子どもの脳の発達が止まる
私は、宮城県仙台市の公立小・中学校に通う7万人の子どもたちを10年間にわたって追跡調査し、スマホやタブレットを連日のように使用している子どもたちの脳に何が起こっているのか調べました。
じつは、調べる前からとてもいやな予感がしていたのですが、残念ながら悪い予感がみごとに的中し、衝撃的な結果を目の当たりにしたのです。
スマホの利用頻度が高い子どもたちは、学力や認知機能に大きくかかわる大脳の 3分の1の領域と、大脳白質(神経線維)の多くの領域で「発達が止まっている」ということがわかりました。
SNSやLINEなどのインスタントメッセンジャーを使った実験では、「LI NEで学力が下がる」というデータも出ています。さらに、「デジタルを使いすぎるとコミュニケーション力が落ちる」「スマホ依存傾向がある子は、他者との共感性が低く、攻撃性が高い」といったこともわかっています。
気になるデータはまだまだあります。近年、「授業中にウロウロする」「教師に暴言を吐く」「授業の妨害をする」といった行動があらわれる、発達障害とみられる児童が日本のみならず世界的に増加傾向にあるのです。
日本では、2006年から2019年のあいだで、ASD(自閉症スペクトラム障害)は6・5倍、ADHD(注意欠陥・多動性障害)は14倍、LD(学習障害)は 1.5倍に増えたといわれています。この原因について、神経小児科の医師たちは、 「社会環境のせいか?」「食べ物の問題か?」といって、結論を出せずにいました。 しかし、私が監修をした『子どものデジタル脳完全回復プログラム」(飛鳥新社)の著者でアメリカの精神科医ヴィクトリア・L・ダンクリー博士は、発達障害の子どもたちの増加は「スマホやデジタルスクリーンのせいだ」と、はっきり結論づけました。また、そのデジタル漬けの脳を回復させるプログラムを開発し、あきらかな成果をあげています。これは、スマホ中毒から抜け出せる道があるという、大きな福音といえます。
LINEやYouTubeの巧みな戦略
スマホなどのデジタル機器は、生活を補助する道具として長時間使いすぎないようコントロールして利用するならば、大きな問題は起こらないでしょう。しかし、 なにごとも過ぎたるは及ばざるがごとしで、やりすぎによってさまざまな弊害が起こるのです。
「じゃあ、ほどほどでやめればいいのね」と思うかもしれませんが、スマホやタブレットのやっかいなところは、ほどほどにできないようにつくられていることです。 たとえば、ちょっとスマホで調べものをしようと思ったとき、目的の検索が終わったらすぐにスマホの電源をオフにできますか?
検索している途中で、気になる動画や別の記事を見つける。そこにLINEのメッセージが飛び込んでくる。そうなると、新しい通知にどんどん気持ちが引き込まれていきませんか?
そしてあげくの果てには、最初に何を検索していたのかも忘れているでしょう。
みなさんは、動画すら、真剣に1本ずっと見続けることができなくなっていることにお気づきでしょうか。YouTubeのような動画共有ブラットフォームは、 ひとつの動画を見ているあいだもワザと気が散るようにできています。
なぜなら、コロコロいろいろなところに飛んでもらったほうが、新しい広告がバンバン上がって、チャリンチャリンとお金が入るしくみになっているからです。要するに、ひとつの動画を長時間視聴されてもお金にならないので、気が散って依存しやすいように、みごとにつくられているというわけです。
スマホを見ている人は、その都度、自分の意思で情報を選択していると思っているかもしれません。しかし、じつは「中の人」に操られている状態なのです。
諸悪の根源は「スイッチング」
自分の意思とは関係なく、見ている画面がコロコロ変わり、何かひとつに集中しようとしても、情報の割り込みが入り、注意が別のものにいってしまう。このような行為をくり返し、ひとつのことに集中する時間が極端に短くなる状態を、心理学の世界では「スイッチング」と呼んでいます。
スイッチングをくり返し行っていると、注意力が散漫になり、集中力がどんどん短くなることがあきらかになっています。
このことは、じつはスマホが登場するずっと前から指摘されていました。
大きなきっかけは、1995年にWindows5という、容易にインターネットに接続できる機能を備えたパソコンOSが登場し、メールの着信などがリアルタイムで通知されるようになったことです。ほどなくして、パソコンで調べものやレボート作成をするアメリカの大学生のあいだで、本来やるべき作業を中断し、別のことを始めてしまうという現象が起こり始めました。
その後、2000年代にFacebook、TwitterなどのSNSが登場すると、情報の割り込みはさらに加速し、学生たちの集中力低下が問題視されるようになりました。
そこから、アメリカの大学生たちに対する観察研究が始まり、パソコンで宿題をしながらFacebookを使っている学生たちは、学業成績が下がり、睡眠障害やうつの症状が出やすいということも報告されています。
つまり、スイッチングによる悪影響はもう20年以上前から言われていることなのです。明確な悪影響が指摘されているにもかかわらず、デジタル機器は排除されず、 よりコンパクトなスマホやタブレット端末に進化して、私たちの生活に浸透し、生活必需品として君臨してしまいました。
その結果、人の行動がどう変わったかといえば、スマホなどを持っているだけで、 いろいろな能力がダダ下がりするようになりました。
じつは画面を見なくても、スマホを持っているだけで気が散り「成績が下がる」「集中できない」「読解力が落ちる」という心理学的なデータが明確にあります。
女性の場合はあまりないかもしれませんが、男性はよくスマホをズボンのポケットに入れておくことがあります。そうすると、着信が入っていないにもかかわらずブルブルっと震えたような感覚が起こる人がいます。これは、幻想振動症候群(ファントム・バイブレーション症候群)と呼ばれていますが、そんな錯覚が起こるほど、 スマホの通知に脳が過敏になっているのです。
乳幼児が画面をスワイプする恐怖
私が、もっとも心配しているのは、子どもたちの脳です。大人に比べて子どもの脳はまだ脆弱であるため、デジタル機器の使用による悪影響を受けやすいであろうと思っています。
先ほどから述べているとおり、スマホを使用すると、脳の知的中枢である前頭前野の活動が抑制されます。前頭前野が働かなければ、思考やコミュニケーションといった人間らしい能力は身につきません。前頭前野は、感覚、視野、 前頭前野は、感覚、視野、運動にかかわる他の脳の部位よりゆっくり発達することがわかっています。そのため、生まれてから青年期までの経験や生活習慣によって発達に影響が出やすくなります。
その脳の成長にいちばん大事な時期に、子どもにスマホをポイッと与えてしまう。 その危険性について、この章では改めてお話ししたいと思います。
多くの人は、「有害なコンテンツを見せなければ大丈夫なのでは?」「ジブリやディズニーのアニメなら子どもが見ても安心」などと安易に考えているかもしれません。 しかし、事態はみなさんの想像以上に深刻です。
赤ちゃんを泣きやませるとか、幼児をおとなしくさせるためにスマホやタブレットを渡してしまう親がいますが、あれは絶対にやめるべきです。
理由ははっきりわかっていませんが、小さな子どもは、すぐにスマホに夢中になります。恐ろしいことに0歳児でも、iPhoneやiPadに興味を持ち、画面をスワイプして遊びだしたりするのです。
こうした、生まれたときからデジタル機器が生活のなかにある世代の子どもたちには、あきらかな異変が起こり始めています。
というのも、近年小・中学校の児童生徒のなかに、自分の感情をうまく表現できず、他人の感情もうまく理解できないという子どもたちが急増しているのです。
恐るべき学力押し下げ効果
スマホが子どもたちの脳にどれほどの悪影響を与えるのか。私たちは、仙台市と行っている「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクトにおいて、2013年からスマホと学力の関係について調査を開始しました。
その結果、次のような衝撃的な事実をつかみました。
・スマホを1時間以上使うと勉強しても学力が下がる
・使うアプリの数が多い子どもほど学力が低い
・LINEなどのインスタントメッセンジャーが成績を押し下げる
・スマホをやめるだけで学力が上がる
勉強しても学んだ情報が消える
前のページのグラフをよくご覧ください。まず、スマホ使用が1時間未満の子どもたちは、睡眠時間が7~8時間で家庭学習時間が3時間以上というグループの偏差値が高いことがわかります。
ところが、スマホ利用が1時間以上の子どもたちは、7~8時間寝て、3時間以上勉強しても、偏差値が50(平均値)付近にとどまり、成績が伸びないことが判明したのです。そして、グラフをよく比較してみると、家で2時間以上勉強していて、 スマホを3時間以上使う子より、家でほとんど勉強しないけれど、スマホを使わない子のほうが「成績がよい」という驚くべき事実が読み取れます。
つまり2時間以上勉強しても、スマホのせいで努力が水の泡になっているというわけです 。
この結果から、スマホで長時間遊んでいるせいで、家庭学習や睡眠がおろそかになり成績が下がるという解釈は成り立たないことがわかりました。
家で勉強してもしなくても、スマホを 1時間以上使うと学力が下がるというのが真実で、スマホが学力低下の直接原因になっている可能性が高いのです。
この結果から、スマホの長時間利用で、 学校や家庭学習で脳に入ったはずの学習の記憶が消えてしまう可能性や、脳の学習機能になんらかの異常をきたして学習がうまく成立していない可能性が考えられます。
また、私たちは、子どもたちのLIN Eなどのインスタントメッセンジャーの使用にも着目した分析を行っています。
スマホに依存してしまうメカニズムは、第2章でも触れたとおり、脳の神経伝達物質であるドーパミンが関与しています。
たとえば、スマホでプレイするオンラインゲームのガチャとよばれる電子くじは、 「当たるかな?」と期待するだけでドーパミンの分泌量が増え、快楽が大きくなります。つまり、くじを引く前にワクワクするので、当たってもはずれてもやめられなくなります。
また、スマホでゲームはしないという人も、特定のアプリを毎日開いてしまう人はかなりいるのではないでしょうか。開発者たちは、毎日ログインするだけでポイントがもらえるといった仕掛けで、誰もが知らず知らずのうちにハマるしくみを用意しています。
さて、スマホなどのデジタル機器にのめり込むことで、心や体の健康に大きなリスクを抱えることがわかったと思います。このまま、人類がスマホを長時間使うといった生活を改めないとすれば、この先の未来はどうなるでしょうか。
これまでくり返しお話ししてきたとおり、スマホなどのデジタル機器を使用しているときは、思考の中枢である前頭前野が活動してくれません。そうすると、子どもは脳の発達が止まり、大人も前頭前野の機能が低下し、ものを考えたり、理解したり、覚えたりといった能力を維持することが難しくなります。その結果、私は将来、認知症になる人が増えると予想しています。
ドイツの精神医学者マンフレド・シュピッツァー博士は、デジタル機器の使用によって引き起こされる認知機能の障害を「デジタル認知症」と呼んでいます。
日本でも、近年、「人の名前が出てこない」といった認知症に似た症状で、もの忘れ外来を受診する若者が増えているといわれます。若年患者の多くが、スマホでSNSやゲームアプリなどを長時間利用していることから、「スマホ認知症」と呼ばれていますが、医学的な定義があるわけではなく、そういう病名は存在しません。 しかし、「スマホ認知症」と言われれば、ピンとくるという人も多いでしょう。
実際には「デジタル認知症」や「スマホ認知症」とアルツハイマー病による脳の変性がもたらす認知症は、医学的に同じものではありません。
しかし、カナダの研究者らの試算によると、日常的にインターネットを使用している1980年以降に生まれた世代の大多数が65歳以上になる2060年には、認知症リスクが今より4~6倍に上昇する可能性があるとしています。 これは私としても想定内のことです。
子どもの頃から、スマホを使用し、脳が未発達のまま大人になった場合は、将来、 加齢にともなう脳の萎縮が進みやすい可能性が考えられます。
また、大人になってスマホを使うようになった人も、依存傾向が高ければ、脳の萎縮に対する耐性が弱く、認知症の発症や進行を早めてしまう可能性があると思います。
じつは、私たちもいくつかの企業とスマートフォン向けの脳トレアプリをつくるといった共同開発を行ってきましたが、そこで衝撃的な発見がありました。
大人の多くがひとつのアプリに集中できる時間がわずか30秒程度だということが判明したのです。つまり、スマホのスイッチングで、何かに集中する力が鍛えられることはありませんし、短時間で気が散る一方ということになります。そのくせ、 脳を使っていないので長時間画面を見続けていられます。
もちろん、目は疲れますが。
そのために私たちは、2005年に「脳トレ」というゲームを開発して、世に送り出したわけです。スマホのゲームはダメで、脳トレゲームは推奨するのかと、違和感を持つ人もいるかもしれませんね。
私たちが開発した脳トレゲームは、高齢者の認知機能を維持、向上させる学習療法がベースになっています。学習療法は、高齢者と支援者がコミュニケーションをとりながら音読や計算をするといった取り組みです。これを行うことで、アルツハイマー病の方の認知機能が戻るといった成果も出ています。
同様にゲーム機を使った脳トレも、その効果は検証済みです。脳トレゲームをプレイ中の脳活動を計測し、前頭前野が確実に働く仕掛けを盛り込んだ結果、高齢者だけでなく、若者の認知機能も向上させることが証明されています。
しかし残念ながら、オンラインゲームのように脳トレにのめり込んでくれる人はほとんどいなかったようです。脳トレもどうしたらあそこまで人をのめり込ませることができるのか、私のほうが学びたいくらいです。
そこで、私は、みなさんがあまり無理をせず、脱スマホを実現するために次の3つのステップを提案したいと思います。
ステップ1:スマホ漬けの生活に気づく
ステップ2:脱スマホルールをつくる
ステップ3:積極的に脳を使う活動を増やす
悪しき習慣は排除する
小さなルールから始めて、できるかぎりスマホ習慣を減らしていけば、自然と規則正しい健康的な生活を取り戻すことができると思います。
ただし、家族のルール以前に、次のような習慣はすぐにやめてください。
・スマホを子守りに使う
・歩行中や運転中にスマホを見る
・家族との食事中にスマホを見る
・勉強中にスマホを使う
・寝室やベッドの中にスマホを持ち込む
私は、脳の発達には「早寝、早起き、朝ごはん」という生活習慣がとても大事だということを昔からずっと言い続けています。食事については3食きちんと食べるというのが原則ですが、とくに朝ごはんはしっかり食べることが大切です。
朝ごはんを抜くと、細胞レベルで1日じゅう代謝が低くなり、勉強や仕事のバフォーマンス、体力にも悪影響が出ます。
とくに、小学校4、5年生の子どもは、前頭前野が急激に成長する時期です。子どもたちが脳の神経線維を増やし、新しいシナプス(神経細胞)をつくるには、細胞の材料となる栄養素(ビタミン、ミネラル、脂質、アミノ酸など)と脳のエネルギーとなるパンやお米に含まれるブドウ糖を、朝しっかりとることが重要です。
私たちが農林水産省と共同で行った調査では、朝食習慣があるかないかで、進学、 就職、年収、そして幸福度にまで差が出ることがわかっています。
子どもの頃から毎日朝ごはんを食べていた人たちは、約半数が第1志望の大学に合格し、約60%以上の人たちが第1志望の会社に就職していることがわかりました。 一方、毎日朝ごはんを食べていなかった人たちは、約3割が大学も就職も第3志望以下のところにしか入れなかったということもわかりました。
Q スマホには時計、目覚まし、スケジュール管理、電卓など、実用的な機能もあります。それらの使用も制限したほうがいいですか?
これは使っていただいてけっこうです。道具としてスマホを使っているかぎりにおいては、なんら害はないと考えています。
必要に応じて使う機能を選択し、用が済んだらスマホをしまうというやり方であれば、長時間画面を見続けるといった悪い習慣にはつながらないでしょう。
ただし、実用的な機能と併用して、メッセージアプリやゲーム、SNSなどを使いだしてしまったら要注意です。こちらは、用が済んだらスマホをしまうということがなかなかできず、通知が気になったり、目的もなく見続けてしまったりしやすくなっています。
こうしたアプリに惹きつけられて、スマホを使うために自分の時間を調整しだしたときには、危うくなっているなと思ってください。
Q ゲームをしていて、勝つまで、あるいはクリアするまでやめられなくなるのはどうしてですか?
これは、いわゆるアルコールや薬物などの依存症のメカニズムと同じです。
ゲームをしていて、勝ったりクリアしたりすることは脳の報酬になります。これが快感になってやめられなくなるのです。
本書の第2章、第4章でもお伝えしていますが、ゲームに勝ったり、クリアしたりするときに、脳のなかでドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されることがわかっています。これが快感につながる脳内ホルモンなのです。
心地よいという感情は、人に習慣性や依存性を生じさせます。これは、残念ながら脳のしくみとしてわかっていることですので、ゲームがやめられなくなるというのは、まさに依存症が始まりだしているということを意味しています。
長時間ゲームにハマってしまうと、脳にいろいろな悪影響が出ますので、早めに依存から抜け出す対策を取ったほうがよいでしょう。