も、社会の中にひっそりと埋め込まれ長い期間にわたって表沙汰にはなっていない。
事件が発覚しなければ、当然犯人も存在しない。
繰り返される犯行の中で、倫理観も罪悪感も徐々に薄れていってしまったのだろうか。
犯人側にどんな事情があろうと、被害者たちには何の関係もない。
誰かの身勝手な幸せのために犠牲になっていい命などない。
牙を隠して平然と生き続けてきた犯人は、瀧によってその姿を陽の下にさらすことになった。
「埋もれた牙」。
けっこう好みのタイトルで思わず購入してしまった物語だった。 -
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父親が殺害され、留学先のアメリカから帰国した14歳の一人娘・美咲。
天才少女という設定を保つために、天才ゆえのエピソードや展開が優先されていたように思う。
堂場さんの物語の中では、踏み込みが足りないと感じてしまった。
自分の命が狙われているかもしれない。
同行している刑事の身も危ない。
そんな状況の中で、いくら大切なことだったとしても状況を無視した行動をとるだろうか。
天才だとは言ってもそれは頭脳的なこと。
精神的にはまだまだ未熟で、だからこそ最善の策とはいえない方向へと走ってしまった。
そう考えればよかったのだろうか。
他のシリーズの主役たちが顔を見せる意味もわからなかった。
読者の楽しみのためなのか、それとも堂場さんの茶目っ気なのか。
シリーズものとはまったく関係のない単発の物語ならば、新しい世界の中で物語を展開させてほしい。
必要があっての登場ならば納得もするけれど・・・。
何よりも美咲の人物造形が魅力的でなかった。
確かに頭はいいのかもしれない。
同年代の少女たちとは、経験も頭脳も桁違いすぎたかもしれない。
天才ゆえの苦悩や辛さもあったかもしれない。
それでも、美咲がもう少し魅力的な人物にであれば、物語の印象もずいぶんと変わったように思う。 -
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何者かに殺害され、建築中の家の基礎部分に埋められていた綾奈。
その事件の犯人がようやく明らかになる。
解決・・・という言葉は使いたくないと思うような結末。
ずっと高城が苦しみ続けてきた綾奈の失踪事件。
思いがけない出来事から遺体が発見され、捜査本部も設置され、気の遠くなるような地道な潰し作業の末に高城はようやく犯人へとたどり着く。
失踪課のメンバーや長野たち、あらたにたった捜査本部で捜査を続けてくれている警察官たち。
多くの人たちが高城の娘・綾奈のために動いてくれていた。
思いはひとつだろう。
何故小さな命は奪われたのか・・・。
敵をとってやりたい・・・。
どんなに後悔しても、どんなに謝ってもらっても、過去が変わるわけではない。
自分が死の病にならなかったとしたら、息子が事故死しなかったとしたら、今でも結局は真相は語らなかったと思う。
誰の助けも受けずに、母子だけでひっそりと生きてきた。
病気になっても、ちゃんとした治療も受けずに生きてきた。
それが何だと言うのだろう。
身勝手な自己満足にしか思えない。
愛する者を失ったとき。
辛い現実を簡単に受け容れられるわけがない。
それでも、その死を認めるところからすべては始まるのだと思う。
そのために通夜や葬儀があると思うのだけれど。
長い時間が経ち、高城自身も綾奈が生きている可能性はほとんど諦めていたとは思う。
それでも、どこかでもしかしたら生きているのではないか。
生きていてほしい。
そう願ってしまうのが親ではないだろうか。
犯人側も失ったものは大きかったかもしれない。
でも、その責任は犯人側にあって、どれほど辛くても乗り越えなければならないものだった。
絶対に逃げてはいけないものだった。
犯人側が事件を隠蔽したために、逃げたために、高城が当然向き合わなければならない現実が遠いものになってしまった。
綾奈は二度と戻ってはこない。
同じように高城が失った長い時間も戻ってはこない。
「弱い、弱すぎるよ」と高城に言いたくなる結末だった。
心配してくれた多くの人たちに、真実を知らせる義務が高城にはあった。
少なくとも捜査をしてくれている警察官たちに対しては、きちんと事情を説明しなくちゃいけない。
「それに、何の意味がある?」と高城は言うけれど、意味は絶対にある。
次に向かうために、前に進むために。
ずっと捜し続けてくれていた長野にどう説明するのか。
彼もまた、高城ほどではないにしろずっと引きずって生きてきたのだから。
高城が最後にした決断にどうしても納得できない自分がいる。 -
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交番勤務の21歳の警察官が拳銃を携帯したまま失踪する。
法月が所属する警務課をはじめ、失踪課も高城を除くメンバーが行方不明の警察官の捜索に動き出す。
一方高城は、プロ野球のドラフト会議で一位指名を受けた高校球児の失踪届が出されたことからその行方を追う。
ふたつの失踪事件は真逆の解決をみる。
警察官は自ら命を断ち、高校球児は自らの意志で戻って来る。
事件は解決したものの、高城の心はすっきりとしない。
雑とまでは言わないけれども、ずいぶんとご都合主義のような物語の展開で驚いた。
未成年者、ましたメディアにも取り上げられるような有名高校生が手術をするのに両親の同意書がないのはどうなのだろうか。
優秀な医師であれば余計に事の重大さはわかっているように思うのだけれど。
何も知らされていない両親は、当然心配するだろう。
失踪届を出すのも当たり前で、両親の動揺や心配、精神的なダメージを目の当たりにしても平然と無関係なフリをしていられるのは、いったい何故だろう。
生徒にたいする責任はどこにいったのか。
結局、どんなに言葉を飾っても自己保身が一番大切だったというようにしか感じられない。
すべてのしわ寄せは生徒自身にいくことになるだろう。
契約違反に問われても、練習に参加できないような事態が続いても、辛い思いをするのは生徒自身だ。
高城ではないけれど、読み終わった後にすっきりとしない思いが残る。
シリーズが続けば中には少し合わない物語も出てくるのは仕方のないことかもしれない。
それでも、大好きで追いかけているシリーズなだけに残念な思いがした。 -
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失踪課のメンバーである明神愛美が偶然居合わせた火事のバックドラフトに巻き込まれ負傷。
物語は愛美の復帰までと、火災現場に残された二つの遺体の事件の解明。
失踪届が出された人気ミステリー作家の行方を追う三つのストーリーが同時に進行し、互いに絡み合う複雑な様相を呈していく。
昇進に並々ならぬ意欲を持つ阿比留に気を使いつつ、高城は人気ミステリー作家である藤島の行方を追う。
ストーリーは二転三転しながら、徐々に事件の核心に近づいていく展開は相変わらず面白い。
本調子とはいえないまま現場復帰を果たした愛美へ素直に優しくできない不器用な高城もいい。
優しい言葉のひとつもかけられない人間は、ちょっとした優しさをみせるだけでグッと印象が変わる。
今回はあらためて高城の不器用な優しさと、警察官としての本人も気付いていないかもしれない秘めた熱さを感じる物語だった。
作家と呼ばれる人たちにまつわる描写も多い。
本好きな身としてはとても興味深かった。
作家の苦しみと悩み。編集者の思惑。
リアリティのある描き方で、ひとつの作品を生み出すことがいかに大変なのか。
「なるほど」と思いながら読み進んだ。
余談だけれども、鳴沢了シリーズの主人公・鳴沢の名前が出てきたことも面白かった。
鳴沢だけでなく、このシリーズには大友など堂場作品の登場人物がたまに顔を出す。
「一緒に仕事をしたことがない。今後もそういう状況は避けたい」と高城に思わせるほど鳴沢の噂が響き渡っていることが面白い。
鳴沢も好きなキャラクターだったので、ほんの少しの同情を感じつつも笑ってしまった。 -
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殺された被害者の身元が判明しないまま時間は過ぎていき捜査も行き詰る。
主人公である城戸は被害者が身につけていたある物に注目し、被害者の身元を確定させる。
事件の真相と城戸の忘れられない過去が交錯し、絡み合い、「勝つということ」の意味をも考えさせる物語になっていた。
事件の捜査や真相とはほとんど関係のない場面が一番印象に残った。
スカウトのために訪れたグラウンド。
余力を残しながら最終周まで走り続け、最後の最後で抜き去って1位となった選手への久松の言葉が強烈だ。
勝つことは当たり前の前提としてあり、記録を狙い、記録を更新し、結果として勝利も手に入れる。
才能と言ってしまえばそれまでだが、一段高いところから発せられた言葉は指導者としての懐の広さやあたたかさを微塵も感じさせないものだった。
信念を持って生きることは素晴らしい。
だが、その信念そのものが間違っていたとしたら・・・。
それでも、間違っていることに気づかず自信を持って信念を貫き通しているのならまだいい。
自分の間違いに気づいているくせに、自分自身を正当化してお前たちにはわからないと見下すような人間は最低だ。
あげくに責任転嫁をするなんて・・・責任を他に押しつけるということは、結局間違いであることを「知っていた」のだから。
魅力的な登場人物に出会えず、ストーリーも結末ありきのもののような気がして、堂場さんの物語なのにあまり楽しめなかったことが残念だ。 -
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大学時代の夢を叶え、大江は中堅政治家として頼りにされる存在となった。
鷹西はジャンルを時代小説へと移行し、安定した売上を見込めるシリーズを持つ作家となった。
互いに忙しく以前のようには会えなくなったけれど 、友情は少しも変わらない。
だが、鷹西が記者として地方に転勤になっていた時代に起きたひとつの未解決事件が二人の関係を変えてしまう。
物語の最後で提示されるひとつの未来。
それが正しいのか、それとも間違っているのか。
鷹西にもたぶんわからないままなのだろう。
まさに鷹西が問い詰めようとしたあの瞬間起こった出来事に、運命のようなものを感じてしまった。
時代が、国が、必要としている存在。
そんな無言のメッセージを鷹西も感じたのではないだろうか。
大江と鷹西が過ごした年月を、時代を行き来しながら描いていく。
当時の日本の空気を背景に、夢に向かってひたむきに進んでいこうとする彼らの姿は、そのままその頃のあちこちにいたかもしれない夢を掴もうとする人たちの姿なのだろう。
硬派な社会派ミステリーという煽り文句に違わない物語だった。 -
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短編集。
一人息子・優斗が誕生する直前から物語は始まっている。
家庭のことは妻・奈緒にすべて任せ、目標でもあった捜査一課への異動を目前にし、やる気が漲っている大友の姿が描かれている。
しかし、時は経ち、やがて優斗も成長していく。
相変わらず捜査に明け暮れる日々の中で突然起きた信じられない出来事。
奈緒の事故死・・・大友は奈緒の存在の大きさを改めて思い知らされる。
優斗が生まれたときから父親だったはずなのに、いざ一人きりで育てていなかなければならなくなったとき、多くの選択を大友は迫られる。
刑事としての仕事を取るか、人として父親としての立場を取るのか。
優斗はまだ幼く、遠回りになることを承知で大友は総務課への異動を願い出る大友。
ずっと「アナザーフェイス」シリーズを読んできた人は、きっと楽しめる物語だと思う。
奈緒を失ったばかりの大友の暮らしぶりや心境が描かれているのも嬉しい。
シリーズのファンにはお勧めの1冊だと思う。 -
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事件を追う警察小説には不適切な表現かもしれないけれど、堂場さんの物語はいつも安心して読める。
ひとつずつ丁寧に積み重ねられていく事実。
どの人物の描写もしっかりと描かれていて、物語の中に入り込んでいきやすかった。
真実を暴くことがいつも正しいとは限らない。
もちろん基本的には法律によって裁かれるべきだろうし、そうでなくては社会の秩序は守られないだろう。
けれど、もしかしたら別の罪の償い方があってもいいのかもしれない・・・そんなふうにも思える物語だった。
「沈黙の檻」、これ以上にこの物語にあう題名があるだろうか。
自由のようでいて自由ではない。
目には見えないけれども、確かに自分を囲んでいる檻がある。
強靭な精神力がなければ、長い年月を乗り切ることは出来なかっただろう。
そんなふうにしか生きられなかったことが哀しくもあり、それでも幸せを感じていたときもあったのだと複雑な思いもする。
結末はこれで良かったのだろうか。
でも、これ以外の結末はなかったような気もする。
長い「沈黙の檻」は、囚われ人を替えこれからも続くのだろう。
檻の中でも、ほんの少しの幸せや安らぎがあればいいと思う結末だった。 -
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警察小説のシリーズのはずなのだけれど、男女の逃避行に物語のほとんどが費やされている。
善悪の区別はつくけれど、何が悪いのかはわからない。
自分が生きるために、自分が思うように進んでいくために、何の逡巡もなく人を殺すことができる。
殺人という、人として高いハードルを越えることに対するためらいはない。
日向とはそんな男だ。
だが、日向をさらに上回る人間もいる。
日向にとって他人は踏み台でしかない。
ときには恭順の意を示しても、それはけっして本心からではない。
嘘も方便と言うけれど、自分以外の人間を信じない日向にとって重要なのは「利用できるか、できないか」。
それがすべてのはずだった。
真菜は日向のさらに上をいく。
周りの人間がみんな馬鹿に見えてしかたがない。
くだらないことで喜び、くだらないことで怒る。
見下していた人間を捨て、嫌いだった街を捨てた真菜。
人の幸せって何だろう?
人によって違うのだろうけれど、それは結局のところ幸せを感じるセンサーの違いなのだと思う。
周囲から見れば十分幸せなのに、「まだ足りない」と満足しない人もいる。
満たされない思いに追い立てられるように、もっともっと・・・と求めるだけで自分は何も努力しない。
何故なら、自分は与えられて当然の特別な人間だから・・・。
淋しい人だなと思う。
日向も真菜も、寂しくて哀れな人だと思う。
どこまで行っても、どれほどのものを手にしても、きっと彼らは満足しない。
人の痛みがわからない鈍さと、自分の痛みにだけ反応する敏感さは反比例するのかもしれない。