玉木亨のレビュー一覧
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ネタバレシェトランド島シリーズの作者だったので。
冒頭で殺人事件が起きるが、
登場する人々はどこにいてもおかしくない普通の人々、に見える。
学習障害の息子と思春期を迎える娘を持つ母親。
その元夫と、現在の看護師の妻と幼い娘。
四人の子供を持つ初老の大学教授と専業主婦の妻と末息子。
教授のバードウォッチング仲間の男性たち。
若く美しい教育実習生と元恋人。
この中の学習障害の息子と教育実習生が、
それぞれ浴槽と海で死体でみつかる。
水に浮かんでいた花とともに。
二つの殺人の関りがつかめないまま、
隠し事や小さな嘘、不倫、偶然の出会いが積み重なり、
全ての人が怪しく見えてくる。
犯人と思しき人物が次々と現れるのも、見事だ。
しかしなんといっても主人公の刑事が秀逸。
独り暮らし、部屋は散らかり、酒飲みで、友達はおらず、
クレーンが必要かと思われる巨体、
捜査を通じて幸せな家庭を見るたびに、自らをふりかえったりする。
男性の刑事としてはありがちと言っても良いような主人公だが、女性。
素晴らしい。
そんな家庭生活とは無縁なヴェラ警部が、
事件関係者に好感をもたれる青年であり
初めての子供が産まれて喜びにあふれる若い部下を、
退屈な男と最後に切って捨てるのが痛快だった。 -
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ネタバレイギリスの女性作家、アン・クリーヴスのヴェラ警部シリーズ初邦訳。シリーズとしては三作目。
日常生活では少し問題があった少年が、自宅のバスタブで絞殺される。沈んだ死体の横には花が添えられていた。手がかりもなく、容疑者候補も見つからないまま、海岸で似たような死体が見つかり…
ペレス警部シリーズ、マシュー・ヴェンシリーズに続く第三のシリーズ開幕。作品自体はかなり昔からあり、ドラマ化もされている(すでに完結済み)。ジミー・ペレスほどクールでなく、マシューほど清廉でもなく、言い方は悪いが普通の中年女性が主人公。好みは分かれるかもしれないが、逆にリアルで新鮮だった。
展開としてはいつものアン・クリーヴスで、視点となる人物が数名で、ストーリーが進むごとに意外な素顔や事実がわかってくる。
ただ今作は意外にも、後味がそこまで良くなく、クリーヴス作品にしてはなかなか珍しいかもしれない(弩級の終わり方の作品は一つあるけど…)。
古い作品だが、風景の描写、鳥の描写は相変わらず。なにより抜群の読み心地。引き続き刊行していってほしい。
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これまでさんざんアホの子扱いされてきたサンディが大人になった回。
ロンドン出張を一人で行かなくてはならなくなって、都会にドキドキして早く帰りたくなるサンディ。
自信もないし、勉強ができたこともない。だけどペレスを尊敬し、必死に期待に応えようとするサンディが愛おしい。
毎回この作者の描く、家族に対する複雑な感情は、世界共通に共感できる人たちがいるのではないかと思う。上は殺人事件の犯人探しをするミステリだが、下は悩みながら生きる人たちの心理描写が流れている。
みんな一緒だ。仕事をしながら家族や恋人のことを考える。それが当たり前で、みんな行き来しながら毎日を生きている。それがものすごく自然に描写されているから、アン・クリーヴスの作品は好きなんだ。
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物語がどこに向かっているのか、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、中盤まではかなりワクワク。
中盤以降は、そんな恐ろしい事が!なんてことだ!えぇ〜そうなの!!と、怖さと驚きの連続。
出てくる人間は、全員が愚かでみっともなくて人間らしくて魅力的だけど、友達にはなりたくないタイプで、動物はみんな勇敢で賢い(笑)
推理小説と映画とコメディが好きなら、おもしろいと思う。
人生は思い通りにならないクソの連続で、自分も周りもしょーもなくて大した人間じゃない、それでも一歩前に進んでみようじゃないかっていう気分になる。
続編も翻訳されますように!
※猫好きですが、猫の描写にかなりウケた。
生真面目な猫好きさんからは反感をかうような内容があり、注意が必要。 -
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最初から死体があるタイプのミステリー。主人公とおぼしき女性(エラ)が正当防衛で人を殺し、その親しい友だち(モリー)が呼び出され、死体隠匿を手伝うことになる(ここまで作品紹介にある内容)…そして、モリーには死体について、エラと死体について疑問が残る。
なので、何も悪くないのに死体隠匿を手伝ったことで共犯者になって死体が見つかることに神経をとがらせながら、疑問を抱えていくモリーもある意味主人公である。読み進むにつれてモリーの側についていった。
犯人は誰とかいう正統派ミステリーではないので、どういう心構えで読んでいけばいいのかわからず戸惑った。それが500ページ超えであるというのは気鬱でもあった。現在の話と過去の話が並行して、なんでそんな書かれ方をしているのか最後のほうまでわからなかった。特に過去の話は、どんどん遡っていき、それぞれの話をうまくつなげてとらえられるのが難しかった。
しかし、エラの過去、モリーの過去、エラとモリーの関係性などひとつひとつ興味深く、モリーの現在の不安に一緒になって心配する。モリーの疑問や不安がどのように解決していくのかを知るのが楽しみになった。
最期が壮絶。エラに関してはまったく同情しないが、モリーがそんなのってあんまりではなかろうかという感想。まあでもこれがHow It Ends、終着点だなと腑に落ちたというのはあった。
少し難しかったけど読み終わってみるとおもしろかった。 -
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ネタバレシェトランド四重奏に続く、The Four Elements Quartetの完結編。
そもそもが『哀惜』を読んでみたくて、それまでの作品を読んでおこうと思って改めて辿り始めたシリーズ物。
なんだかんだで凄く長い時間が掛かってしまったなと思いつつも、その思いを抱いたのが2023年6月かと思い返すと、あちらこちらに手を伸ばしがちな自分的にはそれでも案外短期間に読み進めたなと感慨深し。
とにかくこの著者の描き出す空気感が好き。
正直、ミステリとしての意外性だったり新奇性というのは全くない。
むしろしっとりと淡々と。
犯人は誰!?というリーダビリティもあるようでないようで。
真犯人はいつも思ってもいなかった人物だけれど、そりゃそうだ、そこに焦点当てていませんでしたから。
殺人が絡む物語、人の悪意がつまびらかにされていく物語なのに、語りが心地良くて、ずっと読んでいたい気持ちにさせられる。
読書びとなら誰しもその作者、ジャンル、シリーズがあると思うが、自分的にはこの著者がその一人。
本作の印象的な点は、あのジミー・ペレスがそんな態度を示すとは!!
それ以外はこれまで同様の雰囲気なのに、その一件だけがこれまでのどの作品とも異なり、気持ちの面で大きなしこりを抱えながら読むことに。
ただそれはサイドストーリーに過ぎず、全体しての事件はそれとは別にいつもどおり淡々と進む。
最終的には、結局のところジミー・ペレス的決着を着けるのだけれど、シリーズ全体としてのフィナーレは思っていたよりもあっさり。
が、それすらも潔さを感じ心地よい。
思えば、現役海外作家さんのシリーズ完結編て意外とないような気がする。
終わりを書くのって難しいんだろうな、とふと思った。
そもそも終わりまで訳してもらえていないという問題もあるかもしれないが。
次はいよいよ『哀惜』。 -
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ネタバレ衝撃のシェトランド四重奏終幕を経て、新たなるシーズンの幕開け。
すっかり心ここにあらずのジミー・ペレスは、まぁそうだよねといったところだが、そのエース不在を補おうと奮闘するサンディの頑張りにエールを送りたい。
何かと自信がなかったり、びくびくしてはいるものの何とか一人前になろうともがく姿がいじらしい。
事件は、マリーナに浮遊していた船上の死体と、次いで起こる第二の殺人事件の犯人探し。
ある日の夜、地方検察官の自宅から見えるマリーナに一艘の船が浮かんでいるところが見えた。
検察官はボートチームに所属し、自身のボートもマリーナに係留されており、またボートの腕にも覚えがあったため、自ら操舵し浮遊していた船に近づくが、そこに乗っていたのはジェリー・マーカムの死体だった。
ジェリー・マーカムは両親がシェトランドでホテルを営み、かつて「シェトランド・タイムズ」で記者として名を馳せ、本土に渡り成功を収めた決して「いい人」とは評されないボンボンのお坊ちゃまくん。
何故か動揺する地方検察官。
かつてジェリーと男女の問題でいざこざのあったイーヴィーは、今や年上の”聖人”ジョンとの結婚式を間近に控えるが、このタイミングでのジェリーの帰還に心穏やかでないが、さらに降りかかる悲運が。。
相変わらず各人の心理描写が秀逸。
結局のところ、いろんな感情が渦巻いて事件そのものとは関係ないところで悶々としていただけというパターンが多いのだが、性急に処理しようと焦る周囲をよそに、もちまえの忍耐強さでじっと受け止め、思いを巡らすペレスのさばきが心地よい。
なんだかんだページが進むについてじわじわと、ペレスが復調してきてくれて良かった。
まだ全快とはいかないものの、何やらちょっとした予感めいたものや、本作の真相がもたらす愛の複雑さも今後の展開を無理なきものに感じさせるようで、奥深い一冊。 -
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2007年発行の「大鴉の啼く冬」に始まった「シェトランド四重奏(カルテット)」から続いた「ペレス警部シリーズ」、こちらも4作目で完結です。
英国最北端(つまりスコットランド最北端)のシェトランド諸島。
荒涼とした景色が美しいが、冬は厳しく、開発もされているが、新しく住む人はそう多くはない。
イングランドから越してきた一家の納屋で、前の住人が首を吊ってしまった。
それ以来、何者かが敷地に侵入して、謎めいた書きつけを残していく。
さらに、近所のお邸で子守りをしている若い女性エマが遺体で発見された。こちらは自殺とは思い難い‥
子守と言っても子供二人はかなり大きく、エマは色々な役割をしていたらしい。綺麗だが一風変わった娘だった。
ジミー・ペレスは漂着したスペイン人の子孫で黒髪、見た目は地元民からは浮いているが、よく知られている。
もの柔らかで人の話を聞きだすのが上手く、理解力は鋭い。
婚約者フランを喪った悲しみを抱え、忘れ形見の幼い娘を育てている。
今は、島外の上司に当たるさばさばした女性ウィローと、いい関係を築いていたはずが‥
事件が起きるとインヴァネスからシェトランドにやって来るウィローとは会う機会が少なく、意外なことで亀裂が走る。
事件の重い背景、入り組んだ人間関係と、必死さ、身勝手さ、逃れにくさ。
それとは対照的に、ペレスとウィローのぎこちない衝突と悩みようは若い者のようで(いや若かったらもろにサイテーな感じかもだが)、あのペレスが盲点を突かれて、というところが初心な恋めいている。
そう悪い方向へ運ぶわけがないでしょう(笑)
作者はベテラン作家であり、自分もシェトランドに移住した人。
緻密な作風で、特異な状況もささやかな喜びもありありと描き出す、その力には脱帽です。
シリーズは完結しましたが、他も翻訳が始まっているので、楽しみです。 -
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ネタバレシェトランドシリーズ第3巻。
じわじわと、このシリーズの良さ、アン・クリーヴスの良さがわかるようになってきている、気がする。
今回は春。
いつものシェトランド本島ではなく、ペレス刑事の部下のサンディ刑事の故郷、ウォルセイ島が舞台。
シェトランド本島よりさらに閉塞感が強いウォルセイ島でサンディが祖母の死体を発見する。サンディの従兄弟がウサギ狩りをしていて、誤って殺してしまったらしいが。。。
終盤まで、この事件が事故なのか、殺人なのか、そこすらわからないまま進む。はっきり言って、非常に地味な話。ただ、相変わらずのペレス刑事の手堅い捜査が面白い。ゆっくりではあるが一歩ずつ、確実に真相に迫る。この辺りはシリーズを追うごとに面白くなってきている。
次作でとりあえず第一部完らしい。楽しみ。
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ネタバレシェトランド島シリーズの八作目。
ウィローが妊娠(!)を告げたのに、
喜びもせず感じの悪いペレス。
たしかに、
刑事の仕事をしながら、
元婚約者の娘キャシーを育てるだけでも大変なのに、
もうひとり子供を持つことの責任の重さに腰が引けてしまうのはわかるが。
前の家の持ち主が納屋で首吊り自殺をしたために、
肩身がせまくなっている移住してきた家族。
同じ納屋で、近くの家に住み込んでいるベビーシッターの若い女性が
首を吊っていた。
ベビーシッターと言っても、一番上の子供はティーンエイジャー、
子供たちの送り迎えや世話だけではなく、家事も手伝う、
雇い主にとっては都合の良い存在だったらしい。
明らかに自殺ではなく、
彼女の恋人やその母親、雇い主や既婚者の元恋人が疑われていく。
被害者の人となりがどうも納得がいかないし、
被害者が世話していた子供たちとウィローたちが話をする場面も、
後から思えば不自然な気がして、ちょっともやもやする。
とはいえ、
サンディがプロポーズに成功したし、
ウィローとペレスも上手く行きそうなラストで良かった。 -
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文句なしに大満足の一冊。ジョー・ヒル「お試し」としては十分すぎる内容。こんなにも気持ち悪くて、こんなにも美しい物語を、様々なスタイルで読めるなんて。
私のお気に入りは「ポップ・アート」。近年読んだ中で最も美しい物語。イタロ・カルヴィーノの「木登り男爵」のラストを思わせるクライマックスには泣けました。「自発的入院」は本書のなかで唯一中篇と言ってもよい作品で、そのアイデアと恐ろしさは唯一無二。とにかく、ジョー・ヒル、すごい才能としかいいようがない。お父上がいなくなっても(そんな世界は考えたくないが、いずれ訪れるであろう)、これで安心、と思ったホラーファンは私だけではないはず。 -
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シェトランド四重奏という4部作の続きで、ペレス警部シリーズとして通すと7作目。
英国最北端のシェトランド諸島。
狭い社会で、村の人間はお互いに何でもよく知っていると思われていたが…
ペレス警部がささやかな葬儀に出席していた時、突然大きな地滑りが起こった。
目の前で、農場と墓地を巻き込む事態に。
崩れた建物の中から、女性の死体が見つかる。
誰も知らない美しい女性、しかも地滑りとは無関係に、その前に殺されていた…
シェトランド島ならではの古くからある暮らしの習慣や因縁が絡んでいる事件が多いのですが。
今回は、開発が進む最近の事情も大きく影響してきます。
ペレス警部は婚約者を喪った悲しみを抱え、残された幼い娘を育てながら暮らしていました。
出会う人の心を開かせる優しい性格だけに、その気持ちは切ない。
少しずつ立ち直り、本土の警部である(つまり上司の)女性ウィローとの仲が次第に深まっています。
さばさばしたウィローとの距離感もいいですね。
頼りなかった部下のサンディがだんだん落ち着いて、彼の人の良さも生きてくるのです。
いつもながら細やかで、その土地の独特な空気や厳しい自然、そこで暮らす人の息遣いまで伝えるような、描写力が素晴らしい。
題材や展開に新しさもあり、ペレス警部の今後が開かれる気配も感じたり。
さかのぼってみたら、2008年6月に四重奏1作目「大鴉の啼く冬」の感想を書いたのが最初でした。
あと一作で完結とは惜しまれます。