あらすじ
本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。
「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、ゲーム内チャットで心通わせる戦火のなかの人々、悪い人間たちを化かす狸のような祖父母たち──あたたかい記憶と非暴力への希求を、文学がつないでゆく。
「もし本が好きになったら──私たちがその人たちを見つけて、めいっぱい大切にしよう。世界中のたくさんの本を翻訳して、朗読して、笑ったり泣いたりしよう。」(「クルミ世界の住人」より)
紫式部文学賞を受賞したロングセラー『夕暮れに夜明けの歌を』の著者による、最新エッセイ集。
【もくじ】
クルミ世界の住人
秋をかぞえる
渡り鳥のうた
動員
ほんとうはあのとき……
猫にゆだねる
悲しみのゆくえ
土のなか
道を訊かれる
つながっていく
雨をながめて
君の顔だけ思いだせない
こうして夏が過ぎた
巣穴の会話
かわいいおばあちゃん
年の暮れ、冬のあけぼの
猫背の翼
あの町への切符
柏崎の狸になる
あとがき 文化は脱走する
【装幀】
名久井直子
【装画】
さかたきよこ
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
今読めてよかったな〜。どこか遠い世界の話だと思ってしまっていた戦争のことを、ちゃんと考えないと逃げないといけないなと改めて感じた。
実際日本が戦争にどれぐらい近いのか、一般市民にはわからないかもしれないけど……。
文化を疎かにしないように。
どの本もそうではあるけど、この本は奈倉さんの人生を生きている奈倉さんにしか書けないだろうな、と強く思った。
奈倉さんが描く新潟の夏の景色、冬の景色がすごく懐かしい感じでとても良かった。
Posted by ブクログ
子どもの頃の思い出がロシア詩の美しさへとつながり、そこから現在進行中の戦争に生きる人々へのまなざしへと自然に広がっていく。そんな文章に彩られた素晴らしいエッセイ集。著者の優しく温かな人柄がにじみ、いつまでも読み続けていたくなる。
Posted by ブクログ
戦争が起きている今だからこそ読みたいエッセイだった。ロシアに留学した経験があり、翻訳者で文学者でもある作者が感じていること、そして文学や言葉の力について書かれていた。
詩の世界の奥行きを楽しむとともに、時代を越えて読み継がれる詩の力を感じた。詩は少ない言葉で表現するからこそ、読み手の世界や感覚に委ねられる。戦争をうたった詩、雪をうたった詩、夏や海、渡り鳥など、たくさんの詩が挙げられていて興味深かった。
戦争や原発についても考えさせられる。今はまだ読み終わった段階で、受け止めきれていないところもあるので、詳しく言語化できないけれど、読んで良かったと思う。
いくつかの章を授業で扱いたい。高校生の心に残したい(というのは教師の勝手な思いだけれど)、そんな言葉がたくさんあった。
Posted by ブクログ
優しく美しい文章に、同じくらい美しい詩が添えられ時どきの思いが綴られる。ロシア文学に魅せられた著者が、今のロシアとウクライナの戦争について静かに怒り悲しんでいる様子がひしひしと伝わってくる。考えることをあきらめない、絶望してしまわないためには物語が必要。戦う勇気ではなく逃げる勇気を。著者の思いが強く沁みわたる。
Posted by ブクログ
本好きなら共感できる、
言葉にしづらいふわふわした想いを、言葉にしてくれる。
ロシア、ウクライナに暮らす
一人一人の友人を思い浮かべながら書かれた文章は、ニュースで見るウクライナ情勢とは別世界。
多くの人が読んでほしい本。
Posted by ブクログ
あまりに素敵なものごとの捉え方に口角があがる。
ロシアの詩をはじめとする文学を挟みながら、奈倉さんがこれまで見てきたものや感じてきたことについて書かれているエッセイ、なのですが、
普通のエッセイとはまた違った読み心地。
普通に生活してたらロシアの詩に触れる機会なんてないし、詩に関連するような奈倉さん自身のエピソードを交えて紹介されているので心にも残りやすい。
ただ単に自分で翻訳された詩を読んでいたとしても、ここまで色んな景色は見られなかっただろうなと思う。
好きな話はいくつもあるけれど、
「猫背の翼」が特に素敵。
猫背の痛みが、好きな物(本)を追ってきた証だという、これまた素敵な捉え方で興奮さえする。
紹介された様々なロシアの詩の中で1番好きだったのは「あの町への切符」の中に出てくる詩。
‘’優しい町よ ありがとう
僕らは戻れないから 待たなくていい
この惑星には 他にも道がある
僕らは大きくなったんだ
信じてくれ
それから ごめんね‘’
奈倉さん自身の所沢でのエピソードもあいまってノスタルジーでびたびたになり涙が出てくる素敵な詩。
私は経験していないはずの団地の景色が見えてくるようでした。
「秋をかぞえる」もすごくよかった。
私も秋が大好きなので、‘’あと何回の秋を生きられるのか‘’と考えもしなかった有限の秋を思って膝から崩れ落ちるようだった。
‘’様々な秋をうたった詩に触れることで秋をかぞえていくと、自分の人生で感じられるはずだった秋の数をとうに超えていることに気づいた‘’といった記載では文学の醍醐味というか、その素晴らしさと感性に改めて感動して、崩れ落ちた膝が一気に修復された。
もちろん、今のロシアといえば切っても切り離せない戦争についての話も出てくる。
今なお続く苦しみをどこか他人事のように受け止めてしまっているし、戦争のさなかにおける文化のあり方、守り方なんて考えもしなかった事だったから、心が沈みつつも強くしたたかな希望も感じる。
本当に物事の捉え方が素敵で、知らない世界も、知っているような昔の景色もたくさん見せてくれる素敵な本でした。
Posted by ブクログ
なぜ人は文学を読むのか。文学は何を人にもたらすのか。
文学が持つ力を信じ、文学者に敬意を持つ著者。
ロシアの詩人の詩を紹介しながら、今の時代にもその力失われていないことを感じさせる。
Posted by ブクログ
出てくる詩人や詩は、全くわからなかったけどそれでも面白かった。なんといっても、話の流れが上手くてそこに引き込まれたな。
買うつもりがなかったのに、本屋さんでパラパラっと中身をみて即購入した本。
Posted by ブクログ
著者から見たロシアと現代社会、文学との繋がり。今生きているこの奇跡に感謝を覚えながら、大切に読み切った。世界に絶望してしまわないために、文学が、物語が必要であること。改めて気付かされた。いつかロシアに行って、奈倉さんが見た景色や、歴代の詩人が感じた瞬間を自身の身体で受け止めたい。
Posted by ブクログ
ロシア文学研究者の名倉有里さんのエッセイ。随所にロシアの詩歌が散りばめられ、とても美しく
心が洗われる。
今までロシア文学に触れたことがほとんどなかったので、正直驚く。正確に言えば何に驚いているのかというと、知らずのうちに『ロシア=悪』の感覚でいたこと。今現在戦争をしているロシアという国と、そこに暮らす人々を同じものとして捉えていた。とても怖いことだ。
戦争をすることは決してロシアの人々の総意ではない。調べ、考え、知ろうとすればちゃんとわかるのに。
最終章の『柏崎の狸になる』では、“柏崎原発を人類の当事者として考えたい”という著者の言葉が、胸に刺さる。
Posted by ブクログ
「クルミ世界の住人」から「文化は脱走する」まで。
美しく、読みやすい文章から紡ぎ出される世界に引き込まれ、あっという間に最後のページまできました。
人と人とを分断しているものは何なのか。
人と人とがつながっていける世界のヒントが満ちているエッセイ集でした。
Posted by ブクログ
「地球上に爆弾を落としていい場所など存在しない。それを確認しあうかのように、私たちは花や作物や夜空の写真を送り続ける。いつか爆弾が降らなくなったら、私たちはこの巣穴から出よう。カザフスタンで集合して、一緒に魚釣りをしにいこう。」(p149巣穴の会話)
本書は2022年から2024年にかけて月刊誌『群像』に書かれたもの。どんなに“今”が苦しくてもその先を信じる。諦めないで生きのびる。私たちの父や母、昔のひとがそうやって生きて来たように。私も“巣穴の手入れ”をしながら生きなければ‥
Posted by ブクログ
現在の「悪夢のなかを生きているような時代」においてでさえ、著者は文学に力があることを確信しており、それが読んでいて心地よい。定期的に読み返したい。
Posted by ブクログ
ロシア文学には馴染みがないけれど、紹介されている詩がとても面白い。
奈倉さんの感性とエピソードがユニークで可愛らしく、じんわり心が温まる。
「猫背の翼」が特に好き。
猫鯨に私もなりたい。
戦争や原発のことを考えると心がギュッとなってしまうが、「気づくことは気づかないよりずっといい」という言葉に救われた。
大きなことはできなくても、好きなものを好きだと言う、考えることをやめない、今いる場所でできることをやる。
そういう生き方を選択したいと思った。
Posted by ブクログ
逢坂冬馬さんの本が大好きで、そのお姉さんも本を出されていると知り、興味をもち読んでみた。2人の価値観の根底はやはり似ていて、奈倉さんの本も負けないくらいに素敵だった。以下、感想。
文学は、多くの人が生きた証であり、伝えたいメッセージであり、時代、その時の価値観が自ずと反映されている。それを一つ一つ丁寧に紐解きながら、思いを馳たり、自分自身に昇華させたりしている、筆者。
多角的視点と言えば硬い表現になるが、感情や物事の機微に触れる、感じ取る力がすごいし、そんな力を私も読書することでつけていきたいと思った。
ロシアが大好きな筆者だからこそ、ウクライナ戦争に対してのより強い悲しみ、哀愁を感じる。
筆者の心の優しさの中に感じる力強さ。芯の強さ。信念。それは、筆者が文学を通して、多くの世界を、多くの人の気持ちを感じとっているから。たくさんの時間軸を内包するその言葉には重厚感、説得力がある。読者の心に突き刺し、動かす力がある。
筆者が文学の力の大きさや信じる気持ちを感じた。
不幸はどこかで必ず繋がっている。世界のどこかで今もなお起こっている戦争も。
- 好きなもの、好きなことを気前よくふるまうこと、「好き」を分かちあうことを快く思う人が、その基準を確固たるものとして持っている。
本来、こんなふうにして、相手を大切にできたら、世界はもっと優しくなるのだと思った。
↓印象に残った・好きな章
クルミ世界の住人
秋をかぞえる
動員
ほんとはあのとき…
悲しみのゆくえ
君の顔だけが思い出せない
Posted by ブクログ
作者のひとがらがわかる素晴らしいエッセイ。
読んでると雪が見たくなり、幼い日の景色を思い出したりする。
しかし、ノスタルジーの中にも鋭い政治批評や反戦の意思があり、読み応えがある。
ウクライナ戦争から原発まで、静かに行動する姿は胸を突くものがあった。優しいひとがらは両親や周囲の人が育んだものだろう。引用されている詩にも癒された。
Posted by ブクログ
「文学キョーダイ!!」を読んで、逢坂冬馬さんとの姉弟関係やお二人の世界観が面白くて、こちらの本も手に取りました。弟さんとの対談の時のほうが、より、面白さ際立っていたようです(対談なので第三者の舵取り有った故かと)。エッセイだし、200ページくらいだし、ペロッと読めるだろと思っていたら、想像よりかなり深い考察や文学的素養が散りばめられており何度か寝落ち。これは、短時間の電車内で一つずつ読むべき本だった…。
ロシアの文学に携わっている人や詩も良く出てきました。猫と鯨の詩はかなり楽しく読みました。ロシア語だと一文字違いなんですって。マザーグースもそうてすが、原文はとても面白いのに訳すと今一つっていう詩、よくありますよね。
あとは、これだけ文学や平和の話してるのに、私が面白かったのはよく道を聞かれるっていうところ。明らかにネイティブじゃないってわかってからも尋ね続けるんかいって、読みながら突っ込んじゃった。ま、私もビクビクしながら歩いてる新宿とか渋谷とか、外国で道を聞かれるタイプの人間なので、共感しました。スマホ普及とともに、道を聞かれなくなったけど、いまだにたまに聞かれます。
この前限度額ギリギリ引き出した直後に入国管理局行きのバスを聞いてきた外国人の方にちゃんと調べて案内できなかったの、申し訳なかったなぁ。テンパってしまった。真夏で暑くて自分もヘロヘロだったし。あ、感想じゃないや。
内容がやや難しいので、高校くらいから。中学校でも楽しく読める子は問題なしです。
Posted by ブクログ
2025.09.29
文化の脱走兵
作者の感性がむき出しになっている、そんな本であった。自然を繊細に感じ表現したり、戦争や国籍などの枠にとらわれることを嘆く優しさ溢れる文は私にはかけないなぁと考えさせられた。
Posted by ブクログ
とても素敵なエッセイだった
ロシアとウクライナの戦争が始まり、ロシアの大学にいた作者が、今どんな風にロシアを見ているのか興味を持ったのです
結果、反戦と平和をただ願い
自然と人を愛している、そんな文章に心を打たれました
戦う勇気ではなく、逃げる勇気を持とう
この本を読めば、その意味が深く理解できることと思います
様々な情報が溢れるこの世界で、正しい情報とは何か?その情報の意味を考えることがどれだけ大切なことなのか?表面だけ見てわかったつもりになっていないのか?
うわべだけの理解になってはならないとずっと思っているけれど、改めて考えることの大切さを知った本です
Posted by ブクログ
2022年から2024年にかけて、「群像」に連載したエッセイをまとめたもの。戦時だからこそ、源氏物語をロシア語に訳したデリューシナ先生と文学の話をしたり、オンラインゲーム上のチャットでロシアやウクライナやカザフスタンのさまざまな年代の人たちと他愛ない話をしたり、そういう営みが尊いのだと思う。たくさん引用されているロシアの詩や、白秋など日本の詩からもまた、文化すなわち人々の暮らしや日常の気持ちが読み取れる。
子ども時代に帰りたいけれど、子ども時代への切符はないのだという詩もあったけれど、奈倉さんの子ども時代や祖父母のいる新潟県巻町、留学時代の追憶もたくさんあった。住民投票で原発を食い止めた町、巻町に対し、原発を防げなかった柏崎=もう一つの、ありえたはずの巻町に、奈倉さんが移住したところで終わる。
留学した時に、いろんな国の人からその母国語で声をかけられたエピソードが好きだ。はっきりと進路が決まっているわけでもなく異国で生きている様が、そうした他国の人と通じ合っていたのではないか、というのが。仲間かと思って親近感を持たれるのはきっと嬉しいだろう。
「文化とは、根本的なことをいえば人と人がわかりあうために紡ぎだされてきた様式のことです。戦争は、この「文化」を一瞬にして崩壊させてしまいます。のみならず、それまで人と人をつなぐ役割を担ってきた文化が、凶悪にパロディ化されて戦争の宣伝に使われるようにもなります。そんなときに文化の担い手ができることはただ、「ロシアいちばんの脱走兵になった」と誇り、「僕は詩でしか闘わない」と表明したエセーニンのように、武器を捨て、文化の本来の役割を大切に抱えたまま、どこまでも逃げることだけです。」
Posted by ブクログ
え? 奈倉有里さんて、あの逢坂冬馬さんのお姉様! いやいや失礼ながら存じ上げませんでした。そもそも今回の選書は、先日読んだ第1回「生きる本大賞」受賞作『死ぬまで生きる日記』(土門蘭さん)つながりで、本作が第2回生きる本大賞・第76回読売文学賞を受賞しているからでした。
奈倉さんの肩書が、ロシア文学研究者・翻訳者となっており、逢坂さんの本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』や連なる作品も、姉弟が互いに刺激し合い、影響し合ってる?と想像しました。(お二人の対談本『文学キョーダイ!!』も読んでみたい!)
肩書から受ける硬派な印象とは裏腹に、文章が綺麗で穏やかさと誠実さを感じます。あちこちに過去の記憶が登場し、ひぐらしの声、土の感触、猫や鯨の空想など郷愁を誘うものから、新潟・ロシアで過ごした冬の厳しい寒さや雪の情景の筆致が、表現に深さと豊かさを与えているようです。
そして忘れてはいけないのが、本書の根幹をなすであろう「平和を希求する思い」で、静かな「圧政者批判」も含まれていると受け止めました。奈倉さんの考え方・行動から、権力や大勢(悪しき体制も)には従わない勇気と強い意思を感じます。
何よりも本・文学の力を信じている点に120%賛同し、敬意を表したいです。未読の方はぜひ本書を手にし、「文化は脱走する」「柏崎の狸になる」の意味を確認してみてください。
Posted by ブクログ
『夕暮れに夜明けの歌を』が本当に素晴らしかったので読んですぐに注文した本『文化の脱走兵』。奈倉さんの静かで穏やかな筆致はそのままに、2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻の影が落ちるなか、何を見て、何を感じ、何を心のよすがに生きていくか、人間性を失わないためには何を大事にするべきか、奈倉さんだけの言葉で語られる。好きなものや好きなことを大事にすること、それは誰にも脅かされないこと、常に心に脱走兵を住まわせること。
だけど、いくら心に脱走兵を住まわせていても、それが心の中にいるだけではどうにもならなくなってきていることも事実だと思う。このエッセイが書かれてからも、ウクライナ侵攻の先は見通せないし、イスラエルは今度はイランを攻撃した。私個人の心の中の脱走兵は、私にしか作用しない。世界にいる人ひとりひとりが心に脱走兵を住まわせて、自分の内面世界を大事に抱え続けたなら、そうして非戦の人たちが増えていくなら、それに越したことはない。だけど、権力はそのやわらかな脱走兵たちを蹂躙していくだろう。抵抗すれば逮捕されたりするようになってしまった世界の中で、それでもまだ日本においては逮捕されないということを考える。抵抗の権利だけは脅かされたくない。この先どうなるかわからないけど。
Posted by ブクログ
この作品 好きだな…♡
銀世界が一面に広がる空の下だったり…
枝葉を広げた大きな木の下だったり…
行間からそんな風景が感じられて
深呼吸をした気持ちになりました
言葉という深呼吸…
ロシアの歌集や詩や作家さんなど
その時代の背景や文化や作家さんのお人柄など
奈倉さんの優しい言葉で綴られており
私の心の中に優しい風が吹いてきたように
感じました
奈倉有里さんは
『同志少女よ敵を撃て 』の逢坂冬馬さんの
お姉様!
おふたりともロシア文化について綴っておられ
素敵な間柄だな〜と思いました
反戦、反原発、誰かを傷つけるものがあるならば
それに意を唱え 芯の強さと優しい心と言葉で
紡いでくれている
本を読んでいる時は…せめて…
登場人物と共に 笑って泣いて喜んで…
そんな穏やかな時を過ごせたらいいなと
願わずにはいられませんでした
この作品を読んでいる時は
ロシアをより身近に感じることができ
文学を通して人々との繋がりを感じることが
できました!
Posted by ブクログ
「僕は国でいちばんの脱走兵になった」は、
1916年、19歳のセルゲイ・エセーニンが兵役を経験し、戦争について『アンナ・スネーギナ』で語った言葉のひとつ。
ロシアの政治学者エカテリーナ・シュリマンは自身の政治番組で、ロシア人視聴者に、今日の戦争が終わった後に、「脱走兵」は賞賛の対象となるのか、それをふまえて「脱走兵」になるように呼び掛けることはできないか、と問われる。その際、「脱走兵の記念碑」に触れ、脱走兵は評価されるべきだと論じられたそうです。
…
ロシアの大学で文学を学ばれ、ロシアに6年間暮らされていた、奈倉有里さん。
これまで読んだことがなかったので、今回が初めてでした。
ロシアの作家さんの詩が多く引用されていました。
ロシアに生きる人々季節や自然がどのように体験されているのか、普段はあまり考えないし、知っている有名な作家さんは少しはいても、そこまで実は知らない。
著者が、ロシアで生まれた詩を通して、また、著者自身のロシアでのエピソードを通して、ロシアを少し短く感じる旅に、誘ってくれるようでした。
ロシアの印象が強かったのですが、著者の日本国内でのエピソードもあります。埼玉県所沢市で育ち、新潟県に祖母の実家があり、最近に柏崎に、築百年に近づきつつある家を買って住まれているとのことです。
どのエッセイにも共通して感じられるのが、人間について話していること。読んでいて心地いいのは、著者がかかわる人々を、まず一人一人の人間として、感じ、描写されているということ。
そして、一人一人の人間を人間としてではなく、他の抽象的な概念の下で扱っている世界に対する違和感、意義を伝える。文学の世界から、人間として意を共にし、非人間的な人間の行為に対抗する強い可能性みたいなもの、希望かな、を感じました。
いや、「道を訊かれる」を読んで、やっぱ著者はすごい共感力があふれ出ているんだろうと分かりました。どの国の人にとっても、同じ出身の仲間だという印象を与える、最強の人間力が備わっていそうですね。そういう人もいるんだなー、ととても興味深いし、勝手ながらなにか人間の可能性も感じてしまう。
また読み返したい文章がたくさんありました。
Posted by ブクログ
おっとりとした温かい文章の中、反戦・反原発の強い意志が込められていて、奈倉さんのエッセイはやはり好きだと思う。
引用されている数々のロシアの詩も全部知らなかったので紹介していただいてありがたい。
ゲームのチャットで、ロシアやウクライナ、周辺国の方々と交流されているのも、そういう手があるのかと感心した。外国語の習得は大変な努力がいるけど、それに見合った見返り(大変言葉は悪いけど)は現代だからこそしっかりあると思わされた。
そうやって外国に住む人との距離が近くなっているのに、戦いは始まり、長引き、たくさんの人が殺される。誰も止められない。私たちはどういう時代に生きているのだろう。
Posted by ブクログ
『人間はあきれるほど忘れっぽく、目新しいことを言っていると思い込んでいる人物に限って過去の過ちを繰り返す』『文学は憎しみの連鎖を止めるための、人類の大切な共通財産である』
感慨深いものがある。
Posted by ブクログ
「文化の脱走兵」まずそのネーミングが良い。
これはエセーニンが脱走兵を称えた詩にヒントを得てつけたものだと言う。「ロシアで1番の脱走兵になった」と誇り、「僕は詩でしか戦わない」と表明したエセーニン。
武器で戦うのではなく、文化で戦う脱走兵。
奈倉有里のロシア文学ネタがやっぱり一番面白い。「つながっていく」のエピソードはゾクゾクした。偶然なのか必然なのか、人と人が繋がっていく醍醐味に痺れた。
そして何より、一番驚かされたのは、柏崎移住。すごいなあ、この人は。おそらく姉弟共通の凄さとみた。「文学キョーダイ!」で知った家庭環境もまた、この人の行動力と真っ当な勇気を形成させたのだと思う。
思いもよらぬ発想に驚いた。
奈倉有里すごいです。
Posted by ブクログ
「クルミ世界の住人」で一気に惹きつけられ、ロシアの素敵な詩がたくさん綴られていたし、先生がテープに一冊分朗読を入れてくれたエピソードも好きです。書き留めたい文章が沢山ある本でした。
Posted by ブクログ
奈倉さんのエッセイを読んでほしい人は、子育て中、あるいは子どもを持とうと思っている人かもしれない。
子どもの資質を理解して、抑えず、曲げず、かと言って甘やかしすぎることなく育てれば、子どもは勝手に伸びていって、自分がしたいこと、すべきことを知り、それが社会にとってもプラスになる、ということが、身に染みてわかるというか。
奈倉さんのエッセイを読むと、いかに両親や祖父母が奈倉さん(多分弟さんも)の資質を理解し、奈倉さんが深く感じ、考え、想像することを妨げなかったということがわかる。
子どもの頃に新潟の祖父母の家で感じた多幸感は、こちらにも伝わってきて、切ないほどの気持ちになった。こんな気持ちを感じた子どもが悪い人間になるだろうか?
姉は翻訳者で研究者、弟は作家と聞くと、どう教育するのかと思う人がいるだろう。同じような職業についていても人格者であるとは言えないし、幸せだとも言えないが、奈倉さんの本を読むとまず人間として信頼できる人だなと感じる。そういう人が翻訳や文学研究をすれば、それは社会や、とりわけ弱い立場の人にとって害になるはずがないのである。
マスコミで「東大生のおすすめ」「子どもを東大に入れた親の子育て」みたいなものがしばしば取り上げられるが、それを好んで見ている人は子どもを東大(は無理でも高偏差値の大学)に入れたいのだろうか。なんだかその発想が間違いのように思えてならない。
幸せな子ども時代を送らせてあげること。好奇心、興味を妨げず、広げ、伸ばす教育(必ずしもお金をかけなければいけないものではない)。大人になってきちんと働き、私利私欲に走らず、感情に振り回されず、社会をより良くできないか考え、行動する、そんな人になってほしいと、まともな大人なら思うのではないか。(他人を踏み台にしてでも私利私欲に走って金持ちになってほしいという親もいるのだろうが。)
そういう人には参考になることばかりが書いてあると思うのである。
ロシアやウクライナに住んでいる友人達の立場や気持ちを深く汲み取って、安易にインタビューなんかしない奈倉さんの深い優しさに感じ入った。
戦争に反対するやり方はいろいろある。戦争に限らず、自分がどうしても受け入れられないことを強いられたとき、どうするか。そのやり方についても考えさせられた。