宇佐川晶子のレビュー一覧

  • このやさしき大地

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    1932年のアメリカを舞台とするロードノベル。
    “インディアン”の子供達が集団生活を送るリンカーン教護院に、オディとアルバートの白人兄弟がいた。ある日大変な事件が起き、2人は友人のモーズ、孤児のエミーと共に脱走し、セントルイスを目指すが……。
    12歳のオディはその生意気な言動で様々なトラブルを起こし、なかなかに苛つかせてくれる。でも憎めない少年だった。軽く超自然要素も入り、読み応えのある大作だった。タイトルは皮肉か真実か悩む。
    『ありふれた祈り』の姉妹編らしいが未読。本作がとてもよかったのでそちらも読みたい。

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    2022年10月30日
  • モスクワの伯爵

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    1922年、革命後のロシア(ソ連)。新政府によって王族や貴族が次々処刑されるなか、パリから祖国に戻り、そのまま残ることを決めたアレクサンドル・ロストフ伯爵。過去に発表した一篇の詩のおかげで死を免れた伯爵だが、それからはモスクワの中心地にある高級ホテルから一歩もでられない軟禁生活を送ることに。滞在していたスイートから狭い屋根裏へ移され、客から従業員へいつしか立場を変えながら、ホテルが全世界であるかのように味わい尽くそうとした男の半生記。


    トム・ハンクス主演のスピルバーグ映画みたいな小説。装幀から漂うウェルメイド感は読者を裏切らず、古き良き時代の上品な世界に連れていってくれる。
    ロストフはソ連

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    2022年10月29日
  • 夕陽の道を北へゆけ

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    「自宅を捨て、文化を捨て、家族を捨て、母語すらも捨てて、望んでもいない遠くの国という夢にたどり着くチャンスのために、命をかけて大きな危険に飛び込んでいくのだ」

    つい先日ベネズエラで大洪水が発生し、住むところを奪われ難民となったひとたちが徒歩で北(アメリカ)を目指すというニュースを見ました

    マジか!無理じゃね?と思いました
    命の危険なんて感じたことのないぬくぬくのほほんハポネス(スペイン語で日本人の意)の典型的な感想ですよね

    考えないようにしてるんですよね、きっと
    考えたら心折れますもん
    折れたらもう終わりですもんね

    本作の主人公リディアはメキシコはアカプルコから北を目指すので距離的には

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    2022年10月28日
  • 愛の探偵たち

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    短編集。探偵役も様々で、まさに寄せ集めという印象。
    メインはおそらく、三匹の盲目のネズミ。キーポイントは他作品と同様なものがあったと思うが、うまく解決している話と思う。

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    2022年09月28日
  • このやさしき大地

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    ネタバレ

    ゲラ読みモニターに当選し、一足に読ませていただく機会に恵まれた。2段組約470ページという長い物語だけれど、4人がカヌーで川を下っていく間、ずっと一緒にカヌーに乗っていたような気がする。善い人にも悪い人にも出会い、ひどい目にあったり助けられたりしていくので、成長物語として、冒険物語として面白く読んでいけるけれど、ラスト30ページほどは、彼らが生き抜く現実の圧倒的な展開に驚く。決して軽くはないけれど、後味はちょっと風が吹いたような。

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    2022年09月14日
  • ありふれた祈り

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    悲しい物語

    でもミネソタ州の田舎町の風景と人々の情感がたっぷりで、荘厳な家族愛の映画を見終わったような、満足感と脱力感を感じる物語。

    1961年夏
    牧師の父と美しい母と姉に囲まれ、吃音障害を持つ弟と13歳の主人公フランクが経験した特別なこの夏の出来事。

    自身の心の底に住み着いた戦争の後遺症ゆえに、ひたすら“神”の道を進む父の言葉は、困難にあった町の人びとの心にいつも寄り添っていた。
    自分の家族に起こった困難のとき、母はそんな夫に「せめて今日だけは“ありふれた祈り”にして……」とつぶやく。

    キリスト教の赦しや救済について、疑い迷い罵るという感情が普通にあること、それでいて、それらをすべて

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    2022年09月05日
  • 夕陽の道を北へゆけ

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    リディアの必死さに引き込まれて、一気に読みました。最後まで、逃げきれるのか、ドキドキさせられてしまう作品。一緒に逃げて同志になっていく、仲間ともども、幸せになってほしいと思いました。

    圧倒的な力に抑圧された状態でも、決してあきらめない強い気持ち。勇気をもらえる作品、

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    2022年06月11日
  • 賢者たちの街

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    「モスクワの伯爵」同様、最初は少し読みづらかったが途中からめちゃくちゃ面白くなった!!恋愛、友情、野心、郷愁…。

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    2022年04月01日
  • 賢者たちの街

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    ネタバレ

    世界恐慌や第二次世界大戦といった歴史的出来事の影響を受けた1930年代のニューヨークが舞台。

    現代とはかけ離れた世界の中で(煌びやかであり貧しくもある)、人々がどんな考えをもち、暮らしを営んでいたのか垣間見ることができて、面白かった。

    育った環境や性格の違う登場人物たちが下す、人生の選択。イヴの性格に憧れ、ティンカーの人生に共感した。

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    2022年01月04日
  • 賢者たちの街

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    ネタバレ

    前に読んだ『モスクワの伯爵』と同じ作者。『賢者たちの街』の方がデビュー作だけど、自分はデビュー作の方が好きかも。
    装丁といい、主人公が上流社会にお邪魔するところが『グレート・ギャツビー』ぽいと思ったけど、それみたく作中モヤモヤすることはほぼなかった気がする。

    ヒロインは周りの玉の輿を狙うDreamy Girlsとは一線を画した自立系女子。『モスクワの伯爵』の伯爵同様、どんな相手の言葉も知的にかわし、スマッシュもばっちり決める。上流社会を垣間見る時も(驚いただろうけどそれを顔にも文章にも出さず)読書家の彼女らしい豊かな表現で、冷然と観察している。

    友達に一人は欲しいタイプ。自立系女子は今でも

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    2021年10月21日
  • モスクワの伯爵

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    ロシア文学や、彼の国を舞台にした話に関しては物々しくて殺伐とした印象があった。(イラストもさることながらライトグリーン・ゴールド・モノトーンのコンビネーションが完璧な表紙とそれにマッチした上品な花切れに一目惚れしたのが動機…)

    それに対して本書はお貴族様が主人公なので、彼の人柄や彼を取り巻く世界が実に紳士的でエレガント!長ったらしい小話や馴染みのない彼らの近代史、凝ったモノの例え・言い回しのせいで何度も立ち止まらなきゃいけなかったけど、少なくとも読んでいてイラつくことはなかった。

    のらりくらりと(絶対に真似できないような)受け応えをし、時には自分から首を突っ込んだりして難題をかわしていくさ

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    2021年10月21日
  • 賢者たちの街

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    1930年代後半のニューヨーク。
    若いケイトとイヴは、銀行家ティンカーと偶然出会う。仕事と恋と華やかな上流社会との交流。
    抑えられない恋心と自尊心の間で、それぞれが自分に正直に生きていこうとしたのかな。

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    2020年11月14日
  • 賢者たちの街

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    1966年、NYの近代美術館(MoMA)で開催された古い隠し撮りの写真展(実際にあったものらしい)で懐かしい人物が写っているところからスタートする。始まりからお洒落。
    主人公ケイト・コンテントは大恐慌(1929年)のとき16歳となっているから、1913年生まれということになる。
    1937年から39年の間に、才能に恵まれて野心に満ちたロシア移民の二十代女性がハイ・ソサエティーに入り込んで、さまざまな人達と交流していくさまを描いたもの。
    先に読んだ「モスクワの伯爵」の作家の第一作らしい。
    二つの作品ともに、普通の人間は垣間見ることない、優雅な上流階級を描いていて、まるで映画の世界の中に引き込まれる

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    2020年11月14日
  • 賢者たちの街

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    『モスクワの伯爵』で、とんでもない逸材を引き当てたと思ったエイモア・トールズの、これが長編デビュー作。一九二〇年代から一九五〇年代のロシアを舞台にしたのが『モスクワの伯爵』なら、これは一九三七年のアメリカ、ニューヨークが舞台。まるでタイムマシンに乗ってその地を訪れているかのような、ノスタルジックな世界にどっぷり浸れるのがエイモア・トールズの描き出す作品世界。デビュー作とは思えない完成度の高さに驚かされる。

    一九六六年十月四日の夜、中年の後半に差しかかっていた「わたし」はニューヨーク近代美術館で開かれた写真展のオープニング・パーティに出席した。黒のタキシードと色とりどりのドレスがシャンパンで酔

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    2020年09月09日
  • モスクワの伯爵

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    ロシア革命によりモスクワの高級ホテルに軟禁されることになったロストフ伯爵。スイートルームから屋根裏部屋へ移され、ホテルから一歩も出ることができなくなる。だが、伯爵はそれまで通りホテルでの生活を紳士として続ける。ホテルの従業員たちと親しくし、貴族としての身のこなし方や知識からレストランで重宝され、泊まり客の女優の危機を救ったことからベッドを共にすることになり…。
    軟禁されているとはいえ、ユーモアとセンスと知識で伯爵らしい生活を続けているのだが、あることから女の子の養育を任される。伯爵の生活に、女の子の父親としての生活が加わる。

    あり得ない設定なのに、伯爵のセンスにどんどんひかれていく。思わずク

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    2020年08月29日
  • モスクワの伯爵

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    ロシア革命の後、ホテルに軟禁されてしまった伯爵の半生。
    時代に流されながらも、「自らの境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる。」をモットーに、紳士的で洗練された日々を過ごす。
    そこには出会いも別れもあり、幻想的なラストを迎える。

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    2020年08月23日
  • モスクワの伯爵

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    久々に読み応えのある小説を読みました、面白かったです。
    設定に合わせて、旅館に閉じこもって読みました。今年の夏休みの思い出。

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    2020年08月10日
  • モスクワの伯爵

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    ネタバレ

    ロシアと言うと、本だとトムロブスミスのチャイルド44、絵画だと奇しくも作品内でもあがっていた雷帝が自分の息子を殺しちゃうやつ、映画だとナイトウオッチャーとかからのイメージがメインだった。知らない(想像もしなかった)ロシアがそこにあった。こんなに愛すべき魅力的な人々で溢れた国なの?(失礼)というのが正直な感想でした。
    面白かった。

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    2020年03月15日
  • モスクワの伯爵

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    不思議な小説。帝政ロシアからソ連へと変わる時代を舞台とする。主人公のロストフ伯爵は裁判で、メトロポール・ホテルを出たら銃殺という刑に処される。ロストフ伯爵が暗い人生を歩むのかと思いきや、ワインホテルの食事を楽しみながら、それほど不自由ではない生活を送る。転機はソフィアという子供を預かったところから。父親はシベリア送りで、母親は夫を追いかけていくという状況なので、本当の家族が一緒になるのは絶望的である。ソフィアと伯爵の奇妙な生活を長らく送り、大団円へと向かう。

    伯爵を客観視すると、軟禁状態ではあるものの、外出できないだけで不自由なく生活しているように見える。でも、事はそんな単純ではない。自由と

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    2019年11月05日
  • ありふれた祈り

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    ネタバレ

    いくつもの死に向き合う中で成長する兄弟。
    とりわけひとつは最愛の姉の死。

    姉の死にまつわるフーダニットの目くらましも悪くない。
    また、そういったミステリ性をおいておいても、周囲の人々との繋がり、母の心身崩壊と再生を通じて過ぎて行く少年時代の特別時間の描き方がとても良いと感じた。

    時間の軸を進め、関係者達のそれぞれの死でこの物語を締めくくっていくところもふさわしいクロージングだった。

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    2019年08月20日