宇佐川晶子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
海外長編によくある、立ち上がり導入部の延々と続く情景描写、そして多くのカタカナ人名。
筆者は丹念に文章を連ねるが、読者はこんな気持ちでいつまで読むのかと後悔とわだかまりで字面を追う。
何でこんな気持ちで読まなければならないのか。
小説を読むとはそもそも何なのか。
ヒラリー・マンテルの作品の前半は、読者に文学や小説の存在そのものへの自問自答を強いる。
数年前、この本を読もうとした時はこの葛藤に負けて、途中で振り落とされた。
意味のわからなさに憤り、読むのをやめた。
「ブッカー賞二度受賞・コスタ賞受賞」、クソ喰らえ。こんな作者をもてはやすイギリス文学界は何なんだと、本を投げつけてやりたい気分だった。
時間コストと期待を裏切られた悔しさに憤懣がマックスになる。
読む側の能力不足、読むことに慣れていないからとはまったく思わなかった。
そして、しばらくこの本の存在すら忘れていた。
我慢の苦行だった一語一行が、これから始まろうとする異世界の物語の骨組作りと外壁のブロック積みになる。舞台設定に登場人物も据えられ、華麗な心理劇の準備が着々と進行し期待も積み上がる。
今度はそんな読み出しだ。
『罪人を召し出せ』の再度のトライで、女流作家ヒラリー・マンテルの創る特異な世界にまんまとハマる。
16世紀イングランドチューダー王朝、ヘンリー8世の治世下、トーマス・クロムウエルという側近の秘書室長の目を通して政権の内部、特にアン女王の権力掌握と絶頂期、断末魔のいきさつが展開される。特に彼女の権力を背にした乱脈な不貞とその顛末について。
世襲の後継ぎが課題で、男子誕生が熱望される。
平民出のクロムウエルはヘンリー8世とは緊張関係で現王妃一族とは対立している。
ヘンリー8世は前の王妃の時同様、アン王女に飽きて後継ぎが生まれないことを理由に次の女性に乗り換えようとする。
クロムウエルは好色な王の意向を受け、彼女の行状を暴き処分する役割を担う。有能で冷徹な処理は背筋を寒くする。厳格な裁判手続きで、事前に容疑者一人一人を出頭させて王妃との情交の事情聴取を行う。互いの思惑が交錯し問答が淡々と繰り広げられる。彼らは恐怖と諦めで、一部認めたりしらをきることに終止する。両者の駆け引きと微妙な心の揺れが淫靡な世界を想像させる。
16世紀の英国どころか、今でも洋の東西を問わず、王室のまわりで展開される権力者や為政者の愛憎劇は日常茶飯であり、ヒラリー・マンテルの筆致はそんな人間の心理、“さが”を抉り白日のもとに晒す。
流石ブッカー賞二度の受賞である。彼女の他の作品も読んでみたくなる。
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Posted by ブクログ
ネタバレ前回読んだ「書斎の死体」がイマイチだったのであまり期待していなかったが、
期待値が低かった分、意外と楽しめた。
全部で8篇が収められている短編集で、
ミス・マープルだけでなくポアロ(文章で読むのは初めて)も登場するし、
解説を私が好きな西澤保彦が書いているという、
個人的に豪華な並びだったのも嬉しかった。
先日Eテレの「偉人の年収」みたいな番組でクリスティーを取り上げていて、
クリスティーの原稿料の高さにビビりました。
イギリス出身ということしか知らず、
子どもがいて主婦業のかたわら執筆をしていたというのも知らなかった。
何となく、1930~70年代くらいに活躍した人かと思っていたけど、
生まれたのが1890年ということは、もう少し前の年代なのかな。
ここのところよく読んでいるので、
クリスティー自身の生き方にも興味が湧いてきました。
というのもクリスティーの作品の良さというのは、
「ミステリの女王が書いたミステリの古典」的な側面ももちろんあると思いますが、
それとともに、
古き良き(?)時代のイギリスの文化、その時代の雰囲気がそのままそこに残っている、
という点にもあるのだと思います。
もちろん多くの登場人物は白人。
富裕層と貧困層が明確に分かれ、
富裕層のお館にはメイドや執事がいるのが当たり前。
小さな村ではチャラい若者は悪目立ちして、老人に悪口を言われる。村では娯楽が少ないから、村に若い花嫁が嫁いでくると、みんなで見に行って話のタネにする(これは現代日本でも同じかな)。
「オールドミス」がいる。「裁縫師」がいる。アパートに「石炭用リフト」がある。
そんな時代を想像してみるだけで、日本人にあるあるのヨーロッパへの憧れが刺激され、うっとりとしてしまいます。
-------------------ここからネタバレ------------------
●三匹の盲目のねずみ
この作品だけで、本の半分近くを占めています。長い。
登場人物が多くて、各人の動きを理解するのが大変。
で、警察だと名乗った奴が真犯人だったパターン。
びっくりしたのでミステリの仕掛けとしては成功だと思うのですが、
納得いかない気がしてしまうのは、
見破るための伏線がなかったからかもしれない。
あと、動機がちょっと難しかった。
●奇妙な冗談
ミス・マープルが登場する物語は、
日常生活の中で起こる事件が描かれるので、
本筋とはそれほど関係ない細かい生活の描写も多くて、その点も楽しめます。
マープルのお喋りが冗長なのがちょっとイラっとしますが、そういうキャラだから仕方ない。
●昔ながらの殺人事件
これもミス・マープル。
お決まりの容疑者としてしばしば「女にモテるイケメンの若造」が出てくるのが笑える。様式美。
村の郵便局に停まるバスは一日何本あったんだろうか。
スペンロー夫人が着ていた「キモノ」とは何のことなんだろうか。肌着ということだろうが、この時代の肌着とはどんなものなんだろうか。なんで「キモノ」と訳したんだろうか。
良心の呵責があると宗教にすがるというのは、古今東西変わらないんだな。
非常に女性らしい事件で、シンプルで読みやすいです。
●申し分のないメイド
突っ込みどころ満載の姉妹に仕える申し分のないメイドが実は泥棒だった、というところまででも実に痛快です。
ミス・エミリーの「心気症でわがままで扱いがめんどくさい女」の描写が素晴らしい。
そして最後の、メイドと妹が実は同一人物だった、という仕掛けはすごい。
ほっそりした人とぽっちゃりした人が同一人物だったという設定は少し無理があるけど、発想に完敗。
●管理人事件
「殿方は常に同じタイプを好む傾向がある」ね…
ミス・マープルの、犯人の動機の推理は、かなり主観というか偏見が入っていますね。
でも、ミス・マープルのシリーズは、
こういう世俗的なところがいいんだろうなぁきっと。
難しいこと言わない、論理的に考えなくてもいい、
日常生活に起きている些細な問題や人間関係の中に、
殺人事件の解決の糸口がある。
つまり、誰でもミス・マープルになれるということです。
●四階のフラット
ポアロはミス・マープルとは違って、
論理的に考えるタイプの探偵なんだな。
ミス・マープルの村の事件を読むのも楽しいけど、
探偵としては、私はポアロの方が好き。
昔は電化製品が少ないから、
電気付けないと部屋の中が本当に真っ暗なんでしょうな。
しかしフラットにまでメイド部屋?があるとは。
●ジョニー・ウェイバリーの冒険
誘拐されそうな息子から目を離すとはこれいかに、と思ったら自作自演か。
ポアロが情けをかけてあげるのがちょっと不思議なんだけど、
まだ実害が出てないからってことなのかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ翻訳小説特有の文章はなかなか頭に入ってこないけれど、物語自体は楽しめた。
204ページ文中の「ここモスクワの状況も予測不能になる。手綱を取ることになる人間次第で、この首都の扉が世界に向けて大きく開くか、あるいはばたんと閉じて内側からかんぬきがかけられるか、変わってくる」
今のロシアを象徴しているような言葉だ。
ロシアの閉鎖的な政治背景も関係しているため「どうしてソフィアは髪を切ってまで逃亡しなければいけないのか?」など理解しにくい点もあった。
せっかくピアノが上手なのに、ソ連から亡命してピアニストとしてやっていけるのかとか、大切な舞台の後に父親に任された任務があると、舞台に集中できないだろうな…とか色々余計なことが頭をよぎりつつ。ソフィアの母ニーナがどこにいるのかも気になる。
とはいえ伯爵がニーナと出会ったことで父親となり、外の世界を見せてあげたい、自分も自由になりたいと思えたことは大きかった。物語では語られていないが、ソフィアと伯爵が穏やかな気持ちで再開できていたら幸せだ。 -
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ロシア革命により、高級ホテルに無期限で軟禁される刑(一歩でもホテルの外に出たら銃殺)に処された伯爵の前向きハートフル軟禁ライフ物語かと思いきや、けっこうなスリルを味わえてハラハラドキドキしてしまった。なんと大胆なーーー!
伏線回収が怒涛の如くあり、いやこれ伏線回収なのは解るんだけど、伏線がどんなもんじゃったかが覚束ない。
この人!この人、前のほうでチョイ役で出てたよね?そん時、何で出てた?どのエピソードの誰!?
この手がかりに覚えがある!何!?何やった!?
・・・さらっとおさらいして、だいたい判ったのだけど、主席行政官だけが判らない。誰!?どこで出てた!?
もう一回読み直さなきゃダメかーーーーーーーーー!
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「 叡智のもっとも確かなしるしは、常に朗らかであること」 -
Posted by ブクログ
1922年、ロシア。革命政府に高級ホテル(の屋根裏部屋)無期限軟禁刑を言い渡され、ホテルから一歩外に出れば銃殺刑となったアレクサンドル・イリイチ・ロストフ伯爵の軟禁ライフ物語。
主人公の伯爵はホテルから一歩も外に出ないのだが、ホテルのロビーやレストラン、バーの様子から革命後の近代ロシアの世風の移り変わりが知れて、実におもしろい。
私が高級ホテルに軟禁されたら「うわーーー!お散歩許可をーーー!外の空気をーーー!」ってなりそうだけど、伯爵は積極的に軟禁ライフを過ごしていて、本に挟んであった栞に書いてあった「自分の境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」という言葉がズシリと来る。
私はきっと境遇の奴隷タイプ。 -
Posted by ブクログ
このところわりとヘビーな作品が続いたので、ここらで安心と信頼のクリスティーを。
クリスティーの短編集はかなりあっさりな作品が多いのですが、これは短いながらもそれぞれの探偵たちのキャラの魅力が存分に発揮されており、読み応え◎な一冊でした(^^)
収録されているのはノンシリーズ1編、マープルもの4編、ポアロもの2編、そしてクィン氏1編。『謎のクィン氏』は未読なため、彼とはお初になります。
マープルものはいずれも、セント・メアリ・ミード村の魅力爆発!という感じで(褒め言葉)、なんとも微笑ましく読ませてもらいました。特に「申し分のないメイド」で、かつて仕込んだメイドのために奮闘するマープルさんが健気でかわいらしい。
ポアロものはいずれもドラマ版で視聴済み。
中でも、「四階のフラット」はドラマでパットを演じていた女優さんが大変魅力的だったのが強く印象に残っています。
どちらもドラマでは程よく話が膨らんでいるため、ぜひ視聴をオススメしますね。派手な部屋着に刺繍入りのスリッパでぬっと出てくるポアロさんが面白い。笑
いつもの探偵役が出てくる作品は安心感がありますが、誰が主人公か誰が犯人か、まったくわからないのがノンシリーズ。
「三匹の盲目のねずみ」はどの人物も怪しすぎて、ハラハラしながら読み進めました。しかし、クリストファーと妻の謎の親交と、そしてパラヴィチーニ氏の正体は最後まで明かされぬまま。。
機会があれば、『謎のクィン氏』も読んでみたいですね〜。 -
Posted by ブクログ
1958年、ミネソタ州ブラックアース郡を流れるアラバスター川で、地主の遺体が発見された。保安官のブロディは遺体の状況から事故か自殺を想定するが、殺人の噂が町を席巻する。そして、元使用人のノアが容疑者として逮捕されるが……。
第一次及び第二次大戦の帰還兵が心に抱えた傷、先住民や異国人への偏見や差別、家族の問題など様々なサブストーリーが本篇以上に丹念に描かれていく。二部構成でポケミス二段組、本文486ページの大作だ。
『ありふれた祈り』の姉妹篇ということだが、ストーリーにはなんの繋がりもないので未読でも大丈夫だ。重厚なミステリであり、再生の物語だった。 -
Posted by ブクログ
ミステリ要素より、戦争の精神的な後遺症とか人種差別とか、あえてその時代や地域を選んだ重いテーマを扱った作品。
人という生き物が抱える矛盾や複雑な内面がよく描かれているし、不条理に決してひれ伏すことのない、不屈な心に胸打たれ思わず落涙も。
読み始めは人物名が覚えられないかもしれないけど、しだいにほぼすべての登場人物に意味があり、事情があるのだとわかってくる。
既読の「帰還兵はなぜ自殺するのか」を思い出したり、マンガ「BASARA」の暴力に屈しない人々を思い出したり。
バイユーの話も出てきたので、ワニ町!とテンションが上がったが、さすがにあの底抜けに明るいシリーズの雰囲気とは程遠かった。