田村義進のレビュー一覧
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大英帝国の植民地への傲慢と欲望、そしてインド土着の神秘と倫理と権威、西洋と東洋のそれぞれの思惑としがらみがぶつかり、権謀術数の最中に放り込まれるサム・ウィンダム警部とバネルジー部長刑事。
怒涛の一巻で、「こんな清廉でピュアで非の打ち所がない奴が裏切らないはずがないだろ」とバネルジー部長刑事を怪しんでいたはずが、まさかの裏切らず、ラストでウィンダムと同棲もとい同居を始めてしまった衝撃から、二巻も買ってしまいました。あまりに面白い。
二巻も英国の権威を振り翳しながらインドの神秘に踏み込むようなウィンダムの捜査にドキドキしながらも、どこか怪異のようなインドの倫理とのぶつかり合いに息もつかせない展開。
このウィンダム警部が、クールで冷静なのですが、一巻よりもずっと矮小な、「普通のイギリス人っぽい」のが魅力的。
バネルジーと同居したり、彼が被支配のインド人だからこそ見せる支配層白人への忖度を自覚していたり、差別にフラットな側面もある。でも同時に、他のインド人のことは薄ら見下している節があり、かつ「白人の女性がインド人のことを本気で愛している」ことを許せなかったり…不思議なのが、自分の中の偏見や差別感情を俯瞰してもいる。
そして酒と女と阿片に滅法弱い(笑)相も変わらず阿片のこととなるとバカになるウィンダム。愛おしさすらあります。
対して隣にいるバネルジーは、女性の前でまともに話せないという欠点はあるものの(笑)オックスフォード卒でクリケットがうまく、かつバラモンというインドカースト制度の頂点の家柄で、金にも困っていない。ウィンダムは白人という一点で、バネルジーを部下とできている。そんな歪な植民地の現状。
そしてその地に生きるインド人たちは、信念があり、活力があり、美しく、逞しい、魅力的な人ばかり。作者はインド系イギリス人三世というのを知ると、インドへの美しすぎる憧憬すらも感じられる。
1920年というインド独立への機運が高まる年。インドと日本をアジアと一括りにするのはどうかと思うけど、イギリスよりは文化的には近いんじゃないだろうか。なんとなく、因習村ホラー(=東洋的神秘)に翻弄される都会人(=西洋化された文化圏の人々)という構図を思わせる。そこに植民地の人種間の複雑な感情、特に「白人の男性」という権威ある存在から、内省と自虐を孕んだ視点。その目線こそが一番ファンタジーではあるけれど、だからこそミステリーとしてだけでなく、人間ドラマとしてもすごく面白い作品だなと感じた。 -
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スティーヴン・キングのイメージといえばホラーやサスペンス作品が数多く映画化されていて純文学ではなくエンタメ寄りの作家と思っている人が多いと思う。
もちろん、登場人物のリアリティや物語のテンポ感だったり、読者を飽きさせないエンタメを意識した目配せは超一流だ。
ただ、本作を読めば、著者が純文学の作品も含めた多くの読書経験から良い小説、良い文章がどうゆうものか、自身の中で批評基準を培ってきて、それを実践しているのかが分かる。
本書の中心である色々なテクニック的なことは小説を書きたい人だけでなく、読書家にとってもなるほどと思えるもので、色々な本を読む時の参考になると思うので、小説批評論という点でも楽しめる。
作中で著者が賛同している“すべての小説はひとりの人間に宛てた手紙である”という言葉が多くの作家のモチベーションの源泉ともいうべき真理だと思った。そして著者がお金とか名声じゃなく妻のタビサに楽しんでもらえるために小説を書いているのが素敵だと思った。 -
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タイトル通り、「書くことについて」の技術、考え方、著者のこだわり、作家としての生き方などが綺麗に言語化されている。作家志望、著者が好きな人、あるいは文章に携わる人は読んでまず損はしない。気に入った箇所をメモしたら結構な量になった。それだけ面白い部分が多かったという話だ。
外国人なので当然だが、外国の話や具体例が多い。そのため知らない作品や人物名が多く表れるが、やはりベストセラー作家というべきか、語りや比喩が上手いので読んでいても苦にならない。楽しめて読めた。技術の提示だけを著した本も多いが、この本はスティーブン・キングのエピソードも絡めて技術を説明しているので読み心地が良い。
作家としての技術を道具箱として喩えたり、小説における三つの要素としてストーリー、描写、台詞を示したりと、なるほどな、と感心できるところが多い。特にプロットを重視していないのが意外だった。ストーリーとプロットは相矛盾する、と言ってプロットはストーリーの幅が狭まることを提言している。ストーリーをとことん重視している。
印象に強く残っているのは、「知っていることを書け」、「読者は職業に強い関心を示す」だ。
言われてみれば確かに。職業を強く意識したことは無かったが関心があるのは、どういう職業の人間がどういう世界でどういう人間と関わるかだった。主人公が刑事、弁護士など、それだけで既に興味を惹く。それに加えて知っていることを余すことなく活かせば、それはもう小説としての素地は十分だろう。
元弁護士が弁護士を主人公にすれば知っている知識、経験を活かしたリアリティのある作品ができる。読者は知らない知識やその職業人ならではの葛藤を知ることができる。未知の体験に浸ることができる。考えてみたら当たり前のことを改めて実感させられた。
良い読者体験だった。結局、こういった仕事術に関する本は、読んで前向きな気持ちになれば、それだけで良い。
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中国系アメリカ人の大学生たちが、かつて英仏軍が北京の円明園から奪った美術品を北京に取り戻すお話。
ルーツの曖昧な人間のアイデンティティや故郷への愛のあり方、故郷をどう定義するか、「アメリカン・ドリーム」への重責と、引き換えに背負うことになった寂しさや悲しみ……ケイパー小説といえど、メインで描かれているのは5人の主人公たちの青春のドラマ。
揃いも揃って優秀すぎないか、というきらいはあるけど、最近アメリカの進学校のアジア系の比率が増えているという話も聞くし、アメリカのアジア系の理想像としてはしっくりくる設定なのかも。
十二支像を奪還する旅路は、彼ら5人の過去、または故郷や未来を取り戻す旅である。
私自身は日本人だが、祖父母の代で首都圏に出てきたせいで「帰省」や「地元」の感覚がない。これまでずっと、自分の地元を誇りに思う人たちを羨ましく思ってきた。
規模は小さいけど、住んでいる街としての「東京」を故郷と思えない話や、その故郷に拒まれている気がする、という感覚を鮮やかに言語化する本書に、時々心が震えた。だからと言って突き放して、孤独ぶって強がるでもなく、アメリカと中国のどちらの土地への愛も抱えたまま生きていく本書の主人公たちの姿が逞しく、しなやかで、温かい。 -
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自分も書いてみたい、そう思わせてくれる1冊でした。私は小説どころか、何か物を書くということを仕事にしているわけではありません。仕事どころか趣味としても書くことにはなじみがありません。
それでも心のどこかに、何かを書いてみたいという欲求はあって、それがどうしてなのかわからずにいました。でもこの本を読んで、少しだけその理由がわかった気がします。
もちろん著者にとっての書くことと、私にとっての書くことの意味は違うと思います。でも誰かに読んでもらうことを意図して書いている場合、そこには読者のために何かを為したいという意図は働いているはずです。たぶんそれが子を持つ親になった今、実感として理解できるようになったからだと思います。そんな時、何に注意する必要があるのか、そんなふうに自分に置き換えて読んむのも楽しく感じました。
スティーブンキングという著者自身がどんな考えを持ってこれまでの作品を書いてきたのか、その物語を知ることができたのも、この本の醍醐味の一つだと思います。この本を通じて著者の人となりを感じることができ、すっかり好きになってしまいました。
きっとこれからスティーブンキング作品は、これまでとは比較にならないほど、私にとって味わい深いものになるのだと思います。 -
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名作家スティーブン・キング氏による『書くことについて』
確かに小説指南書なのだけれど、
『ここにはスナップ写真が並んでいるだけで、しかもそのほとんどはピンぼけときているのだから。』
と冒頭ことわりを入るように、序盤は自分史が続きます。
ただ、そこにスティーブン・キングが小説家になるまでの道のりや、小説の技術論などの細かなこだわりがかなり解像度高く書かれていました。
この本を読んでいく中で難しかった点が2つ。
ひとつは、文法について触れている点。かなりふんだんに具体的な様々な作者の作品から引用された文章を、時に崇めながら、時に辛口に切りながら、添削していくのですが、
例えば、「受動態をやめよう」「副詞を用いすぎるのやめよう」といった指摘が、日本語にも反映されるのはそうなのだけど、かなり英語ベースの文法や単語を用いて進められるので、英語力皆無な自分には少し難しかったです。
2つ目のほうが重要なのですが、引用される文章にスティーブン・キング氏の著作がふんだんに出てきます。
ファンにはたまらないでしょう。
ただ、不幸なことに、スティーブン・キングの作品は『ショーシャンクの空に』くらいしか見れてなくて、絶対にキング作の作品に触れていたほうが面白いんです。
しかも、ホラー映画が苦手で、今後も触れられなさそう。これは、完全に自分が悪い!
本作の中には、
『作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ。私の知るかぎり、そのかわりになるものはないし、近道もない』
など、小説家を志す人間が胸に刻むべき信念や格言が度々登場します。
ただ、個人的には、奥さんに惹かれたときのことを描く一節。
『なぜそんなに惹かれたのかというと、彼女がしようとしていることを私が理解できたからであり、彼女が自分のしていることを理解していたからである。と同時に、彼女がセクシーな黒のドレスを着て、ガーターつきのシルクのストッキングをはいていたからである』
といった文章や、
ヒッピー文化を描写するこんな一文。
『"平和のために殺すのは純潔のためにファックするのと同じだ"とプリントされたTシャツを着ていた』
こうした文章に、スティーブン・キングの鋭い観察眼と、皮肉たっぷりな表現が溢れ出していて、ストーリーだけでなく文体でキング氏の見る景色を描くことを体現しているような作品でした。 -
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TVドラマを観て、原作を読みたくなって読みました。
イギリスのスパイ機関MI5の落ちこぼれ(Slow horses)が集まるスラウハウス(泥沼の家)、その面々がいつの間にか世間を揺るがす大事件に巻き込まれる話。落ちこぼれが活躍する話は日本人は大好きだと思う。ドラマではよく分からなかったキャサリンと死んだ男性の関係、リヴァーの昇進試験の裏事情とかが描かれていて何とも怖い世界だなぁ、と。スパイだから日常的に裏切り、裏切られるの世界なのかなぁ。そんな中でも、ボスのジャクソン・ラムのSlow horsesたちに対する、表面上は投げやりで冷たいけど、奥底での深い愛情に救われる。
このシリーズは長編8巻、短編5作出ていて2025年に9巻目が出る予定らしいが、日本語に翻訳されているのは3巻のみ。面白いからみんなもっと本読んで、訳してもらおう! -
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物書きを目指す人には是非読んで欲しい一冊。キングの生い立ちから、文法や会話文やテンポ、推敲の仕方などの小説作法が丁寧に書かれている。小説の書き方がメインだが、エッセイとかノンフィクションなど書くこと全般に生かせるアドバイスも沢山ある。自分も物書きを目指しているから、これから何度も見返そうと思う。文章自体も堅苦しくなくユーモアがあって読みやすかった。
キングの幼少期から作家として売れるまでの半生は凄く苦労が伝わってきた。トレーラーハウスの洗濯室の机で執筆していたことや教師をしながら小説を書いていたこと。才能に加えてこのストイックさがアーティストには必須なんだなと思った。ここでの沢山の体験や出会いが小説の設定や人物造形(キャリーとか)に生かされていて、苦労も含め、若いうちに色々な世界を見なければな、と感じた。ものを書くためには、沢山読み、沢山書くこと。文法などの勉強や読書などのインプットと荒削りでもいいから実際に書いてみるアウトプットの両方が大事。早速実践したい。 -
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・履歴書
・書くこととは
・生きることについて
の3本立てでキングが自分の人生と創作について語って聞かせてくれる素晴らしい本。
書くことについて、16章にも分けて丁寧に語られたメソッドはシンプルで実践的であるとともに全く手軽ではない。自分が産み出した登場人物たちが自然に織りなすストーリーを見守り、自分が本当に感じたままの言葉で真摯に語るのは決して簡単なことではないけれど、それこそが文章を書く楽しみであり、その積み重ねが物語の価値を生み出す。
楽しんで、真摯に書くこと。
"私が書くのは悦びのためだ。純粋に楽しいからだ。楽しみですることは、永遠に続けることができる"
"ときどき書くのが辛いと思うことはあるが、脚の具合がよくなっていき、気持ちが日々のルーティンに馴染んでくるにつれて、適切な言葉を見つけて文章にする楽しみはどんどん膨らんでいく。それは飛行機が離陸するときの感覚に似ている。滑走、滑走、滑走……そして離陸。それで、魔法の空気のクッションに乗り、世界を眼下に一望できる。この時ほど幸せを感じる事は無い。私は書くために生まれてきたのだ"
後書きにあたる「生きることについて」の中でキングは(この本を書いている)近年に遭遇した大事故のことを語り、そこから自分を立ち直らせたのは奥様の献身と本書を書き上げることだったと言っている。
売れる本を書きたくて手法を探している人ももちろん得ることがあるし、頭の中にある物語を書いてみたい、自分にも小説が書けるのでは?とウズウズしているような人にはとてもお勧め。
大御所スティーブン・キングがあなたの肩を叩いて、やってみなさい、きっといいものが書けるよ、と応援してくれているような本です。