篠綾子のレビュー一覧
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和歌が事件に絡む〈万葉集歌解き譚〉シリーズ第三作。
これまでの二作は薬種問屋〈伊勢屋〉の小僧・助松の父・大五郎を巡っての話だったが、今回は大五郎から離れ、舞台も江戸を離れて伊香保温泉。
旅のメンバーは〈伊勢屋〉のお嬢様・しづ子と母・八重、女中のおせい、手代の庄助に小僧の助松、そしてボディーガードとして陰陽師・葛木多陽人の六人。
途中まではシリーズらしく和歌を吟じたり助松に和歌を教えたりしながら楽しく旅をしていたのだが、烏川を渡る時に庄助が人形祓いの舟形を見つけたことから雲行きが怪しくなってくる。
せっかく伊香保に着いたのに、多陽人は途中のある村が気になるので一人戻って様子を見てくるという。しかし約束した五日経っても多陽人は戻って来ない。そこで庄助と助松は多陽人を探しに烏川の上流を探すと、不思議な村にたどり着き…。
今回は和歌を暗号に使うということはなかったが、不思議な村で和歌が使われたり、多陽人が自分の居場所を知らせるために和歌を使ったり、自分の気持ちを伝えるのに和歌で伝えたりと沢山出てくる。
特に様々な恋の形を伝える和歌が出てくる。秘密の恋に悲劇的な恋、遠距離恋愛にもどかしい恋、ままならない恋に相手の思うままになる恋。
しづ子の多陽人への恋はますます募っているが、多陽人は相変わらず何を考えているのか分からない。陰陽師の技で病葉を美しい紅葉に変えてしづ子へプレゼントしたかと思えば不思議な村で美女に捕らわれている。
十三歳の助松にはまだ恋は早いかと思ったら不思議な村でふきという少女に猛烈アタックされている。一気に大人の階段を上るのか?
不思議な村の秘密と村からの脱出が終盤の山場になるが、ここでも田沼意次が出てくる。まだ老中にはなっていないが、江戸から離れた伊香保の地にも力は及ぶようで頼もしい。そして多陽人の武術や陰陽師の技がまた活躍する。
ハラハラした不思議な村の女性たちとの関係だが、終わって見れば寂しくもある。しかし今後〈伊勢屋〉との関わりが出来れば再会もあるかも知れない。
最後に加賀藩と聞いた多陽人の態度が気になる。加賀藩と関わりがあったのだろうか。 -
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※小町と業平が出て来る2020.8-9月の新刊文庫: 2/3
矜持を持ったベテラン女官の小町、藤原北家当主として時の権力者として尊大な良房、まだ若く青臭く強気な業平。小町との強気なやり取りの応酬は、なかなか読みごたえがありました。
「承和の変」を挟む事で、仁明天皇が宗貞、小町、業平に与えた密命とその行方が分かりやすく描かれているなと感じました。
(小町の目を通して時代を切り取ったとでも言えばいいのかな)
個人的には業平や小町の心情が吐露されていて、歌人ではない部分が見える所が良かった。
あと、仁明天皇が出来なかった小町への返歌を業平の知恵を借りた惟喬親王がした所にクスっとしてしまった。
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「からころも」など万葉集にちなんだサスペンスものを書かれた作家さん。今回は『伊勢物語』の在原業平が主人公で、やはり歌が物語の中心となっている。
副題は『歌解き譚』だが、こちらもミステリーと言うよりはサスペンスタッチだ。
ここで描かれている在原業平はイメージ通り。女性にモテモテで常にいろんな女性の元に通っている。何と、十に満たない少女からも猛烈に言い寄られている。
当然歌も上手くて、東宮・道康親王(後の文徳天皇)の子・惟喬親王の歌の指南もしている。
だが軟弱な印象とは裏腹に武道や乗馬も出来る硬派な面もある。唯一の弱点は当時男子なら習得出来て当たり前な漢文が苦手なこと。
そんな業平が、惟喬親王に異母弟・惟仁親王が生まれたことから皇位継承を巡っての暗闘に巻き込まれていく。
個人的には主人公の業平よりも惟仁親王のキャラクターが好きだった。
まだ七歳の少年なのに親子ほど年の離れた小野小町に恋心を抱き、業平に歌と恋の指南をせがむ。小野小町にけんもほろろな歌を返されても決してめげない。一方で少年らしく、座学よりも馬で駆け回るのが好きで業平も付き合わされる。
ちょっとやんちゃで素直なお坊ちゃまなのだと思っていたが、中盤になると彼の本当の人柄が現れる。
歌の飲み込みも早いし、勘も鋭い。
父である東宮や祖父である仁明天皇、身分は低いが東宮に寵愛されている母親・静子を思う気持ちは深い。そして何より自分の立ち位置というものをよく分かっている。
いくら東宮である父が母・静子を寵愛し賢い惟喬親王に皇位を譲りたいと考えていても、現在権勢を誇る藤原良房は娘・明子(あきらけいこ)が生んだ惟仁親王を天皇にするべくあらゆる手立てを企てるであろうこと。
父がこれに反対し対抗すれば、良房は直接的な、危険な方法に打って出るかも知れないこと。
たった七歳の少年がここまで考え、父母を思いやる気持ちがとても健気で切なかった。
そんな不安はやがて現実のものとなる。静子が嫌がらせを受け惟喬親王は暴漢に襲われる。業平は暴漢を排除し助けるが、今後もこうした嫌がらせや危険は続くものと思われる。
そんな時に惟喬親王の新参女房・香澄から、怪しげな和歌の謎解きを託される。藤原家の秘密が隠されたという三首の和歌はそのまま読めば全く意味をなさない。一体どんな謎が隠されているのか。
業平が様々な女性を口説きながら情報を集め、友人の陰陽師・葛木行貞が陰陽道で潜入捜査をする。いざ荒事となれば武道が得意な業平が務める。なかなか良いコンビだ。
彼らと良房側との駆け引きはなかなか見応えがあった。それにしても陰陽寮のリーダーすら簡単に制圧してしまう行貞は凄腕陰陽師だ。なのに血筋のせいか身分は低い。彼が出世に全く興味がないためでもあるのだが、そこが清々しい。
女難の相が出ていると行貞に注意されても女性の元へ行く業平もまた清々しい。
後の歴史を知っている者からすれば業平や惟喬親王にとっても苦々しい結末になることは分かっている。しかしこんな汚らしい政争に巻き込まれ、最悪命を落としてしまうくらいなら、政治から距離を置いて自由に生きてほしいとも思う。
もちろん実際の人となりは分からないが、こんなに素直で優しく聡明な惟喬親王をこれからも業平と行貞で守って欲しいとも思う。
余談だが先に揚げた<万葉集歌解き譚>シリーズに出てくる陰陽師も葛木性。ということは、この作品に登場する陰陽師・葛木行貞の子孫になるのだろうか。両方とも『隠形の術』が出てくるのも意味深。 -
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平安時代の代表的美女として知られる、小野小町を主人公にして描かれた宮中物語。
仁明天皇の更衣として宮中務めをしている小町。その美貌ゆえに同僚女官から妬まれたりしながらも、淡々と“宮中ライフ”をおくっている様子。
そんな中、皇位継承をめぐる複雑な権力争いから、“承和の変”という、皇太子が廃されてしまう政変が起こり、小町も“東宮を守ってほしい”という、帝の意向から政治的な事柄に関わることになっていきます。
この政争の原因といえる、皇位継承の系統や血縁関係がかなりややこしくて、つい斜め読みしそうになりますが、ここは大事なので頑張って読みました(笑)。
勿論、このようなきな臭い事だけでなく、小町をめぐる恋愛模様もあり、華やかな部分も描かれています。
権力者の藤原良房、イケメンの在原業平、誠実な良岑宗貞・・・。
因みに私だったら、ダントツで良岑宗貞様ですね。深草の“百日通い”のシーンは切なさでグッときました。 -
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可愛らしい表紙と『万葉集謎解き譚』という副題からして日常系のノンビリした話かと思いきや、意外にもサスペンスタッチな話だった。
主人公は薬種問屋<伊勢屋>の小僧・助松、十歳。
彼は一年半前に富山へ仕事で出かけたきり行方不明となってしまった父・大五郎を探すため、父の日記について調べている。
大五郎が富山へ出かける前、誰にも見せてはいけないと言い残し助松に託したその日記には、万葉集の和歌が六首書かれていた。和歌について全く知らない助松は<伊勢屋>の娘・しづ子と<伊勢屋>の客で陰陽師の葛木多陽人(たびと)にそれとなく和歌の意味を聞くのだが、父の行方や失踪の理由にはなかなか辿り着かない。
そんなある日、たまたま出会った大友主税という武士とともにしづ子が行方不明になってしまう…。
助松が健気で可愛らしい。最低限の読み書き算盤は出来るものの、和歌の世界などまるで分からない彼が父親を探すために懸命に勉強しようとしている。しかも父親に誰にも見せるなと言われているため、色々取り繕いながら教えてもらっているのだが、葛木にはバレバレ。
嫌味で高飛車なところもある葛木だが、助松の深い事情を無理に突っ込むことなく和歌を教えてくれるところは好感が持てる。
ところがしづ子が拐かされてから、話がきな臭くなってくる。しづ子視点の話を読むと、単なる拐かしではなく大五郎の行方不明と繋がっていること、しづ子もまた真実を知りたいと願っていることが分かる。同時に助松が置かれている状況にも不穏なものを感じる。
しづ子もまたちょっと勝ち気なお嬢様なのだが、基本的には優しさと誠実さを持っていて、助松のこともとても気にかけている。同時についツンケンしてしまう葛木のことも。
副題通り和歌が謎解きの手掛かりになっているのが楽しい。しかし4500首もある和歌の中から手掛かりとなる和歌を提示する大五郎に感心する。生半可な知識では出来ないことだけに大五郎についてますますさらなる疑問や興味が湧く。
大五郎が行方不明になった理由、大友主税の役割など、なかなか面白かった。同時に助松が父親に再会出来るのか、その後はどうなるのかも気になりながら読んだ。
4500首もあるという万葉集の和歌を記憶したり書類をあっという間に覚えたり、陰陽師として様々な術を知っていたりという、葛木の頭脳の部分ばかりが描かれてあった中盤から一転、終盤の山場では武闘派の一面も見られる。なんだかスーパーマンのよう。
全てが片付いた後、どうなるのかと心配していた助松の生活だが一応落ち着きを取り戻している。
一応というのは、まだ父・大五郎には秘密がありそうなのだ。しづ子も一抹の不安を抱えている。そして<伊勢屋>の商売も今後どうなるのだろうという心配もある。
調べたら続編があるようなので、そちらも読んでみることにしよう。 -
Posted by ブクログ
タイトルの弟切草、漢字で書くと何とも意味深で怖い。
その由来はというと、鷹の傷に効くというこの植物のことを秘密にしていた鷹匠だがその弟が他人に明かしてしまったために鷹匠に切られて殺されたという。葉に散った無数の黒い点はその時の弟の血飛沫だとか。
…という禍々しい由来の植物をタイトルにしてあるが、作品の雰囲気はそこまで暗くない。
主人公は小烏神社という古い(というかボロい)神社のただ一人の宮司・賀茂竜晴。
一言主命と縁が深く言霊を操る力に長けている竜晴には二柱の付喪神が側に付いている。それが普段は白蛇の姿の抜丸と烏の姿の小烏丸だ。
二柱とも由緒ある刀の付喪神だが、小烏丸の本体である刀、その名も同じ小烏丸は行方不明。本体が傍にないからか、付喪神の小烏丸は時折自分でも制御出来ない動きをする。
この二柱の付喪神が愛らしく、人間的にはどこか危なっかしい竜晴を生活面でも精神面でも支える頼もしさもある。
そして竜晴の唯一の友人・医者の泰山も良い。貧しい者からは見料を取らないとかで常にお腹を空かしているくらいのお人好しだが、竜晴のことも常に気にしている。
事件は竜晴が寛永寺の大僧正・天海に頼まれ、敷地内で見つかった埋められた生首の主とそれが江戸城へ向けられた呪詛かどうかを調べることから始まる。
同じ頃、泰山は小烏神社近くで苦しむ男を見つけ神社へ運ぶのだが…。
読み進めるに連れてタイトルの意味が切なく響いてくる。
相手を想うが故に相手を苦しめ、誰かを強く想うが故に他の誰かを知らず知らずのうちに蔑ろにしてしまう。
そしてその念はこんなにも強く続くのかと驚かされる。
竜晴の力は一時的に物事を鎮めることは出来ても真の解決は当事者たちの心の有り様を変えるしかない。
そうしたスーパー陰陽師ではないことが描かれ、最終的には人と人のドラマにしてあるところは良かった。
小烏丸の本体の行方が分かっていない辺り、続編がありそうだ。
キャラクターや展開にはぎこちないところもあるが、続編があれば読んでいきたい。