タイトルの弟切草、漢字で書くと何とも意味深で怖い。
その由来はというと、鷹の傷に効くというこの植物のことを秘密にしていた鷹匠だがその弟が他人に明かしてしまったために鷹匠に切られて殺されたという。葉に散った無数の黒い点はその時の弟の血飛沫だとか。
…という禍々しい由来の植物をタイトルにしてあるが、作品の雰囲気はそこまで暗くない。
主人公は小烏神社という古い(というかボロい)神社のただ一人の宮司・賀茂竜晴。
一言主命と縁が深く言霊を操る力に長けている竜晴には二柱の付喪神が側に付いている。それが普段は白蛇の姿の抜丸と烏の姿の小烏丸だ。
二柱とも由緒ある刀の付喪神だが、小烏丸の本体である刀、その名も同じ小烏丸は行方不明。本体が傍にないからか、付喪神の小烏丸は時折自分でも制御出来ない動きをする。
この二柱の付喪神が愛らしく、人間的にはどこか危なっかしい竜晴を生活面でも精神面でも支える頼もしさもある。
そして竜晴の唯一の友人・医者の泰山も良い。貧しい者からは見料を取らないとかで常にお腹を空かしているくらいのお人好しだが、竜晴のことも常に気にしている。
事件は竜晴が寛永寺の大僧正・天海に頼まれ、敷地内で見つかった埋められた生首の主とそれが江戸城へ向けられた呪詛かどうかを調べることから始まる。
同じ頃、泰山は小烏神社近くで苦しむ男を見つけ神社へ運ぶのだが…。
読み進めるに連れてタイトルの意味が切なく響いてくる。
相手を想うが故に相手を苦しめ、誰かを強く想うが故に他の誰かを知らず知らずのうちに蔑ろにしてしまう。
そしてその念はこんなにも強く続くのかと驚かされる。
竜晴の力は一時的に物事を鎮めることは出来ても真の解決は当事者たちの心の有り様を変えるしかない。
そうしたスーパー陰陽師ではないことが描かれ、最終的には人と人のドラマにしてあるところは良かった。
小烏丸の本体の行方が分かっていない辺り、続編がありそうだ。
キャラクターや展開にはぎこちないところもあるが、続編があれば読んでいきたい。