女性探偵が「あり得ない」事件の謎解きに挑む連作中編集。
シリーズ2作目は中編3編からなり、5編構成だった前作より描写が細やかになっている。
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台風一過後の青空を窓際に立って眺めていた涼子の背中に、領収書の仕分け作業を手伝えという貴山の不機嫌そうな声が掛かる。
こ
...続きを読むこは上水流エージェンシー事務所。確定申告にはまだ4ヶ月あるが、仕事を溜めておくのが嫌いな貴山は会計処理のため領収書の束を仕分け中だ。
事務所の経営は本来なら涼子の仕事なのだが、経理一般は何事にも疎漏のない貴山に任せっきりにしてしまっている。その貴山に睨まれて涼子も渋々仕分けの席に着いたとき、目の前の電話が鳴った。
古矢という男からの仕事の依頼だった。
(第1話「物理的にあり得ない」) 全3話。
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柚月裕子さんのライトミステリー、上水流涼子シリーズの続編です。
今回のサブタイトルは「究明」となっていて、前作の「解明」からレベルアップしています。
第1話は、レッドリストアニマルの不正取引に関わる事件。
着手金 100万は手にしたものの、犯人と同じ穴のムジナだった依頼人まで警察送りにしたため、涼子たちは成功報酬を諦めることになりました。
第2話は、6年前に離婚した夫から息子の親権を取り返して欲しいという女性からの依頼。
調査の結果、裏に隠された依頼人の陰謀に気づいた涼子たちは、陰謀の芽を摘み取るとともに依頼を断ってしまいます。
おまけに着手金の10万円も叩き返したため、まったくのタダ働きに終わりました。
第3話は、生きる気力を失い摂食障害になった女子大生について、原因をつきとめてケアしてほしいという依頼です。
畑違いの仕事ですが、腐れ縁のある丹波刑事に泣き落とされてボランティアで引き受けることに。これも当然タダ働きです。
今回は「人として見過ごせない」というヒューマニズムから涼子たちが依頼に向き合う話でした。
それにしても、事務所の家賃の支払いにも窮するほど資金繰りが悪化している涼子たちが、真相「究明」のために採算度外視で依頼に取り組む姿はなかなか魅力的でした。武士は食わねど高楊枝。こんな痩せ我慢は結構好きです。
ところで本作にはサプライズがありました。それは作品を通して描かれる、貴山の意外な側面です。彼は無類の動物好きだったのです。
人間に対してはクール過ぎる態度の貴山ですが、成りゆきで保護したレッドリストアニマルのカラカルにはベタ甘で、涼子が呆れるほどでした。
さっそくカラカルに「マロ」と名付けた貴山は、ペット可で適度な広さのあるマンションへの転居を真剣に考えます。もちろんマロがストレスなく過ごせるためで、その入れ込みようがあまりに微笑ましくて思わず笑ってしまいました。
ともあれ、さらに続編を期待できるような終わり方に、ニンマリして本を閉じました。