マイケル・サンデルのレビュー一覧
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今年の初めに出版されたばかりの本。日米同時発売だがら、翻訳のタイムラグもなく、まさに今の社会状況についての本である。ピケティという人は初めて知ったが、サンドルは読むたびに感心させられる刺激的な哲学者で、彼の名前に惹かれて、ほとんど対談であることも意識しないで購入した。全体としては互いに対するリスペクトに満ち、わかりやすい話し言葉で展開されており、とても気持ちよく読むことができた。
ふたりの意見は必ずしも一致しているわけではなく、いくつかの側面で激しく対立するが、共通している認識も多く、その共通の部分について、僕自身もなるほどと思い、確かにそのとおりと思うところが多かった。それはこの本の中の論で納得したと言うよりも、元々自分の中にそういう考え方があり、それがこの本を読むことが掘り起こされた、という感じが強い。例えば、比較的最初の方に出てくる、自由経済主義は考えることの放棄と考えられるといった話は、漠然と心の中にあるイメージに言葉を与えてくれたような気がした。
だから、彼らが話す「方策」についてもいちいちなるほどと思い、それが正しい道だと思いながら読んだ。ただ、現実の社会を見ていると、彼らの述べるような形で平等が実現することは極めて困難に思える。既得権者に苦い薬を飲ませることになるからだ。
ピケティの語る歴史の流れは頭ではわかるものの、自分が死んだあとのような長い人類史の流れよりも、今目の前の不平等をなんとかしたいと心が焦ってしまうのは確かだ。まさに今の社会情勢を観るにつけ、特に本書の中では言及されない日本の現状を思うと特にそう考えてしまう。50年後に10前進するために、今の10歩後退があるのかもしれないが、その後退が溜まらなく辛い人はたくさんいるのだから。
そんないらだちを超えて、特に強く心を打たれたのは、平等というのはなによりも尊厳の問題だという指摘である。例えば経済的な不平等は、単に経済的な不利益だけではなく、そのような扱いを受ける人間が感じるアイデンティティに損失を与えざると得ない。自分はダメな人間だと思わされてしまう危険がある。そのとおりだと思うし、経済に起因する自己尊厳への深い傷が、今の社会に毒ガスのようにただよっている気がする。
経済的な不平等、政治的な不平等などは大きすぎる問題で、ごくありふれた一人の人間の力だけでどうこうできるものではないかもしれない。しかし、この尊厳の平等については、なにかできることがあるような気がする。根本の問題には手が届かないにせよ、自分自身やごく近くにいる仲間のことだけになってしまうにせよ。まずは、ここからでいい。そこからがいい。 -
Posted by ブクログ
如何に自分がtechnocrat的な,meritocracy的な思考の上に「平等」を思考していたのかを思い知らされる事になった.読み始めた当初,オバマやヒラリークリントンに対する批判の一部が分かったようで分からなかった.トランプを支持する人々が奪われてきたモノに対する理解も,言葉の上では理解していたけど,「消費する側の倫理」「生産する側の倫理」という言い回しに,ハッとさせられた.そういうことか,実体経済を回している人々が蔑ろにされ,金勘定で漂ってる奴らが富を掠め取っていく…この違和感や怒りは,この「裏表」にあったのか,と.
筆者は高学歴エリートの「価値」のあり方を批判こそすれ,能力そのものを批判するでもなく,出る杭を打つことを目標としているのでもない.ただ能力も「運」なのだという,至極当たり前で,ある意味で厳しくも残酷な事実に光を当てているに過ぎない.これはエリートの思い上がりを斬り,返す刀で「能力に恵まれない人たち」も斬ってしまいかねない現実なんだけど,そこに「労働=貢献」に価値を置くことで見事に昇華している.価値ある一冊にたどり着けたのもまた「運」ではあるのだけど,手に取った自分を褒めてあげたい笑
それにしても,かつてちょっとだけ関わってしまった啓発系セミナーの教えは「貢献」を価値にしつつ,その貢献は「消費する側の倫理」であったのだな,と今納得.あの違和感は,労働…を通しての人間そのものに対する敬意のなさに起因していたのだと今改めて.
あんなmeritocracyの権化から距離を置いて,本当に良かった,と心から.
どうしてもどうしても頭の中でつながらなかった「社会貢献と富」「労働の本質と価値」といったものがようやく整理され始めた.
もう少し,他の本も読んでみたい. -
Posted by ブクログ
だいたい海外の学者さんが書く本は分厚くて怯んでしまう。でもこの本はスター学者2人の議論をたのしめるしな、とミーハー心とコスパ精神から取り寄せましたが、手にとってみれば150ページ強という薄さ。対談なのでさらにリーダブル、という読みやすい本でした。対談ものは日本以外はあまりウケない、とどこかで読んだ気がするけれどそんなこともないのかな?内容についての自分の理解としては、我々は特にここ数十年の政治的社会的経済的体験をもとにいわゆる個人にあらゆる責を帰す「公正社会仮説」信者状態だけれど、そのよって立つ足場はあらゆるものが商品化された「市場」だよー。ということ。2人の学者は大きくは脱商品化と人としての尊厳の回復、というもう一つ下の足場の強化が必要だと考えているのかな、と。それには政治レベルの改革と、地べたからの運動、両方やっていくのが良いのではないか、という感じでしょうか。頭の中がだいぶ整理された感じでよい読書になりました。
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近代に入るまでは身分制度があったので、人間は良い意味で不自由であった。身分が違うので農民が貴族に憧れるということはなかった。しかし、人間が自由を持ったことで、人に対する羨望やそれに対する絶望が蔓延するようになった。能力主義を絶対的な正義とする今日の世の中で、成功すれば自分の努力の賜物、失敗も自分のせいという風潮になり、ますます格差が生まれる世の中になった。能力はそれを必要とされる世の中に生まれてこそ発揮されるものであって、それは単に運に過ぎない。例えば、大谷選手が中世のヨーロッパに生まれていたらあんな活躍は恐らくなかったであろう。成功はあくまで運であり、謙虚になることが求められる。
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誰にでも平等に機会が与えられているが故に
学歴が高い人は努力した人
学歴の低い人はチャンスがあったのに掴まなかった人
といった評価がなされる。
身分制度があった頃は、自分の不遇な境遇を制度のせいにできたが、能力主義の現代では、自分の不遇を自分のせいにできてしまう。
それが昨今のエリートとブルカラーの軋轢を生むというのは納得である。
とはいえ、学歴の高い人は経済的に恵まれた家庭である傾向が高く、そもそも努力できる力というのも先天的なものである可能性も高い。
それなのに、学歴の高い人はあたかもその個人の努力だけで勝ち取ったと評価し、恵まれた職業につけるようなシステムは、それこそ差別的と感じる。
必要なのは、低賃金への人への金銭的サポートではなく、敬意である。
清掃員だってスーパーの店員だって、大工だって、どんな職業も必要で尊敬に値することがわかっているのであれば、給料をもっと均等にしたら良いのではないか。
一方、資本主義社会ではそれも難しいことは承知である。なかなか難しい問題であり、引き続き考えていきたい。 -
Posted by ブクログ
正直なところ読むのに苦労した。理解しきれていない部分もあるので何回か読み返して理解を深めたいと思う。
アメリカンドリームに代表される能力主義は本当に称賛されるべきことなのか、という問いに対してアメリカの政治家、経済学者の発言や、過去の事例を参照しながら考えを述べていく内容。
個人的に興味深いと感じたのは、学歴偏重主義の話。国を統治する上で必要なのは名門大学の学位を有していることではなく、「実践知と市民的美徳」であるという主張には説得力があると感じた。(事実ワシントン・リンカーン・トルーマンは大学の学位を持っていない。)
アメリカの話がメインではあるが、日本に置き換えられることも多いので、読んでみると新たな気付きや視点を得ることが出来ると思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2012年刊。
それをお金で買いますか?というテーマの一例…
・刑務所独房の格上げ…一晩82ドル
・インド人代理母による妊娠代行サービス…6250ドル
・米国移住権…50万ドル
・欧州で企業が1トンの炭素を排出する権利…13ユーロ
・製薬会社の安全性臨床試験で人間モルモット…7500ドル
この世であらゆるものにプライシングされ、お金さえ払えば大体のものは買えるのだ、という態度について考えさせられる。
いい指摘はしているが、翻訳本なので読みづらく、読書中何度も眠くなった。
機会あれば再読して価格をつけることのモラルについて考えたい。
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Posted by ブクログ
けっこう前に出た本だが、普遍的なテーマを扱っているので、今読んでもいろいろと考えさせられる。
これまで価値のなかったものに値段がつけられ、需要と供給が生まれたケースは、今も増え続けていると思う。
本の中で扱われた列への割り込み、命名権などは、今日本でもそれほどの忌避感もなく受け入れられているような気がするし、自分自身、ユニバーサルスタジオでファストパスを買うことや、映画館で少し高い値段を払って周りの人が気にならないボックス席をとることを、それほど疑問には思わずに過ごしている。けれど、それがもともと無料の、慈善事業コンサートなら同じことは思わない。似た事柄でありながら、その溝は以外に深い。裏を返せば精神的な違和感ほどにその事柄は相違がないのだ。そのことにはっとした自分がいた。
経済は大事だし、経済が上手くいっていればたいていのことは解決するものだと、私は思っている。しかし、鈍感になってはならない。自分を戒めた一冊だった?