伊東潤のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
和歌山の太地と呼ばれる漁村を舞台に、江戸末期から明治にかけて行われていた捕鯨を題材にした短編集。直木賞を獲っても不思議ではないレベルの作品のように感じたが、当時の選考会では北方謙三が猛烈に推したものの受賞には届かなかった。
人間vs鯨のダイナミックで命がけの戦いの描写に目を奪われがちだが、太地という治外法権がまかり通る特殊な地域における様々な人間ドラマが、すごく丁寧に描かれている点が非常に印象的だった。あと、鯨親子の絆に象徴されるように、鯨はただ人間に捕られるだけの道具として描かれているわけではないので、捕鯨に嫌悪感を持たれているであろう欧米の方々にも是非読んでいただきたいと思う。
内容的に実 -
Posted by ブクログ
ネタバレ鯨漁を生業として生きる太地の男たち。躍動感のある鯨漁を背景に、6つの物語が紡がれる。
江戸から明治にかけ、激動の時代の中、地域ぐるみで捕鯨を守る一組織であった太地。閉鎖的だがそうでもしなければ生きられない人々の悲哀や意気込みが伝わって来る。
鯨がよく獲れた頃は羽振りもよかったが、明治になってアメリカの捕鯨船が幅を利かせるようになり、鯨の数が激減した太地は衰退して行く。その移りゆく時代に生きる、人々の心の襞を丁寧に描いており、読んでいるとつらくなってくる。
私は学生時代から鯨に興味があり、学生時代大学の先生にお願いして鯨の眼球の解剖をさせていただいたこともある。鯨に関する本も相当読んだし -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作を筆頭に良作揃いの、戦国を舞台にした短編集。解説にもありますが、展開や盛り上がりどころが計算され尽くされていて、抜群の安定感があります。以下、話ごとに軽くコメント。
「見え過ぎた物見」:物理的な意味での「見る」と、先読みという意味での「見る」、二つの「物見」が話に重なってくるラストが絶妙。
「鯨のくる城」:あたかも作者がその目で見てきたかのような、捕鯨シーンの迫力が凄まじい。
「城を噛ませた男」:昌幸の顔が笑み崩れるシーン、ほとんどホラー(怯)
「椿の咲く寺」:五作品の中で、これだけはちょっとロマンチストな印象。彦蔵さんのせいですな(笑)
「江雪左文字」:時代を何度も行き来するので序盤 -
Posted by ブクログ
北条早雲一代記。
戦国時代最初期に下剋上を成し遂げた謎に包まれた人物を少年時代から描く。最新説に従い生年月日をずらして没年齢を64歳としているので、今までの北条早雲像と随分違う。
司馬遼太郎の「箱根の坂」だと87歳が没年齢になっている。
その差23歳!これだけ違うと話を変えざるを得ない。
今までの枯れたイメージとは違う、アクティブな早雲、勇壮な早雲、命知らずな早雲、に描かれている。
が、至極真面目に作文しているなぁ~と言うのが正直な感想。
これだけ前半生が不明な人なんだから、もっと放埓・奔放に描いても良かったのでは。得体の知れない戦国大名No,1は「国盗り物語」で描かれる斉藤道三だと未だに思い