大河原遁のレビュー一覧

  • 王様の仕立て屋~サルトリア・ナポレターナ~ 12

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     雑貨商の井ノ原からの依頼を突端にした、夏のリゾート地での着こなしを紹介する「愛しのカプリ島」編である。
     フォーマルなスタイルの範囲ではあるが、やや気軽なパーティでのスタイルを紹介する内容は興味深いところだ。それが役に立つ日が来るかというと、すこぶる微妙ではあるが……。
     井ノ原氏のような、正味貧相と言っていいだろう日本人のおじさん顔を使ってこうして色々とコーディネイトしているのも興味深い。正直、服が勝っている部分もなくもないが、こうしたスタイルを試していく余裕もまた、ビジネスマンとしてはあって然るべきだろう。

     今回は星五つで評価している。

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    2016年12月11日
  • 王様の仕立て屋~サルトリア・ナポレターナ~ 11

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     ツッパリ系ルポライターのチェレスティーノ・バルツァーギをキーキャラとした「モノトーンの彩り」編である。
     彼の曾祖父、北部財界に影響を与える財閥総帥に彼のスタイルが忌み嫌われている人間関係をベースに、その関係をほぐす過程で出会ったフリーアナウンサーのサブリナ嬢との恋愛なども挟み、しかもその背景にはファシスト党という歴史的な存在も絡んでいるという、結構詰め込んである一巻だ。
     内容的にはしっかりとしていて、なおかつキーキャラである彼も好感の持てるキャラ像をしている。読みやすく、読後感も良い一冊であった。

     星五つで評価している。この第二部で一、二を争うだろう質の物語であった。
     

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    2016年12月11日
  • 王様の仕立て屋~サルトリア・ナポレターナ~ 8

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     今回は再びのジョナタ。油虫と忌み嫌われる織部の兄弟子リッカルドと対決しながら彼がモードの奥深い世界を垣間見る「仕立て学校 モード×クラシック」編である。
     修行に嫌気の差したジョナタがモードへの転向を狙うも、リッカルドとの対決を通じて己の土台の脆さを実感していく改心の物語となっているが、非常にスマートな展開だろう。
     妙な理由でジョナタが勝利することのないリアリティなどは、両者の特徴と状況を上手く整理しているがゆえのことに思える。この辺はさすがの腕前であろう。

     今回は星五つで評価している。しかし、ジョナタのような扱いづらいキャラを使い捨てにしないあたりはさすがと言うべきか。

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    2016年12月11日
  • 王様の仕立て屋~サルトリア・ナポレターナ~ 7

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     アメリカでステーキチェーンを展開するジョー・ローリングがイタリア進出を狙い、ジラソーレからの紹介で織部の店を訪れる「魅惑のシャツ」編である。
     今回は連作短編。少しずつ理解を進めるような形で、様々なシチュエーションで使えるスーツとシャツの組み合わせを紹介している。イタリアにおける白シャツのフォーマル感などは参考になる情報だろう。
     物語も、彼の大学時代の恋人との顛末が描かれ、そこには色濃く薫るような過去の恋愛の残滓があった。顛末は予想されるところであったが(この作品でそこまで艶っぽい物語は展開されないだろう)、彼による復讐劇にはだいぶ笑わせていただいた。

     今回は星五つ。
     元カノへのこう

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    2016年12月11日
  • 王様の仕立て屋~サルトリア・ナポレターナ~ 3

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     仕立て屋協会の抗争が丸く収まる第三巻である。グランドジャンプPREMIUMでの連載が終わった、一応ひと段落した巻でもあるだろう。
     内訌が外圧によって解消されるというのは間々あることであるが、ここでも中国からの人材引き抜きによって後継者問題に改めてスポットが当たり、両派が協力して次世代を育てる服飾学校を設立する流れへと繋がっていった。
     ここで衝撃のジョジョパロキャラ登場である。どんな経緯でこのキャラが採用されたのか興味深いところだが、原作五部の各キャラほどには濃くない(しかもギャングではなく単なるチンピラ)ので、きちんと物語の中に納まっている。

     今回は星五つ。やはりジョナタのインパクト

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    2016年12月11日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 32

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     雑誌の大幅再編成によりシリーズをクローズさせることを余儀なくされた完結巻である。ここではやや足早に物語は展開しているが、次のシリーズが楽しみとなる伏線が敷かれているのはさすがだろう。
     今回は夏のエスコート編をテーマに仕立てが為されていて、少し珍しいのはラウラ個人で引き受け最後まで織部の助けを借りなかったorder197「お茶漬けの味」だろうか。途中で織部の見解を挟むようなこともなく最後まで描いたのだから、彼女もまた成長著しいのかもしれない。
     失敗に終わったペッツォーリ氏とユーリアの会談など、ペッツォーリ社のナポリ進出も含めてこれからの展開に期待できる内容となっていた。
     シリーズ全体の評

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    2016年09月21日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 31

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     アラン・リヴァルさん家の家出息子セルジュがついに父親と相対峙する31巻である。モデル仲間だった旧友たちとの会話を発端に物語は進み、セルジュは今度こそ腰を据えてナポリ仕立ての道に入っている。
     相変わらずこうした連作短編形式が上手い。物語を転がすための材料には事欠かないし、人間関係が織りなしていく物語はひどく自然である。
     今回も楽しませていただいた。星五つで評価している。

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    2016年09月17日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 30

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     二巻にわたって描かれた腕時計編を完結させる30巻である。壮大なスケールで欧州を巻き込んだ時計の物語は、最終的には「技術の粋に挑む時計職人と、それを後押しする人々」という感動的なフィナーレを迎えている。
     内実は本当に申し分ないものだった。時計を絡めた蘊蓄の質も高く、物語の進みも緩急が本当にお見事。技術的課題に挑戦する難しさと、そこに挑戦する若き職人の苦悩が十二分に描かれた今巻はシリーズでも指折りの内容だっただろう。
     時計の発注に関する簡単なガイダンスまで付属したこの巻は必携の一冊だろう。文句なしの星五つである。

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    2016年09月10日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 29

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     29巻からは欧州の紳士服界に騒乱をもたらす腕時計編が始まっている。
     スイスの独立時計職人の嫁取りに端を発したジラソーレ社の腕時計を含めたトータルコーディネイトプランに各社が素早く反応、それぞれが温めていた企画を即座に立ち上げていく流れは、新雪に塗れた坂から転がり落ちる雪玉のように、徐々に事態を大きくしていっている。
     構成の巧みさがいかんなく発揮された、非常に楽しい一冊となっていた。イギリス編でのサヴィル・ロウの一件は、やや肩透かしの形で終結していたが、今回はどうなるのか注目したいところだ。

     この巻の評価は星五つとしている。物語が膨らんでいく展開はさすがの一言であるし、紳士服に比べると

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    2016年08月31日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 28

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     28巻は織部の過去を描いた「シチリア・マフィア編」が収録されている。シチリアのファミリーでの跡目争いに巻き込まれた織部が、少壮にあっても今と変わらず動じぬ姿で注文のツイードジャケットを仕立てる姿が描かれている。
     とはいえ、ここではツイードという生地そのものが重要な役割を果たしており、「先代と同じ仕立てのはずなのに、そこにオーラが伴わない」という問題には織部も頭を悩まされている。その解決がなされたのは物語終盤。
     全体を通した展開もダイナミズムがあり、一冊の巻としての構成がよく計算された相変わらずの見事な手並みであった。
     長期連載ゆえの構成の妙であろう。これもまたシリーズの旨味だと判じ、こ

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    2016年08月30日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 27

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     27巻は、26巻から引き続いた紳士服地編、あるいはクラリッサのイタリア記事探訪編の完結と相成っている。
     相変わらずの手並みであり、最終的にビエラのフランネルを選択する流れとなっているが、生地を主題にここまで物語を転がせられるのだから、本当にお見事としか言えない。
     相変わらずお遊びも効いていて、台詞を省いてコミカルに描くデフォルメなどは本当に上手いなと感心させられるところだ。

     何気に力作というか、作者体当たりな番外編「オナカの大きな王子様」なども収録されていて、充実した巻だった。星五つで評価している。

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    2016年08月10日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 26

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     今回は記事を主題にした物語が展開されている。物語の横糸としては、ロンドン支店長のクラリッサがナポリ本店のヘルプで戻ってきており、彼女の成長がそれに当たるだろう。
     全体を通してみても、ラウラやリヴァルのお坊ちゃんが親から与えられた課題をクリアしたり、織部の元に入り浸りとなっているクラリッサの様子を聞いて駆け付けたエレナが、二人で角を突き合わせながら依頼をこなしたりと、織部の周辺にスポットを当てた形で物語が展開されており、この辺は構成の妙だろう。
     相変わらずお遊びもふんだんに施されていて、クラリッサが織部の内弟子になると宣言された次の話の冒頭はだいぶ笑わせてもらった。どこぞの土佐の英雄の逸話

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    2016年08月01日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 24

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     ペッツォーリ社急進派の肝煎りでペッツォーリ社のナポリ進出の先駆けとして派遣されたボンピエリ氏にまつわるエピソードを収録した24巻である。氏のジラソーレへのオーダーが物語の中核を占めているが、その過程のような形で今回も粒ぞろいのエピソードが展開されている。
     この手の中編・連作短編は本当にお手の物と言うべきか、落ちまでよく計算された読み応えのある一冊になっている。ここまでジラソーレをよく描いてきたこともあって、ここで彼女らが中心となって描かれることにも一切の違和感がない。
     今回もまた楽しませていただいた。星五つで評価している。

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    2016年07月13日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 23

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     ロドリーゴのハリウッドデビューを描いた23巻である。連作短編形式で中編の物語が展開しているが、現実に起こったサブプライムローンのバブル崩壊とリンクするかのような物語展開は動的であり、オチまで含めて見事なお手並みであった。
     この巻については言えることが少ない。ただただ面白かったとだけ述べて、星五つを付けておくことにする。

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    2016年07月06日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 22

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     今回はアメリカ編から寄り道して、ペッツォーリの御大を連れ歩きながらの日本編である。日本の世界に誇るべき医療関連会社を紹介しながら、スランプを抱えたペッツォーリ総帥の復活が描かれている。
     この物語は服飾の教育という点で際立った部分のある作品ではあるが、今回は特にその傾向が強い巻となっていた。物語と絡めようとせず、ルポ形式でそのまま載せているところなどは非常に潔い。
     そうした意味からしても、今回は保存版というべきか。ためになるし、興味深い内容でもあった。

     文句なしに星五つである。次回からはなんとハリウッド編が始まるようだが、さてどんな物語となるのやら。

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    2016年06月29日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 20

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     ジラソーレ社ニューヨーク支店長のフェデリカが登場した20巻である。あっさり拉致された織部らは大西洋を越えてアメリカの地へと向かうことになる模様、次巻からはニューヨーク編となるのだろう。
     それはさておき、今回も面白かった。特にorder119の「仮面の告白」はコメディとしてゲイを扱いながら、内容の濃いものとなっていて実に面白かった。勧めた担当編集の方はグッジョブである。クラシックにおける裾の短いジャケットがバッチコイ状態を意味している、というのはこのシリーズを読んできた中でも特に感心した薀蓄の類だった。
     それ以外も含めて、今回も楽しませていただいた。星五つで評価している。

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    2016年06月22日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 19

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     ナポリでの物語が再開している19巻である。今回もまたバリエーション豊かな客の要望に織部が応えていく物語が展開されている。金持ちのボンボンにPコートを仕立て、アメリカンなスタイルのプログラマーにはそのふくよかさを生かした服を選び、ゲテモノ好きのSFXアーティスト相手にもまた満足のいく手並みを見せている。
     ここ最近は連作短編の類が多くなっていたが、今回のような色物も多く取り扱っての仕立て物語こそこのシリーズの本分だろう。人情噺と面白さを両立しつつ、過度に説教くさくならない良い塩梅である。
     掛け値なしに面白かった。星五つで評価している。

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    2016年06月15日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 15

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     伯爵と織部の鎬の削り合いが見られた15巻である。忠臣蔵になぞらえた小題が目に付くところだが、こうした連作短編形式もまた達者なのだなと感心しながら読ませていただいた。
     話の半ばでどのような意図でしつらえられた衣装であるのかが明白となっていて、この辺が復讐劇という目的が明白であるところの忠臣蔵に仮託した由縁なのだろうと思えるが、なんにせよ、話のまとまりは美しく出来上がっている。
     連載当時は間延びしなかったかやや心配に思えるところもあるが、一冊としてのまとまりは大変よろしい代物であった。星五つで評価している

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    2016年06月01日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 14

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     ついにベリーニ伯と織部が正面から相対峙する展開へと導かれていく14巻である。今回はその一件で織部が打ちのめされる珍しい展開を挟んでの次へと続く流れであり、次への引きが際立った巻となった。
     その他の内容を見ても、相変わらずバリエーション豊かな収録内容であり、特に前巻を思わせるような「イワンの馬鹿」の俳句の引用などは趣深い。
     どこか超然とした織部が打ちのめされ、そこから仲間たちの励ましによって立ち上がっていく物語は、やはり熱いものがある。次への引き方も含めて星五つで評価している。

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    2016年06月01日
  • 王様の仕立て屋~サルト・フィニート~ 13

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     パリ編、というかフランス編の終わりである13巻である。本店やナポリ支店との兼ね合いを挟みながら落とすところに落とし込んでいる手並みはお見事だった。
     物語としても面白く、また遊びも軽やかで(尾崎紅葉の金色夜叉を引用して遊んでいるところなどは、他の追随を許さない類の遊びである)、デニムなどの服飾に関する面と物語の関係性も鮮やかである。パリの老舗の面々と織部の対話に見える含蓄、深みなども端倪すべからざるものがあった。
     人情話と服飾のバランスもよく、優れた巻であった。星五つで評価したい。

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    2016年05月30日