神林長平のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
大企業が開発したアンドロイド両親によって養育された少年は、企業により保護される「王子様」として月面都市で暮らしていたが、地球からやって来た女性作家と、彼のボディーガードも務めていた“ルナティカン”出身の自由探偵により、自分の出自が月の被差別民・ルナティカンだと知る――
映画「A.I.」(人間とアンドロイドの親子関係は逆だけど)を何となく思い出すような、プログラミングされた愛情を持つアンドロイド両親と少年ポールが迎える結末はかなり重い。が、この物語の主筋を担うのではポールではなく、自由探偵のリックということで、物語世界がはらむ重いテーマは取り立てて掘り下げられることなく、ストーリーはハードボイル -
Posted by ブクログ
ストーリー自体は一人の男を主人公に据えたハードボイルドともサスペンスとも言えるシンプルなドラマだが、作品世界の設定がとても「神林的」で、そうしたギャップがちょっと面白い作品。未来の火星から過去の地球へ跳ばされた、脳内に戦略情報プロセッサTIPを埋め込まれたMMHS(マン・マシン・ハイブリッド・ソルジャー)である主人公に、同じように過去の地球(主人公がいる時代よりやや未来の)に跳ばされた火星時代の友人がコンタクトしてきたことから物語は始まる。1987年の作品なのに、作中で描かれるPCやネットワークがライフラインとして根付いている近未来の日本の情景が、私たちが生きている現代の社会ととても近くて、神
-
Posted by ブクログ
実は敵は海賊シリーズを最初に読んだのはこの巻の最後に収録されている被書空間でした。その頃はSFマガジンに掲載された短編を各年ごとに編纂した短編集が出版されてたんですよね。あのシリーズよかったよなあ…。そのシリーズで梶尾さんも知ったし、読んだことのなかった作家を色々と知りました。言ってみれば今創元から出ている虚構空間シリーズみたいなものでしょうかね?
その当時は登場人物の活きの良さと掛け合いの面白さ、わかりやすさに反比例する精神世界、異世界に引きずり込まれる不確定さに自分の意識が付いて行けずなんだろうこの作品…と思ったのでした。
今でもこの方の書かれる精神世界のあり方や異世界・非物質世界と物質 -
Posted by ブクログ
この表紙ではないのですがきっと内容は同じだと思うので。
敵は海賊シリーズの比較的新しいほうなのかな?物質的に存在を持つ、確かに在るモノと物的質量は無いが確かに存在するモノと言うちょっと考え出すと頭がこんがらがりそうなテーマをいつもよく調理して食べさせてくれるなあと感心するばかりです。
そしてすべてを超越する黒猫…もとい黒猫型異星人アプロ。このシリーズはよくも悪くもアプロの食い意地がテーマに違いない。でも確かによく食べるってことはよく生きるってことなのかも知れない。
超大型ニワトリと多分異次元に突き抜けた胃袋を持つ黒猫異星人の戦い。すっごいSF!!面白かったです。 -
Posted by ブクログ
自分を騙した男への強い殺意を抱きながら死んだテレパスの少女。死によっても消えなかったその強い意志としての殺意は、人間的な意識と切り離された純粋な憎悪となって加害者以外をも対象として広がって行く…。ファンタジーめいたホラー、あるいはホラーめいたファンタジー、というべきストーリーだが、センチメンタルに流れそうなある少女の物語を、かっちりとした“科学”で支えて単なるジュブナイルに終わらせないのが神林作品。魔法ではない、物理的な現象の一つとしての精神感応力――その有無はいわば肉体的な問題であり、テレパスと普通人の間にはそもそも生物学的な差異がある、という神林氏オリジナルの論理展開がとても面白かった。
-
Posted by ブクログ
「飲んではハイに/醒めては灰に/飲もうぜ/今夜/銀河を杯にして」…ということで、タイトルの「杯」は「さかずき」ではなく、「はい」。タイトルからしてすでにダジャレ風味だが、内容も惑星ドーピアで戦う地球軍の戦車“マヘル-シャラル-ハシ-バズ”とお気楽一等兵&二等兵+自称天才新人少尉を中心にごくごく軽いノリで転がって行く戦争SF。とは言え、機械と人間をめぐるテーマそのものは非常に神林作品らしいもの。「雪風」は無機物らしく冷え冷えとした意識を持つ機械が登場する作品だが、こちらでは同じように意識を持つにしても、もっと情緒的な、有機的な“生命”の感じられる機械が登場する。
軍を脱走して野生化したコンピュー -
Posted by ブクログ
読んだのは光文社版。多元平行宇宙横断探査機の、本体そのものではなく言語発生機であるところの、名づけて「迷惑一番」と呼ばれるもの。機械でありながら非常に脳天気な彼が多元平行宇宙を飛び回り言語記述していく物語と、彼の物語に巻き込まれた(と言える)脳天気な宇宙戦闘機パイロットたちの物語が、ごくごく軽いテンポで描かれる。よく考えたらシリアスな状況でありシリアスな設定なのに、“脳天気”をキーワードに軽く描かれているのが、しょーもなく楽しい。何より「迷惑一番」が可愛らしくて読んでいて気が抜ける(笑)。
言語発生機が編み出す言葉が現実を作る、というのはいかにも神林的な目線だが、そこに加えて、各多元平行宇宙に -
Posted by ブクログ
神林長平、第二短編集。「スフィンクス・マシン」「愛娘」「美食」と、前半三篇はどれもじわじわと怖い話で、後味が悪いというか、読後もかなりダメージが残る。後半三篇も怖いと言えば怖いのだが、神林作品らしい“夢”のような雰囲気を持ったSFで、個人的にはこちらのタイプの作品の方が好み。特に、表題作「言葉使い師」は、二人称小説というスタイルの珍しさがまず印象的で、かつその二人称スタイルが腑に落ちるラストがとてもいい。
そして、どの作品でも非常に独特なSF的世界設定が敷かれているが、そのどれもが読んでいる内に違和感がなくなる自然な描かれ方で、いつものことながら凄いSF作家だなあと感じ入る。どの世界も、我々が