福永武彦のレビュー一覧
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このトシになって、ようやく、日本のあらゆる物語には、古事記と源氏物語のエッセンスがあるんだよなあ(八犬伝とか)、と思い、やや観念して読み始めたのが、福永武彦の古事記。
ネットでみると鈴木三重吉バージョンのほうが圧倒的にシェアが広そうなので、いずれはそちらでも読もうかな。
しかしまあ、これは家系図をつけてほしい作品ですね。
福永武彦の優しい喋り方が新鮮でした。
こうの史代の古事記とか、ほかの子ども用の読み物から、私にも事前にいくらかの知識はあったが、
・荻原規子の勾玉三部作(とくに空色勾玉と白鳥異伝)ちょうど再読中
・氷室冴子のクララ白書の作中の劇『狭穂彦の叛乱(狭穂彦と狭穂姫)』あの髪の毛のセリフはこういうことだったのか
・田辺聖子『隼別王子の叛乱』これって悪役は仁徳天皇だったのか…すっかり忘れてた。たしかに悪の先妻?で岩姫ってひとが出てきたけど、空色勾玉にも岩姫って言うオバアサンがいたなあ。
・そういえば手塚治虫『火の鳥』、途中で止まってたな…読まないと…
ということを感じつつ読んだ。
神話の神々の話から、実在の天皇までを繋ぐ物語。
読み物としてはやはり前半のほうが面白いね。
天皇時代の物語は権力闘争ばかりになり、現代人からみれば、登場人物の多くは名前の長いサイコパスなのだけど、
・兄弟は割と仲悪いが、たまに仲良し兄弟もいる
・夫婦仲は良い、が一夫多妻制ゆえの女性の権利=ゼロ具合が辛い
・同母兄弟だったら、こんなに内ゲバ戦争や後継者争いは無くても済むのでは?
・朝鮮半島からの登場人物もちらほら。高い職能で以て、日本でも活躍し大切にされてきた人たち。朝鮮半島での神話に日本はどんな立ち位置で描かれているのだろう?古事記では個人への敬意はともかく、朝鮮王族への敬意は感じられなかった
・ヤマトタケルの激しいバイオレンスがしんどい。すぐ他人を殺すヒーロー。これが《無限の住人》の天津の原型なんだよな…。最愛のオトノタチバナ姫がいるのに、他の女(正妻)と結婚してるところも一緒だよ。
・ヤマトタケルの葬式で歌われた歌は、いまの天皇の葬式でも歌われてるらしい。すごいねー、すごい。
・仁徳天皇は天皇位につくまではけっこう良い人だったのに
終盤に出てきた、オオオ、という名前の美少女は、世界中にいるという、あああ、という名のゲーム主人公勇者の存在を思い出した。(※オオオは大魚のこと)
近畿地方に住んでいると、これらの神話は非常に身近な物語になるので嬉しい。
兎我野は今は大阪北区の歓楽街だし、奈良や滋賀、北陸中国九州のいろんな地名がきらきらと見える。
いまなお残る地名の由来が、あちこちに出てきて楽しい。
イルカの血だらけだった血浦≒角鹿(敦賀)とか。
そういえば、「五月蝿い」という表現がアマテラスやスサノオ周辺に2回も出てきたので、もしや原文もその表現なのでは?と思って調べたら、たしかに古事記原文にも『音如狭蝿』…狭蝿(さばえ)=田植えの頃の蝿のようにうるさい、とあった。歴史ある表現なのですねー。 -
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愛は、かげろう。
ずっと続く愛なんてないのに、同じことを繰り返している。
愛している、という言葉のなんと薄っぺらいことか。
物語の最後が冒頭の場面につながっているのは、そのことを象徴しているかのようだ。
場所も時間もバラバラのエピソードが積み重なっていって、彼とか彼女とかの人称代名詞だけで語られるエピソードもあるので、誰と誰が同一人物で、どのように物語がつながっているのか、最初は謎だらけだった。
それが読み進めていくうちに、だんだんと全貌が明らかになっていくという構成は、意欲的だと思う。
内容的に、好きか嫌いかという基準で言うと、それほど好きな物語ではない。
澁太吉の身勝手さは昭和の男そのものだし、かと言って、安見子を始めとする女性陣にも共感はできない。
誰にも共感できず、図太くなければ死に向かい、それでも澁はしたたかに生き続けるのだろう。
過去に関係を持った女性たち、という霞みがかった美しい思い出だけを胸にしまって。 -
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臨界前に訳した日本昔話
この「特別試し読み版」は、中世前期に鎌倉時代が成立した頃にできた『宇治拾遺物語』のなかから「瘤取り爺さん」を抜粋し、現代作家によるその翻訳を読めるようになっている。これは誰でも子供のときから知って記憶してるお伽話の一つだ。ただ、現代の日本人で中世当時鎌倉時代の世相がわかる者はほとんどいない。そこで現代の風俗を入れたようにして翻訳する意味は大きい。ここでは登場する鬼どもは、赤や青のほかに黒い皮膚のがいてそいつはゴールドのふんどしを締めていたりする。カラフルである。今、都会の繁華街の外国人らの路上飲みが問題になっている。派手な衣装で髪の色も肌の色もさまざまで酔っ払った彼ら彼女らに囲まれたりするとちょっとビビッてしまう。しかし、中世の鬼は異界に属しスーパーナチュラルな存在である。これは鎌倉時代にこの説話に何を込めて伝え残したかったのだろうかと千年前の時空を覗くきっかけとなるであろう。この説話のしめくくりは「物うらやみはすまじき事なりとぞ。」
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福永武彦自身の体験がもとになった私小説の雰囲気漂う、著者の中では数少ない作品の一つである。主人公の汐見の純粋すぎるがゆえに、後輩の藤木やその妹の千枝子との恋愛感情をこじらせている様は、非常に胸が痛んだ。ひねくれた性格によってこじらせる場合もあるが、純粋すぎる性格によってこじらせる場合もあることをこの作品で認識することができた。
自分はここまでの純粋な気持ちを持っていないので、なぜここまで汐見が戦争や孤独、恋愛に対して深く考え、潔癖であろうとするのか、理解に苦しむ部分もあった。戦中の時代だからこその感情なのかもしれないが、当時の若者とは少し違う感性、考え方を持っているがために、自分を苦しめてしまっているのだろうか。そうなのではないかと思いながら読み進めていたため、自分も辛くなってしまう場面がいくつかあった。ここまでの長文を手記として綴った汐見の文章力には脱帽である。 -
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ネタバレ上条慎吾、というひとを追悼するために書いたのかな、と思うけれど、(モデルがいるのかどうかはわからないけど)そのわりには上条の魅力が伝わってこない。
何かを創り出したくて、できなくて、教師や評論をやっている自分を恥じている。異国で知り合った女性に惹かれ、でも家庭を捨てることはできず、どちらも傷つける。
外では、人たらしだったっぽい。
それと、終始、上条の妻のことが悪し様に書かれているのがとても気になる…
オ前ガソノ時本当ニ欲シカッタモノハ何ダロウ。 平和ナノカ、眠リナノカ、タダオ前ヒトリノ孤独ナノカ。
自死した娘に対しての、上條の呼びかけが、じわじわくる。結局は「孤独」についてのはなしなのかな。
「形見分け」の方がおもしろかった。
海辺の洋館、記憶喪失の画家。
画家とふたりで閉じこもることを選んだ「さっちゃん」。
ミステリになりそうな予感が好き。
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Posted by ブクログ
ネタバレ生と死を語るときにもっとも大事なのは、その語り手が何者であるかがはっきりとしていることなのではないかと思う。大切なことほど誰が言っているのかというのは重要視したい。
「告別」においては生と死に関する思考の中心にいる上条慎吾の存在を掴みきれぬまま読み終えた気がする。だからか書かれている言葉と思想に惹かれそうになっても、あと一歩近づけなかった。
小説の構成も独特だ。上条慎吾とその友人の語りが交互になって上条という人間を描くも、時系列がかなり複雑に行き来しているように思えた。
読んでいていちばん感じたのはこの友人がどれだけ上条慎吾の心から遠いかということで、そのこと自体に、人の心には決して近づけず誰しもが孤独を抱えて生きるというメッセージを受け取れはするのだけど、それ以上の意味を本作からは見出せなかった。この友人は作者自身を投影した者か、もしくは上条慎吾のゴーストと仮定して読んでいけば、物語の視え方が変わるだろうか。
作品としては二作品目の「形見分け」を興味深く読んだけれど、「告別」のほうが作者に近づける作品だという気がした。