隆慶一郎のレビュー一覧
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武士道と云ふは死ぬことと見つけたり。葉隠の武士道思想を物語化した隆慶一郎未完の遺作だ。理想の死のあり方から逆に生を考える。死を毎朝シミュレーションし、その覚悟が真っ直ぐな生を作り出す。己の人生をどう生きるべきか。死と背中合せの状況は、まさか今日死ぬなんてあり得ないと思ってる現代の我々の生き方とは全く違う。死をネガティブなものと捉える人たちとも違う。死は日常的であり特別なものではないからこそ、美しい死に方に意味があるし死ぬことを恐れず命を賭けられる。死を厭う現代の我々が日本の歴史の中では異質であること、おそらく戦争が終わるまでこの感覚って日本人には当たり前にあったのでしょうね。
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徳川家康の影武者として生きた男の生涯を描く最終巻。
男の目指す和平とは、徳川と豊臣の勢力が緊張状態にあるからこそ戦乱のない時代を迎えられるというもの。しかし、その状態が崩れれば、影武者徳川家康として生き、和平を実現しようとした男の夢は潰えることになる。しかし、時世の流れは無情にも徳川と豊臣の最終決戦「大坂の陣」へ向かってしまう。
戦国の世に生きるとはどのようなものか、様々な人間の思惑が交差する時代の波に翻弄されながらもどこか余裕をもって物事にあたる人間の姿を描く。
この下巻では「松平忠輝」がキーマンになってくる。この作者の作品には、この松平忠輝にフォーカスした作品もあり、いずれは読んで -
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徳川家康の影武者として生きることになった男に待ち受けていた数奇な運命を描く長編小説の中巻。元来、自由人として生きたく専制君主を嫌っていたが、気が付くと自分がその専制君主になってしまっているという皮肉。そして、いつ狙われてもおかしくない生命。しかし、この男には一つの目標があった。それは関ヶ原合戦後の太平の世を築くこと。そのためには権力闘争に身を置き、自分の治世を実現するしかない。この男の生きざまに触れたかつての敵である島左近、箱根に結界をはる忍びである風魔小太郎の協力を得て、2代将軍秀忠、その指図で動く剣の達人集団裏柳生との権謀術数をめぐらせた闘争に進んでいく。
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江戸幕府を開いた徳川家康は、実は影武者であり、本物の家康は関ヶ原で殺されたのではないか。こんな大胆な発想から歴史を紐解いた意欲的な作品。読んでいくと「なるほど。こういう解釈もできるか」と思ってしまう場面が多々ある。総ページ数は約1600ページに渡る長編歴史エンタメ。本書はその上巻。関ヶ原合戦から徳川家康の征夷大将軍任命までを描く。
内容は非常に興味深く面白いのだが、歴史ものであるがゆえに登場人物が多く、話題も数年の時を行ったり来たりするので、ある程度の予備知識は必要かもしれない。それだけに読むには体力がいる作品。ただ、それぞれの人物の思惑や考え方、駆け引きなどは読んでいて引き込まれるものが -
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ネタバレ上巻の最後に征夷大将軍の地位を得た徳川家康こと、影武者世良田二郎三郎。
この中巻では自らの命を守るため、堅固な砦となる駿府城を建てつつ、箱根山に拠点を持つ風魔衆をも引き込み、徐々に盤石の態勢を敷いていく。資金面では日本各地の金銀山を家康直轄とし、さらに南蛮貿易にも手を伸ばすなど、やることなすこと抜け目がない。さらに側室との間に子どもも次々と生まれ、「徳川家康」という実在の人物の実際の活動を下敷きにしており、うちいくつかは創作であるとは分かっているものの、これだけのことを60歳過ぎてから成したのか、と驚嘆せざるを得ない仕事ぶり。
家康の影武者を主役に置いている関係上、対立軸として上巻で既に馬脚 -
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徳川家康より与えられた「神君御免状」をめぐる裏柳生との争いに勝ち、松永誠一郎は色里・吉原の惣名主となった。
だが、一度は敗れながら、なお執拗に御免状を狙う裏柳生の総帥・柳生義仙の邪剣が再び誠一郎に迫る。加えて吉原を潰すべく岡場所が各地に乱立し、さらに柳生の守護神・荒木又右衛門も江戸に現れた。
ついに吉原と裏柳生前面対決の時が-。
裏柳生と表柳生。柳生一門が抱える複雑な事情や、幕府閣僚のしつこい執念。
そこに否応なく巻き込まれていく吉原と松永誠一郎。
松永誠一郎の生き様や吉原の面々の優しさを、とても温かく感じます。
出会い方が違えば、いい友となりえたかもしれない運命の皮肉さや、宿敵であるから -
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エッセイ「台風」が良い。いじめっ子論も面白い。また、非行の低年齢化に関して、「低年齢の男の子の恐ろしさは、簡単にそこに生命を張ってしまうところにある。自分しか見ていないからだ」とした後、「ここを抜け出るにはいわば男の美学の進化しかない。もっと高度のダンディーズムニ移行するしかない。ある日、自分の鏡に映った姿が見にくいと感じた瞬間に、非行は終わるのである。」とある。蓋し達見。また、「昭和初年のはやり歌は、歌詞といい曲といい退廃そのものである。その退廃しきった唄を、くすんだ軍服のむさい男たちが、飯盒の中子で酒を飲みながら合唱する切なさは今も私の胸底にある。」この文章も著者の資質を鮮やかに示す。
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ご存じ漫画『花の慶次』の原作小説。漫画もあまり読んだことはないが、漢気あふれる主人公の印象。
実在するがきわめて歴史上の存在感の薄い人物は、いかようにも脚色しやすい。とはいえ、資料に忠実な面もある。時代劇にありがちな遊び人の世直し読み切りストーリーの連続だなと思っていたら、作者は「鬼平犯科帳」などで知られるテレビドラマ脚本家出身だった。
最初面白かったのだが、唐入り(朝鮮出兵)あたりから、凄腕の刺客をやっつける→仲間入りのワンパターンで、主人公がひたすら無双すぎ、途中でいささか飽きてしまったのがやや残念かも。文章は平易で読みやすい。
大河ドラマ「真田丸」で、北条攻めのとき氏直説得のため大 -
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戦国末期、歴史の表舞台にはあまり立たなかったものの、天下の傾奇者として知られた男、前田慶次郎の一代記をテーマにした小説。昔ジャンプに連載していた「花の慶次」の原作ですね。
さすが隆慶一郎と言うべきか、解説を上手く挟みながら読者をストーリーの中に誘っていき、魅力的なキャラクター(毎回味方サイドは良いチームになるような)とテンポの良い展開で、気付くと読み終わってましたというパターンでした。
「影武者徳川家康」と比べると、舞台の大仕掛けさや重厚さでは一歩劣るものの、主人公の快活なキャラクターと突飛な行動で気軽に読める印象です。エンターテイメントとして読むならとても楽しい本。
改めて映像化したら面 -
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現実社会の中では、うまくいく筈がないとか、こんなことをやっている場合ではないとわかっていても、仕事としてやらなければならないという状況はいつでもある。
先が見えない人々の中で、将来このままではダメになるとわかっていながら、自分のできる範囲内で、最大限努力し、事態の変化を待つということはいくらでもある。いや、そういう場合の方が大部分だろう。
本書の主人公である徳川家康の影武者、世良田二郎三郎は、権力の頂点に立っているといえども、その点ではわれわれと同じである。
豊臣家の滅亡と二郎三郎からの権力奪取を狙う二代目秀忠と、豊臣家復興の機をうかがう大坂方の間に立って、ひたすら平和と共存を図ろうとする