石田夏穂のレビュー一覧
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石田夏穂の『私を庇わないで』を読んだ。
三つの物語が収められた短編集だ。
最初の「世紀の善人」は、大きな会社・三國造船で働く女性社員、安井の話。
安井は上司たちを「サンゾウ」と呼び、いいように使われながらも、何だかんだと仕事をこなしていく。
そして最後には、とうとうやらかしてしまう。
ちょっとシュールな話だった。
私は大きな会社に勤めたことがないので分からないけれど、それにしても、
「今どき、こんな会社があるのかな?」
というのが正直な感想だった。
会社の雰囲気も登場人物もかなり誇張されているように感じる。
現実の会社の話として読むというより、少し変わった世界を楽しむ小説なのかもしれない。
二話目は「小人二十面相」。
何が二十面相なのだろうと思ったら、主人公は鏡に映る自分の顔が、ひどく不細工に見えたり、美少女に見えたりするらしい。
七五三の写真があまりにも不細工に写っていたことがきっかけで、それ以来、鏡を見ることも避けるようになった。
卒業アルバムの写真撮影では、友達が何度も撮り直してもらう。
何度も写真を確認した末、その友達が
「5回コールドで負けた監督のような顔をしていた」
という表現が出てくる。
これはなかなかうまい表現だと思った。
今はスマホでいくらでも写真を撮れるが、昔は写真を撮るのも結構面倒で、お金もかかった。
卒業写真を何度も撮り直すなんてことも、まずなかったと思う。
私も今度の同窓会で上映する動画を作るために昔の写真を集めたが、意外なほど皆、写真を持っていなかった。
主人公は「写真のない時代が良かった」というようなことを言う。
ところが、そんな主人公が写真に写ってみると、意外にも美少女に写っていた。
三話目は、本のタイトルにもなっている「私を庇わないで」。
主人公は太っている女性で、魚を扱う会社の広報をしている。
会社が魚を納めている店を紹介するために食レポをするのだが、最初は美人の相棒が前面に出て、主人公はいわば「着ぐるみ」のような役回りだった。
ところが、次第に主人公自身が食レポをするようになる。
周囲は主人公が太っていることを気にして、何かと庇おうとする。
しかし本人は、
「デブがデブで何が悪い」
という感じなのだ。
読んでいて、食レポで活躍しているお笑い芸人を思い出してしまった。
三つの話とも、どこか現実から少しずれたような、おかしな世界が描かれている。
その中でも、私は最後の「私を庇わないで」が一番面白かった。
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ネタバレ本人にとって大事なことにとらわれて、どんどん煮詰まっていく人を描くのが本当にうまい。3編ともその変奏。
1. 世紀の善人
三國造船勤務の女性が、パワハラ的な社員たちを「サンゾウ」とカタカナで総称して観察する話。メンタルヘルス委員会、専務の秘書の退場、そして「階段を使っているから死ぬんですよ」の一言。被害者だったはずの意識が、観察という行為を通じて変節していくのが面白い。3編の中では一番キャラクターに焦点があって読みやすい。
2. 小人二十面相
自分の顔が嫌いで鏡も見ない女の子が主人公。ディズニーの計画もカメラ写りが気になって乗り気になれない。行く気になった矢先に台風で流れて、マックの鏡を悪い鏡だと捉えて恍惚とするラスト。
問題が解決しない。こだわり続けていること自体が変わらない。その一喜一憂に留まり続けること自体が中心にある、という作りが石田先生っぽくて好き。子ども主人公なのでいつものお仕事小説とは違う色合い。
3. わたしを庇わないで(表題作)
タナマル水産広報部・アヤノの話。自他共に認めるデブとして笑われることに向き合い、なんとかやっていこうとすると、まなみ先輩をはじめとする分かったようなことを言う人、正論で庇ってくる人が出てくる。
その正論を裏返せば、結局笑う側の悪意や偏見と同じ地平に立っているんじゃないか、という指摘。『我が友、スミス』の時にも感じたけど、この正論の反転こそ石田先生の骨子だと思う。タイトルの意味が、読むとすとんと落ちる。
読後感は正直よくない。ぐったりする。でもそのぐったり感こそが、この煮詰まりの切実さの証拠でもある。
職場から子どもの話まで、とらわれの形を変えながら一貫して嫌なところを見つめる一冊でした。 -
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短編3作品。
私は一つ目の「世紀の善人」が1番面白かった。オンナの子として働いたことのない人の共感は、得難いかもしれない。オンナの子は、考えるチカラのない雑用ロボットなのです。オンナの子は、道理に敵わなくてもダンセイ社員の言うトオリに動かなければならないのです。
「小人二十面相」は、よく分からなかった。本当は美人なのかブスなのか気になってしまう私は、何かを見誤っているのかもしれない。
表題「わたしを庇わないで」 この頃のカワイイの追求度合いは如何なものか、何故そんなに美容整形しなければならないのか、理解できない。何故そんなに美醜が人の価値を決めるのか。
そういう話じゃないんだけどね。
なんだかちょっと考えた。
デブとブスとオンナの子を人として扱いましょう! -
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ネタバレBMI30を超えると仕事に制限がかかる法律ができたデブに優しくない世界の話。
ただ単に主人公ユカリがダイエットがんばる話かと思いきや、ジムや職場での世間体の話だった。コミカルな文章で読みやすい。
ユカリが結婚していて子どもがいるとどんどん嘘を重ねていくからいつバレてしまうのかと読んでてずっとヒヤヒヤしてたけど、けっこうサッパリした終わり方でよかった。
最近は結婚してない女性に対しての扱いがだいぶ変わってきたのではないかと思うけど、世間的にはやっぱりある程度の歳で結婚してるのが普通で、そういう人間のほうが気を遣われないし会話が広がるというのはあるんだろうな。 -
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ネタバレ工事現場とは、自分の人生で一番遠い場所の一つである。
泥々していて、埃っぽくて、暑くて、危険。そんなところで働いている人たちが怖かったりもする。
事務所での小競り合い、本社の人間とのリモート会議、現場での職人とのぶつかり合いなどなど、土臭さが薫ってくるようなシーンの数々。
そんな、自分とは程遠い世界の話だからこそ、かなり新鮮で興味深く最後まで面白く読めた。これぞ、小説の醍醐味。
安全担当の松本が「安全」を振りかざして空気を読まず安全指導をする姿には、うーんと思わざるを得ない。
正しいことが最善なのか。大事だけれど流れを読んでうまくやることも社会人には重要というのは、真面目な人間にとってはかなり難しい話である。
一方で、松本が何か信念があって安全を唱えていたのかと思いきや、工期が伸びれば契約が伸びるという超現実的な理由だったのがとてもよかった。
きれいな物語では終わらないのが石田さんの小説らしさというか。
工事現場がちょっと身近に感じられる、いい出会いだったなぁ。 -
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スミスがスミスマシンのことだと知って借りたけど、芥川賞候補とのことで失敗したと思った。
今まで読んだ芥川賞とその候補はたいてい意味がわからんから避けていた。
が、これは面白かった!というかわかりすぎた。
と言うのも私も筋トレにハマったことがあって。
田代誠が復活した頃です。(て誰がわかんねん笑)
女が30過ぎで独身だと、飲み歩くでも趣味でも何でもいいんだけど何かないと退屈すぎたんだよね。
私の場合それが筋トレで、昨今のブームからもわかるように筋トレってのはハマるようになってます。(断言)
原宿のGジムがメインで、もちろんマシンでなくフリーフェイト、本文にもあった通りそっちの方がかっこいいから笑
とは言え弱くてすぐケガしてやめてしまったんだけど、頭でっかちにはなってしまい、周りで大会に出る人なんかもいたので書いてあることはほぼ理解できた。
やめてからビキニができたり、本文にも出てきたけど女性のボディビルがフィジークになったりで、主人公が思ったようなことを思わんでもなかったけど、業界の体質がめちゃくちゃ古そうかつ狭い世界のようなので改革がなされないんだろうな。
ただ、髪が長くないとの件はjbbfのサイト見ても女子フィジークのトップ選手でそんな人はおらず、ビキニのことだと思う。別々に説明したらゴチャゴチャするし、問題提起のために端折ったんだろうけど、一応。
まぁそもそもこの主人公のように重いの好きな人は減量勝負のボディビルの大会より、パワーリフティングへ行ったらと思った。実際筋トレにハマって強い子の中にはそういう子もいたしね。
よくわからなかったのは、女性は背が高い方が有利なんだろうか?
男は同じ筋肉量なら小さい方がバルクが大きく見えるから有利と言われてたけど、女性はボディビルでなくなったから?
(追記、これもビキニのことか)
と妙なところが気になりつつ、昔を思い出したりもして面白かった。
トレーニーじゃない人が読んだらどう思うんだろう? -
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かつて建設工事会社の下請会社で働いていた。安全靴と安全帯とヘルメット、軍手を穿いて、早朝暗い小屋の焚火に集まり挨拶をして、今日の仕事の道具を軽トラに積み込むのが毎日の日課だった。
大手デベロッパーの工事現場などに入ったことはない。二階建てのプレハブ事務所なんて贅沢だろう。でも、緑十字の「アンゼン」職責の人が2人以上も居るということが新鮮であった。勿論、私がいたところには、そんな職責はいない。社長か副社長が担っていたのだろう。もっとも、私は仕事に就いたあと、この会社には10以上の労基法違反がある、と数えた時点で「辞めさせてもらいます」と申し入れたのではあるが。
小説なので、安全チームの仕事の全てを描くこと叶わない。「安全」とは主には、会社自体が労基法違反に問われない様に強力な権限で現場管理をするのが仕事である。搬入トラックの一般道に残す泥引き、杭打ち時の保護メガネしていない職人への「管理」、風速計による杭打ち作業入るかどうかの判断などが描かれる。そこに隠される幾つかの「謎」の解明。
そういう工事進捗に関わる仕事も大切なのだろうけど、私がこの本を紐解いたのは、労働者の安全衛生管理がテーマになっていないか、と思ったからである。緑十字は、安全衛生法を守らせなければならない。法律は「雇用者は被雇用者が快適に仕事をするために」「環境を整える義務」「必要」ではない、「義務」があると謳っている。だから、セクハラ、そして近年ではパワハラの「定義」も厚労省がきちんと制定した。アンゼンはそれを踏まえて、会社と労働者の板挟みになるというジレンマがあるはずなのだ。
「緑十字」にもし続編があるとしたら、是非その辺りに切り込んで欲しいと思ったものである。