浅井晶子のレビュー一覧

  • トニオ・クレーガー

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    太宰の『人間失格』を読んで、この主人公は自分だ、と思ったなんて感想をよく聞く。
    僕にとっては、この『トニオ・クレーガー』がそういう本だったようだ。

    「ねえ、ハンス、『ドン・カルロス』は読んだかい?君の家の庭の門で約束してくれたね。でも、どうか読まないでくれ!」

    「瞬間撮影写真の載った馬の本を読むほうがずっといいなんていう人たちを、詩のほうへ誘い込んだりしちゃだめなんだ!」

    「君のようになれたら!もう一度最初からやり直して、君と同じように成長することができたら。」

    トニオの愛の言葉は痛烈だ。憧れの裏返しや、少年時代の気の迷い、そんな言葉で片付けられるような生易しいものじゃない。
    周りの世

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    2025年12月12日
  • 罪なくして 上

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    大好きなケイト・リンヴィルシリーズ第3作。
    冒頭からいきなり事件に巻き込まれるケイト。
    そしてケイレブもまた、苦しい事件の判断で困難に直面。
    ケイトとケイレブ、2作から加わったコリン、それぞれの欠落感も彼らとこの物語の魅力に他ならず、一気に話に引き込まれる感は前作までを上回ります。さて下巻に続く!

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    2025年09月14日
  • 罪なくして 下

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    中盤からの展開は一気に緊迫した展開。まさかこんなことになるとは。全く目を離せられない展開でした!少年院を出てから、また犯罪を犯すとわかっているけど、この悪人を解放せざるを得ない状況に、今の社会と重なるような気がしました。とにかくこの悪人ぶりは3部作の中でも、最強のキャラでしょう。最後まで一気読みでした。ケイトとケイレブが活躍するのは、後書によると、あと2作あるようですので、邦訳が楽しみです!

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    2025年08月30日
  • 誘拐犯 下

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    まさか!という真相、結末に読むのが止まらない。
    何よりもケイトとケイレブ、不完全でな彼らがメインキャストなのが逆に魅力的。それは他の登場人物も同じで、欠けたものを抱える人たちが物語に深みを与えてる。
    あっという間の下巻、次のシリーズも読まなければ!

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    2025年08月24日
  • 誘拐犯 下

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    ケイト·リンヴィルシリーズの2作目。
    読み応え十分、そして真相の意外性も。

    ヒロインが地味で冴えないタイプという設定もあって、ストーリーも重くなりがちなのだけれど
    それを上回る充実の読後感。

    次作も楽しみ。

    不良少女マンディの行動力と生命力の強さに拍手

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    2025年07月09日
  • 裏切り 下

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    事態が進むにつれてページをめくる手が止まらなくなる感じ。そして途中で事件の真相に気づいたときには思わず「あぁ、そうか!そういうことか」と声が出てました。
    真相に気づけるタイミングも計算されたようなタイミングで、もちろんその後の展開も楽しめました。
    決して、事件解決したからといって万事解決したのではないけれど、それでもラストには少し希望も感じられてスッキリです。
    三部作ということなので、また次の作品も読みたいと思います。

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    2025年06月28日
  • 誘拐犯 上

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    ケイト・リンヴィル シリーズ第2作。シリーズ第3作から読み始めて、第1作を読んで、本作に。自分にとって3作目。ケイトもユアンも自省的に自分の行動を描写する。そこがすんなり作品に入り込める理由。
    とにかく先が楽しみで、下巻へ。

    自立して自分のことをわかっていて他人も冷静に観察できる女性が、マッチングサイトを使ってまでパートナーを求めるというのは、シリーズ第3作『罪なくして』を読んだときには解せなかったが、第1作から読んで起きたことを知ると、第2作の本作では、納得がいった。
    『罪なくして』にも登場していたコリンが本作で初登場。体重82キロ、45歳。自信満々な男。フィットネススタジオに最低でも週4

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    2025年06月20日
  • 誘拐犯 下

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    ウゲォーヌ(人間には発音できないタイプの音)

    いやーマジかー
    すげー結末だったわー
    この結末全く頭の片隅にもありませんでした
    そう書くとネタバレになっちゃうかな
    うーん、お見事だったわー
    ミスリードが巧み

    ということでミステリーとしてもかなり上質だったんですが、やっぱり主人公の女性刑事ケイトよね
    はっきり女性としての魅力なしって書かれちゃってるという新しいタイプのヒロイン
    恋愛経験ほぼゼロの41歳は、やっぱりけっこう拗らせちゃってるわけです
    そんなもん自分に自信なんか持てません
    あらゆる場面で自分なんか…

    自分なんかが誰かに愛されるわけがない
    自分なんかが事件を解決できるわけがない
    そん

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    2025年06月09日
  • 誘拐犯 上

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    しまった!一作目から読みたかった!続きが気になり一気読み。海外小説は何と言っても翻訳がどうかで決まる。さすがでした。

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    2025年06月03日
  • 誘拐犯 下

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    ドイツの人気作家がイギリスを舞台に描くシリーズ。2作目後半。ベストセラー。

    ケイト・リンヴィルは、スコットランドヤードの巡査部長。
    実家を片付けるために休暇を取り、近くの宿に泊まったら、その家の娘アメリーが失踪。
    ケイトが刑事と知った母親デボラに頼りにされることに。
    管轄外なのは1作目と同様、しかも今度は自分の家族の事件でもないのですが…
    スカボロー署のケイレブ・ヘイルは知り合ったばかりの頃のようには拒否的でなく、ケイトを認めていることは示すのだった。

    アメリーは不可解な状況で発見される。
    しかも、アメリーを海から救い上げた男性は、両親にたかってくる。
    少女の行方不明事件は他にも起きていて

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    2025年05月31日
  • 裏切り 下

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    おもしろくって、先へ先へと、はやる気持ちで読んだ。
    そのため、通常の自分のペースより速く読めたので、二度目以上に登場する登場人物がどういう人物であったかを忘れてしまっていることが少なかった。とはいえ、巻頭に登場人物一覧はほしい。なぜ、ない?

    予想できない真相、犯人。だからといってアンフェアだという感想はない。驚きと感心。構想も構成も優れている。

    自己評価の低い主人公のケイトが、最後には前向きな態度が見られ、それが爽やかな読後感をもたらした。

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    2025年05月24日
  • 誕生日パーティー

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    歴史の流れの中で人がどうしても変わらざるを得ない場面がある。自分が過去を忘れても過去は自分を忘れていないとはよく言ったものである。
    本書はそんな過去がついてまわる。舞台になるのはポル・ポト政権下のカンボジアと2016年だ。それまで何の変哲もない日常が描かれていたのに文章の間から香り立つ不穏は何なのか。二つの時代を結びつけるものを見せつけられた時、あまりの罪深さに顔を背けたくなった。本書はミステリになるのだろうが、そういったジャンルに収まらない魅力がある。面白かった。

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    2025年05月04日
  • 罪なくして 上

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    むちゃくちゃおもしろかった。
    コリンの性格は途中まで「ちょっと」と思っていたものの、ピュアでいい人?何かおもしろい。上巻が終わった時点で「がんばれー」のシチュエーション。
    ケイレブは元々ハンサム(ケイトによる)。
    クセニアは15キロ体重を落とせば美女らしい(コリンによる)

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    2025年04月19日
  • 失踪者 上

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    ものすごく読みやすくて、ものすごく面白くて、そしてものすごく気になる終わり方の上巻!複数のストーリーが、同時並行で進んでいくストーリー。殺人事件と、ある人から逃げていると思しき女性と、ある日突如、失踪した女性に関する記事を書こうとするジャーナリスト。これらの人たちを中心に展開するストーリーが、徐々にお互いに近づいていく上巻。下巻がすっごく楽しみです!

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    2025年04月04日
  • 罪なくして 下

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    下巻は感情移入してしまって辛かった。ケイトの無能な新上司へのストレス、ケイトからの恩を仇で返す女性、思慮のない友達、世捨て人同然だが憧れていた元上司、容疑者からも目が離せない。この終わり方には不満だがもう次作が待ち遠しい。

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    2025年02月17日
  • トニオ・クレーガー

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    詩を愛する内向的な少年が小説家の青年となり、旅先でかつて愛した少年少女の幻を見る…この短い物語の骨子はそのように単純なものだが、その最もドラマティックな箇所は意図的に曖昧に描写され、主人公トニオが出会ったのは本当にかつての恋人たちなのか、あるいは他人の空似というやつなのか、判然としないまま幕を閉じる。
    30歳前後の、芸術至上主義的でどこか青臭い文学青年が、ふと思春期のありふれた恋の記憶に再会し、画家の友人から突きつけられたある言葉の意味に目覚めるビルドゥングスロマンとして、鮮烈な作品である。
    長年、この作品はそのように読まれ続け、支持されてきたようだ。現代ではジェンダー的視点からの解釈もあり興

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    2025年02月10日
  • 裏切り 下

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    こんなヒロインを待っていた!

    スコットランドヤードの女性刑事ケイト・リンヴィル巡査部長。
    三十九歳でいまだ独り身。夫なし、子どもなし、恋人なし、友人なし。
    特別美人でもなく、髪はバサバサ、とうてい魅力的とは言えない。
    周りの同僚たちは誰ひとり近寄ってはこないし、ケイトが会議で口を開けば決って天を仰ぎ、間違っているとみなしていた。
    なにより自分自身が自分を信用していなかった。

    そんな中で彼女が敬愛する父親、伝説的な名刑事として誰からも尊敬されていた父親が何者かに惨殺される。

    ケイトは父殺しの犯人を追うが、それは父の隠された別の顔を暴くことになるのだった。

    もちろん最後には「生きづらさ」を

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    2025年01月29日
  • 罪なくして 下

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    ネタバレ

    探偵小説や警察小説には、完全無欠だったり良くも悪くも癖が強かったりといった主人公が多く登場するものだが、この作品の主人公ケイトは、スコットランドヤードの刑事でありながら地味でネガティブ、人付き合いが苦手ととにかくパッとしない。そんなケイトの能力を唯一正当に評価し、スコットランドヤードから地方のスカボロー署にリクルートしたケイレブ警部も、アルコール依存症を患う訳ありの警察官。それぞれに苦悩を抱えているからこそ、読者は二人に感情移入し応援したくなる。
    物語は主人公のケイトを中心に、襲撃を受けたクセニアやソフィア、ケイトの友人コリンらのパートが入り混じりながら展開していく。その中でも重要なのが、オリ

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    2025年01月06日
  • 罪なくして 下

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    ネタバレ

    このシリーズの安定の面白さよ!
    そして前回まで頑なにケイトを幸せにさせなかった著者もようやくそろそろ幸せを掴ませようという気配が。
    原作はあと2作品刊行されてるようなので続きが気になります。ケイトとケイレブの関係も。ケイレブが仮に退職してもまあお互い今まで散々管轄外で行動取ってきたわけだし。
    サーシャがとりあえず可哀想で。当時なんかやりようあっただろと。アリスへのフォロー含めて。今回の全ての発端はアリスの夫ですね。責任感じてるくせに少年院の訪問も2回で辞めてるしひたすら嫌なことから目を背けてるだけで結局最後まで生き残ってるという。

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    2025年01月04日
  • なぜならそれは言葉にできるから――証言することと正義について

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    強制収容所の生還者、捕虜、強姦、虐待など過酷な体験からのサバイバーが自らの体験を言葉にする大変さ、言葉の重さ、沈黙に触れている。話の文脈もバラバラだったり、言葉に詰まりながらの語りは当たり前で、彼らとそうした体験を持たない聴き手との断絶を意識しながら、彼らの傍らにいて切れ切れの言葉を聴いていく、聴き手の姿勢が問われているし、そこに著者は希望を見出そうともしていると思いました。

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    2024年02月13日