原田ひ香のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
商店街の片隅にある定食屋「雑」。70代の女将が1人で切り盛りする、昔ながらの食堂だ。気どった料理は1つもなく女将にも愛想はないが、その懐かしい甘さのある味は客の気持ちをほっとさせる。
ある日、腰を痛めた女将が従業員募集の貼り紙を出したところ、1人のアラサー女性が応募してきたのだが……。
常連客相手の定食屋を舞台にしたヒューマンドラマ。
◇
沙也加はその日、亜弥とカフェにいた。亜弥とは中学時代からのつきあいで、デリカシーに欠けるところはあるのだが沙也加にとっては気の置けない親友だ。
その亜弥は久しぶりに会ったのがうれしいのか、仕事や家庭の愚痴を矢継ぎ早に話し続け、スッキリした顔をして帰っていった。
実は、聞いて欲しいことがあると言って亜弥を呼び出したのは沙也加の方だ。けれど言えなかった。
亜弥の機関銃トークに圧倒されたこともあるが、自身の中で気持ちの整理がついていないということが、大きな理由だった。
沙也加の夫が離婚届を置いて出ていってしまったのは先日のことだ。直接のきっかけは夫の健太郎が家で食事を摂らずに場末の定食屋で済ませるようになったことだが、その火種は結婚当初から燻りだしていたことに、沙也加は夫から言われるまで気づかなかった。
「もううんざりだ」ということばを残して夫はマンションを出ていったのだった。
( 第1話「コロッケ」) ※全6話およびエピローグからなる。
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気になるタイトル。何が雑なのか。雑なことが定食屋のウリになるのか。不思議に思って読むことにしました。
あーなるほど。もともと雑色さんという人が始めた小料理のお店で、店名も「雑色」なのですね。そして、昔からあった古い看板が色褪せ「色」の字が消えてしまったために、「雑」と読まれるようになったということでした。
こんなストーリーまで用意しているとは、いかにも原田さんらしいなと感心します。
さて、物語のポイントはいくつかあって、そのうちの2つについて感じたことを記します。
①食事や飲酒の仕方は育った家の文化によって異なる。
沙也加は、ある程度裕福な家庭で育ちました。専業主婦の母親は几帳面な性格で、きちんとした食事を作る料理上手な女性です。ダンディで穏やかな父親は、食事を楽しんだあと洋酒を少し嗜むという落ち着いた飲み方をする人です。
沙也加の、食事や飲酒についての観念はこういう生活で身につけたものでした。
健太郎は、会社のプロジェクトチームの一員で、多忙を極め精神的なプレッシャーも大きいために、退勤後はへとへとです。だから身体は味の濃い料理を、喉はビールやチューハイなどの食欲を増進してくれる酒を、どうしても求めてしまいます。
けれどそんな健太郎の欲求は、沙也加にはとうてい理解できないものだったのです。
健康面と栄養面を考えて一生懸命に作った料理なのだから、アルコールで流し込むようなことをせず、よく味わって食べてほしい。酒を飲みたいのなら、食後にウイスキーやブランデーをゆっくり口に含むような飲み方をしてほしい。それが沙也加の求める食生活でした。
これでは夫婦関係がうまくいかなくなるのは当然でしょう。
食事というものは生きるうえで大切なものだと思います。気持ちをほぐし、明日への活力を生み出してくれるものだからです。心を許せる人と共にする食事は特にそうです。
だから、食の好みはもちろん、マナーやエチケットに至るまで、食文化がまったく異なる人と結婚しても、毎日が苦痛なだけではないでしょうか。2人の離婚は正解だったと思います。
②精神的な自立は、人との関わりの中で促進されるものだ。
頑なに自身の狭い食文化にこだわり、健太郎の求めを撥ねつけた沙也加は、明らかに子どものような狭量さを有していました。
ところが離婚を切り出す前の健太郎が通っていたという定食屋「雑」で働き出してからの沙也加は、徐々に大人へと脱皮していきます。そんなアラサー女性の成長過程を、原田さんは絶妙なペンさばきで描いていました。
おもしろかったのは、女将の「ぞうさん」こと雑色みさえです。
古希を過ぎ、世の中の酸いも甘いも噛み分けたはずのみさえですが、沙也加と2人で店を切り盛りするうちに、これまで封をしてきた自身の気持ちに気づき、コロナ禍に挫けそうになっていた自分を奮い立たせることができるようになります。
そして、沙也加との相乗作用で2人の女性が成長する姿は、物語終盤を盛り上げるに十分なステキなエピソードでした。
原田さんらしい軽やかなタッチで描かれたヒューマンドラマですが、食事の意義や本質について、また、人は人との関わりを通して成長していくということについて、いろいろ考えさせてくれる良作だったと思います。 -
Posted by ブクログ
ラジオにまつわる連作短編集
以下、公式のあらすじ
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喜びも哀しみも、いつもラジオが傍にいてくれた。
夢破れ、逃げる旅路の果てで聴いた【オードリーのオールナイトニッポン】。
ケアハウスで暮らすラジオ歴35年の老女は、今夜も【深夜の馬鹿力】に胸をときめかす――
など、実在する人気ラジオ番組に耳を傾ける人々の姿を描く珠玉の連作5篇。
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収録は6篇
・三匹の子豚たち
・アブラヤシのプランテーションで
・リトルプリンセス2号
・昔の相方
・We Are シンセキ!
・音にならないラジオ
・三匹の子豚たち
息子が三人いるが、誰とも同居せずにケアハウスに入った女性
昔から伊集院光のラジオを聞いていたが、その理由は……
息子たちは三者三様なのだけれど
母親目線の評価と実態のズレ
特に三男は他の話にも関係してくるわけで、物語に厚みが出ますよねー
しかしまぁ、私自身を顧みれば、今となっては全く孝行息子ではないからなぁ
・アブラヤシのプランテーションで
フラフラしていた青年が、先輩の紹介でシンガポールでラーメン屋を開店する事になる
しかし、冒頭はそこから逃げるような様子
そのバスの中で手にしたiPodには友人が入れてくれたオードリーのラジオ番組
・リトルプリンセス2号
ラジオドラマの新人賞のシナリオを書いている主婦
彼女は不妊治療と母親との関係に悩んだ事がある
ストーリーはともかく
「花ゲリラ」という行為にちょっと複雑なものを感じる
空きスペースに勝手に植える行為ですか……
ま、車に乗って旅しながら花の種をばら撒くという迷惑な歌手よりはまぁ被害は少ないけど
自然環境の植生に影響を与えないといいけどね
個人的には、苗が余ったならコンポストにするなり、土にすき込むなりすればいいのではと思ってしまう
・昔の相方
今はサラリーマンである夫は、売れっ子となった芸人の相方に誘われた過去を持つ
その昔、売れない時期に何かと援助した事もあって、芸人を応援する夫
しかし、芸人がテレビ番組で語った話では夫を侮辱するような内容で……
「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」という言葉は最近リアルに耳にした事があって偶然性を感じる
・We Are シンセキ!
学校でのいじめを目にして悩む女子中学生
ラジオの子供相談室から聞こえてきたのは、いじめを主導していると思われる子の声で、部活でいじめがあって悩んでいるという相談
いじめている本人が、逆の相談をしているという違和感
・音にならないラジオ
ラジオドラマシナリオの新人賞を受賞した男
しかし、その後はプロットの段階でディレクターの女性からボツを喰らい続ける
そこで、他のラジオ局に応募しようと思い立つが……
これは胸糞案件に思える
女性ディレクターは出来上がったシナリオの評価する能力はあっても、プロットからそれを掬い上げる能力はない
立場的には会社に所属している方が強いわけで
リライトのやり取りはパワハラっぽく感じてしまった
こんな場面でこそ「それってアナタの感想ですよね」という言葉がふさわしいのかもね
総じて、連作短編というには繋がりのない話もあるなぁ
もしかして、私が気づいてないだけで繋がりがあったりする?
ちなみに、私も中学生~大学生のあたりまで、ちょくちょくラジオは聞いてた
夜ふかしはしない方だったので、オールナイトニッポンはたまにしか聞かなかったけど
浪人生のときはテレビのない生活だったので、その代わりに見えラジを買ったり
大学生のときも、研究室でよくラジオを聞いてた
ラジオって、特に深夜の番組は孤独に寄り添ってくれる存在のように感じるときがある
aikoの曲にも「ラジオ」という歌があって、正にあんな感じかなと思う -
Posted by ブクログ
家族が読み終わったということで、読んでみました。
原田ひ香さん、初めましてでしたが、タイトルからラジオ好きな私ならとっつきやすいかなと、読み始めました。
短編集でした。普段自分が買わない作家さんだからでしょうか。個人的に切り口が斬新に思えて、話の展開、着地がどこになるのか予想できないものばかりでとても楽しめました。もちもんラジオの内容が入ってくるのですが、例えばオードリーのオールナイトニッポンを聞いている方なら、お馴染みの文句が出てきたりして、一粒で二度美味しい、奥行きのある構造になっていまして、そこも楽しかったです。
原田ひ香さん、他の作品も気になります。 -
Posted by ブクログ
書店でたびたびお名前を見かけて気になっていた著者のおひとりです。
チャプターズ書店のYouTubeで購入している姿を見て気になっていた一冊です。
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仕事、家事、勉強……
頑張るあなたの
心に沁みる
声と言葉の物語
「三千円の使いかた」の著者が贈る
老若男女の生きる喜びと切なさを描いた短編集
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表紙の絵から、
深夜にラジオを聞きながら物思いにふける…
なんて想像していたら、全然違いました!笑
施設に入った高齢女性、
海外で店舗運営、経営に失敗した男、
不妊治療を経験した女性、
芸人として活躍している友人を持つ係長、
イジメやヒエラルキーに違和感をもつ女子中学生、
鳴かず飛ばずのラジオドラマの脚本化
それぞれが行き詰ったり葛藤するときに、
そばにいたラジオ番組。
映像が無くて、音声だけだからこそ、
耳から入る情報に集中できるというか。
響く場所や印象に残る場所が違うのは、
読書と一緒だな、と。
個人的に好きだったのは「昔の相方」でした。
夫婦の関係、相手を想う気持ちに、
月並みですがじーんときました。
日常って圧倒的に多くて長いものだから。
自分に寄り添ってくれたり、伴走してくれるものが、
思いもよらない気づきや癒しをくれたりする。
私にとってはそれが読書ですが、
本書のラジオもそういう位置づけなのかな、と。
短編集で、この先どうなるんだろうという場面で終わるものも多いのですが、たぶん大丈夫な気がするという余韻が残りました。