大竹文雄のレビュー一覧
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あなたを変える行動経済学
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試し読み
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Posted by ブクログ
私は行動経済学に基づくナッジ理論を用いて人々の行動変容によって健康状態を改善させるスタートアップ企業で働いているので、もとより行動経済学には触れているものの、一通りの書籍には目を通すようにしている。そうした日本語で書かれた書籍の中で、もっとも分かりやすさ・実践性に富む示唆を与えてくれるのがこの著者、大竹氏であると感じている。
本作は新書という極めてコンパクトな中に、行動経済学を実務で応用するためのエッセンスが詰まっている良書である。良い点として、
・行動経済学はなかなか理論的な全体像/ユニバースを把握するのが難しい中で、そのベースにある人間心理のバグを4つに整理して示している(1.プロスペクト理論、2.現在バイアス、3.互恵性と利他性、4.ヒューリスティクス)
・実際に行動経済学を実務に応用する際には、望ましい行動が取られていない原因が何かによって、その打ち手を変える必要が当然ながらある。そうした典型的な原因のパターンと代表的な打ち手が整理されている
が挙げられる。
コンパクトなので、手元に置いておくと便利な本でもあり、私自身も常に手に届くところに置いておくようにしている。 -
Posted by ブクログ
医学、公衆衛生学、心理学、行動経済学などの分野の研究者が集まり、行動経済学の医療への応用について研究を進めてきたその集大成といえる本。
第1部で行動経済学の枠組みから入り、医療行動経済学的研究を紹介する。第2部では、主に患者と家族の意思決定のバイアスについて議論する。がん治療における適切な意思決定支援、がん検診受診率を上げるために行動変容を起こさせるナッジ、高齢患者への意思決定支援、デフォルトによる臓器提供意思表示の変容などについて論じている。
また、第3部では医療者側にも様々な意思決定におけるバイアスがあることを紹介する。生命維持治療の「差し控え」と「中止」の倫理的違い、ガイドラインの行動経済学的役割、急性期の意思決定の難しさなどに言及する。
行動経済学や医学の専門用語が次から次へと出てきたり、日頃なじみのない医療現場や奥の深い臨床倫理にも入り込むため、興味津々になると同時に専門性についていけない部分もあった。
興味深かったことを以下に列挙しておく。
①「今年度に大腸がん検診を受診しなければ、来年度は便検査キットが送付されません」という損失を強調したメッセージは、「受診すれば来年度もキットを送る」というメッセージより受診率が高くなった。
②乳がん検診受診について、継続受診者、行く意図はあるが決めていない、がんが見つかるのが怖いからいかない、罹患について全く心配してないから行かないなどのセグメントに応じて、優しいトーンや深刻なトーンを使い分ける啓発リーフレットを作成するというナッジ
③がん患者の意思決定支援に行動経済学的アプローチ(ナッジ)を用いる場合、患者の意思を誘導することで倫理的でないという反論も多い。臓器提供意思表示を義務づける選択肢をデフォルトとすることについて、回答の強制という意味で倫理的な争点となる
④生命維持治療で「差し控え」は治療を開始することによる「心身の苦痛」という「損失」が「生命の延長」という「利得」より大きいとされ、いったん始めた治療を「中止」する場合は「生命が短縮する」という「損失」の方が中止による「苦痛からの解放」という「利得」より大きいと評価される。この逆転現象には治療開始前と治療開始後という「参照点」の違い
が大きく影響している。
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Posted by ブクログ
2017年のノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーなど、経済学の中でも近年注目を集める行動経済学。行動経済学の良さの一つは、経済的インセンティブだけで動くのではないという人間の非合理性を明らかにすることで、特定の人々を動かすための有意味なアプローチを我々に与えてくれる点にある。
こうした行動経済学が実際に活用され、効果が出始めており、更なる実践が期待される領域、それが医療である。本書は医療現場における行動経済学の実践例などをまとめた一冊であるが、その対象は患者もしくは患者予備軍(”病気にならないように健康に配慮した生活”を送らせる)だけではなく、医者に最適な行動を取らせるにはどうすべきか、という広い応用例がまとめられている。本書の中心となるのは、行動経済学における損失回避などの人間特性を踏まえた”ナッジ理論”による行動変容が主体となる。
・がんの検診率を上げるためにはどうするか?
・臓器提供の意思をどう表明してもらうか?
・医師に不適切な薬剤処方を減らすためにはどうすべきか?
など、医療現場が抱える様々な課題に対して、大きくコストをかけず、かつ義務・強制などのように選択肢の自由を奪うことなく、行動変容を実現させるためのアプローチが紹介されており、ナッジ理論の可能性をわかりやすく理解することができる良書であった。 -
Posted by ブクログ
人間の様々な意志決定には、伝統的な経済学からずれるというバイアスがあり、それを前提とした行動経済学が1980年代から発展してきた。
本書では、行動経済学的な特性を使い、人の意志決定をより合理的なものに近づけるため、主にナッジと呼ばれる知恵と工夫、その具体的な活用について解説する。
損失回避、現在バイアス、サンク(埋没)コスト、ヒューリスティックス(直感)、アンカリング(係留)効果、ピア(同僚)効果、デフォルト(初期値設定)そしてナッジといった専門用語がこれでもかと出てくるが、いずれも具体例が示され、分かりやすく説明されている。
公私両面で時々の判断や相手との折衝の場面で応用できればと思いながら読み進めたが、初心者ゆえ、そこまでいくにはもっと勉強する必要があると感じた。
しかし、より一層の興味が深まったのは確か、以下に記憶しておきたい知識をメモとして残しておく。
・株式の保有について、購入価格より株価が上昇すれば利益確定はできるが、株価下落の際は損切りできないという行動は損失回避効果で説明できる。
・「術後1カ月の生存率は90%です。」「術後1カ月の死亡率は10%です」という表現方法の違いで手術に踏み切る人の割合が異なるのは「フレーミング効果」
・現状を変更する方が望ましい場合でも、変更を損失と理解し現状維持を好むのが「現状維持バイアス」
・なかなかダイエットを実行できなかったり、夏休みの宿題を夏休み後半までしないといった現在の楽しみを優先し、計画を先延ばしするのが「現在バイアス」
・現在バイアスに対して、自分の将来の行動にあらかじめ目標を掲げたり制約をかけるのが、コミットメントー手段
・他人が自分に親切な行動をしてくれた場合にそれを返すという選好を互恵性という。
・思考費用がかかったり、計算能力に限界があったりすることで、ヒューリスティックスという直感的意志決定を取り入れがち
・取り戻せないサンクコスト(埋没費用)を回収しようと不合理な意志決定をすることがある
・最初に与えられた数字を参照点として無意識に用いてしまい、その数字に意志決定が左右されるアンカリング(係留)効果
・デフォルト(初期値設定)が大事という事例としては臓器移植に関して日本のように「提供しない」がデフォルトになっている国は「提供する」がデフォルトになっているフランスのような国に比べ提供の意思表示割合は低いということがあげられる。また、千葉市では育休を取得する際にその理由を申請させていた制度を育休取得をデフォルトにして育休を取得しない場合にその理由を申請させる制度に変更することで、育休取得率が大幅に向上した。
・健康活動は、行動経済学的なバイアスが発生しやすい分野。たとえば、デフォルトで接種日が決められていた場合の方がワクチンの接種率が高い。ただし、接種希望者が日時を選んで予約する場合は、コミットメントがより強いため、予約変更の通知をしないで接種日に来ないというようなことは少ない。
・ナッジとして公共政策に効果があるのは、多数派の行動を社会規範として示し、それから乖離している人を少数派として意識させるメッセージ
医療の現場における患者の意志決定や防災の知識や避難場所についての教育を生かした防災行動に関し、いざという時、なかなか冷静な判断ができないのが人間。その人間の特性を踏まえた上で世の中の仕組みを
考えるべきだというのが、本書の肝。 -
Posted by ブクログ
行動経済学では、ヒトは合理的な存在ではなく、思考に一定のバイアスが存在すると考える。この本では、実臨床で遭遇する具体的な問題について、行動経済学的なアプローチから問題の原因をデータで証明しながら考察し、解決案を提示している。また、患者だけではなく、医師も思考のバイアスがあるとし、それにより生じる問題に対する解決案も提示している。行動経済学のそのような考え方は参考にすべきであり、臨床の場でも応用すべく行動経済学を一度しっかりと学びたいと感じた。
本書では行動経済学についての説明は十分ではないため、行動経済学を一度触れてから本書を読んだ方がさらに理解は深まると予想される。
本書は臨床の場に立つ方にはもちろん、行政や医療系ビジネスに関心がある人にとっても患者の受療行動や予防成績を向上させるのに参考になるため、一度読むことを勧めたい。 -
Posted by ブクログ
とても学術的。理解するのに頭を使う。以前、行動経済学の本である「ヘンテコノミクス」を読んでいたので、何とか理解できた。文字数が多いので当たり前だが、ヘンテコノミクスより例が多い。
初めて知ったものとしては、締め切りを細かく設定することで、現在バイアスから発生する先延ばしを防ぐ効果。
例えば、学生にタイプミスを訂正する課題を与え、
①3週間後に3枚すべてを提出
②1週間ごとに1枚ずつ提出
③締め切りを自分で設定
という3グループに分けた。
最もミスが少なく、締め切りからの遅れもなかったのは、②のグループ。次に良かったのは③。成績が最も悪かったのは①。