奈倉有里のレビュー一覧
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ネタバレロシア文学作品の中に実際に入り込んで「体験」した上で、気づいたことや感想をディスカッションする大学の授業、という体で12の文学作品を紹介する本。当時の時代背景や作者が影響を受けていたことなど、注も豊富だし、先生も学生も優秀な設定なので、勉強になるし深い読み取りを知ることができる感じがする。個人的にはファンタジー・アンド・ロマンスなこの本の設定に若干入り込めないのと、いろんな学生たちがディスカッションしているようでいながら、それは筆者の頭の中にあることをいろんな学生に割り振って言わせているだけのようなゴーリキー的な印象もあって、普通の講義形式で語ってくれても、と思う。でもこっちの方が読みやすいの
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Posted by ブクログ
こういう本って初めて読んだような!! すごく新鮮でおもしろかった。
ロシア文学の入門書なんだけどそれが小説仕立てになっている。大学でロシア文学を学ぶ日本の男子学生が主人公。ロシア文学の講義に出るたび、なぜかいつのまにか課題作品のなかにワープする感じで登場人物のひとりとしてその作品を体験する。そして先生の講義があり、学生たちが意見をかわし、主人公もさまざまなことを考える。主人公は同じ講義を受けている女子学生に片思いしていて、それが作品の体験にリンクしたり。
とりあげられているロシア文学はトルストイとか有名作品もあるけど、自慢じゃないけどわたしは一冊たりとも読んだことがなくて、それでもおもしろかっ -
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『夕暮れに夜明けの歌を』では、ベランダで静かに詩を朗唱していた著者の姿が印象的だった。本書購入時にもその面影がちらついていたが、いざページを開くや、些かキャラ変していることに気づく。
いきなり飛び込んできたのは「Quest 0(クエスト・ゼロ)」の表題。
「この本をとったってことは、つまりこの本がきみを探していたってことだ。あ、目のまえが白く光りはじめて、光のなかに1枚の紙が浮かんできた」と続く。その白地図をプリントした印刷機が自分に話しかけてきて(驚)、「旅に出て、世界で何が起こっているのかをことばを学びながら知ってきてほしい」と依頼してくる。そこでようやく著者が案内人として登場。印刷機の -
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ロシアの迷信
鳥が家の中に入るとそのいえの誰かが死ぬ。もし入ってきてしまったらすぐに外に放った上で、その日はその家でない方が良いとも言われていると言う。
鳥が飛んで入ってきても不潔だと言うが、これにはロシア語で朝を意味するバーバチカがおばあちゃんを意味するバブーシカ似ているため、おばあちゃんの例が迎えに来たことを連想するからだと言う説がある。古代ギリシャ語で長であり魂でもある募集型の話が思い浮かぶが、実際飯の中には古代ギリシャ由来のものも多い。
忘れ物をして一旦家に戻るのが不吉というものがある家と外との境界線である色をまたぐことが何か決定的な行為でありその前後混同すると良くないと言う類の名称世 -
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ベラルーシのミンスクで語り手であるサーシャと、彼に自分の生い立ちを語る老婆タチヤーナ。
タチヤーナの語る話は、第二次大戦前のソ連に生まれ、戦争に夫をとられ、夫がナチス・ドイツの捕虜となり、つまり、「虜囚の辱め」に甘んじた裏切り者となったため、反逆者の妻としてとらえられ、娘と引き離され、、、という重なる悲運に満ちた人生だった。
そのような悲惨なソ連の状況を生んだ張本人はヨシフ・スターリンなのだが、そのスターリンが死に、その悪行が明らかになっても、やがて時間が経つと、スターリンを持ち上げる人々が生まれてくるのだという予言が語られるが、タチヤーナの人生の最後にあっても、その亡霊の様に蘇るスターリンの -
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翻訳の心得。クエスト形式で進んでいく読みやすい本。ただ言葉を置き換えるのではなく、背景とか、読んだ時の読書体験とか、それが読者に伝わるように訳す不断の努力を感じた。異文化の反対は自文化であって自国の文化ではなく、文化は国に属するものではなくて国民としてのアイデンティティを確立するものではむしろない、というのが印象に残った。本という文化において、異国の人ともむしろ友達になれる。純粋な文化、というのは存在しない。
あとは、「マーシャにサラファンを着せる」という『大尉の娘』の訳について。サラファンは農民の着物で、貴族の格好をしていると強奪の対象になるからあえて農民の着物を着せるという父親の判断なのだ -
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『夕暮れに夜明けの歌を』がとても良かった奈倉さん。
これの「あいだで考える」シリーズは「10代以上すべての人のための人文書シリーズ」となっているので、中高生が取っつきやすいようルビも振ってあるし、この本はゲームのような形で進むが、「翻訳をしたい」と考えている中高生はレアだろう。旅行で使う日常会話やメールならAIが簡単に作成してくれる。留学や移住を考えていなければ、語学学習の意欲は下がって当然。受験があるから英語はやるけど。翻訳小説を読む中高生も少ない。景気が悪くて、若い人も内向きになっているからで、もちろん若い人の責任ではないが。
だから、文学作品の翻訳をしたい人はそもそも多くない。文学の翻訳 -
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アフガン戦争の真実。ソ連政権の巧みなプロパガンダにより徴兵された少年たちは、亜鉛の棺に入れられて帰還した。母親たちは、その棺を開けることは許されなかった。
アフガン帰還兵、戦没者の母親たちへの多くのインタビューから、戦場で何が起こっていて、人間はどのように破壊されていくのかが明らかにされる。
この著書が広く世界中で読まれているのは、アフガン戦争の真実を暴いた、ということよりも、「戦争」「戦場」の持つ普遍的な悍ましさ、戦争へ駆り立てる権力者の欺瞞もまた普遍的であることを暴いたと言うことだろう。どんな戦争も、ベトナム戦争も、今起こっているウクライナでの戦争も、そしてかつての太平洋戦争も、同 -
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ウクライナ信仰が起きた時、彼女はそこにいた。
画家、絵本作家であり、妻であり、母である作者。
彼女は、自分に起きたこと、家族に起きたこと、今あることを、えんぴつでスケッチして、日記に書いた。
それは今ライブで起きていること。
だから物語としてまとまっている話ではない。
しかし、それはリアルでライブ。
今、彼女はブルガリアに避難してきている。
愛犬と二人の子供と共に。
夫は、ウクライナ国内に残っている(全てのウクライナ男性は、国外に出られない)。
彼女の母親は、ウクライナ国内に残っている(老人、家族は身軽に動けない)。
それを知ること、それを感じることのために、本書を手に取った。