福永武彦のレビュー一覧

  • 忘却の河

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    とにかくすごい小説だった。
    寂しくて哀しくて、過去と現在が入り乱れる、揺蕩うような物語。文章がひたすらに美しい。
    忘れたまま生きていくということ。
    父親のパートでの、こちらの文章が印象的だった。
    「私が物語を選んだのではなく、物語の方が私を選んだのだ。」
    作中ではサルトルの劇が演じられるが、まさにサルトルのいう、「地獄とは他人である」という世界をこの小説で描こうとしたのかもしれない。

    立体的に描かれていく家族の歪みと澱。生きることの罪。捨てていくこと。サルトルの「他者」。お見合い結婚の時代だからこそのままならない諸々のこと。秘密。賽の河原。愛と死。忘れるけど忘れないこと。死に近いから愛するこ

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    2021年09月27日
  • 草の花

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    ネタバレ

    ひたすらに孤独な青年の恋と愛の物語。

    サナトリウムに入っている私は手術で帰らぬ人となった汐見からノートを託される。そこには汐見が愛した二人の人、藤木忍とその妹千枝子との想い出が綴られていた。忍には渇望に似た感情を持ちつつも忍から拒絶され、千枝子には青年的な恋を心に抱えつつ、結局は汐見は孤独を選ぶ。

    悪人や意地悪な人が出てこない、優しい人しかいないのに、それでも汐見は孤独だったということが、ひたすら寂しい。

    想いを寄せられた兄は戸惑うばかりで妹は汐見の持つ兄というフィルターに困惑。解説の「夢を見る人」として、藤木兄弟から恐れられた、というのは寂しいけれど真実なのだろう。

    恋も愛も難しい。

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    2021年08月28日
  • 草の花

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    サナトリウムで望みのない手術を自ら受け、帰らぬ人となった汐見。彼は、同部屋で親しくしていた「私」に二冊のノオトを遺していた。
    物語は、この二冊の手記が中心となっている。

    一冊目、「第一の手帳」
    汐見が十八歳の時に下級生の藤木を愛した過去が、H村での弓道部合宿をメインに描かれる。
    汐見は忍をプラトニックな愛(友情)で激しく愛するのだが、忍はしだいに汐見から離れていく。そして悲しい結末が訪れます。
    (私はこの一部を中学の現国問題集で読み、腐女子だったので「はっ!ボーイズラブが!」と短絡的思考でテンションを上げて、その日に本屋に寄って購入しました。この出来事をきっかけに小説を好んで読むようになった

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    2021年05月22日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    楽しかった♪
    町田康さんのラジオ出演から2年ぐらい経ってしまったけど、大変面白く読ませていただきました。
    次は何にしようかな?

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    2020年11月03日
  • 古事記物語

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    思ったより読みやすい。1957年の作品とは。
    断片しか知らなかった話がこのようなかたちであれ、やっと通して読めた。
    神話らしいダイナミズムがあり、思いもかけない展開があり、ときに人情と道理が示される。

    物語の特徴
    ・動物と人間がほぼ対等
    ・神様といえダメなやつが目立つ
    ・生と死がありふれている
    ・死後の世界が身近

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    2020年05月04日
  • 草の花

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    情景が美しい。
    美しすぎるからこそ、現世に遺す若者の悔恨の情が痛々しいほどに伝わる。

    戦争、結核。
    抗いえない運命に、神も信じられず人も信じられず、孤独なまま死ぬ男。

    「神=愛」というものが存在するならば戦争は起こりえるのかという問いを忘れないようにしたい。

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    2020年03月28日
  • 草の花

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    汐見茂思はサナトリウムで見込みの少ない手術を望んでそのまま死んだ。
    ”私”は汐見と年が近く、彼から手記を残された。

    汐見が生涯で愛したのは、高等学校で一学年下の藤木忍と、その妹の千枝子だった。
    高等学校で汐見が藤木に望んだのは、魂が共鳴し合うような友情を願っていた。
    しかし藤木は自分はその想いに値しないと答えるのだった。
    藤木はその二年後に病を得て死んだ。

    汐見は藤木の家に残された母と妹千枝子のもとを訪れる。
    千枝子との恋愛は静かに進んでいた。汐見はそのつもりだった。
    しかし汐見には独自の孤独があった。それは信仰でも埋められない孤独だった。藤木のような若者が突然死ぬ。自分の学友たちが次々に

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    2021年12月17日
  • 廃市・飛ぶ男

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    『夜の寂しい顔』
      僕に欠けているのは、存在の感情なのだ。
    親戚に預けられて心に空白を持つ少年。
    夜ごとにある少女の夢を見る。
    ある夜少年は、その少女の顔が自分そっくりだと気がつく。
      僕の本当の存在が毎晩僕を訪れて来るのだ。

    『影の部分』
    心休まらない家庭を持つ売れない画家の僕は、ある母娘のもとを訪れていた。
    だが娘が嫁に行ったことによりその訪問を取りやめていた。
    母は、あなたは娘を愛していたのだと言い、
    娘は、あなたは母を愛していたのだと言う。
    僕の心はどこにも行けずに漂っている。

    『未来都市』
    ヨーロッパに滞在する画家の僕は、ふと立ち寄った「自殺酒場」で毒酒を煽る。
    だが僕は死な

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    2020年02月29日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    なにがすごいって、町田康による宇治拾遺物語。身も蓋もないというか、人間ってこんなもんなんだなとげらげら笑える。

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    2018年08月06日
  • 忘却の河

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    草の花から続けて読んだ、福永武彦作品。
    藤代家の主人である「私」の独白に物語は始まり、語り口は彼の家族へ移りながら、ゆっくりと進行してゆく。
    愛するということと、愛されていると感じること、其々に家族は苦悩を抱いており、日常と過去がシームレスに展開する中で、いつでも彼らは自分の心を探している。
    福永武彦の巧みで独特のテンポ持つ文章はとても心地良く、酔いしれながらも読み進めてゆくと、作品を通して深い意識の中に潜っていってしまうような感覚があった。
    綿密に練られた全七章からなるその構成は、これ以上無いくらいに読み易く、読後はとても爽やかな気分になれる。無人島に一冊もっていくなら、僕は迷わずこの一冊を

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    2018年03月31日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    仏法説話集4作品を集めたもの。
    仏教の教えに基づき、どう生きるかなどのテーマをわかりやすく説話形式に。
    4編とも何となく似ていたり、同じテーマがあったりして、読んでいるうちに自分がどれを読んでいるのか分からなくなってきた(笑)
    読みながら日本が仏教でなく神道が主流になったらどのような説話集になったのだろう?と思った。仏教説話集だと「被害者になったのも因果応報」「お経を唱えて死ねば極楽に行ける」という結論なのでちょっと消極的と感じてしまうことも。
    いくつか「ラテンアメリカ文学で読んだぞこのテーマ」と思ったら巻末の解説でも描かれていました。距離と時代が隔たっていても人が語る物語は似るのだろうか。

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    2018年02月11日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    昔話は大好きで、若かりし頃岩波文庫なんかで、多少エロいやつなんかを読んで、感心したりしたものだった。
    やはり、町田康の宇治拾遺は期待を裏切らない報復絶倒の内容で楽しかった。しかし、同じような内容でも福永武彦の今昔物語は芳香が漂うようで不思議。

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    2017年04月05日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    ネタバレ

    あんまりおもしろいので、もう少し、もう少しと読み進んでしまい寝れなくなる。
    伊藤比呂美訳が面白く、ドライなところが素敵。
    福永武彦訳はとても読みやすく、するすると入ってきます。
    町田康訳は異様に親しみやすいのですが、時代背景や流れを考えるとなるほど、こうなるなという……
    ストーリーの妙をストレートに楽しめる妙訳ばかりでした。

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    2016年11月05日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    宇治拾遺物語しか読んでないけど実に良かった。文章に芸があるから、こういう皆が名前だけ雰囲気だけ知っている作品をリライトすると相乗効果で作品が映える。

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    2016年06月11日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    ネタバレ

    どの説話もとても面白かったです。「瘤取り爺さん」のように私の世代の人ならだれでも知っている話も収録されていました。昔は日本人は性に対して開放的であったことがうかがいしれました。なにより笑ってしまったのは『宇治拾遺物語』の町田氏の訳文です。大阪弁のどぎつく、汚いことはなはだしい。「新妻が平仮名の暦を作って貰ったら大変なことになった話」ぶっ飛んでいます。ハチャメチャが楽しいです。でも、宇治って京都ですよね。この際そんなことは気にするな、って言われそうですが。『発心集』は仏教そのものですね。

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    2016年04月16日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    ネットで読んだのだと思うけど、どこかに「これは宇治拾遺物語の再発見だ」と書かれていて、まさにその通り! と膝を打った。
    ただ単に面白おかしく書かれているのではなく、原文の面白味を充分活かしていると知った時の衝撃たるや! 堅苦しいと思われていた古典がこんなに愉快によみがえるとは思いもしなかった。

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    2016年02月17日
  • 忘却の河

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    絶版になったと聞いて、散々捜し求め、やっと入手した本。
    以前「草の花」を読んだ時、ひどく落ち込んだ気分になったので
    恐る恐る最初のページをめくった。
    前作からなんと10年の月日を隔てた288pに及ぶ長編とあって、
    文体もかなり現代に近く、読みやすかった。(しかも回りくどくなくね(笑))
    著者の想いが伝わってきて、不思議とすらすらと一気に読めた。

    藤代家の四人の家族と、周囲の人々のそれぞれの心の動きが
    一編ずつ綴られていて、そのあまりにも切ない感情が、読んでいて
    ひどく辛かった。
    主となる登場人物に、「彼」と「僕」、「彼女」と「私」
    という微妙な隔たりがあるが、それを行き来するうちに、だんだん

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    2015年09月22日
  • 忘却の河

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    悲劇をやさしく包み込む傑作。発想となったのは著者が旅行の途中で見た石見の国波根の海岸の風景なんだそうだ。

    「この作品の全体にあの海岸の砂浜に響いていた波に弄ばれる小石の音が聞こえている筈である」

    冷たい波に弄ばれて「恋しい、恋しい」と犇めく人たち。読み終わったばかりだがもう一度読みたい。

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    2015年09月22日
  • 堀辰雄/福永武彦/中村真一郎

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    同名のアニメですっかり有名になってしまった『風立ちぬ』でなく、「かげろうの日記」とその続篇「ほととぎす」を採ったのは、大胆な新訳が売りの日本文学全集という編者の意図するところだろう。解説で全集を編む方針を丸谷才一の提唱するモダニズムの原理に負うていることを明かしている。丸谷のいうモダニズム文学とは、
    1 伝統を重視しながらも
    2 大胆な実験を試み
    3 都会的でしゃれている
    ということだが、堀辰雄の「かげろうの日記」は、「蜻蛉日記」の現代語訳ではなく歴とした小説である。言葉遣いこそ王朝物語にふさわしい雅やかな雅文体をなぞっているが、主人公の女性心理はまぎれもなく近代人のそれであり、自意識が強く、

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    2015年04月13日
  • 海市

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    大学卒業して、社会人になるというときに母に勧められた本。何故勧められたのかは今でもわからない。情景描写がとても美しい作品だった

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    2014年12月27日