田村義進のレビュー一覧
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「小説を書くためのハウツー本ではない
よく読んでよく書いて、極力無駄を省いて装飾を取り払った言葉を連ねて文章を紡ぐだけ」
そう嘯くスティーヴン・キングの、創作に対する取り組みを読めるだけでも価値がある本と言える。
本人は「自叙伝の類ではない」とことわっているが、前段は幼少期から青春時代と小説を生業にするようになった頃、次から次へと創作を続けながらアルコールとドラッグに浸るようになった壮年期まで、キングらしいシニカルでユーモアのある筆致で描かれていて興味深い。
小説を書く上での各論というか具体的な作法についての解説の後、不慮の事故で大怪我をして復活するまでのは生々しい顛末も記されており、前段の履歴書的な記述と最後の怪我の顛末に小説作法が挟まれたスティーヴン・キングの半生バーガーといった趣きの、味のある本になっている。
しかし、何か大きなことをしでかす人には見えない力が働くのだなぁと思わざるを得ない。そんな感想を持った。 -
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岩田書店のご店主が、『一万円選書』の候補にしておられる一冊。その括りから読んだ3冊目。
現時点では、三冊の内、これが一番好き。とても理知的で、タイトルの通り静謐な文章。私自身は、テレビの点けっぱなしも嫌いだし、タブレットやスマホの通知音も、必要なところから以外鳴らさない。日中は基本ひとりだが、無音はつらくない方だ。静寂の中、ゆったりと過ごす。考えたり書いたりも、静かな方がいい。何か聞いたり観たりも、『ながら』は嫌い。例外的に朝の家事やトレーニングの時は、クラシック専門のネットラジオ『OTTAVA』を聴いている。いずれにしろ騒がしいのは嫌いなようだ。
そういえば、この本は、表紙の白さ、題字のフォントから、もう静かで、とても凛としている。秋や冬に読みたい本だった。静けさイコール寂しさではないし、孤独も悪い面ばかりでない。静寂の中には、詩情と知性が潜んでいる。静寂の中で感じる寂しさは耐えられるが、賑やかで幸福そうな中で感じる寂しさは、苦い痛みを伴う。
ひとりでも生きられるか?という命題は、永遠のテーマのひとつだが、この本を読んで私は「是」と答えたい。ただそれを、冒頭の夕食の場面のように、他者に強制するのは、いささか煩わしいかな。
自分の中の空白を愛するきっかけになる一冊だった。 -
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本作も面白くて夢中で読んだ!
象や虎、マハラジャたちの豪華絢爛な生活。埃っぽい農村や豪雨。全ての描写に異国情緒やその時代特有の空気感を感じることができ、それが楽しみでどんどん読み進めた。
インドが舞台の小説はあまり読んだことがない中で、この作品は単なるミステリーに留まらず、どっぷりインドの世界観に浸ることができるのがうれしい。
最後のオチはなるほどね〜思ったものの、結局カルカッタの駅で私服のドーソンが何をしていたのかがよく分からず気持ち悪い。
たまたま居合わせただけなの?
あとまあ別にいいんだけど、ウィンダム警部は女性にうつつを抜かしすぎな気がする…別にいいんだけど…
シリーズ1冊目も2冊目も、たった数日のうちに目まぐるしく物語が展開している中、よくそんなにしょっちゅうアニーやペンバリーのこと気にかけてられるね?!とちょっとびっくりしてしまう笑
ただそこも含めたウィンダム警部の人間くささ、バネルジーの素直さに好感が持てる。
二人の掛け合いはもう少し多くてもいいんじゃないかと思うので、次の作品に期待! -
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イギリスの旧MI5は現在は内務省の中の保安局と呼ばれる部門。国内の治安を守るための諜報活動を担当する。
リヴァー・カートライトは保安局の若手エージェント。だが、大きな失敗をしたために、ロンドンの辺鄙な土地にある「泥沼の家」と呼ばれるセクションに左遷される。
「泥沼の家」はリヴァーの様になんらかの失敗をしでかし、免職ができなかった者たちが左遷されてくる溜まり場。そこに属する者たちは「スロー・ホース(のろまな馬)」と呼ばれている。
「泥沼の家」をまとめるのはジャクソン・ラムという男。嘗ては敵国にも潜入していてらしいベテラン・エージェントだったが、今は太鼓腹の中年でデリカシーにも欠けている嫌味な男だ。
そのほかのメンバーもアルコール中毒だった秘書の女性、機密の入ったディスクを電車内に置き忘れてしまった男、他人の左遷理由を調査することに喜びを得ているハッカーまがいなど様々だ。
ロンドンで子息の誘拐事件が起きる。パキスタン出身でロンドン在住の青年が突如拉致され、監禁され、その様子が動画としてインターネットで公開されている。
72時間後には首を刎ねるところを配信するという脅しつきで。
英国内の小さな極右グループが犯人と目されるが、、、。
泥沼の家というグループの特徴的な面々の裏側の顔を紹介しながら、誘拐監禁事件の解決に泥沼の家のメンバーが巻き込まれていく流れのストーリーが引き込まれる。一気読みしてしまう。
シリーズ化されている様なので続きが読みたくなる。
アップルTV +でもドラマ化されているらしいので、そちらも見てみたいけど、、、 -
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ご推察の通り、ミステリー小説。
レビューっぽい注意喚起(?)をするとしたら冒頭の惨たらしい事件現場さえ乗り切れば、後は赴任ホヤホヤの主人公、ウィンダム警部とのカルカッタ・ミステリーツアーに乗り出せば良い。もっとも、彼の長々とした推察や独白に付き合うのには忍耐を要したが。
植民地時代のインド…知っているようで知らないことが多すぎる。初耳は初耳でも、これはワクワクできる部類の初耳!
例えばイギリス人がインドにもたらした価値観や文化によって花開いたベンガル・ルネッサンス。それから、ローラット法。危険とみなされた人物は令状や裁判なしで投獄可能とされる悪法。対象者はインド人に限定されているに等しい…
天候不順なヴィクトリア朝のロンドンも良いけれど、こちらも案外怪事件が巻き起こる抜群のロケーションなのかも。ヴィクトリア朝時代から時代が下っても往時の英語を話すインド人がいる一方で、大英帝国の威光に翳りが見え始めているあたりが物語に渋みを与えている。もちろん良い意味で。
「われわれがこの国を支配できるのは、道徳的な優位性のせいなのだ」
「わたしたちは神に仕えるのではなく、富に仕えているのです」
支配される側(インド人)は命までもが秤にかけられる。イギリスに限らず支配する側にありがちだった行為かもしれないが、想像以上に非情なのが端々から読み取れる。
こちらは「立場」の面になるけれど、一見公平そうなウィンダムですら両者に線引きをしていた。(インド人部下のバネルジーをただの「お気に入りのインド人」と見ていたり)
これはあくまで勝手な想像だが…
思えば同じくカルカッタに移住した、人々を分け隔てしないグン牧師を主人公にしても話は成り立ったと思う。そこを不完全なウィンダムにしたのは、インド系移民2世である著者の思い(「イギリスがインドを支配していた時代を理解しなければならないと思った」)を彼に託していこうとした…とでも言うのだろうか。
本作は三部作の第一作目。一冊分をかけて、ウィンダムとバネルジーの溝を埋めたってところか。ウィンダムの第二章もようやく基盤が整った。
2人の次なるコンビネーションプレイを目の当たりにすべく、早いとこ次の現場に急行せねば! -
Posted by ブクログ
イギリス統治下のインドで起きる事件を捜査するインド帝国警察のイギリス人警部ウインダムとインド人部下のバネルジー部長刑事コンビシリーズ第三作。
第一作「カルカッタの殺人」は既読だが、読み始めてこれが第三作だと気付いた。近いうちに第二作も読まねば。
自身のレビューによると第一作は1919年、この第三作は1921年となっているので2年が経過している。
その間の変化の中でも第三作の重要な背景となっているのが独立運動の激化だ。ガンジー派幹部で弁護士のチッタ=ランジャン・ダースと彼の腹心であるスバス・チャンドラ・ボースが先頭に立って様々な集会やデモ行進を繰り返している。
折しもイギリスのエドワード皇太子が親善訪問することが決まり、帝国警察は取り締まりに神経質になっている。ダースと家族ぐるみの親交がある(あった)バネルジーはダースが逮捕拘禁されないよう何とか穏便に集会やデモを収めて欲しいが、ダースもボースもイギリスを煽る気満々だ。
そんな中で起こる連続殺人事件。それも被害者が両目を抉られ、胸を二か所刺されるという猟奇的殺人だ。
ウインダムとバネルジーはこの殺人事件の捜査を担当しながらダースたち運動家たちを抑えるという難しい役目を負うのだが、殺人事件に『H機関』と呼ばれる政治犯担当の軍組織が介入してきてキナ臭いものを感じ始める。
このシリーズは戦争の傷を抱えて阿片中毒にまで陥ってしまったウインダムと、インド人でありながら帝国警察に勤務するバネルジーという複雑な状況の二人が複雑な状況のインドで捜査をするという設定が面白いところなのだが、この作品では改めてこの時代そのもの、この時代のインドの状況を考えさせられた。
インドと一口に言っても様々な民族がいて宗教があってカースト制度もあって、価値観や考え方も様々で難しい。
特にグルカ兵の存在は恥ずかしながら初めて知った。ミャンマーのロヒンギャ難民問題に通じるところもあって、こうした奥の深い問題はどの国も抱えているのだろうと思えた。
猟奇殺人の犯人はウインダムとバネルジーが突き止めるのだが、本当の罪はもっと奥にあってもっと猟奇的なものだった。一体どこに端があってどこにぶつければ良いのか分からない。
全てを戦争のせい…とするのも違う気がする。だが何かに、誰かに責任は感じて欲しいと思うのも理解できる。
ウインダムは『1917年の塹壕戦のさなか』に若きエドワード皇太子を見ている。その時の評価は強烈だ。
『戦争の恐怖を体験する必要のない者と握手をすることが、機関銃の銃弾に当たって死ぬのを待つだけの人生しかない男たちの士気をどうやって高めるというのか』
一方で母国については『われわれはみずからをモラルを尊ぶ民族だと考えている。イギリス人が誇りとするフェアプレイの精神は、道徳的規範の高さを世に知らしめること以外の何ものでもない』と評し、
『われわれは武力でしかインドを支配出来ない。だが戦いかえさない相手に対しては、軍事力はなんの意味も持たない。そのような人々を傷つければ、自らも大きな傷を負うことになる』と考えている。
だがそれは作品を読み終えると強烈な皮肉に聞こえる。現実世界で行われていることを考えれば、結局は武力が支配し強いものが弱いものを叩く構図には抗えない無力感を抱いてしまう。
ウインダムとバネルジーは少なくとも誰かを救ったし格好良かった。
これからウインダムは阿片中毒からの脱却出来るのか、バネルジーの苦しい環境は変えられるのか分からない。だが意外とアニーが良い人だったのが嬉しかったし、バネルジーとの友情も続くと思いたい。
ボースやガンジーのような悲劇的な結末にならないように祈るのみ。 -
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「濡れ衣への復讐のために耐え忍ぶ」という主人公の境遇から、デュマのモンテクリスト伯を彷彿とさせられる本書。作者のウォルター・モズリーは、本作に限らずギャング、ヘロイン中毒者、傷ついた魂、そして不屈の精神など、大都市ニューヨークのサバイバルをテーマとした作品をリリースしています。一連の作品でモチーフとなるのは、不正や腐敗の歴史を認めようとしない警察の暗部で、いずれも説得力のある物語は期待を裏切らない出来でした。今回も主人公のオリバーが自身に仕組まれた陰謀に翻弄されつつ、並行して発生した別の事件も交錯するという風に、いい話が展開されます。ですが、今作で私が一番興味を持ったのはストーリーそのものではありません。それはオリバーの世界観と作者の描写の仕方にあります。例えば、主人公のジョー・オリバーが新しい人に会うときには、肌の色だけでなく、その人が何を着ているのか?など、かなり細かい説明をするんですよね。このようにして、大都市ニューヨークの暗部を露にするような世界観の描写のディテールも本作の大きな魅力です。
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ネタバレかつて自らの女ぐせの悪さが災いし、身の破滅を招き、警察官の職を追われることになったオリヴァー。
娘の支えもあって今は探偵業を営み生活しているが、当時の顛末には陰謀めいたものを感じており、10年以上経った今もいささか納得がいっていない。
そこへ舞い込んだ当時の事件関係者からの告白の手紙と、冤罪と思われる男の疑いを晴らしてほしいという依頼。
汚職警官の影がちらつく2つの事件の関係者、情報を握るであろう人物達を目まぐるしく巡礼する様に、「こいつはいったい誰だっけ?」となるけど、それぞれの人物との対決、次の一歩へ続いていく展開が特徴的で面白い。
黒幕を担う人物は予想どおりといえば予想どおりだが、深すぎる闇に対する現実的な落とし前のつけ方としてひとひねりありで、感慨深さあり。 -
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主人公のオリヴァーはニューヨーク市警の刑事として鳴らしていたが、ハニートラップに簡単に引っかかりレイプ犯扱いされ、妻に見捨てられ警察をクビになり、いまは私立探偵をしている。娘だけを生きがいとして生きてきたが、そこにハニートラップを仕掛けた女性から手紙が届く…直後別のもう一人の女性から黒人ジャーナリストの無実を証明して欲しいと依頼がある。オリヴァーは2つの事件に繋がりはないが共通点を見つけ、自分の無実を晴らすためにも同時に調査を進めることにする。
出てくる登場人物が個性的で良いのだが、多過ぎて誰だ誰やら分からなくなりかけ混乱する。その中でも群を抜いて魅力的なのは元凶悪犯で主人公の相棒になるメル。メルの存在こそがオリヴァーを良人とし、いろんな意味で救っている気がする。