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本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。
「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、ゲーム内チャットで心通わせる戦火のなかの人々、悪い人間たちを化かす狸のような祖父母たち──あたたかい記憶と非暴力への希求を、文学がつないでゆく。
「もし本が好きになったら──私たちがその人たちを見つけて、めいっぱい大切にしよう。世界中のたくさんの本を翻訳して、朗読して、笑ったり泣いたりしよう。」(「クルミ世界の住人」より)
紫式部文学賞を受賞したロングセラー『夕暮れに夜明けの歌を』の著者による、最新エッセイ集。
【もくじ】
クルミ世界の住人
秋をかぞえる
渡り鳥のうた
動員
ほんとうはあのとき……
猫にゆだねる
悲しみのゆくえ
土のなか
道を訊かれる
つながっていく
雨をながめて
君の顔だけ思いだせない
こうして夏が過ぎた
巣穴の会話
かわいいおばあちゃん
年の暮れ、冬のあけぼの
猫背の翼
あの町への切符
柏崎の狸になる
あとがき 文化は脱走する
【装幀】
名久井直子
【装画】
さかたきよこ
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
著者は祖父母が住んでいた新潟に家を買った。
雪が降り、海がある。子供の頃によく通った馴染みのある家と同じ環境は、彼女にとってかけがえのないもので、アイデンティティと結びついていたからだ。
エセーニンを好み、戦争を始めたロシアを案ずる著者は、戦争という非道な暴力によって文学の存在が揺らぐことを懸念する。
戦争から逃げること。
それは恥ずかしいことでは無い。
自分の内面世界が傷つかないように守り、自分の物語を大切に保つために、絶対に必要なことだ。
彼女の中には一体どれほどの詩が蓄積されているのだろう。
エセーニンの詩は、ロシアと何の接点もない自分にも響いてきた。
戦争を吹っかけたロシアは絶対的に悪いけど、ロシアの中には戦争を良くないものと思っている人もいるはすだし、国で白黒判断するのはそこに住んでいる国民の存在を蔑ろにしていることと等しい。
だから、わたしは安易に国を物事の判断基準にしなくなった。
著者も
「国を主語にした文章は、大切なことを読者から遠ざける」と言っている。
かわいいおばあちゃんになりたい。
暑い夏を何年、何十年を繰り返し、嫌なこと、楽しいことを幾度と経験した先に、おばあちゃんになる という夢が待っている。
途方もない夢だ。マラソンのようにひたすら人生の道を走っているみたいに。
著者の親友マーシャが言った、
「人生はマラソン」という言葉、私も拝借させていただく。
時に水を飲み、腰掛けて休みながら、長い人生というマラソンを走り抜けていこうじゃないか。
この目でこれから見ていくものは、全てかわいいおばあちゃんになるために必要なものなのだ。
生きることは夢見ることができるということだ。
自分もかわいいおじいちゃんになりたい。
たくさんのおじいちゃんを見たい!
そして物語をたくさん作りたい。
だから生きるのだ。夢は生を肯定し、後押ししてくれる。
ロジジェストヴェンスキーの「子供時代への切符」という詩の中の一部分。
「子供時代への切符はありませんか?」
かつて住んでいた街が跡形もなく無くなってしまっても、記憶のワンピースが残っていれば、私たちは思い出をもう1度手繰り寄せ、味わうことができる。
それは、一陣の切なさを連れてくる反面、自分の今を思いっきり肯定してくれるようなものなのだ。
過去の自分を明確に照明する思い出というものを礎に、私たちは歩いていく。
前に進む度に、子供時代からはどんどん離れていく。
あの頃にはもう戻れない。不可逆的な事実に打ち負けそうになる。
そんな時は、
「優しい町よ、ありがとう。
僕らは大きくなったんだ。」
と詩の中に立ち返り、過去に手を振ってみよう。
後ろを向くことは悪いことじゃない。
だって、子供時代の 自分は、あの頃のままで、自分の中に生き続けているんだから。
Posted by ブクログ
読書の好きなところは、自分にはない経験と知見、そして眼差しを持った他の方の考えていること、思いめぐらせていることを追体験できるという部分なのです。わたしには未知のロシア文学、そしてロシアに深く触れてきた筆者の、ときに幼少期にも飛んでいく経験やその時に考えたことに触れるのは、「知らないことを知れる」素敵な時間となりました。特に「文化の脱走兵」に込められた意味、そして「ことばを聞き出そうとすることが暴力になり得る」という意味のインタビューの箇所、冒頭のくるみの話。あぁ、その世界の捉え方をわたしは知らなかった気がする、となんだかひらけた気持ち。文化や教養、そして想像力を身につけることがせめても今の時代に対して自分ができる一歩な気がします。
Posted by ブクログ
戦争が起きている今だからこそ読みたいエッセイだった。ロシアに留学した経験があり、翻訳者で文学者でもある作者が感じていること、そして文学や言葉の力について書かれていた。
詩の世界の奥行きを楽しむとともに、時代を越えて読み継がれる詩の力を感じた。詩は少ない言葉で表現するからこそ、読み手の世界や感覚に委ねられる。戦争をうたった詩、雪をうたった詩、夏や海、渡り鳥など、たくさんの詩が挙げられていて興味深かった。
戦争や原発についても考えさせられる。今はまだ読み終わった段階で、受け止めきれていないところもあるので、詳しく言語化できないけれど、読んで良かったと思う。
いくつかの章を授業で扱いたい。高校生の心に残したい(というのは教師の勝手な思いだけれど)、そんな言葉がたくさんあった。
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