福永武彦のレビュー一覧
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サナトリウム。
私が生まれた時にはもうなかった施設だから、何かの作品を通して知ったのだろうけれど、それが何だったかは思い出せない。
結核、消毒の匂い、死、孤独、別れ、見送る者と見送られる者。
避けたいものばかりのはずなのに、心の奥底に憧れの気持ちがあるのは何故だろう。
孤独と愛。
孤独への愛。
人は結局孤独なのだから、愛は全て独りよがりのもので。
それなのに人は人と繋がりたいと思ってしまうし、愛について深く考え込み、何がしかの他者への行動の理由に愛を据えてしまう。
人のもつ矛盾は全てここから来ているのではないかと思う。
この小説を読みながら、ずっとBUCK-TICKの櫻井さんのことを思っ -
Posted by ブクログ
ネタバレサナトリウムに入所中の汐見茂思は病魔に慄かず、自らを明かさない孤高さがあった。だが、半ば志願するように危険な手術に臨んだ彼は本当に孤高だったのか、それとも死を切望していたのを隠していただけか?
青春時代の汐見茂思はプラトニックな愛を求めたが、相手--1人目は同性の後輩 藤木忍、2人目はその妹 千枝子--には断られてしまう。彼の愛は純粋で本物だったのか、彼の理知が生み出した理想に都合の良い相手が2人だっただけなのか、利己的な肉欲の言い訳だったのか?
一人の男が死に、生きた。清らにも濁っても映る彼の生き様を紡ぐ文章に心震えた。私小説の要素を多分に含んでいるらしいが、他作品には無い美しさが本 -
Posted by ブクログ
『人間を内面から動かしている目に見えない悪意のようなもの』著者が”暗黒意識”と言うものをテーマにした三つの中編小説。
やっぱり福永さんはいいなあ。
『冥府』
死んだ青年の意識は気がついたら冥府にいた。
そこは死んだ人々の意識が存在している。
彼らは生前のことを思い出す。
死者に対して、裁判官と、7人の陪審員人が揃ったら法廷が開かれる。
あなたの生にはどんな意義があったのか?
あなたは何者なのか?
その生には死に匹敵する重みがあるのか?
それに答えられたら、本当に全ての忘却が訪れ、そして新生の権利を与えられる。
だが新生に至るためには、自分の人生を忘れるために、ただ思い出し、考え