ユニクロの柳井氏が、約20年前に経営理念などを述べた本。今は、世界一のアパレル企業となっているが、本が書かれたのは起業から20年経った時点であり、現在との中間地点となる。今までブレずに一貫した理念に基づいて経営に携わり、成功を収めてきた言葉には重みもあるし、共感する点が極めて多い。参考になる1冊であった。
「経営は試行錯誤の連続で、失敗談は限りなくある。商売は失敗がつきものだ。10回新しいことを始めれば9回は失敗する」p7
「(経営環境の変化の)スピードに追いつきながら経営を続け、会社を存続さていくには、常に組織全体の自己革新と成長を続けていかなくてはならない。成長なくして企業としての存在意義はない、と考えている」p8
「収益を上げられない会社は解散すべき」p19
「会社は安定成長を続けると、形式的に動くようになり、管理組織も次第に肥大化し、意思決定スピードが鈍くなる。会社というものは、安定や形式とは正反対に位置すべきものではないだろうか」p19
「(バブル期の出来事)成功の中に失敗の芽があり、それが成功の期間中に徐々に膨らみ、現在のていたらくを産んだのではないだろうか」p20
「経営者は企業環境がどうあろうが、収益を上げ続けることが責務なのだ」p21
「(メディア)良いときは良い面だけ、悪いときは悪い面だけしか書かない」p22
「マスコミの競争意識は横並びのスクープ合戦に過ぎず、論調には何の独自性もない」p22
「(父親)会社をつぶす覚悟があるなら俺の目の黒いうちだったら何とかする、ということだったかもしれない」p30
「(紳士服との違い)カジュアルウェアは接客せずに売れる。ただし、売れるものは飛ぶように売れるが、売れないものはぜんぜんダメだ」p32
「日本の税制は、急成長する会社を念頭に置いていない(税のため資金繰りに困る)」p55
「(ファーストリテイリングという社名)行動指針を現した社名である。直訳すると「早い小売」となり、「お客様の要望をすばやくキャッチし、それを商品化し、店舗ですぐに販売する」ことを意味する」p56
「ぼくは社員に「高い志や目標を持て」とよくいう。人は安定を求めるようになるとそこで成長が止まってしまう。高い目標を掲げて、それに向かって実行努力することこそ重要なのだ。目標は低すぎてはいけない」p58
「ぼくは銀行には金利をちゃんと払っているし、取引としては対等の関係にあるのではないかと考えていたのに、実態はどうも違うようだ。銀行から見ると、融資先企業は自分の子会社のような感覚なのではないか、だから、銀行の言うことは絶対聞かないといけない、と考えているのではなかろうか。そう思えてならない」p61
「日本の銀行の悪い習慣だと思うが、「会社」が銀行から借り入れるのに「個人」が全額を連帯保証しなくてはいけない。逆に、株式公開するとなると、こんどは個人補償を全部解いてもらう必要がある。会社の借入金に個人保証しているということは、会社と個人の区別ができないため、株式公開には不向き、と判断されるのだ」p62
「店舗と本部が対等な立場で情報交換でき、ときには、店長が本部のミスに厳しく反応し怒鳴り込むぐらいの良い意味での緊張関係を保つ」p65
「日本でも一時期、チェーン展開して一世を風靡したファッションメーカーがいくつかあったが、経営者不在で倒産した会社もある。そこはデザイナーが経営者であり、自らが良いと思った商品を作るだけで後は作りっぱなしだった。良い商品を作った上で、それを全部売り切って利益を上げていこうという仕組みを作ることを怠ったのだと思う。デザインとかクリエイティブという面では非常に優れていたが、経営という面からは、経営ごっこと言わざるを得ない」p67
「商品を生産メーカーに委託していると、どうしても単価が安いため、彼らが儲けようとして手を抜くことがある。商社に委託しても結局はメーカーに丸投げして、生産管理まで徹底しようとしない。自分たちで仕様を決め、工場まで出向いて生産管理までやらないと、品質は絶対によくならない。低価格で高品質の商品を本気で作ろうとしたら、自分たちで最初から最後までやらざるをえないのである」p75
「失敗は誰にとってもいやなものだ。しかし、蓋をしたら最後、必ず同じ種類の失敗を繰り返すことになる」p83
「(異業種からの目の重要性)同業種だと「こうなっているのが当たり前」と見なして、無理・無駄の存在する現状を肯定しながら進もうとする。改革には現状否定が欠かせない」p85
「ぼくのように号令をかけるのは簡単だが、それを実行していく部下たちはたいへんだと分かっている。よくやってくれたと思う」p87
「中国では30歳代から40歳代前半の経営者の工場の製品が、特に良い。経営者の成長意欲は旺盛で仕事熱心、その意欲が働いている人たちにも乗り移っている」p98
「ぼく一人のワンマン体制ではダメで、プロ経営者の集団で意見形成をしながら経営をすべきと考え、ぼくよりも頭の良い人々に数多く入社してもらった」p103
「チェーン展開する初期は本部主導型でよいが、これを続けていると店舗が本部の指示待ちになり、販売機会ロスが増える」p103
「一番いい会社というのは、「社長の言っていることがそのとおり行われない会社」ではないかと思う。社長の言っていることを「すべて」真に受けて実行していたら、会社は間違いなくつぶれる」p106
「広告は広告主がやるもので、クリエイターや広告代理店がやるものではない。広告主が自分たちで企画して作り、一つの機能としてクリエイターや広告宣伝会社を使うという方式でないとうまくいかない」p121
「いままで付き合ってきた広告代理店は、こういうキャンペーンをやるから、ここでこう金を使って、テレビはこの時間帯で、こういうタレントを使うという、話が手段のことばかり。何を伝えたいか、それをどういう方法で伝えるかという、根っこの部分の話はほとんどないことにある時、気づいた」p121
「当社には中途採用の人が多く、それぞれ前の会社や今までの文化を引きずっていることが多い。それが新しい発想を生むこともあるが、マイナス点も見逃せない。我々はこういう方針で経営をやります、という大前提を理解してもらわないと、一緒に仕事をすることはできない」p128
「いつの間にか「会社に勤める」のが当たり前になり、会社がそこにあることを前提に「惰性で」仕事をするようになる。自分は何のために会社で仕事をしているのかという原点を忘れてしまう。そうならないためにも明確な理念が必要なのだ」p129
「日本では「急成長」ということに対しては非常にイメージが悪い。「急成長イコールすぐつぶれる」という公式があるかのようだ」p132
「日本の企業が長いトンネルの中にいるとすれば、その根本には社会貢献や社会的責任に対する意識の低さも、目に見えにくい要因の一つとなっているのではないかと思っている」p134
「(大企業での不満)会社に入ったのはいいが、自分の上に偉い人がたくさんいること、これが最大の不満。ピラミッド構造の組織では、一番下からスタートしなければならない。無駄なルールが多すぎるし、決まりきった融通のきかない情報伝達手段を使わなければいけない。トップまで自分の意思を伝えたいとしたら、何人にも稟議書にハンコをもらわなければならない。やる気は次第に削がれてしまう。有能な人であればあるほど「自分はこれだけの能力を持っているのに、そのうちの三割ぐらいしか使ってないぞ」と感じているのではないか」p135
「(決められたことを決められたように)毎日、同じことをやることが文化になってきてしまう。同じことを続けると、創意工夫しなくなるし、思考が硬直化する」p149
「自分で判断するよりも、本部の方針やマニュアルに従っていた方が安心だ、自分は作業だけをやっていればいいんだ、という感じにさえ陥ってくる。命令やマニュアルを墨守していると、やがて組織も硬直化する。会社は、軍隊や悪しき官僚組織とは違うのだ」p150
「SS(スーパースター)店長やフランチャイズ店長だと3000万円を超える年収になる可能性もある。ただし、単なる肉体労働ばかりやっていて自分の頭を使わなければ、いつまでも年収300万円、よくいっても500〜600万円ぐらいにしかならない」p153
「店長→スーパーバイザー→ブロックリーダー→本部はダメ)店長を最高の仕事ととらえ、店長の仕事を全うすれば、本部にいるよりも高収入が得られる。このような仕組みを作らないと、小売業は繁栄しない」p156
「組織は攻めのためにつくり、守りのためには必要最低限のものしかいらない。常に、組織は仕事をするためにあって、組織のための仕事というのはない」p164
「ワンマン経営=人材手足論は、うまくいっているときには最大の効果を発揮するが、時間が経つと必ずつけがまわってくる。経営もマンネリ化したら終わりだ(一人でやるとマンネリ化が早まる)」p175
「成功するということは、保守的になるということだ。今のままでいいと思うようになってしまう。成功したと思うこと、それがすなわちマンネリと保守化、形式化、慢心を生む源だ。商売にとってよいはずがない」p196
「日本人あるいは日本企業はあらゆる面で国際化しないと生きていけないのではないかと思っている」p210
「流通業、金融業、建設業などは全部企業マインドが内向きで、自己改革のきざしすら見えない。自己改革どころか不況にその責任を転嫁している。そういう業種には、優秀な人や将来に夢を抱くような人は勤めようと思わないだろう」p212