浅井晶子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
日本で生まれ、長くベルリンで暮らした著者が、ドイツ人の夫とともに、ポルトガルの山奥の小さな集落へ移り住む。人口約10人の“限界集落”での暮らしにおける実体験を綴ったエッセイ。
著者の多層的なバックグラウンドもあってか、「どの文化が優れているか」を決めつけない相対的な視点が貫かれているように感じる。
日本人の細やかな感覚、ドイツの合理性、ポルトガルの緩やかさ。それぞれの特質が、状況によって長所にも短所にもなりうることが、具体的な生活描写を通して自然に浮かび上がる。異文化を知るというより、自らの「当たり前」を揺さぶられる感覚を味わうことができる。
ポルトガルの山村では、時間感覚、労働観、所有のあり方、人との距離といった要素が、都市とはまったく異なる形で組み立てられる。時間は厳密に守るものではなく、状況に応じて変動するもの。労働は効率や成果のためではなく、生活そのものと直結する。物は完全に個人に帰属するのではなく、関係性の中で緩やかに共有される。そして人間関係は濃密で、干渉と支え合いが表裏一体となっている。
こうした環境の中で暮らす人々は、総じて「緩いが、たくましい」。予定は崩れるものとして受け入れられ、完全なコントロールを前提としない。その代わり、何かが起きたときには柔軟に対応する力を持っている。この即応力と受容力こそが、彼らの生活を支える基盤である。
食に対する姿勢も印象深い。ワインやオリーブオイル、バカリャウなどの郷土料理は、生活の核を成す。生産から消費までが生活圏の中で完結し、食べることはそのまま生きることに直結している。また、食は人と人とを結びつける媒介でもあり、共同体の維持に重要な役割を果たす。
山火事や動物たちのエピソードは、この土地のリアリティを強く印象づける。火災は常に起こりうるものとして存在し、猫や狐は人間の生活圏と緩やかに重なり合う。そこでは、人間がすべてを管理することはできない。むしろ制御しきれないものと共存する態度が前提となっている。
本書は、こうした生活を決して理想化しない。著者はその魅力に共感しながらも、不便さや摩擦も率直に描く。「スローライフ礼賛」に陥ることなく、むしろ現代社会における「豊かさとは何か」という問いを静かに投げかけてくる。
異文化の紹介であると同時に、私たち自身の生活を相対化する視点を提供してくれる一冊。 -
Posted by ブクログ
「罪なくして」というこのタイトル、
なんとなくわかるようなわからないような言い回しに感じられ、原題をしらべてみると、
(ドイツ語なので英語に翻訳)
“Without guilt”
日本語だと、罪がない状態で、とか罪なしに。
英語だと罪悪感なしに、とか罪の意識がない、となり
またまたちょっと微妙な違いを感じてしまう。
前者だとすると
罪はないのに巻き込まれた感のある青年を。
後者なら人を殺めることに躊躇のない
犯人であるもう1人の男を指すように思う。
とにかく今回はとてもスピーディーな展開で
途中まではワクワクしながら読んだけれど、
結末はすごく放り出されたような終わり方で
えー、この先が気になるのにな〜、な気持ち。
ケイトとケイレブは今後どうなるの?
被害者たち、そして事件に関わった多くの人たちは?
あれ?そう考えると
タイトルの指す対象がほぼ全員にも感じられ始める。
うわ〜〜。。
早く次の翻訳を! -
Posted by ブクログ
ケイト・リンヴィル シリーズ第1作!3作目『罪なくして』がおもしろかったので、これも読んだ。
女性作家だからバイオレント系、スリル系ではないはずという想定で読んでいるが、そうでもない。
それでも、バイオレンスシーンがつぶさに描写されているわけではないので、実は心理的スリルでそう感じるのかも。ひーやひやさせられっぱなしの上巻だった。
『警察・スパイ組織解剖図鑑』にある本書の紹介に「主人公ケイト・リンヴィルの自己肯定感の低さ…!」とあるが、本当にそのとおり。『罪なくして』は、そうでもないように思えたが、本書で確認できた。
登場人物の他人への批判的なものの見方や自省的な考え方(つまり根暗)が、実に自分好み。ただし、ケイトの他人に思うところはちょっとというところもあった。
養子になった子どもが出てきて問題の種になるミステリーって、最近読んだよ。このケイト・リンヴィル シリーズの第3作だった。こちらの第1作に続いて、第3作も養子と養子を迎えた夫婦が登場していたということだ。
ケイト・リンヴィルはヨークシャー州で養子に関する仕事でもしていたのか?調べてみたいところだが、とりあえず、保留。 -
Posted by ブクログ
「誘拐犯」下巻。
前回、上巻で何も起こらなさすぎて…とこぼし、
下巻はどうなることかと心配したが、
スリリングな展開、来ました!
なかなかに楽しめた。
読みながら、いったいこの誘拐犯の犯人は誰なのか?と考えていた。
容疑者候補はたくさん出てくるものの、
犯人らしき人物が見当たらないので
後半どんな展開になるかと思ったら…なるほど、
そういうことだったのか!な結末。
今回、不幸な主人公ケイトにようやくしあわせが訪れるか?というのも見どころ?の一つであったのだけど、
そこもまた納得のエンディング。
なんだかんだ文句言いつつ
このネガティヴヒロインの行く末が気になり
次作も読んでしまうんだろうなぁ。 -
Posted by ブクログ
コロナ禍のあの息苦しさ。この本はそれを思いださせる。
舞台は「心身が健康であることが義務」の世界。国家が市民を監視、管理する。街は無菌状態。みなそれを疑問に思わず生きている。
ある事件が起こり、男が投獄、無実を訴えながら自死する。弟の無実を信じる姉が、その判断を下した社会システムに疑問を持ったがゆえ、思わぬ展開に巻き込まれる。
いったん社会からレッテルが貼られると、一挙手一投足すべて悪意ある「ストーリー」に沿って解釈される恐怖。(「誰とも」が「ダレトモ」になる場面はぞっとした!)
でも主人公である姉は信じる道を進む。強い。
コロナ禍を彷彿させるが、あとがきによると2009年刊行。コロナ勃発の10年以上前!