小説家としてわずか五年の活動期間、酒好きが祟って肝硬変により66歳で死去。
この作品(作者)の特徴は、数少ない遺された資料をもとに作者の想像力を最大限拡げた活劇ストーリー性と場面が簡単にイメージ出来る描写力にある。(それもそのはず、元々映画やテレビドラマの脚本家でも著名でした)
想像(創造)力が発揮された例として、例えば歴史上、信長は敵が降伏しても一族根絶やしにする残虐さに比較して秀吉は好色というキャラ付けがされている。秀吉が敵方の娘を人質として差し出させるという好色の裏で、何千人もの男女の命が救われたという事実を登場人物にこう語らせる。「だが、女一人で一国が救えるのならやすいことではないか。全国の大名にそう思わせることができれば、わが君の好色も悪いものではない。少なくとも、無用のいくさが避けられる」(P66)
秀吉の好色さが敵を許すための方便であり口実だったのではないかという説は面白い。確かに、秀吉は日本人が奴隷として海外に売られていた事実に激怒し人身売買を禁止した史実も残っています。人が好きでなければ好色にもなりえません。
本作は「花の慶次」にてマンガ化もされた様です。
隆 慶一郎(1923年〈大正12年〉9月30日- 1989年〈平成元年〉11月4日)は、日本の脚本家、小説家(時代小説作家)。本名は池田 一朗。本名で脚本、隆慶一郎のペンネームで小説を執筆していた。
1984年、『週刊新潮』で小説家として第1作『吉原御免状』を連載する。隆慶一郎は、この時より名乗った筆名である。小説家時代は時代小説を中心に執筆した。代表作として『吉原御免状』、『影武者徳川家康』、『一夢庵風流記』、『捨て童子・松平忠輝』が挙げられる。長らく脚本家として活動しており、小説家生活に入ったのが還暦を過ぎてからと遅く、小説家としては実働わずか5年だった。また急逝したこともあって、未完の作品、構想だけが編集者に語られるなどして残った作品も少なくない。ちなみに、還暦を過ぎるまで小説を手掛けなかった理由については、かつて師事した小林秀雄(1983年逝去)が存命の間は、とても怖くて小説は書けないと思っていたからという旨のことを語っている。
以下、作品情報です。
★『吉原御免状』(1986年、新潮社) のち新潮文庫
同タイトルで舞台化。宮本武蔵によって育てられた後水尾天皇の落胤・松永誠一郎は、自由の民・傀儡子によって営まれる色里・吉原を守り、神君・徳川家康から下された吉原御免状を狙う老中酒井忠清とその手先裏柳生との間で死闘を繰り広げる。第95回直木賞候補作。
★『鬼麿斬人剣』(1987年、新潮社) のち文庫
『刀工剣豪伝・鬼麿一番勝負』の題で連載された。同タイトルでテレビドラマ化。内山まもるにより漫画化(単行本未刊行)。名刀工・源清麿が旅先で遺した数打ちの駄剣を折り、師匠の名を守ろうとする弟子・鬼麿の前に、清麿を恨む伊賀同心の一味が立ちはだかる。
★『かくれさと苦界行』(1987年、新潮社) のち文庫
『吉原御免状』の続編。後水尾天皇との再会を果たした松永誠一郎と吉原の傀儡子の民に、またしても裏柳生の手が迫る。
★『柳生非情剣』(1988年、講談社) のち講談社文庫
徳川家将軍指南役柳生家の六世代にわたって、柳生家の目から見た徳川家を描く連作短編集。第101回直木賞候補作。
「慶安御前試合・柳生連也斎」「柳枝の剣・柳生友矩」「ぼうふらの剣・柳生宗冬」「柳生の鬼・柳生十兵衛」「柳生跛行の剣・柳生新次郎」「逆風の太刀・柳生五郎右衛門」の短編6編収録。
「柳枝の剣・柳生友矩」を余湖裕輝らが『柳生非情剣 SAMON』のタイトルで漫画化。青春アドベンチャーでラジオドラマ化。
★『一夢庵風流記』(1989年、読売新聞社) のち新潮文庫、集英社文庫
数度舞台化。原哲夫らにより『花の慶次 ―雲のかなたに―』として漫画化。
★『影武者徳川家康』(1989年、新潮社) のち文庫
関ヶ原で死んだ徳川家康の影武者であった世良田二郎三郎が、徳川家繁栄のために豊臣秀頼を謀殺しようとする秀忠に対抗するべく、甲斐の忍びの六郎や島左近、風魔忍者衆と協力し歴史の暗部で戦う。同タイトルでテレビドラマ化。原哲夫らにより漫画化。
★『捨て童子・松平忠輝』(1989年 - 90年、講談社) のち文庫
主人公は徳川家康の子松平忠輝。生まれながらにして大きな体を持ち、鬼っ子と恐れられ、武術、水術、音楽、忍術などすべてに天才的な能力を持ち、異能の人と呼ばれた忠輝の前半生を描く。横山光輝により同タイトルで漫画化。
2003年に『野風の笛』のタイトルで宝塚歌劇団・花組が舞台化。
本作以前に、隆自身が本名の池田一朗名義で原案・脚本を手掛けた『野風の笛 鬼の剣 松平忠輝・天下を斬る!』が制作・放送されており、本作はテレビドラマ版を基に新たな解釈を加えた上で執筆したのではないかとする向きもある。
★『柳生刺客状』(1990年、講談社) のち文庫
「柳生刺客状」「張りの吉原」「狼の眼」「銚子湊慕情」「死出の雪」の短編5編収録。
★『死ぬことと見つけたり』(1990年、新潮社) のち文庫(未完作)
著者が第二次世界大戦に徴収される際、陸軍で推薦されていた『葉隠』の本の中に著者のお気に入りのフランス文学を挟み込んで持ち込み、『葉隠』に見出した佐賀鍋島藩浪人の主人公の斉藤杢之助を描いた書。
★『花と火の帝』(1990年、日本経済新聞社) のち講談社文庫、日経文芸文庫(未完作)
余儀なく徳川秀忠の息女和子を皇后にした後水尾天皇の御世、天皇家を守るため徳川幕府に挑む八瀬童子・岩介の戦いを描く。
★『かぶいて候』(1990年、実業之日本社)のち集英社文庫
表題作「かぶいて候」以外に「異説 猿ケ辻の変」、エッセイ「わが幻の吉原」、対談「日本史逆転再逆転」などの作品集。
★『駆込寺蔭始末』(1990年、光文社) のち同文庫
江戸時代、既婚の女性から離婚を申し出ることができず唯一離婚する方法が鎌倉東慶寺に駆け込むことだけだった。その東慶寺の住持の玉淵尼を守るため、公卿の身を捨てた御所忍びの棟梁である麿の活躍を描く連作短編集。
★『見知らぬ海へ』(1990年、講談社) のち文庫(未完作)
武田勝頼の下にあった向井水軍の嗣子向井正綱が生き延び水軍を組織し、後に徳川家康の水軍に編入され、水軍の長になり活躍する姿を描く。
★『風の呪殺陣』(1990年、徳間書店) のち徳間文庫
戦国時代比叡山の修行僧・昇運が信長の比叡山焼き討ちを生き延び、信長を呪い殺そうという設定。著者が赤山禅院の叡南覚照大阿闍梨に「仏教が人を殺すか」と一喝され、改稿する予定だったが、著者の急逝によりそのまま発刊された。(Wikipedia)