石田夏穂のレビュー一覧
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軽妙諧謔な語り口の陰で、ふとした瞬間に、ホモソ価値観のもとで太古から醸成されてきた「毒」がまわる。「ケチる」彼女も、せっせと脂肪吸引に課金する彼女も、その行動原理の根底には、どんなに「コンプライアンス遵守」が叫ばれるようになった世の中であっても尚もうっすらと漂い続ける「毒」に侵されたことでの「中毒」がある。側から見ればすごいヤツらなのだが、かなり理にかなった振る舞いではあるし、それを淡々と軽々と紡ぐ石田さんの筆致にやられる。
筆者は東工大工学部卒らしく、両編ともに建築系?会社の中堅女性社員が主人公だったことにも請け合い。面白かったし好きな文体だった、他の作品も読みたい。 -
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ネタバレこの作者の作品を読むのは初めてだったが、「100分で読める」レーベルとはいえ、文章のテンポの良さが際立っていて、文体も内容も個人的にかなり刺さった。
特に、ユカリが海外志向になったきっかけとして「人びとが人びとに無関心に見えたことに奇妙に慰められた。自分はずっとここにいるべきだとすら感じ、そんな憧憬はいまも変わらない」と語る場面から、この作家とは感覚的に合いそうだと感じた。読んでいて主人公のユカリに共感するところが多く、自分と違う部分についても、それはそれで人としての面白さとして興味深く感じられる。
指輪を盗んでしまう場面から物語が一気に加速していく展開も魅力的だ。まるでジェットコースターのように助走は短いのに、気づけば高いところまで登り詰め、落ちた瞬間から最後まで高速で四方八方へ連れていかれる感覚。外からレールの軌道を見てルートはある程度想像できていたはずなのに、実際に乗ってみると思いがけない方向へ運ばれていく。そんな濃密でエキサイティングな100分だった。 -
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作者の現代日本に未だはびこる古い価値観への冷ややかな目線が痛気持ちいい。
たとえば、体脂肪率。
標準値が決まっていて、それをオーバーしたら「デブ」の蔑称を与えられる。
たとえば、決まったパートナーがいること。
「結婚してナンボ」という価値観は、いまだ根強く、結婚してないひとは、「かわいそう」「信用できない」などというマイナスな評価を与えられる。
そういった古い価値観など気にせず、海外を飛び回っていたはずの主人公のユカリがひょんなことから手に入れた、かりそめの「ふつう」という価値観にいともたやすく恍惚とする可笑しさと、不気味さ。そしてそれを利用する痛快さ。
地味めの設定とコミカルな比喩と鋭い社会批判を共存させてしまう石田夏穂さん。
スルスル読めてしまうのに、残された爪痕は大きい。
この読み心地は癖になる。
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日々ジムに通い、トレーニングに明け暮れるU野は、ある日スカウトされ、ボディビルの大会に出場する事に。「筋肉だけで終わる話じゃないの」美容に対する意識が足りない事で指導者から注意されるU野は、筋肉をアピールする大会における美容の価値とは何かを思案するーーー
初めから最後まで、ずっと面白かった。
トレーニングし始めた理由を、別の生き物になりたいと語るU野は、ボディビルの大会に出場するにあたり、他者からの評価に目を向けなければならなくなる。髪型、ハイヒール、脱毛、笑顔、それぞれに疑問を抱きながらも、勝利のために全て行ったU野。そんなU野が迎えた大会にて得た結果、出した結論には驚かされたと同時に納得させられた。
大会にベストな状態で臨むために、行った数々の努力や、母との関係、そして何よりボディビルにとって、社会にとって見た目が与える数々の影響がU野を取り巻き、足枷となりながらも進み続ける姿には勇気を貰う。「おもしろい」「わかるなぁ」「かっこいい」「いいなぁ」ひたすらにそう感じ続けた一冊でした。
初読:2月15日
再読:6月12日(再読記録にて、感想) -
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主人公が熱心に採用活動をすればするほど、その活動自体は成果を出すけど、比例して着実に会社の不利益になっていて、お互い噛み合ってしまっているところが皮肉で面白かった。
就活もビジネスも凄く平等に権利が与えられているように見えるシステムを作るのに、実は公平じゃないことが多くて、そういう歪さに初めて直面するのが就活なのかもしれない、、?
会社が定量的な物差しで決定をしてないことと対比して、主人公が一貫して同じ基準で採用活動をするところは、復讐というよりも会社へのアンチテーゼなのか?
内定を持っている先輩、OBOG訪問で会う社会人が神のように見えてしまう現象ってなんだったんだろう、、。この会社に入りたい!この会社じゃないとダメだ!と思わせられる現象もなんだったんだろう。
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めちゃくちゃ面白かった。筋トレ小説。
とても背中を押されるし、モチベーションが上がる。
この小説を知った1年前は、「筋トレかぁ興味ないなぁ」って思ってたけど、自分がジムに通い始めてから読むとめちゃくちゃ面白いし、いい教材…!!
そうなの。ラットプルダウンは、始めたては背中に効かせにくいのよね!!共感!まさに今の私!!笑
ここまでストイックにできると楽しいやろうなぁ。
ジェンダーへのもやもや、ルッキズムへのもやもや、なんとも言葉に言い表しにくい(そういうものだと刷り込まれて生きてきちゃったから)ことたちへの不満感がヒシヒシ伝わってきて大共感。
そしてたまに挟まる力強い言葉たち。
最初、性別を勝手に解釈してた。
私も、ジェンダーステレオタイプが凝り固まってるんだって思い知った。
「この小説どうやって終わるんやろう」と思ってたところに、とってもスッキリかっこいい結末で大好きだ!!
最後の、山崎ナオコーラさんの解説も理解が深まったし、石田さん他の作品も読みたくなった。
今のところ『冷ややかな悪魔』しか読んだことない。こっちの方が好き。
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ネタバレ女性のボディビルを書いた「わが友、スミス」の主人公と、男性のボディビルを書いた本書でこんなに主人公の性格が違うのか!というのが衝撃的だった。
男性ボディビルダーの主人公の他者(デブ)を見る目の辛辣なこと辛辣なこと。
脂肪=無駄なもの、というストイックな考え方が、現実の自分の会社のチームにまで及び、ついには自分の肉体にまで影響を与えていくっていうのはなかなか面白いなと思った。
最後、まぁうまく行かないという結末だろうなとは思ったけど、痩せすぎて失格、しかもそれに対しての主人公の帰結がいろんなやつを(チームに)入れよう、まではよかったけど、そしてそのあとにいらないやつは切ろうって繋がっていったのには思わず笑ってしまった。全然反省してない。というか主人公における反省というのは優秀な奴はちゃんと労わろうっていうところだけで、これは、すごいなんというか、それでいいのだろうか?と思っちゃうような物語だった。
いや、これぞ石田夏穂!肉体を書かせたら右に出るものはいないって感じで大好きなんで面白かった。
男性ボディビルは女性ボディビルとは同じところもあるけど全然違うものなんだなぁと思った。
そして、この主人公は私は人間的に好きじゃねぇなって思いました笑
お前はチームリーダー失格だよ! -
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石田夏穂さんの作品は、1つ設定を決めてから主人公が突っ走っていくので、解説の朝井リョウさんも話しているが、石田さんの作品からしか得られない文章があるというのは、この人を読み続ける理由に十分なりうるなと思います。
今回だと、「就活生を黄金比の顔で採用する」という主人公の軸があるので、「新卒一括採用は信用ならない」ことや「人事部の他の人たちのよくわからない判断軸を批判しない」ということに含まれていると思いました。
それぞれの作品で、主人公の軸を動かされる場面が必ずあるが、それを悲観したり悔恨したりせず、グイっと主人公の軸を変えてすすんでいき作品が終わるのでそれがいい。出てくる登場人物は社会の中で働き、そのシステムにもがき、視点を持ち、生きていくがそれでもうまくいかない。それをひょいっと乗りこなす、軸を変えることへの抵抗がある私にとっては彼らが輝いて見える。今年も新作が楽しみな作家さんです。 -
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素人の私目線ですがジムの描写があまりにも「やってる人」っぽくてあるある〜!とか、上の人達だとそんなこと思ってるのか〜とか、リアルに感じられました。パワーラックとかベンチとか使いたかったのに、ようわからん事してる人(失礼)が数十分占領してて使えない時とか…あるよね…
大会に勝つために歩き方とかポージング、脱毛、タンニングなどは予想の範囲だったのですが、髪型まで…てかエクステ!?とびっくりしました。別に男みたいになりたくて筋トレするわけじゃないけど、だからといって「女らしく」したいわけでもなく、ただ鍛えたいなぁって気持ちで筋トレしてるだけじゃ勝てない世界なんですね…
面白かったです!! -
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7つの短編集
新進気鋭の作家たちによる現代のリアルを切り取る7つの物語。
わかってるようでちゃんと理解していなかった
「推し活」「VTuber」についての理解が深まりました
どの作品も味わい深くオススメできるものばかりですが個人的には
『あなたに見合う神さまを(佐原ひかり)』が一番心に刺さりました
人を支配するもの、人の幸福を妨げるものはおしなべて暴力よ
と語る権藤さんのカッコよさと、少しづつ勇気をもって言葉の暴力に立ち向かう主人公。。
初めて著者・佐原ひかりさんを本作品で知りましたが他作品も追いかけてみます
あと石田夏穂さん作品はほぼ全部読んでいますが短編向きなのかも、とも感じました
=======本の概要======
『世界でいちばん透きとおった物語』の杉井光、『六人の噓つきな大学生』の浅倉秋成、『#真相をお話しします』の結城真一郎など、最注目の作家が集結!“今を生きる私たち”をリアルに切り取る7つの物語!
彼らのその後が読める。本書のための書きおろし! 『世界でいちばん透きとおった物語』スピンオフ「君がため春の野に」収録!
これが当たり前になった時代で、あなたならどう生きる?
信者に人生を壊されたVTuber、バズって神格化された女子高生、呪いのアプリの謎に迫る調査員、娘に似た女性をマッチングアプリで探す男、学校の机に「推し」の祭壇を作る彼女、上司を騙して残業代を増すOL、未だに動く亡き夫のアカウント。それぞれの物語に隠された、生きていくための秘密と噓。ベストセラー『世界でいちばん透きとおった物語』のスピンオフも収録した、新進気鋭の作家たちによる現代のリアルを切り取る7つの物語。
かわうそをかぶる(浅倉秋成)
人気音楽クリエイターが殺された。犯行動機は『VTuberを守るため』。彼と交際の噂があったVTuber雨露ゆゆは失意の中、事務所に言われて釈明配信の準備を進める。身も蓋もない噂だけで人生を壊されたゆゆは、これまでの人生が走馬灯のようにフラッシュバックしてくる。
まぶしさと悪意(大前粟生)
信じられないだろうが、ショート動画を撮りたくてうちに入学してくる子はいる。理由は赤羽海荷がいるから。動画がバズり、カリスマ女子高生として崇められた彼女は、ある日を境に動画を投稿しなくなった。かつて副担任だった私は彼女の様子が気になり、動画を撮らなくなった理由を探ろうとする。
霊感インテグレーション(新名智)
訳あり社員が集まる会社に入社した私は、「幽霊からプッシュ通知が届くらしい」といった報告が多発している通称“呪いのアプリ”の調査に乗り出す。どこにも不具合が見つからない中、ひょんなことから解決の糸口を見つけ出すのだが……。
ヤリモク(結城真一郎)
三十二歳。独身。そう彼女は信じているが、実際は四十二歳。妻子持ち。我ながら罰当たりな男。マッチングアプリでお持ち帰りを企んでいる男は、今回も小柄でショートカットの女性と出会い、いつものテクニックで目的を果たそうとする。
あなたに見合う神さまを(佐原ひかり)
権藤さんの机には、ダンス系ユーチューバーWataruさんのグッズを奉っている祭壇がある。クラスでは浮いた存在の権藤さんだが、ある日、日課の早朝ランニングをしていた私は、推しのダンスを練習している権藤さんを見つける。
タイムシートを吹かせ(石田夏穂)
月末。上司のアカウントにログインをして、今月の食費分だけ残業代をかさましする。それは私と会社を繫ぐためのもの。パソコン音痴でパワハラは当たり前、前時代的な上司、通称“レジェンド”の介護をしている私は、どうにかこうして会社を辞めずに生きている。
君がため春の野に(杉井光)
前作『世界でいちばん透きとおった物語』を書きあげた僕は、「SNSがテーマ」のアンソロジーに短編を依頼される。無事書き上げた僕は打ち上げで、亡き夫のSNSアカウントが未だに動いているという相談を受ける。そこに隠された秘密と噓とは。 -
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『ケチる貴方』と『その周囲、五十八センチ』が収録されている。
『ケチる貴方』の主人公は、備蓄用タンクの設計と施工を行う企業に勤めている。現場の施工管理を担当する優秀な女性社員だ。
金太郎のような体なのに超冷え性。
冷え性であることを隠して働いているが、新人教育担当になって自分を曲げてから体がほてり始める、という内容。
『その周囲…』もそうだけど、体にフォーカスしたのが新しいと思った。
『ケチる…』はお仕事小説としても面白い。
昔新聞で、うろ覚えだけど、「小説というのは新しい国を作るようなもの。どこかで読んだようなものを書くな」という某作家のコラムを読んだことがある。
著者が作ったのは、新しい国だなぁと思った。