福永武彦のレビュー一覧
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『草の花』『海市』につづいて福永先生の作品を読むのは三冊目。
連作短編集で、父の語りに始まり娘二人、娘の知り合い、妻など家族それぞれの立場からそれぞれの悩みを描き、ラストはまた父の語り。語り手は変わるが物語は進行しています。
一読しただけでは語るのが難しくて、読後もなかなか感想を書けずにいたので、また再読したいとおもいますが、冒頭とラストの父の章が最も印象的でした。これ昭和39年に書かれたんですよね、始まり方が斬新でした。戦死した友人の雨天下の瞳の描写や、賽の河原を訪れる場面等々、福永先生ならではの美しい描写。
一言では語れないので、何度も読み込んで理解したい作品です。
個人的には『草の花 -
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『草の花』が好きすぎて、氏の他の作品も読んでみようと手にとった2作目。
文章がとにかく好きなので、蜃気楼を見に行く冒頭から世界観に浸らされて酔いました。
「私」こと画家の渋の視点で語られる一人称の合間に、「彼」「彼女」の三人称視点をはさむことによって、物語の全体像が少しずつ明らかになっていきます。『草の花』しか読んだことがなかったので、福永さんってわりと構成にこだわるんだな〜というのが新鮮でした。『草の花』のノートという構成もすごく好きですが。
さて、内容ですが。
安見子さんと接近してからは、やたらとホテルでいちゃこく渋さん‥‥‥。彼の悩ましい語り口と、そのいちゃこきっぷりのギャップに「うー -
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美しい筆運び、とぎすまされたみずみずしい感性の文章がいい。特に「第一の手帳」が好きだ。青春の輝き、うつろいをかくも美しく書けたらいいなーと思わされた。三島由紀夫もその美少年「藤木忍」にいたく魅せられたと書いている。
サナトリウムで知りあった主人公汐見茂思(しおみしげし)は、無謀とも思える手術を進んで受け死んでしまった。雪の朝、語り手に残された手記を読んでいくと、戦争の影におびえる青春の悲劇があり、孤独な一人の青年の魂の鎮魂歌がせつせつと語ってあった。
『生きるということは、その人間の固有の表現だからね。』
『思い出すことは生きることなのだ。』
芸術家は作品を残すことによって未来を持つかも -
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短編八編を収録しています。
「未来都市」は、人間の非理性的な性格を消し去ることが可能になった都市にやってきた一人の芸術家を主人公とする、寓話的な作品です。時代背景を考えると、マルクス主義の芸術観に対する抵抗の意味が込められているのかもしれません。
「廃市」は、ひと夏のあいだ田舎の旧家ですごすことになった大学生の男が、その家に暮らす姉夫婦と妹とのあいだの愛憎劇を目撃することになる話です。
「退屈な少年」は、ひとりで心のなかに思いえがいた「賭け」に熱中する中学二年生の謙二を中心に、彼を取り巻く家族たちをえがいた作品です。端正な文体で、少年から青年になろうとする不安定な時代の心をえがいており、 -
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サナトリウムで療養生活を送ることを余儀なくされた「私」は、おなじ部屋の汐見茂思という男と知りあいます。彼は、周囲の反対を押し切って危険な手術を受けることをきめますが、その結果は彼に死をもたらすことになります。
「私」は汐見から託された二冊のノートを読み、彼がそれまで歩んできた道について知ることになります。そこには、弓道部の後輩である藤木忍と、その妹の藤木千枝子への愛と挫折がつづられていました。
プラトンの説く愛を信じ、それにしたがって藤木を求めた汐見は、そのために藤木を孤独へ追い込んでしまいます。一方、汐見の信じるようなプラトンの愛が現実において成立することを受け入れられない千枝子は、神へ