神林長平のレビュー一覧
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自分を騙した男への強い殺意を抱きながら死んだテレパスの少女。死によっても消えなかったその強い意志としての殺意は、人間的な意識と切り離された純粋な憎悪となって加害者以外をも対象として広がって行く…。ファンタジーめいたホラー、あるいはホラーめいたファンタジー、というべきストーリーだが、センチメンタルに流れそうなある少女の物語を、かっちりとした“科学”で支えて単なるジュブナイルに終わらせないのが神林作品。魔法ではない、物理的な現象の一つとしての精神感応力――その有無はいわば肉体的な問題であり、テレパスと普通人の間にはそもそも生物学的な差異がある、という神林氏オリジナルの論理展開がとても面白かった。
それにしてもジャンルの枠にとらわれないと言うか、ジュブナイルとハードボイルドをSF世界で描き切ってしまうところが、神林氏の凄いところだと思う。青春路線にはあまりそそられないので★は三つにとどめたが、設定や作りの面白さはさすがで、神林ワールドを十分堪能できた。 -
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「飲んではハイに/醒めては灰に/飲もうぜ/今夜/銀河を杯にして」…ということで、タイトルの「杯」は「さかずき」ではなく、「はい」。タイトルからしてすでにダジャレ風味だが、内容も惑星ドーピアで戦う地球軍の戦車“マヘル-シャラル-ハシ-バズ”とお気楽一等兵&二等兵+自称天才新人少尉を中心にごくごく軽いノリで転がって行く戦争SF。とは言え、機械と人間をめぐるテーマそのものは非常に神林作品らしいもの。「雪風」は無機物らしく冷え冷えとした意識を持つ機械が登場する作品だが、こちらでは同じように意識を持つにしても、もっと情緒的な、有機的な“生命”の感じられる機械が登場する。
軍を脱走して野生化したコンピュータ、最も望むものは「愛と平和」と答える戦車、そして種の生命維持に必要なエネルギーを集合体として保有する“生命場”の担い手の一端としての有機アンドロイド。人間同士だけでなく、機械とも“心が通う”世界に美しさを覚える神林氏が、氏らしい論理展開で組み立てた“生命場理論”は、確かに美しい。人は一人では生きられない。人だけでなく、あらゆる生命・非生命が、一人/一個では存在を維持できない。そこに必要な、絆や連帯を、あえて科学めかして説くところが、何とも神林節だと感じる。
しかしそうしたテーマはあくまでも、銀河を杯に飲んではハイになり灰になる男たちが酩酊しながら不条理な戦争の端でふらふらしている物語の一部でしかないのが、今作の軽やかさ。一種独特のロマンチシズムが漂うスラップスティックSF、読みやすく楽しい作品。 -
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読んだのは光文社版。多元平行宇宙横断探査機の、本体そのものではなく言語発生機であるところの、名づけて「迷惑一番」と呼ばれるもの。機械でありながら非常に脳天気な彼が多元平行宇宙を飛び回り言語記述していく物語と、彼の物語に巻き込まれた(と言える)脳天気な宇宙戦闘機パイロットたちの物語が、ごくごく軽いテンポで描かれる。よく考えたらシリアスな状況でありシリアスな設定なのに、“脳天気”をキーワードに軽く描かれているのが、しょーもなく楽しい。何より「迷惑一番」が可愛らしくて読んでいて気が抜ける(笑)。
言語発生機が編み出す言葉が現実を作る、というのはいかにも神林的な目線だが、そこに加えて、各多元平行宇宙に存在するそれぞれの言語発生機が作る物語はそれぞれに違う(から、ある宇宙で描かれた現実は、他の宇宙ではただの「お話」になる)という結論が面白い。冒頭ページの「生きている限りこの世はある この世の主人公はいつでも私だ」という言葉が、まさにこの作品のテーマなのだろう。ストーリーの軽やかさを楽しむもよし、テーマについて考えを巡らすもよし、神林エンタメらしい一冊。 -
Posted by ブクログ
神林長平、第二短編集。「スフィンクス・マシン」「愛娘」「美食」と、前半三篇はどれもじわじわと怖い話で、後味が悪いというか、読後もかなりダメージが残る。後半三篇も怖いと言えば怖いのだが、神林作品らしい“夢”のような雰囲気を持ったSFで、個人的にはこちらのタイプの作品の方が好み。特に、表題作「言葉使い師」は、二人称小説というスタイルの珍しさがまず印象的で、かつその二人称スタイルが腑に落ちるラストがとてもいい。
そして、どの作品でも非常に独特なSF的世界設定が敷かれているが、そのどれもが読んでいる内に違和感がなくなる自然な描かれ方で、いつものことながら凄いSF作家だなあと感じ入る。どの世界も、我々が生きる世界の未来の姿として十分にリアルで、実際にはこの世界はどの選択肢を選んで進んでいくのだろう?などと考えてしまったりも。