隆慶一郎のレビュー一覧
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ネタバレ上巻、中巻と続いてきた徳川家康=二郎三郎の権力固めと二代将軍、秀忠との確執も集大成。
冒頭の戦いで二郎三郎の影となり戦い続けてきた甲斐の六郎の腕が切り落とされてしまうという衝撃の展開。しばらく戦線から離脱した六郎は、中盤には不動金縛りの術を極めて復帰する。上巻、中巻でもいわゆる肉弾戦的な戦は何度も描かれてきたが、六郎のこの術が加わったことで、下巻の戦はそれまでとはまた違う趣になっている。
あくまで豊臣家への恩義を忘れず豊臣を活かしたい二郎三郎と、執念を燃やして豊臣を滅ぼしたい秀忠。最終的には豊臣側の自滅とも言える振る舞いにより、史実通りに二郎三郎=家康は豊臣を滅ぼすことになる。
そして終盤にかけ、一気に世の流れは当然ながら若い秀忠のほうに傾き、二郎三郎は静かに人生を閉じていく。ただし、自分の亡き後、秀忠が自分の子どもたちを殺すことのないよう、周到な仕掛けと細工を施してから。
この小説は終わり方が好い。満身創痍でこの世を去っていく二郎三郎を、完璧な勝者として舞台から去らせてはいない。かと言って、悪役を担い、生き残って徳川幕府を継いでいく秀忠が勝者かというと、それはまず間違いなく違うというぐらい完膚なきまでに叩きのめされた状態で終焉を迎えている。
では誰が勝者だったのか。戦乱と策謀の世を生き抜いた者か、子孫を残し系譜を存続できた者か、あるいはただ単に何もなさずとも生き永らえた者か。
言えるのは、二郎三郎は自分の信念のままに家康として生き抜いたということ。そして、この小説がもし史実だったら、これほど痛快で、なおかつ家康の関ヶ原以降の変容を適切に説明しうる解釈はないのではないか、ということ。
最後に。
徳川家の系譜を見ると、二代秀忠から続いていた将軍の系譜は七代目の家継で途絶えてしまう。そのあとを継いで八代将軍になった吉宗は、秀忠が殺そうとしていた頼宣の孫。以降、十四代家茂まではこの家系が将軍職を襲っていく。そして徳川家最後の将軍である慶喜は、同じく秀忠が殺そうとしていた頼房の家系。
即ち、徳川家の正統として権力を欲していた秀忠の系譜は七代目までで絶たれ、その後の徳川の繁栄を担い、さらに徳川の世を終えるという重圧を担ったのは家康の系譜ということになる。さらにこの小説で言うならば、二郎三郎が家康を装った関ヶ原以降に生まれた頼宣と頼房の子孫ということになるので、「徳川家康」とその嫡子である「徳川秀忠」の「徳川家」による治世は七代目までで終わり、その後は「二郎三郎」の血筋が世を治めていったということになる。
これだけでも、この小説を読んだ者ならば痛快至極なのである。 -
購入済み
やっぱり隆慶一郎は素晴らしい。
電子版で読み直しです。
やっぱり隆慶一郎は素晴らしい。
全ての場面が美しい映像を見ているかのように浮かび上がるその表現。
知らない方たちにも是非読んでいただきたい傑作です。 -
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<上中下3巻を通してのレビュー>
家康の意思を継ぎ、そして自分の目指すものを打ち立てるために、島左近を軍師に風魔一族との連携プレーで対:秀忠/裏柳生との権力闘争。その中で次郎三郎が目指したものは何だったのか。15年間もの間、家康として颯爽と生き抜いた影武者の苦闘を描く。
関が原の合戦中に東軍の総大将、徳川家康が暗殺され、かねてより家康の影武者だった世良田次郎三郎が代わりに指揮をとる。
が、この影武者が只者ではない「いくさ人」であり、見事に関が原の戦いを勝利に導き、その後の徳川政権樹立のために並外れた知力を発揮する。
細かな複線がはりめぐらせており、「ありうるかも・・・」と思わせ、ワクワクさせてくれる歴史小説。
忍同士の凄惨な陰の戦いにおいても、その他の登場人物設定においても無理がない作品。
久しぶりにワクワクしながら堪能した1作です。 -
Posted by ブクログ
宮本武蔵に育てられた青年剣士・松永誠一郎は、師の遺言に従い江戸・吉原に赴く。だが、その地に着くや否や、八方からの夥しい殺気が彼を取り囲んだ。吉原には裏柳生の忍びの群れが跳梁していたのだ。
彼らの狙う「神君御免状」とは何か。武蔵はなぜ彼を、この色里へ送ったのか。
-吉原成立の秘話、徳川家康影武者説をも織り込んで縦横無尽に展開する、大型剣豪作家初の長編小説。
登場人物の豊かさもさながら、人々の思惑、思いがしっかり伝わってきます。
吉原をめぐる陰と陽。
歴史の悲しい裏の面をさりげなく取り上げており、華やかなだけではない吉原の一面を、「神君御免状」のもとに描き出している傑作です。
主人公、松永誠一郎の魅力と、それに魅かれた人々の思い。
これが実話であったなら、どんなに悲しく、かつ魅力的だろうかと、ついつい引き込まれてしまいました。 -
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徳川家康が関ヶ原の緒戦で暗殺され、影武者が家康に成り代わって軍を率い、ついに泰平の世を実現してしまう、という設定の時代小説。
影武者である世良田二郎三郎が家康の死をほぼ誰にも知らせずに関ケ原を戦い抜いた(戦い抜けた)理由と根拠、その後も家康本人として振る舞っていかざるを得なかった理由、家康の周りの人物たちがその事実を知ってもなお世良田二郎三郎を家康として扱い続けた理由、そのどれもがちゃんと現実味をもって描かれているため、史実でも実はこのタイミングで家康と影武者とが入れ替わっているのではないか?と疑ってしまうほど、よくできた作品。作者の文献調査が綿密にされているからこそ、このストーリーに説得力が増しているのだと感じられる。
ついでながら、側室との閨事(セックス事情)についてもうまく創作をしている。女性たちの心理を細やかに描くことで、家康ではない影武者を受け入れてセックスをするという、普通では土台無理だと思われることをそれなりに納得できる形に仕立てている。これもまた、小説家としての著者の空想力とそれを文字に起こす技量によるものである。
上巻は関ヶ原から家康(影武者)が征夷大将軍になるまで。上・中・下巻合わせて1,600ページ近くの大著だが、読むのがやめられないぐらい面白い。
歴史小説が好きなら、ぜひ手に取ってみることをお勧めする。 -
購入済み
慶次はいいんだけど
これだけではないんだが作中で佐々成政がふと前田利家と信長と突撃するシーンを思い出して「任せて下され、信長様!」と言ってるんだが当時は「任せて下さい、殿!」と言ったんじゃないかな。主をフルネームで呼ばないよ。
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Posted by ブクログ
ネタバレ著者の作で最初に読んだのが、本作。歴史、時代小説家と言えば、司馬遼太郎をあげる人は多い、自分もそう思うが、この本を読んで放心した。その後、著者の殆どの作品を読んだ。
著者は元々、脚本家。師事していた寺田寅彦がなくなった後、小説を書き始め、急逝したために作家になってからの実働は僅か5年。ある意味、このジャンルで言えば司馬氏より、凄い本を書いた人なのかもしれない。
著者の作品の根底に流れるテーマ、重要は登場人物には、封建時代の階級社会の外の人々がある。道々の者、傀儡子、山の民。そして吉原の人々。関ヶ原の戦いの中で、家康は命を落とし、影武者だった者が、江戸時代の礎をつくるという物語、その話の壮大さに驚くが、著者が追っていったのは、何だったのだろうか。
以前、著者が通ったお店に行ったことがあるが、とても自由で、和やかな、居心地の良いお店だった。 -
Posted by ブクログ
うーん、凄い。唸らされる名作でした。
「実は、関が原の戦いで家康は殺されていて、そこから先の家康は影武者が成り代わっていた」という、(トンデモ)設定。それを、これでもかとリアルっぽさを出して見事に納得させる描き方をしているのは、著者の文献に当たる苦労と構成力が花開いたもの。
かつ、登場人物も展開も意表をつくもので面白く、加えて、自分自身の行動様式を何とはなしに振り返させられる(特に対秀忠のくだり/こういう要素、意外と大事だと思うのです)というプラスアルファもあり、自分が読んでいなかった名作がまだある喜びと、早く読んでおきたかった悔恨がないまぜになりました。
時の権力者、もし影武者が成り代わるとなったとしたら…という仮定が綿密にストーリーに盛り込まれ、かつそれを史実とも織り交ぜることで「史実でも家康は影武者だったのでは…?」と読者を錯覚させる筆力。
それだけではなく、駆け引きや戦いの先の先まで読む力や、時折登場人物が魅せる義侠心。読んでいてとにかくグッと来るというか、ため息が出る素晴らしさでした。
上中下巻の超大作ですが、読む価値は間違いなくあると思います。