マイケル・サンデルのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
近代に入るまでは身分制度があったので、人間は良い意味で不自由であった。身分が違うので農民が貴族に憧れるということはなかった。しかし、人間が自由を持ったことで、人に対する羨望やそれに対する絶望が蔓延するようになった。能力主義を絶対的な正義とする今日の世の中で、成功すれば自分の努力の賜物、失敗も自分のせいという風潮になり、ますます格差が生まれる世の中になった。能力はそれを必要とされる世の中に生まれてこそ発揮されるものであって、それは単に運に過ぎない。例えば、大谷選手が中世のヨーロッパに生まれていたらあんな活躍は恐らくなかったであろう。成功はあくまで運であり、謙虚になることが求められる。
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Posted by ブクログ
アメリカでトランプ氏が復権した時代に、きわめて弱い声かもしれないが、聞かなくてはいけない主張がここにあるような気がした。
自由な選択を尊重するリバタリアンも、全体の幸福を目指す功利主義も、正義の観点からは疑問符がつく。カントも、ロールズも、いまひとつだ。ではどうすれば?
多元的社会では、道徳も共通善も一致しない。でも、他者の尊重の名のもとに、議論を回避すれば、「偽りの敵意」が生まれかねない。公共の言説の貧困化につながりかねない。(実際そうなっている)。だから、道徳や共通善を考えるという、困難な道筋をあきらめてはいけない。市民道徳を育み、公民的生活基盤の再構築を目指すべし――。
道徳に関与 -
Posted by ブクログ
「正義」に関する哲学の理論体系が整理されている。
ハーバードの授業が元になっているだけあって、網羅的だ。
正義を功利主義(効用の最大化)として捉えることも、リバタリアニズムやリベラリズム(選択の自由、平等)で考えることも、限界がある。
道徳や価値観は人によって異なるが、その差異を無視するのではなく、個別のテーマについて議論を深めることで、共通善を探っていくことが必要だ。
分断が進む社会での示唆にも富む名著。
日本はアメリカほど分断が進んでいないと実感したので(富裕層も公立の学校に行きたがる、公営の病院が機能しているなど)、維持されてほしい… -
Posted by ブクログ
誰にでも平等に機会が与えられているが故に
学歴が高い人は努力した人
学歴の低い人はチャンスがあったのに掴まなかった人
といった評価がなされる。
身分制度があった頃は、自分の不遇な境遇を制度のせいにできたが、能力主義の現代では、自分の不遇を自分のせいにできてしまう。
それが昨今のエリートとブルカラーの軋轢を生むというのは納得である。
とはいえ、学歴の高い人は経済的に恵まれた家庭である傾向が高く、そもそも努力できる力というのも先天的なものである可能性も高い。
それなのに、学歴の高い人はあたかもその個人の努力だけで勝ち取ったと評価し、恵まれた職業につけるようなシステムは、それこそ差別的と感じる。
必 -
Posted by ブクログ
正直なところ読むのに苦労した。理解しきれていない部分もあるので何回か読み返して理解を深めたいと思う。
アメリカンドリームに代表される能力主義は本当に称賛されるべきことなのか、という問いに対してアメリカの政治家、経済学者の発言や、過去の事例を参照しながら考えを述べていく内容。
個人的に興味深いと感じたのは、学歴偏重主義の話。国を統治する上で必要なのは名門大学の学位を有していることではなく、「実践知と市民的美徳」であるという主張には説得力があると感じた。(事実ワシントン・リンカーン・トルーマンは大学の学位を持っていない。)
アメリカの話がメインではあるが、日本に置き換えられることも多いので、読んで -
Posted by ブクログ
大卒者とそれ以外の学歴者の差異が、社会階層の分断線となっていて、その分断線が、世代を超えて固定化している。さらに、大卒者の中でも、トップ校と、それ以外の差が大きくなり、その分断も、世代を超えて固定化している(トップ大卒の子どもはトップ大に入り高給取りの「勝ち組」となり、大学に進まなかった親の子どもは大学に進まずに「負け組」となる)。
この構図については『学歴分断社会』(吉川徹)等でも取り上げられていて、アメリカでも日本でも同じだと認識したが、この本では、その動きを支える「メリトクラシー」の負の側面に踏み込んでいる。
優秀な人を責任あるポジションにつけるという「メリトクラシー」の理念そのもの -
Posted by ブクログ
ネタバレ2012年刊。
それをお金で買いますか?というテーマの一例…
・刑務所独房の格上げ…一晩82ドル
・インド人代理母による妊娠代行サービス…6250ドル
・米国移住権…50万ドル
・欧州で企業が1トンの炭素を排出する権利…13ユーロ
・製薬会社の安全性臨床試験で人間モルモット…7500ドル
この世であらゆるものにプライシングされ、お金さえ払えば大体のものは買えるのだ、という態度について考えさせられる。
いい指摘はしているが、翻訳本なので読みづらく、読書中何度も眠くなった。
機会あれば再読して価格をつけることのモラルについて考えたい。