藤田和日郎のレビュー一覧
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疲れて、足を止めたくなったとき背を押してくれるのは、逆境に負けずに進む人物の姿。「ではどうすれば進めるのか」という疑問に、「からくりサーカス」は才賀勝ら登場人物の生き様を通じて「他人の視線を受け止める」というひとつの答えを提示してくれます。
キャラクターの一人がシェイクスピアの言葉を引用して曰く「この世は舞台、ひとはみな役者」。この言葉が象徴するように、からくり人形らとの闘いという物語全体を通じて、重要な舞台を「サーカス」に設定。あたかも登場人物らはサーカスの舞台で精一杯自分の人生を演じ抜こうとしているようです。だからなのか、作品に登場するキャラクターのうち、成長して勝利をするのは、舞台にいることを意識し、他人の視線を受け止めて背筋を伸ばして前を向こうとする存在。逃げ回ることをやめた才賀勝も、当初は他人の活躍を見るだけだったが、少しずつ自分も見られる存在となっていきます。「自分なんか」と思ってしまったとき、この作品を読めば「誰かが見てくれているかも」と思い、もう少しだけ生きて前に進もうと思わせてくれるかもしれません。時間軸や古今東西の名作からの引用、伏線の使い方も見事なので、複雑な物語構造が好きな方もぜひ。 (bookish) -
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ネタバレ「人の生き様を左右するのは己の意志と覚悟」
近代看護システムを作り上げたフロレンス・ナイチンゲールを中心に、己の意志で人生を作り上げるく人の姿を描く秀作。親の反対で、看護の道に進む覚悟が揺れていたフロレンス。だがゴーストのグレイがフロレンスの覚悟を揺らしていた「生霊」を殺すことで、で自分の意志を押し通し、満足する生を全うする。グレイが、生前なし遂げられなかった祝福の「something four」をフロレンスに与え、彼女が天に召されるシーンも感動的だ。
物語が描くのは「人の生き様を妨げるものは『やめておこう』と自分を殺す心。それを押さえ込んで生きてこそ満足な人生」という熱い主張。フロレンスの場合は、グレイが殺してくれたが、多くの人は自分で押さえつけるしかないーーそんなことを痛切に感じさせる。(bookish) -
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1~33巻まで一気読みしたので、こちらに感想をまとめます。
大変面白かったです。全篇に渡って、絶望的な強さを持つ大妖である白面の者だけが最後の敵で、それだけ倒せばハッピーエンドという潔い構成も好きですし、大筋とは関係のない細かいエピソードも面白いし、最終戦で続々と集まる人間や妖たちがみんなして協力してくれ、名前もない一般人たちまで主人公たちに助けられたことを覚えていて白面に力を与えてしまう恐怖を追い払うという展開は、本当に、最っ高に熱い!! と思います。隅々まで愛の行き届いた、人間の善性が無限に信頼された世界観が、もう、眩しくってしょうがない。正直、私はうしおの目の輝きに耐えられず裏切った流の気持ちがわかります。この世界で、彼の存在はなんだか悲しくて良い。
そしてなんといってもはずせないのは主人公のうしおととら! 正義感は強いけれどちっとも理屈っぽくなくて、「なんだか気に入らない!」ぐらいの動機で敵に立ち向って行くうしおは、見ていて気持ちが良い。この作品にはたくさんの名言があるけれど、私は物語前半の、「ともだちもよろこびも…笑いガオもとったら…女の子にゃ骨だけしか残らねえじゃないか!!」という台詞が一番好きです。「骨だけ!?」とびっくりすると同時に、「いや…そうかもしれない…」と気押されてつい納得してしまうような、勢いの良い断定がうしおらしくてすごく好き。それから、とらの魅力については、今更語るまでもないけれど…、人間の常識が通じない、身勝手で素直じゃなくて、ユーモラスで意外と勉強家で、…なにを言っても足りないくらい素敵なキャラクターだと思います。まずデザインが素晴らしい。怖いようなかわいいようなかっこいいような、良いデザイン。好き。そして、おそらくこの作品を最後まで読んだ人なら誰にだって同意してもらえると思いますが…、とらの最後のシーン、いいよね。すごく。
ストーリーも世界観もキャラクターも、文句なしに良い! 藤田先生の作品は初見だったけれど、この人ならば信用できる。他の作品も絶対に読みます。面白かった! 満足!! -
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人に薦めたきっかけで再読。「うしおととら」「からくりサーカス」が知られる藤田和日郎先生の描く、珍しく1巻のみで完結の作品(その気になればシリーズ化できそうではある)。
その目で見られたものはすべて死んでしまうという1羽の恐ろしいフクロウが、東京湾で座礁した米軍空母から逃げ出した。そのフクロウ、コードネーム「ミネルヴァ」は都内を飛翔し、空前絶後の死者を出す。かつてそのフクロウを一度は撃ち落とした漁師・鵜平は、米軍の要請を受けて銃をとるが…。
作品としての分厚さ、迫力は「白鯨」や「老人と海」「羆嵐」といった作品(どれも小説だけど)に劣らないすさまじさ。すべてを捨ててフクロウに挑む者たちの戦いは、漫画らしい荒唐無稽さでありながら、リアルです。そしてまた、「ミネルヴァ」もまた、凶悪なだけの敵キャラではないところが良いですね。読む人を選ぶクセのある画なれど、一読してほしい怪作。 -
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それなりの年月を生きてきて、それなりの経験も積んだから、今更、多少の事じゃ、自己嫌悪に陥らなくなった私だが、未だに、一つだけ、自分の力不足っぷりに泣きたくなる時がある
それが、藤田和日郎先生の漫画の感想を書く時だ
感動って一言じゃ片づけたくないくらい、大きな「何か」を文章にしたいのに、いざとなると、作品を穢してしまうんじゃ、って不安が膨らんでしまう。今、既に、この時点で、ここまでの文章を消したい衝動があって、必死に堪えているくらいだ
なら、書かなきゃいいだろ、と言われても文句は言えない。しかし、漫画読みで、漫画の感想を書くのが好きな人なら理解してもらえるだろうが、最高の作品に出逢えた感謝は、ずっと心の中に置き続けると、体調に異変が生じてしまうのだ
だから、私は書く、この『黒博物館 ゴーストアンドレディ』の感想を
まず、言っておきたいのは、この作品も藤田イズムが炸裂しているので、藤田先生の作品と言うか熱に慣れていない人は読まない方がイイ。自分で言うのも何だが、この『黒博物館 ゴーストアンドレディ』は藤田先生のファンの中でも上級者しか、衝撃を受け止められないだろう。先に、『黒博物館 スプリンガルド』を読む事をお勧めする。もし、これが入手困難であったら、小学館から出た『邪眼は月輪に飛ぶ』がお勧めだ
ここからは、藤田先生のファンに向けた感想になってしまうが、ご勘弁いただきたい
先にも書いたが、藤田イズムはかなり強かった
藤田先生の実力は、やはり、目に出るな、と感じた。浦沢直樹先生の表現をあえて借りるが、「人ならざる者の目」、「あ、コイツとは分かり合えないな、と感じさせる目」、つまりは、読み手に強烈な印象を叩きつけてくる悪役を書かせたら、まず、藤田先生の右に並ぶ者はいないだろう。尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』、鈴木央先生の『七つの大罪』に登場するヒールらも強力だが、いざ実際、藤田先生の作品に登場する悪人の目を見てしまうと、霞んでしまう。ここが年季の差か
だから、私は浦沢先生の論に、一つ付け加えたい
そんな目をしたキャラ、人間らしい悪人だからこそ、主人公に野望を打ち砕かれて、最期を迎えた刹那、思わず、同情ってほどじゃないのだが、「あ、コイツにも、悪に徹するしかない理由があったのかもな」と、ほんの少しだけ、消えていくキャラの心情に歩み寄れるのだ
人であり続けようとする人間の目も、当たり前のように強い。並みの精神じゃ維持できない信念を持って、他人に嘲り笑われても叶えたい夢に向かって生きている人間の目、それを書くのが上手いのも、藤田先生だ。読み手の心に火を灯せる熱が宿っている、と言えば伝わり易いだろうか?
当然ながら、この『黒博物館 ゴーストアンドレディ』も、アクションシーンは圧巻。青年誌で連載されていたとは言え、ストーリーの厚みをまるで削がず、ドンパチの場面の迫力も、『うしおととら』を筆頭にした週刊少年サンデーで連載していた少年漫画に劣っていないのだから、凄い、としか表現のしようがない
何歳になっても、男って奴ぁ、チャンバラと言うのは心躍ってしまうもんらしい
また、何より、自分の人生をしっかりと生きて満足できたキャラクターが、最高の笑顔で退場していく、その信念も、この作品ではしっかりと活かされている
当たり前の話だが、読み手は恨み言を吐いたり、呪いの言葉を残したりする陰惨なキャラクターよりも、自分が自分であり続ける為に、限られた時間の中ですべき仕事を終えて、気持ちよさそうに笑って去って逝く登場人物に共感できるし、憧れも抱ける
この『黒博物館 ゴーストアンドレディ』の主役の二人、グレイとフローレンス・ナイチンゲールの笑顔も最高だった
わざわざ言うまでもないが、当然、殿堂入りだ
ちなみに、殿堂入りを迷わない理由の一つには、最終回のラスト、そこに藤田先生の遊び心、加えて、和月伸宏先生との絆を感じられたからだ。これは、どっちのファンにも嬉しいし、何より、和月先生自身が嬉々雀躍となったに違いない
黒博物館が、再び、その扉を開くのが待ち遠しい。学芸員“キュレーター”さんの個性は、他作品の主人公に勝らずとも劣ってない。実際、アンケートを取ったら、上位に入るんじゃないだろうか
サブタイトルのセンスが好い、どの作品もお勧めだが、やはり、第一話だろう、藤田和日郎先生のファンとして、未読の人間に推すべきは。最終回が最高で、それまでの話を読んで得ていた感動を超えるモノであってこそ、作品は完成する。けど、どんな作品でも、まず、一話目から読み手の心を鷲掴みに出来なければ、意味がない。藤田先生の作品は、まず、一話目で読み手を強く抱きしめ、最終回までずっと、その腕の力を緩めない
この台詞を引用に選んだのは、何度も連呼して申し訳ないが、藤田イズムの塊だからだ。本音を言えば、他の漫画からの引用を犠牲にして、心に響いたフローやグレイ、デオンの台詞を紹介したい。けど、それは私のルールを、自分で裏切ってしまう。だから、必死になって、この台詞を選んだ。これは、漫画読みにしか理解できない苦しみであり、歓びであり、達成感だろうなァ