福永武彦のレビュー一覧
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このトシになって、ようやく、日本のあらゆる物語には、古事記と源氏物語のエッセンスがあるんだよなあ(八犬伝とか)、と思い、やや観念して読み始めたのが、福永武彦の古事記。
ネットでみると鈴木三重吉バージョンのほうが圧倒的にシェアが広そうなので、いずれはそちらでも読もうかな。
しかしまあ、これは家系図をつけてほしい作品ですね。
福永武彦の優しい喋り方が新鮮でした。
こうの史代の古事記とか、ほかの子ども用の読み物から、私にも事前にいくらかの知識はあったが、
・荻原規子の勾玉三部作(とくに空色勾玉と白鳥異伝)ちょうど再読中
・氷室冴子のクララ白書の作中の劇『狭穂彦の叛乱(狭穂彦と狭穂姫)』あの髪の毛の -
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愛は、かげろう。
ずっと続く愛なんてないのに、同じことを繰り返している。
愛している、という言葉のなんと薄っぺらいことか。
物語の最後が冒頭の場面につながっているのは、そのことを象徴しているかのようだ。
場所も時間もバラバラのエピソードが積み重なっていって、彼とか彼女とかの人称代名詞だけで語られるエピソードもあるので、誰と誰が同一人物で、どのように物語がつながっているのか、最初は謎だらけだった。
それが読み進めていくうちに、だんだんと全貌が明らかになっていくという構成は、意欲的だと思う。
内容的に、好きか嫌いかという基準で言うと、それほど好きな物語ではない。
澁太吉の身勝手さは昭和の男その -
購入済み
臨界前に訳した日本昔話
この「特別試し読み版」は、中世前期に鎌倉時代が成立した頃にできた『宇治拾遺物語』のなかから「瘤取り爺さん」を抜粋し、現代作家によるその翻訳を読めるようになっている。これは誰でも子供のときから知って記憶してるお伽話の一つだ。ただ、現代の日本人で中世当時鎌倉時代の世相がわかる者はほとんどいない。そこで現代の風俗を入れたようにして翻訳する意味は大きい。ここでは登場する鬼どもは、赤や青のほかに黒い皮膚のがいてそいつはゴールドのふんどしを締めていたりする。カラフルである。今、都会の繁華街の外国人らの路上飲みが問題になっている。派手な衣装で髪の色も肌の色もさまざまで酔っ払った彼ら彼女らに囲まれたりするとち
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福永武彦自身の体験がもとになった私小説の雰囲気漂う、著者の中では数少ない作品の一つである。主人公の汐見の純粋すぎるがゆえに、後輩の藤木やその妹の千枝子との恋愛感情をこじらせている様は、非常に胸が痛んだ。ひねくれた性格によってこじらせる場合もあるが、純粋すぎる性格によってこじらせる場合もあることをこの作品で認識することができた。
自分はここまでの純粋な気持ちを持っていないので、なぜここまで汐見が戦争や孤独、恋愛に対して深く考え、潔癖であろうとするのか、理解に苦しむ部分もあった。戦中の時代だからこその感情なのかもしれないが、当時の若者とは少し違う感性、考え方を持っているがために、自分を苦しめてしま -
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ネタバレ上条慎吾、というひとを追悼するために書いたのかな、と思うけれど、(モデルがいるのかどうかはわからないけど)そのわりには上条の魅力が伝わってこない。
何かを創り出したくて、できなくて、教師や評論をやっている自分を恥じている。異国で知り合った女性に惹かれ、でも家庭を捨てることはできず、どちらも傷つける。
外では、人たらしだったっぽい。
それと、終始、上条の妻のことが悪し様に書かれているのがとても気になる…
オ前ガソノ時本当ニ欲シカッタモノハ何ダロウ。 平和ナノカ、眠リナノカ、タダオ前ヒトリノ孤独ナノカ。
自死した娘に対しての、上條の呼びかけが、じわじわくる。結局は「孤独」についてのはなしなのか -
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ネタバレ生と死を語るときにもっとも大事なのは、その語り手が何者であるかがはっきりとしていることなのではないかと思う。大切なことほど誰が言っているのかというのは重要視したい。
「告別」においては生と死に関する思考の中心にいる上条慎吾の存在を掴みきれぬまま読み終えた気がする。だからか書かれている言葉と思想に惹かれそうになっても、あと一歩近づけなかった。
小説の構成も独特だ。上条慎吾とその友人の語りが交互になって上条という人間を描くも、時系列がかなり複雑に行き来しているように思えた。
読んでいていちばん感じたのはこの友人がどれだけ上条慎吾の心から遠いかということで、そのこと自体に、人の心には決して近づけず -
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汐見茂思、あまりにもピュアすぎ。私には読む資格ないのではないかと思いながら、最後まで読んだ。
「愛することは傷つけること」という汐見君の言ってる意味が初め分からなかったのだが、汐見君ほど相手のことを自分の理想と重ねて、その相手と一体でいたいと思われたら、そして「愛されないなら死んだほうがまし」とまで思われたら、そりゃあ、相手は重くて重くて、それに応えたら傷つくかもしれない。でも、この小説の中の登場人物は、こんな私のようにレベルの低い思考回路ではなく、みんな凄い理知的で研ぎ澄まされているのだ。
汐見君のように現実の怖さから目を背けないで悲しく生きるのと現実から目を背けて楽観的に生きるのとど -
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40歳で画家の渋太吉は、一人旅の途中で安見子という女性に出会います。二人は急速に心を惹かれあい、関係を結びます。太吉には、妻の弓子と息子の太平、そして母親とともに暮らしていましたが、妻と母の折りあいが悪く、自分が自由をうしなっていると感じた弓子は彼の家を出ていってしまいます。その後、太吉は旅先で出会った女性と再会しますが、驚いたことに彼女は、太吉の親友である心理学者の古賀信介の妻でした。太吉は安見子との密会をかさね、彼女といっしょになりたいと話しますが、安見子はそんな彼の想いを知りながらも、現在の家庭を捨てることはできないといいます。
その一方で、太吉や弓子をはじめとする登場人物たちの関係が -
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著者が加田伶太郎のペン・ネームで発表したミステリ作品八編と、「素人探偵誕生記」というエッセイを収録しています。なお「解説」は、ミステリ作家の都筑道夫が執筆しています。
伊丹英典という古典文学の研究者が探偵役となり、研究室の助手である久木進がワトソンの役目を務めて、二人がさまざまな難事件にいどむ連作短編集となっています。純文学作家がミステリの枠組みをとりこんで書いた小説ではなく、福永武彦名義の小説作品とはべつに、本格ミステリとして読まれることを志向して書いた小説といえるように思います。
とはいっても、「解説」で都筑が「謎と論理が二本の足であって、トリックは自然で奇抜なものが出来ればあってもい