昨年の誕生日で定年退職しましたが、平成元年に社会人になった時からお世話になっていた野口氏の最近発行された新書で、これで25冊目となります。私よりも20歳以上も先輩なのに、最新機器を使いこなすだけでなく、生成AIに関する本も出されていて、大いに参考にさせていただきました。
その中で取り上げられていた、ChatGPT と音声入力は、今年後半に私が利用し始めたもので、私の生活を変えるほどの威力を持っています。そんな野口氏が書かれた本のタイトルを見て惹きつけられてしまいました、この本を読むことで「第二期トランプ政権下でアメリカが変わろうとしている」ことが理解できました。
様々な著者が「アメリカの覇...続きを読む 権は終わる可能性がある」と指摘している中で、個人的には「そんなことはないだろう」とずっと思ってきましたが、この本を読むことで、もしかしたらあり得るのではないかと、最近上昇し続けているゴールド価格を見ながら思いました。
以下は気になったポイントです。
・ 金融市場では将来起こることを予想して現在の取引が行われ、 その結果 将来の事態が現在の価格に織り込まれる。トランプ 政権による高率 関税の賦課は世界経済に深刻な打撃を与え、 GDP を縮小させマネーに対する取引需要を減少させると予想された。このため マネーストックが一定であるとすれば、 マネーの 資産保有需要が増加し その結果 マネーの価格が上昇する 、つまり 利子率は低下する。 これは通常「 危険 資産から安全資産への逃避」 と 呼ばれる現象である、 安全資産への逃避 によって 株価が下落し、 金利が低下した(p27)
・ トランプ氏は日本の消費税・ EU の付加価値税を非関税障壁 とみなす と主張していた、 それを 関税率に換算して アメリカが関税を課すというものである(p29)
・ 相互関税率の計算の仕方: 当該国からのアメリカの財輸入額を「T」当該国に対するアメリカの財貿易赤字額を「D」とする時、「相互関税率=(D/T)➗2 」と計算していると、ニューヨークタイムズは指摘した(p30)
・ 貿易赤字は必ずしも経済的弱さを意味しない、 アメリカは 恒常的な貿易赤字を続けてきた、 これによってアメリカは グローバル金融システムの中心に位置し、 資本流入によって国内投資や技術革新を促進してきた。この構造を意図的に破壊しようとする 関税政策は、アメリカの国際的 プレゼンスと イノベーション指導型経済 を基本から 損なう。 特に問題なのは、 製造業の国内回帰(リショアリング)を推進すれば 、Apple や エヌヴィアなど ファブレス 製造業の国際的 サプライチェーンが破壊されかねない。 こうした企業は 製造課程を海外に委託し、 設計・開発・ブランド戦略に集中することによって高い競争力を築いてきた、 これを無理に 国内回帰させれば、 生産コストは急騰し イノベーションは停滞する。 その結果 アメリカは世界経済における技術的優位を手放すことになるだろう(p39)
・ 日本政府は 相互 関税 という考え方 そのものに対して正面から批判しその撤回を要求する必要があった、 相互関税は、第二次世界大戦後の世界経済の拡大を支えた 自由貿易に対する重大な挑戦であること、 関税が課される国の経済活動に深刻な影響を与えるだけでなく、 関税をアメリカの消費者が負担することになるため アメリカにおいても、 物価上昇 など深刻な 負の影響が生じること、その反面で生産活動のアメリカへの復帰は期待できないことを指摘する必要があった(p47)
・自動車メーカーの 円表示での輸出 単価が下落しているのは 為替レートの影響もある、 しかしそれだけでなく 日本の自動車メーカーが輸出価格を引き下げたことによる面が大きいと考えられる。アメリカでの販売台数が減らないことを目的としこのために アメリカ国内での販売価格を、 ドルベースで追加 関税 賦課前とほぼ同水準に保とうとして、エンベースの輸出価格を25%下げた、 しかし 為替レートが円高に動いた結果 ドルベースの価格は18.9%の低下にとどまった、アメリカでの市場価格は 6.1%上昇したので 、販売台数が3.9%減った(p85)
・ アメリカは 経常収支の赤字が継続している、 なぜ 継続できるかといえば 、アメリカに対する投資が継続しているから である。 アメリカのドルが基軸通貨であるため と説明されることがあるが、なぜドルが国際的な基軸通貨として認められているかを考える必要がある。 その理由は、 アメリカに対する信頼があるからである。 それは、1)1人の独裁者に権力が集中してしまうことがないように 三権分立が機能している、2)中央銀行の独立性が保障されている、3) 以上2つの制度的な仕組みによってバランスのある安定した政策が実行 される、4)自由な研究活動が認められるので 能力のある人が世界中から集まってくる、 それに加えて、5) 軍事的・地政学的な優位性を保持している。このため ドル資産を保有してもデフォルトの危険は少なく将来 十分なリターン を伴って 回収できると確信できる。 このような要因が重なり ドルは基軸通貨としての地位を維持している、この地位 こそがアメリカが 経常収支の赤字を継続できる根本的な理由である、 つまり 基本にあるのはアメリカ経済が決して破綻せず 将来にわたって 成長を続けるという 信頼である(p97)
・ トランプ大統領は最も重要な制度的枠組みを根本から揺るがす 政策を打ち出している、1)自由貿易の原則を踏みにじり 貿易相手国に対して 恣意的で高圧的な関税を課すことで国際的な経済秩序を混乱させている、アメリカは信頼できる経済 パートナーという立場を自ら傷つけている、2) 基礎科学や大学の研究資金を削減し、 長期的なイノベーションの土台を崩そうとしている、従って「繁栄の基本 メカニズム」を根底から破壊しつつある(p99)
・中国からアメリカへ輸出する iPhone の価値のうち 中国で生産された 付加価値は全体の4%未満である、 アメリカが付け加えた設計段階の付加価値は、 販売価格の30%以上を占めるが、 これは 貿易黒字だとして計上されていない(p103) 仮に iPhone の最終組み立て工程を中国などからアメリカに移したとしてもそれによってアメリカでの付加価値は 数%分しか増えないことになる、 それに対して iPhone の輸入に効率 関税をかけて 現在の生産プロセスを破壊したとすれば、 iPhone の付加価値を生産する全活動が成立しなくなるかもしれない、 つまり Apple という企業が成り立たなくなるかもしれない。 これはアメリカにとって 極めて大きな損失を与えるだろう。 国際収支統計に現れているのは、中国で生産された iPhone がアメリカに輸入されるという取引である、 これに対して その他の取引はほとんど 国際統計には現れない(p105)
・ アメリカの経済収支赤字の拡大がしばしば 問題視されているが、その大きな要因は ファブレス化の進展にある可能性がある。 もしそうであれば経済収支赤字の拡大はアメリカの経済の劣化によるものではなく、むしろ 高度化の結果であると解釈できる(p107) トランプ氏は関税の一部がアメリカの消費者によって負担されることは理解しているだろうが、ファブレス企業(アップルなど)の場合に、アメリカが課す関税のかなりの部分をアメリカ企業が負うことをどれだけ重要視しているだろうか(p146)
・ 株価下落では怯まなかったトランプ氏が、金利 高騰には即座に反応した。その意味において 金利 高騰は「経済の地雷原」 だと言える、トランプ氏といえどもそこを不満のよう 最大限に警戒せざるを得ない(p123) 国・ 地域別の 関税 上乗せ分は4月9日午前0時1分から発効した、 わずか13時間しか経っていなかったにも関わらず、 地下もそれまでは強気の姿勢を貫いていたにも関わらず トランプ 政権は 突如 詮索を大転換した。 そして アメリカとの交渉を応じる場合には、相互関税の上乗せ分 を90日間延長するとした(p125)
・ 国債といえども 安全にリスクがないわけではない、 途中で換金が必要になった時に市場価格が 額面より低くなっていればその低い格しか得られない、そこで 国際よりもさらにリスクの低い資産であるマネーや 外国資産への避難が起こる、 マネーとは 銀行預金や 現金であるが、金(ゴールド)も 避難先の対象となり価格は史上最高値を記録した(p128)
・現在の米中間の貿易摩擦(対象品:ノートパソコン、スマートフォンなど)は、1980年代の日米貿易摩擦とは大きく 性質が異なる。 80年代の摩擦は自動車など アメリカ国内でも生産可能な製品が中心であったが、 電子部品については アメリカ国内でのサプライチェーン 再構築はほぼ不可能である。従って アメリカ国内で電子部品の生産が拡大し雇用が増加する可能性は極めて低い(p151)
・2025年2月24日 アップルは今後 4年間でアメリカ国内に5000億ドル(約75兆円)の投資をすると発表した。 この理由は 関税を免れるためである、 Apple としては 関税 引き上げを避けたいので「アメリカ国内で投資をする」という 取引条件を示した(p158)
・ 強固に見えた「三権分立」の仕組みが 1970年代頃から徐々に変貌してきた、 特に重要な変化は1970年代からの政策の変化である、1974年 通商法、 1988年 包括 通商 競争力法 など の導入によって、 それまでは議会の権限であった 関税率の決定が大統領に委任されるようになった、 これらの措置は1980年代から90年代の日米経済摩擦の中で導入された(p209)
・中国のDeepseekが世界に衝撃を与えたのは、 機械学習のために高性能の半導体を使わずに済んだことである。 バイデン 政権による輸出規制の中で可能な 半導体だけを用いて 高度な AI の開発が可能であることを示した(p251) AI の開発では大量のデータを事前に学習させる必要がある、 これに多大のコストと時間を要するが、Deepseekは この段階で「蒸留」と呼ばれる手法を使った と説明している。「蒸留」は、 別の高性能 AI を 先生役にして、 機械学習を効率化する手法である。 最初からデータを学習しなくても、先生役である AI から 効率的に学ぶことができる、Deepseekは、メタなど複数の AI から学んだと報じられている(p253)
・関税は基本的にモノ(財貨) が国境を越えて移動する際に課せられる、 すなわち 輸出入 される 物品が完全の対処となる。一方 サービス貿易(コンサルティング、ソフトウェア開発、金融サービスなど)には、通常の意味での関税は課せられない、 だから物を輸出する構造から、サービスを輸出する構造への転換をすれば 関税がかかることはない。 今後日本は、サービス貿易に注力すべきである(p291)
2025年12月16日読破
2025年12月17日作成