福永武彦のレビュー一覧

  • 草の花

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    サナトリウム。
    私が生まれた時にはもうなかった施設だから、何かの作品を通して知ったのだろうけれど、それが何だったかは思い出せない。
    結核、消毒の匂い、死、孤独、別れ、見送る者と見送られる者。
    避けたいものばかりのはずなのに、心の奥底に憧れの気持ちがあるのは何故だろう。

    孤独と愛。
    孤独への愛。

    人は結局孤独なのだから、愛は全て独りよがりのもので。
    それなのに人は人と繋がりたいと思ってしまうし、愛について深く考え込み、何がしかの他者への行動の理由に愛を据えてしまう。
    人のもつ矛盾は全てここから来ているのではないかと思う。

    この小説を読みながら、ずっとBUCK-TICKの櫻井さんのことを思っ

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    2025年12月11日
  • P+D BOOKS 廃市

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    〈それでもいい。彼は人を愛し、人に愛された記憶を持ち、ただ自分ひとりの命をいとおしんで生きて行くだろう、――命のある限りは。風花のようにはかなくても、人は自分の選んだ道を踏んで生きて行く他はないだろう。〉

     特に印象に残ったのが、詩的な味わいと美しい余韻が残る「風花」で、次に印象的だったのが、寂れた街での三角関係の顛末を描く「廃市」でした。どうにもならなくなってしまったものへの諦めにも似たような感情が、ドライな文章の中からただよってきて、とても愛おしくなる作品集でした。

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    2025年05月29日
  • 草の花

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    愛の限界の話しであり、反キリスト的な思考で、形而上の愛のイデアに自力で到達しようとする青春の話し。

    妥協を許さない青春期特有の、極度に潔癖な論理的思考が痛々しく、孤独な自我にどんどん追い込まれていきます。

    絶対的な愛(真理)に到達できずに、神に敗北する図式が悲劇的で美しいです。

    理想を相手に投影し同じ重さの愛を求める話しかと思いきや、もっと複雑で高レベルな話しですごく面白かったです。

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    2025年04月28日
  • 草の花

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    ネタバレ

     サナトリウムに入所中の汐見茂思は病魔に慄かず、自らを明かさない孤高さがあった。だが、半ば志願するように危険な手術に臨んだ彼は本当に孤高だったのか、それとも死を切望していたのを隠していただけか?
     青春時代の汐見茂思はプラトニックな愛を求めたが、相手--1人目は同性の後輩 藤木忍、2人目はその妹 千枝子--には断られてしまう。彼の愛は純粋で本物だったのか、彼の理知が生み出した理想に都合の良い相手が2人だっただけなのか、利己的な肉欲の言い訳だったのか?

     一人の男が死に、生きた。清らにも濁っても映る彼の生き様を紡ぐ文章に心震えた。私小説の要素を多分に含んでいるらしいが、他作品には無い美しさが本

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    2024年11月01日
  • 草の花

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    幸福になるために神に頼るのは罪の本質である。
    ”孤独“である為のに人を愛する孤独の自分を愛す、エーリッヒフロムも言ってましたね、愛されるために他者を自らを愛せと、正にその言葉が相応しい物語。愛があるから苦しみ、妬み、怒る、それこそが人間の最も重要な事でありその間に神の隔たりはない。過度な潔癖である汐見の美しい字であてられた2冊のノオトは実に素晴らしい読書体験を与えました、結末も素晴らしく斬新で読み終わった後の、”何かを失った“という感情に陶酔しましたね..脱帽

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    2024年04月16日
  • 現代語訳 古事記

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    古事記の内容を忠実に現代語訳されていると名高い名著。

    古事記自体が名前の描写が多く、読みづらくはあるものの一つ一つのストーリーの描写は示唆に満ちていてその本意を理解することは極めて難しい。しかし、古書ではあるもののその考え方は決して古くはなく現代の我々に欠けているものを補ってくれるものであるとさえ感じる。

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    2024年02月18日
  • 忘却の河

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    冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで知覚の記憶を忘れるという――。愛の挫折とそのないことに悩み、孤独な魂を抱えて苦しみを希求するまたの葛藤を描いた。

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    2024年01月26日
  • 忘却の河

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    人は人が亡くなった時に、思い出すようにして愛を確かめる。人類の死は繰り返されてきたけど、愛する人の死は個人的に確かな「死」また「愛」として訪れる。そんなメッセージを僕は受け取りました。
    生きるとは何か、愛とは何か、このありきたりな問いを新しい形で投げかけてくれる一冊です。

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    2024年01月10日
  • 草の花

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    儚くも純粋な愛を知りすぎるほど知ってしまった主人公。何にも勝ることなく孤独と向き合う。
    どの会話も心地よく読めた。美しい。

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    2023年12月23日
  • 草の花

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    今から50年程前の高校生の頃読んだ作品だが 本当にこの時期に出会えて良かった。この現代で初めて読む人達には色メガネをかけずに読めるのだろうか? 自由が不自由の内の自由から 自由を飛び越え過ぎ 多様化で自由の名の不自由な現代で このプラトニックな愛情を 人に紹介はできないのか?一生大事にしたい作品である。

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    2023年08月27日
  • 草の花

    匿名

    ネタバレ 購入済み

    静かに生涯を終えた汐見。
    なんて寂しく切ない話なんだろう。

    藤木への強い想いから始まり孤独の中で悩み考えつづけた汐見の人生と美しい描写に引き込まれた。

    #エモい #切ない

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    2023年07月22日
  • 草の花

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    すばらしい読書体験でした。 芸術家を志し、自分を靭(つよ)くすることに執着し、そして孤独を愛しすぎた男の、儚く切ない青春の物語。 藤木に対する、千枝子に対する盲目的な愛に、苛立ちすら感じてしまうのだが、目の前に情景が浮かんでくるような美しい文章が、主人公汐見の数奇な運命を救済しているような気がする。 しかし、なぜゆえに浮かばれぬ恋の顛末はこれほど人の心をうち震わせるのだろう

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    2022年09月17日
  • 廃市・飛ぶ男

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    安部公房という名前をチラホラ見るが、彼よりも情緒的で、かなり感情の部分を大切にしている気がする。
    著者の描きたい事・目線はどちらかと言うと康成寄りなのかも。
    レベルの高い短編集だった。

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    2023年01月01日
  • 草の花

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    作者の魂が乗り移った様な、登場人物のひたむきな愛の渇望や孤独に、言葉を失う一作。
    書簡形式はあまり得意ではないが、それを差し引いても引力のある一冊。

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    2023年08月16日
  • 海市

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    個人的には忘却の河よりも好みだった。
    作者の、こういった何も実らず深い哀しみがただ残るような話は、特徴的で一級品だと思う。
    登場人物よりも、それを動かす作者の心情に目を向けたい。

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    2022年09月03日
  • 草の花

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    心理描写が秀逸で、複雑な心のすれ違いもすんなり読み進められた。バイセクシャルの主人公というのは現代でも珍しいと思うが、当時はもっとインパクトがあったと思う。

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    2022年08月22日
  • 忘却の河

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    セピア色の、どこか寂しくて、だから純潔な心の在り方が、さらさらと水のように流れていく。確かに人の記憶は沈殿そのものだと思う。次第にそれ自体がその重みに耐えかねて、静かに沈んで忘れられてゆく。水面の震えに応じて、時々浮いてはまた沈んで。
    心に残るフレーズも時折。大好きな小説。
    蒼くて、深くて、涯がなくて。

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    2022年08月08日
  • 草の花

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     汐見の考えはわかるようでわからんが、彼は多くの人に確かに気にかけられ愛されていたと思う。それらが目に写ってなかったけど。自分のうちではなく、外に目を向ければひとりではないことに気付けたんではなかろうか。読むうちにやるせなせくなる。

    オリオン座の輝く冬に夜に読むと、美しい文章が、さらに身にしみる。

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    2022年01月10日
  • 草の花

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    一文一文が叙情に溢れ、その繊細で美しい文を身体に染み込ませながら読んだ。恋愛のみならず戦争の羅列があったのも、私には色々と感じ入るものがあり。汐見の孤独にも深く共感や既知感があり、夢中になって読んだ。名刺代わりの10選に必ず入れる一冊。特別な小説となった。

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    2021年10月05日
  • P+D BOOKS 夜の三部作

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    『人間を内面から動かしている目に見えない悪意のようなもの』著者が”暗黒意識”と言うものをテーマにした三つの中編小説。
    やっぱり福永さんはいいなあ。


    『冥府』
    死んだ青年の意識は気がついたら冥府にいた。
    そこは死んだ人々の意識が存在している。
    彼らは生前のことを思い出す。
    死者に対して、裁判官と、7人の陪審員人が揃ったら法廷が開かれる。
      あなたの生にはどんな意義があったのか?
      あなたは何者なのか?
      その生には死に匹敵する重みがあるのか?
    それに答えられたら、本当に全ての忘却が訪れ、そして新生の権利を与えられる。
    だが新生に至るためには、自分の人生を忘れるために、ただ思い出し、考え

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    2021年10月03日