上念司のレビュー一覧
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ネタバレ読み終えて最初に変わったのは、経済ニュースの見方でした。「国の借金が何兆円」と聞くたびに漠然と不安になっていましたが、本書は不安の測り方そのものが違うと教えてくれます。
説明は基本から始まります。たとえば「誰かが使ったお金は、必ず誰かの収入になる」。コンビニで払った千円はお店の売上になり、そこで働く人の給料や仕入れ代金になる。だから、みんながお金を使わずにためこむと、社会全体の収入もしぼんでいく。著者はこれを「需要不足」の正体と呼びます。ただ、その原因を国民の心がけには求めません。デフレ(モノの値段が下がり続ける状態)では、お金は持っているだけで値打ちが上がる。ためるほうが得なのだから、企業も家計も合理的に動いているだけです。値上げできない会社が給料を上げなかったのも、けちだからではない。そういう環境をつくったのは、お金が足りなくなるというシグナルを出し続けた政策の側だ、というのが著者の見立てです。
借金の危険度も、金額ではなく「収入が増える速さと、利息が増える速さのどちらが上か」で測る、と著者は言います。私は住宅ローンに置き換えて理解しました。年収が上がるスピードが利息より速ければ返済は年々ラクになり、逆なら借金が小さくても苦しくなる。国の借金も同じ物差しで見ればいい、というわけです。
円安についても著者の立場は同じで、為替は政策や世界の動きの結果として決まる数字であって、それ自体に良い悪いはないと説きます。私の言い方にすると、円安は国の通信簿ではなく体温計です。危機についての見方も明快です。金融の仕組みがある以上、危機は必ず起きる。大事なのは起きた後の手当てだ、と。私の受け止めでは火事に近い。ゼロにはできませんが、消火設備があれば全焼は防げます。実際、リーマン・ショックでは連鎖を止められず、二〇二三年のアメリカの銀行破綻(シリコンバレー銀行)では預金の保護を素早く広げて騒ぎを封じ込めました。同じ「危機」でも結果が正反対になるのは、起きた後の差だというわけです。
後半を読みながら、著者が言いたいのはこういうことだと私は受け取りました。日本はもうデフレではない。なのに、デフレの時代に正しかったやり方を続けていることがいちばん危ない、と。会社の守りの経営も、政府がお金を配る政策も、かつては理にかなっていた。けれど環境が変わったのに切り替えられないことこそが失敗の原因になる。だから政策は賛成か反対かで語るものではなく、いくら使うかより「どこに、いつ、どう使うか」で採点すべきだ、というのが著者の姿勢だと感じます。
そしてもう一つ。著者が「最も現実的なリスク」と呼ぶのは、派手な財政破綻ではなく「大きな危機は起きないけれど、なんとなく成長しないまま時間が過ぎていく」状態でした。これは私の仕事にも刺さりました。うまくいかない事業をやめる基準と成果の測り方を先に決めておく。著者が産業政策に求める条件は、そのまま組織の意思決定の話でもあります。
著者は本の終わりで「少なくとも高市政権にはその覚悟がある。私はそう思っています」と、自分の立場をはっきり書いています。中立をよそおう本ではありません。それでいて、この政策は成功も失敗も約束されていない、規制改革や既得権に踏み込めるかどうかで結果は正反対になる、とも書く。期待している相手にこそ条件を突きつけ、判断は読者にゆだねる。私はその書き方が一番誠実だと感じました。 -
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貧民史観に毒されている、は名言だ
われわれが普段使っている1万円札にも千円札にも、金なんてこれっぽっちも含まれていない。電子マネーに至っては、言うまでもない。それなのに小判の金の含有率を下げることは「貨幣の改悪」と教えられた気がする。徳川5代将軍の綱吉に仕え、この改鋳を進言した荻原重秀は「悪い奴」だと思い込まされた。最近の教科書も、その刷り込み傾向ははっきりと見て取れる。山川出版社『詳説日本史』(2016年発行)には、「改鋳で幕府は金の含有率を減らし、質の劣った小判の発行を増加して多大な増収を上げたが、貨幣価値の下落は物価の投機を引き起こし、人々の生活を圧迫した」と書かれている。ちなみに、自分の高校時代の教科書を見たら記述に大きな変化はなかった。でも、この『経済で読み解く日本史』では、元禄時代の物価上昇率が3%程度だったという研究が紹介されている。現在の日銀が掲げている「物価安定の目標」は2%。それより若干上振れするぐらいのインフレだったなら、生活を圧迫したなんていう書き方は大袈裟で、庶民は総じてほとんど苦もなく受け入れていただろう、と思う。綱吉=重秀の時代は、経済的に豊かであり、だからこそ元禄文化が栄えた。江戸時代は、新田開発が進んで商工業が発達した。でも、教科書にはどうも庶民が苦しんだことばかり書かれている。ちぐはぐで、よく考えると、どう理解していいか分からない。本書は「まえがき」からズバリとこう指摘する。日本人は「貧農史観」に毒されている。名言である。江戸時代は貨幣から考えると分かりやすい。昔から教科書を執筆しているのは、経済に疎い歴史学者ばかりなのだろう。執筆陣や出版社は、本書を参考にすべきだ。 -
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こうだったのか臨済宗
寺社勢力とは単なる宗教団体ではありません。寺社は仏教留学僧が作った支那とのコネクションを生かして貿易業に精を出す巨大商社であり、広大な荘園を所有する不動産オーナーであり、土倉や酒屋といった町の金融業者に資金を供給する中央銀行でした。(中略)五山は金融と会計のプロフェッショナル集団「東班衆」を抱え、 幕府と結託して比叡山と張り合いました。(本書より)臨済宗がなぜ発展したのか、この記述に出会ってようやく理解した。高校の日本史の教科書では「禅宗のきびしい修行が武士の気風にあっていた」などと書かれているが、今一つピンと来なかった。仏教勢力の歴史は、経済面から説明した方が理解が圧倒的に速い。 -
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支那と銀だよカギは。
16世紀後半には支那を中心としていた巨大な貿易ネットワークが構築され ていたということです。主に絹織物などの手工業製品が支那から世界各国に輸出され、支那には世界中から銀が集まってきたのです。(本書より)もううん十年前の自分の高校までの歴史学習を振り返ると、武家政権の時代は、平から徳川までの為政者の顔ぶれを中心に知識を蓄えただけだったんじゃないかと思う。歴史の流れを学ぶと言われても、ピンと来なかった。自分にとっては、為政者の顔が変わるだけだったから。まあ、こうした知識は受験と戦国ドラマを楽しむミニ知識にしかならなかったわけだけれども。でも、引用のように、支那と銀の流れを目に浮かぶように説明されると、時代が大きく変わったことが伝わる。今の日本史の教科書も、ずいぶん経済のことが詳しく書かれていて、自分の受けた教育が古かったなと感じる。 -
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至言あり
至言と感じた本書の部分を引用する。マルクスの主張はなんと完全に間違っていました。不況は資本主義の限界によって起こるものではなく、(中略)イギリスの不況の原因はデフレであり、デフレの原因は貨幣量の不足にありました。その貨幣量の不足をもたらしていたのは金本位制です。左翼が未来に理想郷を作ろうとするのとは反対に、右翼は過去に理想を求めます。(中略)答えはすでに出ているというのが彼らの考え方ですから。以上。明治時代の日英同盟の話も勉強になった。英国の事情として、ボーア戦争があった。現代に期待の声が高まる「新日英同盟」では、同盟に対する英国側の利点は何だろうかと考えさせられる。 -
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終章の題にじんときた終章の題
「みんな平成という時代を必死に生き抜いた」にじんときた。私事だが、新元号が「令和」と発表された時、おおかっこいいと感じた。それまでの平成という時代に暗さや停滞を感じていたのだと思う。でも平成は自分が大学や社会人生活を送ってきた最も長い時期だった。なのに負の思いを抱いてきたとは。自分が悪いばかりではない。世の中が暗く、その原因はデフレだったのだ。著者の上念司氏は私より一歳上。ほぼ同じ時代を生きている。本書の平成の経済史をたどり、その時の自分の年を考えながら読んだ。シリーズ前著までとは違った楽しみがあった。ありがとう。令和編が今から楽しみだ。著者が令和の終わりを待てずに長いあとがきを書いたのも笑えた。 -
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ネタバレ構成としては1,2章は経済学、3,4章は投資術。
以下、個人的に参考になった要点を抜粋。
【1,2章…経済学】
・日本企業の内部留保は不況時の備え。積極投資タイプの企業はデフレ期に壊滅し、現在の大企業はデフレ期を生き残った貯蓄タイプの企業の為、日本企業は内部留保が多い傾向。
・オーバーシュート型コミットメント…金融政策において、目標のインフレ率に達してもすぐには金利を引き締めず、一定期間は物価推移を観察してから、金利を引き締める手法。
【長所】物価の瞬間風速に惑わされない。(原油高などの一時的かつ瞬間的なインフレに反応して金利を上げてデフレ化、といった事態を防ぐ)
【短所】インフレ退治の対応が遅れスタグフレーションになり易い短所。(事例として、バイデン米国エルドアントルコ)
【3,4章…投資術】
・インデックス投資(分散型)でリスク分散。
・KKD投資は趣味。資産の1%に抑える。
・三菱UFJ-eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)…時価総額最大の投資信託、約2200銘柄。
・ドルコスト平均法…株式の価格変動リスクを時間で平準化する投資法。
【具体例】毎月10日に10万円ずつ、といった決まりで投資額を規定する。
・毎月の投資額は手取りの2割が基準。 -
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この本は金融政策から見た歴史の流れを描いたもので非常に説得力がある。
本書の主題ではないが、面白い視点だったのでメモ。
帝国を解体すると、秩序が失われて、民族問題や宗教問題が再燃する。
オスマントルコ帝国やオーストリアハンガリー帝国の解体が、保っていた秩序を失わせ、民族問題や宗教問題を再燃させる。現代のバルカン半島や中東の不安定の原因はここにある。
第一次世界大戦前までは敗戦国を滅ぼし解体するような真似はしなかった。なぜなら秩序を崩壊させるコストがあまりに高いことを歴史の教訓により知っており、権力階級は帝王学で身につけていた。
ところが「民主主義」では階級に関係なく人気投票で選ばれるので、民意を無視できない。国際政治の素人が戦争したり、講和条件を話し合い、民族自決といって勝手な国境線を引き直したことが新たな悲劇を生んでいる。