福永武彦のレビュー一覧
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輪廻から脱線したおっさん
一言で言えば、暗い作品。まず何より主人公が暗い。この作品は家族4人の独白談を集めた構成になっており、最初と最後の章を語る男、つまりお父さんが主人公だと読めるのだが、お父さんの性格があまりに暗いために、作品全体がどうしようもなく暗い。
お父さんは、子供が間引きされていた東北の田舎の家で生き残り、東京の家に養子に出されて成人した。若い頃には、恋仲になって妊娠させた看護婦を自殺に追いやってしまい、妻との間に最初にできた子は生後間も死んでしまい、五十半ばの現在になって、堕胎したばかりの女を行きがかりで世話するようになってしまう。いつも意識を過去と交差させているから、自分で -
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「私」が療養所で出会った青年、汐見茂思の死、死後「私」に遺された2冊のノートに記された手記を中心に展開される小説である。
読者はまず最初の数ページのうちに、濃縮され練り上げられた死生観に触れることになる。文字がぎっしりと並び、読み飛ばすことも容易ではない。特にハードルが高いと言うほどでもないが、一般的に読みやすいとは言い難いだろう。しかしその文字の薮の中をかき分けることにさえ慣れてしまえば、これほど貴重な小説もない。中盤になって一度穏やかになると見えた流れは終盤で再び勢いを盛り返してくる。作中それほどショッキングと言うべき事柄を扱うわけではないにも関わらず、読後感は凄絶の一言に尽きる。
一貫し -
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サナトリウム。
私が生まれた時にはもうなかった施設だから、何かの作品を通して知ったのだろうけれど、それが何だったかは思い出せない。
結核、消毒の匂い、死、孤独、別れ、見送る者と見送られる者。
避けたいものばかりのはずなのに、心の奥底に憧れの気持ちがあるのは何故だろう。
孤独と愛。
孤独への愛。
人は結局孤独なのだから、愛は全て独りよがりのもので。
それなのに人は人と繋がりたいと思ってしまうし、愛について深く考え込み、何がしかの他者への行動の理由に愛を据えてしまう。
人のもつ矛盾は全てここから来ているのではないかと思う。
この小説を読みながら、ずっとBUCK-TICKの櫻井さんのことを思っ -
Posted by ブクログ
ネタバレサナトリウムに入所中の汐見茂思は病魔に慄かず、自らを明かさない孤高さがあった。だが、半ば志願するように危険な手術に臨んだ彼は本当に孤高だったのか、それとも死を切望していたのを隠していただけか?
青春時代の汐見茂思はプラトニックな愛を求めたが、相手--1人目は同性の後輩 藤木忍、2人目はその妹 千枝子--には断られてしまう。彼の愛は純粋で本物だったのか、彼の理知が生み出した理想に都合の良い相手が2人だっただけなのか、利己的な肉欲の言い訳だったのか?
一人の男が死に、生きた。清らにも濁っても映る彼の生き様を紡ぐ文章に心震えた。私小説の要素を多分に含んでいるらしいが、他作品には無い美しさが本