鬼澤忍のレビュー一覧
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『これからの「正義」の話をしよう』のマイケル・サンデル教授が市場主義と倫理の問題を扱った本。原題は、"What Money Can't Buy: The Moral Limits of Markets"でもう少しストレートに道徳上の観点から市場主義を批判していることを示している。
サンデル教授の授業をTVで見たが、事例が豊富で対話での対応が非常にうまい。本書でも市場で取引される微妙な事例が多数取上げられている。『正義』では、その事例の判断を読者に委ねるところが多かったが、本書では踏み込んで市場主義を倫理によって制限すべきであるとする著者の立場を鮮明にしている。そ -
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本書自体は膨大な歴史実証の本で大変素晴らしい内容であるが、上巻に比べると、ケーススタディばかり書いてあって上巻に加えた純な付加価値はほとんどなかった(つまり、オチが一緒だった)ので、読んでいて正直退屈であった。従って、本書を読む際は新たな理論的枠組みを知ろうという目的で読むと期待外れな結果になってしまうので、上巻の理論的枠組みの事例紹介の続きを読むような心持ちで読んだ方が良いと思った。言い換えれば、経済成長史の本として読むのが適切であろうということである。
個人的に付加価値があるなと思ったのは最終章(15章)で、ここでは本書の締めくくりのみならず開発経済学の観点から見て興味深いポイントがいくつ -
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ネタバレ久しぶりに読み応えのある読書。未来を考えること=過去を学ぶこと=今を知ること。
以下、引用
●ナードルと呼ばれる小さな粒は、年間5500兆個、重量にして約1億1350万トンが生産されていた。ムーアはこの粒をどこでも見つけたが、それだけではなかった。クラゲやサルバー海中にきわめて多く生息し広く分布する濾過摂食動物ーの透明な体に取り込まれたこのプラスチック樹脂の粒をはっきり目にしたのである。海鳥と同じように、明るい色の粒を魚卵と取り違え、肌色の粒をオキアミと取り違えたのだ。いまやいったい何千兆個のプラスチック片が、ボディースクラブ材に配合され、大型生物の餌となる小型生物が飲み込みやすい大きさとな -
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主にはチャッター(頭の中のひとりごと)に振り回されないようにとの内容。訳文独特の読みづらさもあってか冗長的だが、気づきはちらほら。
◉目覚めている時間の三分の一から二分の一は、いまを生きていない
→なかなか衝撃的な数字…確かにゾーンに入ってる時間はとても限られている。
◉頭の中の声は実に早口、夢はフライトシュミレーター
→考えがぐるぐる回る要因なのだろう。
◉脳卒中で内面の会話が消える=魅惑的で開放的
◉チャッターからズームアウトすると解決の可能性を高める≠回避
◉明日どうなるかではなく、将来どう思うか?の視点=時間的距離の確保
◉自分のことを名前や彼と呼ぶことで冷静に
→確かに効果ありそう。 -
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「世の中にはお金で買えないものがある」。
そんな書き出しで始まる本書。この言葉は暗に、今日多くの事物がお金で売買されており、大概のものはお金で買えるというメッセージを含んでいる。
1.行列への割り込み
2.インセンティブ
3.ギフトカード
4.保険
5.命名権
お金で売買していいものと、してはいけないものをどのように区別するかは難しい。
本書で著者が指摘しているのは、それをお金で売買した場合、「不平等」「腐敗」を招くような取引は好ましくないというもの。
ノーベル賞を金銭で購入できるとしたら。富裕者にとっては有利であり、不公正を招く。またそれを受賞することの名誉は失われるだろう。
4章が -
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国がどうやって繁栄するのか、なぜ衰退するのか、を色んな角度から説明してくれる本。
経済的な制度と政治が重要だとはわかった。文化的や地理的な説も多いが、それは違うとも言っている。日本で生まれたことは恵まれたことだなぁ、私は自由だなぁと感じられた部分もあった。今の私レベルだと「へぇ~そうなんだ〜」という感じだが、いつか何かのきっかけでこの知識を思い出せたらと思う。
とはいえ、翻訳だと一文が長くて、なかなか読みにくい。うーん、くどいかも。内容は魅力的だから、この本をもとに池上彰さんとか日本語を平易に使ってくれる方に再編集してもらって、図録付きで出版してくれたら、と思ってしまった。もっと軽快なテン -
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書籍の内容としては、儒教を西洋哲学、特にリベラルコミュニタリアン論争からどのように描くかというテーマで面白いが、タイトルの付け方がものすごい悪い。
というのも、サンデル先生の登場は最初のみ。
あとは別の著者の論文集なので。
シンポジウムを元にしているので内容構成はしょうがないにせよ、題名がこれではミスリードすぎる。
サンデル先生の部分は面白い。「負荷なき自我」よりもアジアの儒教的価値観は、さらに前提となる部分が"厚い"ため、この概念の一般性を高めるために引き出された問いが面白かった。
農作物が少ないより多い方が良いということに価値中立的な観念をリベラリズム的伝統にはあるが -
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"正義"とは何か。を問う本。複数の人間を救うために一人の人間を犠牲にすることは正義なのか?といったようなありがちながら刺激的な質問に始まり、最大多数の最大幸福、自由至上、仮想的な共通正義などさまざまな理論が紹介されていく。そういった過去の人たちの考察はそれぞれに特色があって面白いとは思うものの、やはりどこか無理があるなあ。と読み進めると、アリストテレスが出てきて社会道徳が強く押し出されてくる。結局最後は正義と道徳は切り離せない。というオチになって尻すぼみな感じ。そりゃそうなんでしょうが、そこの共通認識ができず、一部の人の思想を他者に強制するようなことが起こるから、いつまでた
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『チャッター』は、頭の中で繰り返される独り言=チャッターが、人をどれほど左右するかを示した実用書だ。自分は支配されていないと思っていても、実際には無意識に行動や判断を歪められている可能性がある。
本書がユニークなのは、「チャッターを消そう」とは言わないことだ。むしろ距離を取り、客観的に眺め、味方につけることで行動を最良に導く方法を示している。26のテクニックは、セルフトーク、日記、未来視点からの俯瞰、他者との会話、自然や環境の力を借りる工夫など、すぐに試せるものばかりだ。
読み進めるうちに感じるのは、チャッターは敵ではなく“育て方次第のパートナー”だということ。欲しい未来を獲得するには、チ -
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つまり、当時のテクノロジーは、それらが排除した機会と同じだけ、労働者向けの機会も創出したのだ。これは、自動車産業における大量生産に関して見たのと同じ理由からである。通信、輸送、製造のテクノロジーの改善によって、ほかのセクターが活気づけられたのだ。だが、より大切なのは、 これらの進展は、それが起こったセクターでも新しい雇用を創出したことだ。数値制御やほかの自動機械が人間の操作者を完全に排除することはなかった。というのも、一つには、それらの機械は完全には自動化されておらず、生産を機械化するにつれて多様な追加作業が発生したためだ。
あるレベルでは、なにが起こったのかは明らかだ。戦後の共有され -
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進歩のバンドワゴン
テクノロジーの進歩は共有利益をもたらすという楽観主義の根底には、「生産性バンドワゴン」というシンプルで強力な一つの考え方がある。これは、生産性を高める新しい機械や生産方法は賃金をも上昇させるという主張だ。テクノロジーの進歩につれて、バンドワゴン〔パレードの先頭を進む楽隊車)が、起業家や資本家だけでなくあらゆる人を引っ張っていくというのである。
説得する力は絶対に堕落する
たとえ、われわれが権力者のビジョンに行き着く可能性があるとしても、彼らのビジョンが十分に包摂的で開放的となることを、少なくとも希望することはできるだろうか?というのも、彼らが自分たちの構想を正当化す -
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ネタバレ長期的な経済発展は、地理的、環境条件、社会学的要因、文化の違い、生物学的遺伝的差異でもなく、政治・経済制度の違いにある。
包括的な政治制度と包括的な経済制度の組み合わせが必要。収奪的政治制度と包括的経済制度ではだめ。新自由主義は、その見本。
収奪的政治制度のもとでは、破壊的イノベーションは起きても潰されやすい。既得権益を守るため。規制緩和は限界をむかえる。
中国のような収奪的政治制度のもとでは、経済の自由度が高まっても破壊的イノベーションは起きにくいので、経済成長は持続しない。
収奪的政治制度がデフォルト。
長期的には、自由民主政治と資本主義は不可分。格差があっても、経済強者の交代可能性 -
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「正義」という言葉はあまりピンと来ない。
日常的に使う言葉ではないからだ。もちろん、子供向けの特撮ものや、映画のなどには「正義」の味方がたくさん登場する。それは世界制服を企む、街を破壊するなど、はっきりとした悪が存在しているからだ。その対比として、正義の味方が存在する。悪がいなければ、正義の味方の出番はない。
改めて、「正義」という言葉を知るために辞書で引いてみると、「人の道にかなっていて正しいこと」とある。この定義であれば、ふだんの生活の中で、「正義」を選択する場面は多くあるのではないだろうか。
駐車場から出ようとしている車に道を譲るのは正義か?
電車でお年寄りを見かけ、席を譲るために