宇野利泰のレビュー一覧
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ミステリ評論家の森英俊さんがバークリーの「服用禁止」の解説の中で、英国黄金時代を代表する女性作家として挙げていたのが、本書のドロシー・L・セイヤーズであり、前回アンソロジーに収録されていた「疑惑」が、とても刺激的な作品だったので期待して読んでみたのだが、果たして?
本書は青年貴族「ピーター・ウィムジイ卿」が探偵役として事件を解決していく短編集であったのだが、まずはミステリ的にあっと驚くようなトリックや、どんでん返しといった分かりやすい爽快感のあるタイプではなく、所々怪奇要素が多いのが特徴的だったと書くと、江戸川乱歩や横溝正史を想像される方もいるのかもしれないけれど、彼らと雰囲気が異なるのは英国生まれの乾いたユーモアを潜ませたミステリでありながら、それを上回るようなピーター卿自身の魅力が更に加わっているからなのだと思う。
人一倍好奇心が強く『いうなれば、人間性の研究者』であると、自ら語るピーター卿はバークリーの探偵像とも似通った印象を与えそうだけれども、彼の場合はそれに加えて、自らの足を使ってできることは全て行わないと納得しない、『正確さを尊重する性格』である点には、犯罪学者である以前に人としての良心や優しさを感じさせる好感度の高さが印象深い上に、時には探偵の仕事よりも書物莵集を優先する彼の個性や、彼自身のプライベートが進展する時間軸のある世界観というのが(我が子の生まれた場面がある探偵ものというのも珍しい)、なんとも新鮮で、その辺りはセイヤーズ自身の嗜好が垣間見えそうな、微笑ましさすら感じられたのだ。
また、それとは対照的に人間の内面に眠る嫌な部分も描いていることで、本書がただの夢物語ではないことを痛感できた上に、セイヤーズの博識ぶりもあってか、物語の導入部の巧さにより、これからいったい何が起こるのだろうといった期待感も高めてくれるし、更には動機や真相に対する描き方も細やかで丁寧と、バークリーやクリスティと異なる魅力を何度も実感しながら、何よりも印象に残ったのは「不和の種、小さな村のメロドラマ」のような、人間同士の醜い争いをとことん見せながらも結末は意外な形となったことに、ピーター卿の人柄を何よりも優先させたかった、彼女自身の温情が垣間見えたことである。 -
Posted by ブクログ
数多いるシャーロック・ホームズのライヴァル達だがホームズより運動能力は劣るが論理性を追求した性格で肩書きが異常に多く名前も長すぎるからあだ名で叙述されるという個性ありすぎな名探偵の事件簿。ルールを教わっただけの超初心者ながらチェスの世界チャンピオンを破った事から「思考機械」と呼ばれるに至る。教授として高名なので探偵をする必要はないがワトスン役の新聞記者が不可解な事件を持ち込むと頭の体操代わりに解明に挑むというスタンス。安楽椅子探偵のようだが事件現場に赴いたり当事者から話を聞きに行ったりする。誘拐されても直ぐに連絡が取れるように準備も怠らないという用心深さは本書のエピソードでも分かる。
各事件については詳細は触れないが、個人的には楽しめた。残念ながらドラマ化等はされていない。作者がタイタニック号共に未発表の6篇と一緒に沈没死したエピソードの方がドラマ化されそうではある。 -
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「これが面白い!」「なんか読みたい」ときはこれ!
水色のカバーにガツンと大きなゴシック体が目に飛び込む。
2024年に中公文庫から出された本書は大正には書かれ、昭和には訳されていたらしいが、今回初めて手に取った。
探偵レオ・カリングが高名な細菌学者で法医学者のスミルノ博士の日記を取り出すところから物語は始まる。
日記は去年の初めに起きた、殺人事件が主として記録されていた。
警官とのつまらない諍いで警察署に連れてこられたスミルノが、知人女性と遭遇する。そう、警察署内で。彼女は殺人事件の容疑者になっていた!
法医学の専門家ということもあり捜査に加わるスミルノの他、依頼を受けた探偵レオ・カリングは調査をし、容疑者は搾られていく。
しかし、探偵には何か考えがあるようで、すぐには決め手を打たない。そしてそのことによって、事件は本当の形で結末を迎える。
現代としては、ああ、あのトリックか、と読み終わった後に新鮮さよりは馴染み深さを感じるかもしれない。
しかし、やはりカバーに書いてあるとおり、「前情報があるのとないのでは読み味がまったく違う」はずである。これは先に聞いていたら面白くない、という仕掛けがある。
これ以上、書評もあらすじ検索もせずに読み始めることを推奨する。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久しぶりに推理小説を読んだら結構面白かった。
あまりにもルネスタムが怪しかったから、逆にこれは博士が信頼できない語り手か?と何度も思ったけれど(スミルノ博士死んでるし。怪しすぎる)そう結論づけることができずにそのまま読み進めてしまった。案の定スミルノ博士が犯人だったのが悔しい。手紙の内容を明らかにしないのが怪しいなと思ったけどそこはあまり本筋には関係しなかった。むしろスミルノ博士が妄想に囚われる性質があることを見抜かなければならなかった。序盤、太陽の元で博士は内気なり、夜中には本来の自分になれる、という記述があったがさすがにこのヒントです妄想に辿り着くことはできなかった。二重人格も考えたけれどその割には自身の行動を書き記す日記というアイテムを用いているから、2人の人格があることは否定してしまった。(実際に二つの人格はないから合ってはいるのだけど)
たしかにカリングはいけすかない笑。探偵役とはこういうものなのだけれども勿体ぶってなんだか気に入らない。 -
Posted by ブクログ
冷戦時代、主人公である英国情報部のリーマスはベルリンに赴任していたが、東へ送り込んでいた配下のスパイが殺害されるなど作戦失敗が重なり、ロンドンに呼び戻されて閑職に左遷された挙げ句にクビになってしまうが、そこに東側から謝礼と見返りに情報提供をするよう誘いを受ける…というスパイ小説。
その誘いにリーマスが乗って東側へ寝返るというのが、東ドイツ情報部のムント副長官を失脚させるための英国情報部の策略だったのだが(と裏表紙の粗筋紹介に書いてある)、なんせスパイの諜報戦なもので、一筋縄ではいかないというもの。
「国の大義名分のためには個人など駒にすぎない」という東側の主義は、西欧には到底受け入れられないものだ…とは建前で言うものの、結局は英国情報部から駒として使われることになったリーマスの悲しさとやるせなさと無念さが胸を打つラストでした。