宇佐川晶子のレビュー一覧
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ネタバレわーお。
親の因果が子に報い…じゃないけど。
賢明なるカトリック両王とは言ってもやっぱり人の親。良かれと思って…異国に嫁ぐ娘の幸先を案じただけだったのに。巡りめぐって結局は、娘を不幸に、孫娘を苦境に、そしてイングランドを混迷に…。一見やりたい放題なヘンリー8世だけど、所詮は歴史の歯車でしかなかったのね。
これぞクロニクルの醍醐味…いやこのシリーズ、主人公はクロムウェルだから、ヘンリー8世の治世の全貌ですらないけどな。
長い長い三部作、ここにたどり着くのか。
歴史って、こんなにも懐深く豊かなものか。
久々に鳥肌が立ったわ…ってとこから先が長かったですわ。 -
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恋愛小説であり、移民二世で労働者階級出身の聡明なヒロインがマンハッタンでいかにのし上がっていくかを描くサクセスストーリーでもあり、何より、魅力たっぷりな登場人物たちとの出会いや別れを描いたこの本は爽やかな青春小説だと思う。
きらびやかで華やかで底抜けに明るいニューヨークとそこに生きる人々を描きながら、破滅を予感させるようなストーリー進行は「華麗なるギャツビー」を彷彿とさせる。
個人的にはとっても映像化してほしい作品。見たいシーンがたくさんある。
大晦日にティンカーが子供と一緒に雪合戦に興じるところ、ケイトがウォレスに銃の扱いを教えてもらうところ、普段は冷静沈着なケイトが取り乱しカフェでティンカーに吐き捨てるように責めるところ、ディッキーの紙飛行機への情熱と精緻さ、ハンクとの会話、屋根へ腰掛けたケイトとティンカーのやり取り…等等。
知るはずもない1930年代のアメリカの、目に浮かぶような情景がこれでもかと散りばめられ、起承転結がはっきりとした、切なく爽やかで最後まで美しい作品です。 -
購入済み
誤訳を発見
収録作品の一編、「愛の探偵たち」の中に誤訳を発見しました。「ということは--六時五分から二十分までのあいだに、サー・ジェイムズは」(紙の本と違って、引用箇所のページ数をかけませんが、97%の箇所)という一節です。作中に、6:05という時刻が問題になる箇所はなかったので、変だなと思って、英語原文と比べてみたところ、原文は、
'Then at – say five-and-twenty past six, Sir James was ...'
でした。「六時五分から二十分までのあいだに」ではなく、「六時二十五分頃には」とすべきところです。 -
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ネタバレロードムービーのような小説を読みたくて、この本を手に取った。西部劇のようなタイトル。しかしこれはアメリカの荒野を馬車で渡ったような二世紀位前(?)の話ではなく、現代のメキシコの観光都市アカプルコから命からがら逃げてアメリカとの国境を渡った母と八歳の息子の話。
彼らに何があったのか。
主人公のリディアという女性は書店を経営し、夫は記者で、最近メキシコ最大の麻薬密売組織(カルテル)「ロス・ハルディネロス」とそのボスであるハビエルのことを暴露する記事を書いたため、ある日、目の前で夫や母親を含む親族13人を殺害され、助かったのは自分と八歳の息子だけだった。
リディアはハビエルが自分と息子の命も狙っていることを知っている。「すぐに逃げなければならない!」。「保護します」という警察の申し出も断る。何故かといえば警察の中にもカルテルから賄賂をもらっているものが多く、逆に彼らをカルテルに売る可能性があるからだ。自家用車を使って逃げようとするが、車の下に爆弾が仕掛けられている可能性があるので使えない。国のあちこちの検問所、公共交通機関の職員など、裏でカルテルと繋がっている人間は数多といる。リディアはハビエルと個人的に友達でもあったので顔を知られている。誰がどこで見ているか分からない。スマホとかタブレットも使えない。GPSが敵に彼らの居場所を教えてしまう可能性もあるからだ。
「どうすればいい?」リディアは考える。「自分たちはもはや難民だ」。
そして、メキシコからアメリカへ過酷な不法入国をする移民たちと行動を共にする。北へ西へ時々は一旦南へ。国境警備隊に捕まりにくい安全なルートを探って列車を乗り継ぐ。乗り継ぐと言っても、切符を買って乗車するのではない。疾走する列車に飛び乗り、屋根の上に「乗車」するのだ。列車の上は移民で一杯だ。落ちてしまうともちろん、体は車輪に引き裂かれる。
ある移民保護施設を運営する神父が移民たちを前に話す。「もしも引き返すことが出来るのなら、今そうなさい。あなたがたの求めるものが、ただのより良い生活ならば、他の場所でそれを求めなさい。この道は、それしかない人びと、暴力と悲惨な状況に追い詰められた、進退きわまった人びとのためだけにあるのです。多くが命を落とすでしょう。あなたがたのうちの多くが誘拐され、苦しめられ、麻薬の不正取引に巻き込まれ、拘束されるでしょう。運良くそのすべてを乗り切り、合衆国にたどり着く者も、結局は灼熱の砂漠で孤独のうちに死んだり…一人残らず強盗に会うでしょう。エル・ノルテまで行けてもついた時には懐は空っぽです…」。その話を聞いても、「生きて国境を渡る」と決意して旅を続けるのが移民なのだ。
表紙の絵にあるのは、国境を渡ったばかりの所の果てしない、灼熱の砂漠の道。ここで脱落するものもいる。そうすると、砂漠に置き去りになるか、自分から国境警備隊に捕まりに行くしかない。
トランプ大統領が築いている国境の壁の向こうの人たちにこんなドラマがあるとは知らなかった。
小説の登場人物の話はフィクションであるが、メキシコからの移民について三年に渡るリサーチをして書かれたこの小説はリアルな話でノンフィクションのような重みがある。
それでいて、ハリウッド映画のようなアクション、緊迫感、ロードムービーのように変わりゆく景色、移民仲間との絆、移民を思いやってくれる付近の人びとの温かさ、主人公の喪失感にも負けない生命力、息子の成長など、読みごたえのある小説だった。
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レビューを拝見して知った本です。ありがとうございます。
緊迫感溢れるロードノヴェルでした。
まず、主人公のリディアが出だしで、楽しい友人だと思っていた人間が、親族16人を殺した悪魔だとわかった瞬間。
生き残った32歳の母親が8歳の息子を連れて53日間移民となって2645マイルの、メキシコから合衆国までの旅をします。
私は、移民というものを、今までほとんど知らなかったので、移民の命がけの困難がよくわかりました。
作品全体に重苦しい雰囲気が絶えず流れていたように思います。
なんで、この主人公たちはこんな理不尽な目に遭わなければならないのか全くわかりませんでした。
移民というものは、みんなこんな感じで決死の移動をしているのでしょうか。
現役作家のドン・ウィンロウ、ジョン・グリシャム、スティーブン・キングなどからもこの作品には賞賛の声が寄せられているそうです。
著者がこの作品を描いたのは、移民の夫と結婚したアメリカ人であるからではなく、16歳のとき、従姉妹ふたりが、四人の見知らぬ男たちに残酷にもレイプされ、橋の上から投げ落とされて死亡。弟も橋から落とされという犯罪のせいだそうです。
ニュース番組で移民を見たら、この人たちは人間なのだと思いだしてもらいたいとあとがきで述べられています。
決して読んで愉快な話ではないけれど、多くの人に読んでもらいたいと思いました。
以下、本書、うらすじより。
メキシコ・アカプルコ。
書店を経営し、夫と息子と幸せに暮らすリディアの平穏な日々は、カルテルに親族16人を殺されて一変した。彼女はたったひとり生き残った息子のルカを連れて、カルテルの力の及ばないアメリカへ行くことを決意。ふたりは<野獣>と呼ばれる貨物列車の屋根に飛び乗り、出会う人々の誰が敵で誰が味方かも分からないまま、死と隣り合わせで北へと向かうー悲しみの底に突き落された者、明日も生きのびることを信じて逃げる者、理不尽な暴力に人間愛で立ち向かおうとする者たちの希望を描いたロード・ノヴェル。 -
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少年の日の、ひと夏の事件を回顧する内容。
初めて読んだ作家さんですが、切なく、確かな描写で、とてもよかったですよ。
ミネソタ州の田舎町、1961年。
13歳のフランクはやんちゃ盛りで、街中をすばしこく飛び回っていました。
穏やかで博識な父親は牧師。
母は、良家の出で、芸術家肌。
二つ下の弟ジェイクは賢いが、緊張すると吃音になるため、からかわれることもあります。
姉のアリエルは美しく、音楽の才能に恵まれていて、弟達にも優しい。
一家の希望の星だった姉が行方不明となり、フランクの住む世界はとつぜん悲痛な色を帯び始めます‥
豊かな自然に恵まれた町ですが、上流階級と庶民の住む区画は分かれています。
人種差別もあり、普通の人々の中に、いろいろ癖の強い人間もいる。
互いに許しあってほど良い加減で暮らしていた、ゆったりした描写が、しだいにテンポを速めていきます。
複雑な出来事をただ目を見張って受け入れるうちに、男の子達は大人の世界に一歩、足を踏み入れていく‥
卑小な人間のどうしようもなさ、悪気はなくとも個性がぶつかり合い、弱点がすれ違う哀しさ、苛立ち、切なさ。
タイトルになっているシーンは感動的です。
よく描ききってくれたな、と胸をうたれました。
エドガー賞はじめ全米の主要なミステリの最優秀長編賞を独占した作品です☆ -
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ネタバレこの作者の作品は以前読んだがさほど好みではなかったが…。
この作品は少年が遭遇したひと夏の出来事が抒情的に、そしてすごく視覚的に描かれている。
サスペンスという括りにするとさほどの事件も起きないし、犯人(真相)もあっさりと分かるのでは?
でもこの作品は殺人事件を核にしながら、61年夏のアメリカの田舎町の生活や人間関係を少年の視線を通して濃密に描きこんで、文芸作品に近い。
この時代を過ごした人々から見るとたまらなく懐かしく切ない物語であろう。
またこの時代を共有しない我々でも、トマス・H・クック、ジョン・ハードの小説や、「スタンド・バイ・ミー」「グリーンマイル」のような映画、ホッパーの絵画に描きこまれたアメリカの古き良き日常の生活が見事に再現され、懐かしさを感じる。
運命の糸のように絡んだ人々の人生と、兄弟の少年時代の終わりと卒業が切なく描きこまれて傑作となった。
こんな文章が書ける作者だったとは!改めて他の作品を読んでみようと思う。訳も丁寧だしおそらく原作にあるリズムが大切にしてあってとても気持ち良く読めた。
・・・エピローグは心に沁みる。 -
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アメリカには少年の冒険小説がよく似合う。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンに始まった少年が冒険する物語は、少年向けの小説であったとして、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』やロバート・マッキャモンの『少年時代』などなぜかホラー作家の正統派少年小説として、かつて少年であった大人たちに読まれ、評価された名作として知られている。
時を経て、リーガル・サスペンスの巨匠、兼売れっ子作家であるジョン・グリシャムですら、『ペインテッド・ハウス』というジャンル外の傑作をものにしている。そららの流れはミステリの世界にも受け継がれ、ジョー・R・ランズデールの『ボトムズ』や『ダークライン』などは少年冒険小説でありながら、一方でミステリの形を損なわないばかりかむしろミステリとして評価されている部分が注目される。
同時に少年の冒険の舞台としてしばしば取り上げられたのが、アメリカ南部である。南北戦争の影、黒人差別の文化、そしていっぱいの手つかずの自然。少年の眼という純粋な感受性のフィルターを通して、驚きと発見に満ち満ちた世界で、様々な大人たちの生と死を見つめながら、人間生活の矛盾に満ちた世界の仕組みを理解してゆくには適した土地風土であったに違いない。
だからこそ南部出身の作家はジャンル外であろうと少年時代の物語を書いてみないではいられないのかもしれない。
さて、その少年冒険小説の系譜に、また一作の金字塔が登場した。本書は、ミネソタ・リバー沿いに広がる田舎町を舞台にしたの郷愁と抒情に満ちたミステリーである。作者はコーク・オコナー
・シリーズで知られる作家だが、シリーズ外作品を書いたことで、なんとこれがアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)を受賞、さらにバリー賞・マカヴィティ賞・アンソニー賞と続けざまに受賞し四冠に輝くことになる。
なんと言ってもこの作品の魅力は、1961年に生きる12歳の少年を主人公にした作品世界がとても魅力ある登場人物たちと時代背景によって構築されていることだろう。2歳年下の純粋な正義感に溢れた吃音の弟、音楽の才能に恵まれた年頃の美しい姉、大戦の傷を引きずる教会神父の父に、その父の戦友で放浪者のガス。『大草原の小さな家』と同じミネソタを舞台に、自然いっぱいのミズーリ川流域で、川にかかる鉄道線路を渡る二人の兄弟の姿があまりにもみずみずしい。
それでいながら、これはしっかりとミステリである。死と向かい合い、やがて少しずつ成長をとげてゆく少年たちの物語でありながら、死の絶望的なほどの悲しさと、生き残った者が心に負う痛みは、抉られるようだ。それでも少年たちの生命力は泉のように途方もなく、彼らは真相に迫ってゆく。小さな名探偵たちが辿る冒険の道は、このひと夏にこめられている。
いくつもの死と別れ、真相の残酷さ、癒しと成長をこめたこの素晴らしき世界にこそ、少年たちの夏があった。一ページ一ページに作家の品格が滲み出ていて、少年のどきどきするような好奇心に連れられ読者はこの本から眼が離せなくなるだろう。ぼくにとっても『ボトムズ』以来の傑作登場が嬉しい。アメリカならではの少年時代の郷愁小説である。この種の作品は希少ゆえにとても価値があり、なおかつ誰の心にもあるノルタルジーに共鳴するせいか、いつまでも心に残る。そんな作品に餓えている読者にお勧めの一冊である。 -
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あるいはそうだったのかも
6世紀のイングランド王ヘンリー8世。妻である王妃も幾人も替わったけど、側近も替わった。
ヘンリー8世に重用されたトマス・クロムウェル。宗教改革を進め既得権益を持つ教会を潰して財産を取り上げ、とされている。
この小説での「彼」は、前作『ウルフ・ホール』と同様、辞書から受ける印象とは少し異なる。
先に失脚したウルジー枢機卿を敬愛し、目の前の状況を切り抜け冷静沈着に生き抜いてきたら、今があったという感じ。
ただ、誠実に一生懸命やっての今、というところと、狡猾に立ち回っての今、というところをゆらゆらと行き来しているようにも思える。
吉となるか、凶となるかは、計算しつくされたようで、計算し尽すことのできない結果によるものか。
それは、やはり、キーパーソンがヘンリー8世だから。神になった王、神のみぞ知る、ということか。
著者の描いた答え、自作を楽しみに待つ。 -
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自分の境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる
高級ホテルに軟禁状態のロストフ伯爵が、紳士としての矜持で日々を過ごす様子に背筋の伸びる思い。
ホテルのレストランのサービスにがっかりすることがあったときに伯爵が思い出すのは、ロストフ伯爵夫人の「容易にへこたれる忍耐は到底美徳とはいえませんよ」という言葉。
ホテルで出会う幼い友人たちやホテルのスタッフたちの言動を尊重しそこから学び、さらには楽しみを見つけていくロストフ伯爵の姿に日々の楽しみの見つけ方や姿勢を教えてもらっている気持ちにもなります。
そして料理やワイン、当時の服装や建築、本や歴史などの細かい描写もまたこの小説の大きな魅力です。それらすべてを抜き出して書くと膨大な量になりそうですが、ディテールの描写が物語をさらに豊かにしてくれているように思います。
個人的にはロシアの名前に馴染みがなくて覚えにくいので、文庫本のしおりとしてついている登場人物一覧に助けられています。
ちょっと気になる点としては、途中で注釈が入ってくる構成になんだか慣れないこと。すごく素敵な小説なのに完全に物語に入り込めないのは構成が理由なのか…。でも全体としてはすごく好みです。