石井光太のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
第一章からぐいぐいと引き込まれ、一気に読んだ。「実話を元に紡いだ評伝小説」とのことだが、読み終わってから菊田昇氏についてざっと調べたところ、小説的な味付けはされているにせよ、概ね事実なんだろう。
特別養子縁組制度というのが、自分が生まれる前から問題提起されていて、成立したのはずっと後だということに衝撃を受けたし、
ものすごい信念を持った医師が尽力したということに感銘を受けた。
そしていまだに、乳児置き去りや虐待など日々のニュースを見てもやもやすることがあるのも現実だ。
皆が問題意識を持つことはなかなか難しいが、私はこの評伝小説を通じて、ひとつの現実を知ることができてよかった。
ぜひ、映像化 -
Posted by ブクログ
涙なくしては読めない、
命の重さ、尊さについて考えさせられる。
正しさとはなにか?
正義の反対はもう一つの正義
という言葉を思い出した。
正しいことをするという
主人公の医師の想い。
いろいろな立場の人がいる中で
何が正しいと言い切れるのだろうか。
望まぬ妊娠をした女性、
生まれてくる子ども、
生を受けても生きることができなかった子ども、
周りの大人たちのきもち
宿った命。
人が決められることではないけれど
誰かがどこかで決めなくてはいけない、
不条理、やるせなさ、葛藤、
考えて結論を出すことではないけれど
いたしかたなく、誰かが決める。
なんとも言えない思いで読んだ。
結局は自分が信 -
Posted by ブクログ
石井光太『死刑囚メグミ』光文社文庫。
いつものようなノンフィクションではなく、フィクション小説であるが、実際に起きた事件の取材に基づいた作品なのだろう。
異国で死刑判決を受けた小河恵の過酷な過去と運命。運命は自ら切り開くものと言うが、自らの力ではどうにも出来ないこともあるのだ。
純粋であるが故に人に騙され、利用され、捨てられた哀しい女性の物語。
彼女だけでなく、登場人物の誰もが不幸を背負っており、その不幸が互いに影響し合っていくのだ。バタフライエフェクト……ブラジルで蝶が羽ばたけば、テキサスで竜巻を引き起こす……
しかし、捨てる神がいれば、拾う神もいる。最後に希望を見せてくれた所で、 -
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良書。暗澹たる気持ちになった。
16歳向けということで平易にかつ網羅的に書かれていて、教育レベルに関わらず読みきれる本というのも良い。
この本を手に取る"階層"にいる若者にとって、学歴と職業、貧困の再生産と格差の拡大、ジェンダー問題あたりまでは容易に想像がつくと思う。いわゆる、自分ごととして捉えやすく、また解決策を議論することができる程度の知識も持ち合わせているだろう。
しかし、ホストやキャバクラ、風俗業界に生きる(生きざるを得ない)人間の思いを、背景を、想像できる人はどれだけいるだろう。それが経済的困窮だけではなく、虐待による自己否定感やグレーゾーンを含む知的障害とも密 -
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ネタバレ最初の一ページから胸が苦しくなる。
ちょっと前まで小学生だった少年が、酷寒の2月の深夜、全裸で体中に切り傷を負い、それでも助けを求めて川から23.5メートルを道路に向かって這っていた。
どうしてそんなことに。
あまりに残虐な事件に、犯人の少年たちへの怒りが込み上げる。
だけど、読み進めるにしたがって、著者が書きたかったのはそれではないことに気づく。
確かに被害者の父親は加害者少年たちに「死刑になってほしい」「一生許せない」と言う。
それは当たり前だ。
けれど、当事者ではない第三者の大人として、それだけに終始していてはいけない。
なぜこのような事件が起こったのか。
止めることはできなかったの -
Posted by ブクログ
ネタバレあとがきに「この物語は、実在の医師・菊田昇の人生に基づいたフィクションです」と書いてあったので「小説」に分類しました。でもほぼ時系列で、菊田医師の子供時代から、医師になった動機、医師として赤ちゃんの命のために奔走した過程、病に侵されながら多くの人の協力で特別養子縁組の制度の成立にこぎつけたところまでを描いているので、ルポルタージュに近い印象でした。
菊田医師は戦時中の石巻で幼少期を過ごした。当時はまだ遊郭があり、母親が経営する遊郭で、遊女に囲まれて成長した。行き場のない女性たち、望まぬ妊娠、危険な民間療法による堕胎などを目にしてきた。
母親は上の兄たちを進学させてやることができず、昇に望みをか -
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石井光太『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』小学館文庫。
数々のノンフィクションで有名な石井光太が綿密な取材により『赤ちゃんあっせん事件』の裏にある真実を描いた評伝小説。
自らの立場が危うくなることも辞さずに新聞に『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』と広告を出した菊田昇医師の勇気たるや。
世の中には誤った法律やルールが多数ある。こうした間違った壁を壊すために費やすエネルギーは並大抵ではないだろう。
1926年、石巻に産まれた菊田昇は、母親が営む遊郭で育ち、遊女たちが味わう厳しい現実を目の当たりにする。母親の強い勧めで医学部に進学した昇は産婦人科医となり、望まれぬ妊娠で命を失う子