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誇り高い姉と、快活な妹。いま、この二人の女性の前に横たわっているのは、一人の青年の棺。美しい姉妹に愛されていながら、彼はなぜ死なねばならなかったのか……? 夏雲砕ける水郷に茜の蜻蛉の舞い立つとき、ひとの心をよぎる孤独と悔恨の影を、清冽な抒情に写した秀作「廃市」。ほかに「飛ぶ男」「樹」「風花」「退屈な少年」「影の部分」「未来都市」「夜の寂しい顔」の7編を併録。
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Posted by ブクログ
安部公房という名前をチラホラ見るが、彼よりも情緒的で、かなり感情の部分を大切にしている気がする。 著者の描きたい事・目線はどちらかと言うと康成寄りなのかも。 レベルの高い短編集だった。
『夜の寂しい顔』 僕に欠けているのは、存在の感情なのだ。 親戚に預けられて心に空白を持つ少年。 夜ごとにある少女の夢を見る。 ある夜少年は、その少女の顔が自分そっくりだと気がつく。 僕の本当の存在が毎晩僕を訪れて来るのだ。 『影の部分』 心休まらない家庭を持つ売れない画家の僕は、ある母娘の...続きを読むもとを訪れていた。 だが娘が嫁に行ったことによりその訪問を取りやめていた。 母は、あなたは娘を愛していたのだと言い、 娘は、あなたは母を愛していたのだと言う。 僕の心はどこにも行けずに漂っている。 『未来都市』 ヨーロッパに滞在する画家の僕は、ふと立ち寄った「自殺酒場」で毒酒を煽る。 だが僕は死なずに「未来都市」に招かれた。 そこは「哲学者」が規則を決め、希望と幸福に向かった世界だった。 しかし負の感情のすべてを排斥したその未来都市は、人間の個性を潰し過去を忘れてゆくものだった…。 『廃市』 かつて僕は卒業論文のために、掘割の巡るある町に滞在していた。 僕がお世話になった家には、明るく爽やかな安子という娘、その姉で気品があり静かな強さを持つ姉の郁代、郁代の夫で貴公子然とした直之がいた。 しかし郁代は、直之が別の女性を愛していると言って、彼らの邪魔にならないようにと家を出て寺に滞在しているという。夫の直之は、自分が愛しているのは郁代一人だと言っても聞いてもらえず、やはり家を出て他の女性と暮らしていた。 一人の男と二人の女の愛のすれ違い。互いを思いやろうとして自分だけの道を突き進んでいて、その思いは空回りしあっている。 「こんな死んだ町は大嫌い。なんの活気もない。だんだんに年を取って死に絶えてゆく町」 「この町の掘割は人工的なものでしょう、従ってまた頽廃的なものです。町の人たちも本質的に頽廃しているのです。私が思うにこの町は次第に滅びつつあるんですよ。正規というものがない。あるのは退屈です、倦怠です、無為です。ただ時間を使い果たしてゆくだけです」 「人間も町も滅びて行くんですね、廃市という言葉があるじゃありませんか、つまりそれです」 『飛ぶ男』 彼は病院のベッドでただ死ぬことを待っている。 彼は病院のエレベーターに乘り病院から出る。 意識が二分される。一つは彼の魂、一つは彼の肉体。 彼は幼い頃から空を飛ぶことを夢に見ていた。 彼は橋の上から病院の窓を見る。 地球の終わりの日に重力がなくなりすべてのものが宙に浮く。彼も浮く。地球が砕けて宇宙の地理となるときに、初めて人間は空を飛ぶことができるのだろう。なんと自由なのだろう。空気のない宇宙空間に彼の死骸が漂い流れる。 彼の見つめる窓から、一人の男が空に飛び立つ。飛んでいる、軽やかに空中を飛んでいる、それを見ている彼の顔に初めて会心の微笑が浮かぶ。なんと気持ち良さそうにその男は空を飛んでいることか。(P199) === 物語は冷静な第三者により語られる。 死を待つだけの停滞した時間、地球が泯びる悲鳴、しかし最後の瞬間に空を飛ぶその自由。 最後の場面は…融合したの?? 『樹』 売れない芸術家の夫は、貧しいながらも妻と娘を愛して、彼の画く絵には妻の面影があった。 だが個展のために描いた絵は彼だけのものであり妻の影はなかった。 その絵を見た妻はある決意をする。 『風花』 療養所にいる男は窓から風花を眺める。 いつ出られるかわからない自分に疲れて、妻は自由になりたがっている。子供は自分を忘れるだろう。 だが自分の道のあとにはかすかながら足跡がついているに違いない。だからそれでいい。 「風花のようにはかなくても、人は自分の選んだ道を踏んで生きていくほかはないのだろう。」(p247) 『退屈な少年』 母親をなくしたある一家の光景。 再婚を望む父、その父に望まれた若い娘、友人との関係でガールフレンドとの行き先に陰が挿した兄の舜一、そして思春期ただなかの弟謙二。 少しずつ心が動き、そして心の中の微妙な変化は今後も決して消えずに彼らの行く先について行くのだろう。
長いこと読み終え無いまま放置していた小説をようやく読み終えた。 感動するくらい日本語が綺麗。久々に有機的な物語を読んだ気がして、昂ぶるものがあります。 福永武彦の小説はこれが初めてだったのですが、もっと読みたいですね!
短編八編を収録しています。 「未来都市」は、人間の非理性的な性格を消し去ることが可能になった都市にやってきた一人の芸術家を主人公とする、寓話的な作品です。時代背景を考えると、マルクス主義の芸術観に対する抵抗の意味が込められているのかもしれません。 「廃市」は、ひと夏のあいだ田舎の旧家ですごすこと...続きを読むになった大学生の男が、その家に暮らす姉夫婦と妹とのあいだの愛憎劇を目撃することになる話です。 「退屈な少年」は、ひとりで心のなかに思いえがいた「賭け」に熱中する中学二年生の謙二を中心に、彼を取り巻く家族たちをえがいた作品です。端正な文体で、少年から青年になろうとする不安定な時代の心をえがいており、古い作品ながら現代にも通じるようなテーマに感じられました。 「影の部分」と「飛ぶ男」は、文体などの点で実験的な試みがなされている作品です。「未来都市」ほど寓話的な内容が明確に語られているわけではありませんが、個人的にはとりわけ「飛ぶ男」が強い印象をのこしています。
「未来都市」を読んで「新世界より」(貴志祐介)を、 「退屈な少年」を読んで「喪失」(福田章二)を連想した。 福永武彦はすごいね、作風に倦怠がない。似たテーマ(死と絵描きと三角関係)はあるけれど、どれを読んでも読後の印象がすごい(ボキャ貧)。 もうちょっと考えてから書き直します。
「廃市」はボクの「人生の最期に読みたい本」候補のひとつです。 映画化もされました。 「死都ブリュージュ」にインスパイアされて書かれたという話も聞いています。
短編集。少年に焦点を当てた「夜の寂しい顔」「退屈な少年」に挟まれ、愛と死と孤独に震える六編が収められています。福永文学の代表である、夢と現実の狭間で自己意識と対峙する人物や、河のある静謐な描写に貫かれた一冊。私は特に「廃市」が好き。
初めて『廃市』を読んだとき、多分まだ中学生くらいで、美しい街並みと古き良き日本の古都のイメージは鮮明に浮かぶのに、登場人物達の心情はいまいち理解できなかったし、よくわからなかった。大人になった今、読み返してみて、、 子供には分かりませんよ、こんな本読んで自分はませてたなあ、と思います。
幾つかの作品が収録されているが、表題になっている「廃市」と「飛ぶ男」とでも話としてみると印象がまったく違う。ちなみに私は「廃市」と「退屈な少年」が好きです。描かれる情景などは美しいけれど、そこに色味はなく、ただ灰色の世界。
のっけから比喩のこねくり回しで始まる短編集。安部公房のフォロワーかと思いきや、同世代に活躍していた「戦後派」の純文学の旗手だった模様。 この本の中で、やはり一番印象に残るのは「未来都市」だろう。異常ノイロンを修復し、犯罪は一切起こらない都市における反乱と離脱。アイデアからメカニズムが明確に打ち立て...続きを読むられ、その中での矛盾を見出す。 他の作品も、物語の外殻は非常に緻密で強力なのであるが、つい癖で些細な人の出入りだの感情の起伏だのを追ってしまい、幹であり殻になっている部分を読み飛ばすと、よくわからないまま終わってしまう。 内容は全て難しいわけではないが、動きが少ないので読むのに非常に時間がかかる。文学というより「文芸」というジャンルなのであろう。 また、スノッブな純文学の特徴かもしれないが、ダメな男によろめく女性が出てきて「ホラあなたはスデに私を好きにナッてしまっているではないですか」的な話が多いので、その辺は「よくあるネタ」と言うかたちで読み飛ばせばよいのかどうなのか。 安部公房ほど追ったり追われたりしないので、どうも焦点のあっている部分をフォローしづらい。文はうまいんだけど、外殻ではなく骨を読みたい人間にはあまり向かない。
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