【感想・ネタバレ】夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行くのレビュー

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Posted by ブクログ

ロシア、という言葉の先入観から、大国らしい描写もあるのかと思いきや、等身大の感覚で読み進めることができました。肩肘はらず、またリラックスしすぎず。学生時代の話は、想像を沸き立たせる描写がとても新鮮でした。むしろ、今の社会情勢から振り返ると、周囲の人たちとのエピソードが優しくて泣けるような感覚も。私はあまり表現が得意な方ではないですが、多くの文化や人の感性に触れてその感じ方や対処を学ばれたのだな、と感じました。だから紛争中の今が悲しくなります。
素敵な人たちが描かれています。おそらくこの本を通じてしか出会えないです。他の人が描いても異なる描写になるでしょう。

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2023年12月24日

Posted by ブクログ

課題のために読み始めたが、美しい文章と遠いロシアの地で作者に起こった様々な出来事に魅了されてあっという間に読み終わってしまった。

特に文学大学での日々の回想録において、作者が講義や多様な文学作品に没頭する描写が印象的だった。そして、自分はこんなに文学研究にのめり込めないので羨ましくなった。

何かに夢中になることとロシア文学の素晴らしさを再認識させられると共に、混乱を極めるロシア周辺の情勢と、昨今の文学軽視の風潮に思いを馳せた。

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2024年06月07日

Posted by ブクログ

珠玉。地を穿つような学びは人間の奥底に通じている。無力のようで、実は深く大きな力として。アントーノフ先生への思いは限りなく尊く、胸を打つが、これは現実なのだと思い直しすと、粛然とせざるを得ない。

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2024年05月31日

Posted by ブクログ

3月に青木理「時代の叛逆者たち」で逢坂冬馬の姉だと知り、4月にネットの古本屋で見つけた「世界臨時増刊」でエカテリーナ・シュリマンのウクライナ戦争に関する講義を読んだ。奈倉有里の翻訳である。
そして本書。ロシア語、ロシア文学に興味を持ちロシアに渡って文学大学で学んだ日々を友人や教師との交流などを交えて教えてくれる。
学ぶ姿勢の深さにまず驚かされた。深いから到達点も高い。彼女がこの先もおおいに発信してくれることを願っている。楽しみな人だ。楽しみな姉弟だ。

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2024年05月29日

Posted by ブクログ

2024.5.18
言葉の大切さ、文学の意味、そして何より学ぶことの素晴らしさを感じました。章ごとのエピソードとともにロシア文学からの引用とその作品、作者の解説があり、エピソードに有機的に結びついています。
クリミア併合とウクライナ戦争の間に書かれた本ですが、この問題の根深さと民族主義とそれを利用する権力の恐ろしさを感じました。

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2024年05月18日

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とても楽しく、感動もあり、文学を愛す著者の渾身の一冊なのだろうと、共感もありました。魂のこもった文学にまた出会いたいです。

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2024年04月27日

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最近全然聞かなくなってしまった、高橋源一郎の飛ぶラジオで紹介された作者。ゲストで出演もされていた。それを聞いて以来読みたいと思いつつ一年くらいがすぎてしまって、やっと読んだ一冊。
作者がロシアに留学し、語学学校を経て、ゴーリキー文学大学で過ごした日々を綴ったエッセイ集だ。
作者は私と同じ82年生まれ。こんなにも言語・文学を探究し、愛し、体感した作者に一種の感動を覚えた。
素晴らしい先生や友人たちとの出会いを、自身の文学的な力にすることができたのは、紛れもなく、作者のあくなき探究心と好奇心と努力だ。
作者が愛したロシア文学とそこに住むさまざまな国から来た友人や同級生たち。敬愛する先生との出会いと別れ。変わりゆくロシアと悪化していくウクライナとの関係。それらが、揺るぎない文学への信頼に基づきながら語られる。
作者が執筆したときよりも、さらに世界情勢は悪化してしまった。だからこそ、筆者が綴った言葉を胸に刻みたい。作者が通った大学のある教室に掲げられたレフ・トルストイの言葉。「言葉は意外だ。…人と人をつなぐことができれば、分断することもできるからだ。…人を分断するような言葉には注意しなさい。」それを引用して筆者は、「どうしたら人は分断する言葉ではなく、つなぐ言葉を選んでいけるのか。その判断はそれぞのいかなる文脈の中で用いられてきたのかを学ぶことなしには下すことはできない」と語っている。
文学者ほどうまく言葉を扱えないにしても、日常的に使うもの。だからこそ言葉を「つなぐもの」にするために、学び続けることが必要なのだと感じた。
ロシア文学を読んだことがないので、これを機に少しずつ触れてみたい。

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2024年03月30日

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"文字が記号のままでなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。"
この一文がすごく沁みてくる本。

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2023年11月26日

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ネタバレ

「同志少女よ、敵を撃て」→「文学キョーダイ!!」からたどり着いた。
ロシアの文学大学留学中をメインとした、エッセイ。当時の様々な背景を持つ人々との交流や文学への愛が大いに綴られている。

恋をする同級生や、ニーチェ本で卒倒する子。おかゆ文化、3人で教会へ行く話等もある。この大学は、日本人は奈倉先生1人。ロシア語で全てコミュニケーションを取り、ロシア語をフランス語に訳す授業もあったらしい。自分なら直ぐに帰国するので、純粋に凄いと思う。

ロシア内部の不穏な空気も描かれている。突然人が消えたり、警察が犯罪を平気で行ってたり。教授が「ロシア語よりウクライナ語より文学的で優れている」と言ったり。歴史で学ぶこととは異なり、現地の雰囲気が味わえた。
日本で行えば、即退場レベルなことが行われているが、居続けた奈倉先生は肝が据わっていると思う。

↓印象的だった言葉達

ある大教室の壁には、レフ・トルストイの言葉が掲げられていた―ー「言葉は偉大だ。なぜなら言葉は人と人をつなぐこともできれば、人と人を分断することもできるからだ。言葉は愛のためにも使え、敵意と憎しみのためにも使えるからだ。人と人を断するような言葉には注意しなさい」227ページ

「そうしてようやく、先生に出会ってからの「学び」がそれまでとどう違い、自分の身になにが起きたのかを知った。それは私にとって、少しずつ生まれ変わることだった。新しいことを知るたびに、それは単なる知識ではなく、細胞がひとつひとつ新しくなるような喜びだった。浮き輪につかまって海に入ったようなかつての心もとない学びではなく、いくらひとりでいても孤独ではない安心感があったーーだって、私はひとりではなかった。
そしてこの先もずっと、永久にひとりになることはない。いつのまにか、かつての自分といまの自分はまったくの別人というくらい、私の内面は変わっていた。私を変えた人はこれからもずっと、私を構成する最も重要な要素であり続けるだろう。」258ページ

エレーナ先生やアントーノフ先生との出会いが、奈倉先生の人生に大きく関わっていると思う。純粋に羨ましい。自分もそんな人達に出会えると良いな。


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「19世紀の伝統的なロシア詩では耳で聞いてわかりやすい、二拍子なら二拍子、三拍子なら三拍子で統一されたリズムの詩が多く、なかでも一行のなかで弱強格を四回繰り返す四脚ャンプが好まれました。」129ページ

↑これを体感したいため、某動画サイトで詩を読んでいる人を探したが、見つからなかった。ご存知の方がいらっしゃれば、教えてください!

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2023年10月30日

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こんなにも没頭して読書し、勉強した留学生活……。
ただただすごい。

……という視点で読んでいたのだけど、終盤、アントーノフ先生との顛末がえがかれるに至って、涙をこらえながら読むことに。
文学への、詩への情熱を媒介に、アントーノフ先生とユリの間には、たしかに愛情が流れていたように思うけれど、それはやはり文学への愛情だったんだろうな。そしてアントーノフ先生を追いつめ、アルコール依存症へと駆り立てたものは、文学者らしい鋭敏な感覚で嗅ぎ取った時代の転換だったのかもしれない。

そうか……クリミア併合は2014年だったのか。ソチ五輪という言葉が出てきてどきっとしたけれど、ウクライナ侵攻も北京五輪の直後だった。五輪というものは、悲しいかな極度に政治的な道具になりうるのだ(泣)

本書が書かれたのは2021年で、今回の本格的なウクライナ侵攻はまだ始まっていなかったけれど、そこへ至る道筋も描かれていて胸が痛くなる。

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2023年10月27日

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「文學界」の連載で好きになったロシア文学者の奈倉有里さんのエッセイ。モスクワの文学大学での留学中、ロシア文学や言葉の大切さについて真摯にそして熱中して勉強している様子がとても瑞々しく描かれています。悩むことやつらいこともあるけど、学ぶことは楽しいというのが伝わってきました。ロシア文学は今まで読んだことがなかったけど、奈倉さんのおかげで読んでみようと思えました。

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2023年10月02日

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『ことばの白地図を歩く』では著者がなぜ「ロシア語」に惹かれたのかをさらりと紹介していたが、本書は真逆。たったひとりの日本人留学生がどんな環境でどれほど熱心に学んできたか、友人達との交流や日々の生活やそんじょそこらの恋愛よりもよほど濃密な師弟関係に、最後に添えられた世界地図に、読み終えた今も経験したことのない感情で心が揺さぶられ続けている。
「文学が歩んできた道は人と人との文脈をつなぐための足跡であり、記号から思考へと続く光でもある」
世界にはその光を灯し続ける人々がいることを信じている。

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2023年09月09日

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アントーノフ先生とロシア文学研究者だった水野忠夫先生が被って見えた。もう、三十数年前かあ。
奈倉さんは凄い。
今年のベスト本。

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2022年12月12日

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呆然と幸福感に包まれながらも、嫉妬と後悔が綯い交ぜになったような読後感。おそらく僕の今年のベストワン。
こんなにも真摯に、身体ごとぶつかかっていきながら、楽しく「学ぶ」姿は、とても眩しく、羨ましく、そして自分自身の後悔をも喚起させる。「細胞が生まれ変わる」ほどの勉強を僕もしたかった。いや、したくなった。(そう今からでも!)でも素直な文体がとても可愛らしく、まるで(SPY×FAMILYの)アーニャが大人になったみたいで心が癒やされる。この本こそ、僕は孫に読ませたい。あと何年後だ?

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2022年10月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ロシアの文学大学での日々を中心とする筆者のエッセイ。さまざまなエピソードからは学ぶことの喜びや楽しみが、各章の最初に記されたエピグラフからは文学の味わい深さがひしひしと伝わってくる。
アントーノフ先生に傾倒し、私淑する様子や、そうして全身全霊で書き上げたレポートに敬意を払って向き合ってくれるアントーノフ先生に、恋とは違うけれどそれに近いような敬愛・師弟愛を感じて、心が共鳴した。鍵のかかった部屋で、レポートの講評をしてもらう最後のシーンの沈黙、これだけ言葉について語ってきた筆者だけに、その沈黙に込められた言葉にできない万感の思いに心を震わせた。
戦争をはじめとして、個人ではどうしようもできない大きな出来事を前にして、小さな言葉が人々を語り、つないでいく。戦争の対義語は文学。

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2022年09月25日

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エッセイだが、小説を読んだような読後感。

現代ロシアのリアルがロシアで学生時代を過ごした作者によって語られる。
ソ連時代は過ぎ去り、一転してなんと無宗教であることが許されないロシア。(前近代に戻ってしまったのね…。)そして、一番信用ならないのは警官という治安の悪さ。(それは昔から同じ)
その潮流の中、次第に制約を強める大学。(お陰で彼女は日本の大学院に帰ってきたのだが。)
そして、ロシアで青春を過ごす生きた学生たちの姿。ウクライナやベラルーシ出身の友。

ひときわ存在感があり、魅力的な人物がアントーノフ先生だ。人間的で思索的内省的で、自暴自棄でシャイで、なんて魅力的な先生が大学に生息しているのだろう!
作者の愛が伝わり、アントーノフ先生の虜になった。

師弟関係や恋愛関係を遥か超えた、アントーノフ先生との絆(「絆)という手垢のついた言葉は本当は使いたくない)が最後に「大切な内緒話」として、私たちに語られる。こんなに無防備に大事なものを差し出すなんて、作者は書くものに対して、誠意がある人だと思う。

フィリペンコの「理不尽ゲーム」と「赤い十字」で、翻訳者の奈倉有里って何者⁉️と思っていたが(特に「理不尽ゲーム」の訳者後書きがすばらしい)、奈倉有里は今の世に稀有な「ホンモノ」なのだった。
この本の中で、彼女がどのような学生時代を送ってきたか、どう学問と向き合ってきたかを知ることができるので、さもありなんと納得できる。
逢坂冬馬と奈倉有里を輩出した家庭もすごいなと思う。冒頭のエピソードに出てくるお母さんの影響も大きそうだ。

いくつか印象に残ったところ

ブロツキーのノーベル賞講演の言葉
「詩人が詩を書くのは、詩作によって意識や思考や世界観がめまぐるしく加速される特殊な感覚を味わうためで、この加速をひとたび体験した者は何度でも繰り返しそれを味わいたくなり、その感覚の虜になっていく」


そして最後の締めくくり
「文学の存在意義さえわからない政治家や批評家もどきが世界中で文学を軽視し始める時代というものがある。おかしいくらいに歴史の中で繰り返されてきた現象なのに、さも新しいことをいうかのように文学不要論を披露する彼らは、本を丁寧に読まないがゆえに知らないのだーこれまでいかに彼らとよく似た滑稽な人物が世界じゅうの文学作品に描かれてきたのかも、どれほど陳腐な主張をしているのかも。」

全く同感!

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2022年08月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書に巡り会えた幸運に感謝せずにはいられない。
本書は文学である。それも珠玉の逸品。
著者の言う「言葉があまりにも無力になる瞬間」に出会った思い。
かわりに印象に残った言葉を引用したい。
p13
「…賢さや幸せという、普段は自明のものと認識している言葉の意味を考え直すことになる。そうして緩やかにつながる言葉同士の関連性に目を凝らし、意味の核心に迫ろうとするが、核心は近づいたかと思えばまた遠ざかる。「言葉」と「意味」はひとつにはならい、でもだからこそ面白いー」
p55
「「この世界の光は闇よりも少しだけ多い」という言葉が空虚な約束や気休めではなくなるためには、「原因」を問い続けることが必要なのだと。」
p201
「偉ぶったり叱ったりすることで表面的に授業を成り立たせることはできても、それは力で抑え込んだだけで、そこから対話は生まれない。先生は、まだ学生とはいえ文学に従事する人間を尊重し、対話することを決してあきらめなかった。」
p245
「世界のニュースが報じなくなった灰色の世界で、ただ日々を生きようとする人々。その灰色はしかし、単純なひとつの色ではない。白か黒かを迫らずにそれぞれの灰色に目を凝らすことなくしては、対立は終わらないのだろう。」
p263
「文字が記号のままではなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。だから文学が歩んできた道は人と人との文脈をつなぐための足跡であり、記号から思考へと続く光でもある。もしいま世界にその光が見えなくなっている人が多いのであれば、それは文学が不要なためではなく、決定的に不足している証拠であろう。いま世界で記号を文脈へとつなごうとしているすべての光に、そして、ある場所で生まれた光をもうひとつの場所に移し灯そうとしているすべての思考と尽力に、心からの敬意を込めて。」

もっとたくさん取り上げたいが…
本書は1ページ、1行たりとも不要なところがない。
タイトルもそうだが、文章のリズムや各章の構成、引用される詩や小説の一節など注意深く効果的に配置されていながら不自然さは微塵もない。著者の体験した驚きや喜び、切なさなどが瑞々しく感じられ、一緒に体験している気持ちになれる。読書する幸せを味わえる。

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2022年06月10日

Posted by ブクログ

星5では足りない。この本は今後、何度も読み返すことになる。
"どうしたら「人と人を分断する」言葉ではなく「つなぐ」言葉を選んでいけるのか"
文学の役割を信じて、善き読者でありたい。

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2022年06月01日

Posted by ブクログ

分類するなら「エッセイ」だと思う。
著者がロシア語に目覚め、ロシアに留学し、日本に帰るまでを描いた。
エッセイにも論文に近いもの、小咄みたいなもの、マンガ的なもの、いろいろあるが、これは極めて小説的。読んだ味わいが。
おそらく、この文章の中には創作はないだろうと思う。それは事実を確認したという意味ではなく、読んでいて著者の人柄を感じてそう思うのである。
個人の名前や細かいところはプライバシーに配慮して変えてあるかもしれないが、学んだこと、出来事などは事実だと思う。
私小説というのは、作者が小説を書くという意識を持って書いているわけだし、これは小説を書こうとして書かれたわけではない。だからエッセイとしか言えないのだが、上質の小説を読んだような味わいがある。
著者がロシアで出会った人々。学生、サーカスの団員、大学の先生たち。社交的でたくさんの知り合い、友だちを作るタイプの人間ではない著者だからこそ少ない人々と深く関わることができる。
どの人物も深い印象を残すが、多分これを読んだ人はアントーノフ先生の下りで涙せずにはいられないだろう。
お涙頂戴の文章では全くないし、著者は著者が感じたことしか書いていない。
しかし、伝わるんだ、アントーノフ先生の気持ちが。切なくて苦しい気持ちが。
二人の恋愛関係を描くのが恋愛小説なら、これは恋愛小説ではない。いや、小説じゃないんだ。
でも、恋愛小説を読んだような気持ちになった。

もちろん他の部分も素晴らしかった。ロシア語ができるのは言うまでもないが、これほどまでに文学が何であるかわかっている人なら安心して翻訳を任せられる。
奈倉さんの訳した本も読みたい。

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2022年05月15日

Posted by ブクログ

ロシアとウクライナの報道が続いているなかで、ロシアが10-0で悪い報道と(実際悪いのだけれど)ロシア人も憎まれてくことに居心地の悪さを感じて、国同士ではなくて人の話が知りたくて何となく読み始めた。

2バイオリン弾きの故郷で出てきた一緒に飛行機に乗ってくれるおじさまの優しさと、最終章30大切な内緒話の先生 が特に嬉しくて愛おしくて泣けてきた。

文学と学問と、それを愛する人たちのラブストーリーだった。

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2022年05月08日

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20歳でロシア留学をしたときの出来事を中心にしたエッセイ。知らない人に助けられたり、友人たちとの交流など暖かく優しいエピソードだけでなく、身近に起きるテロや警官の腐敗、知人の蒸発などの様子など、2002年当時のロシアでの学生生活や社会の様子が活き活きと記される。そして、言論の画一化や統制強化、ウクライナとの関係悪化などが進み、大学や信頼する恩師の生活も影響を受け変ってゆく。届くはずのなかった亡くなった恩師の思いを知るくだりは、まるで小説のように切ない。時代の制約の中での個人の生活、人との信頼関係、別れの悲しさと出会ったことの意味、生み出され、受け継がれ、残り続けるものについて考えさせられる。読んで良かった。

#夕暮れに夜明けの歌を #文学を探しにロシアに行く #奈倉有里 #イーストプレス

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2022年04月02日

Posted by ブクログ

全30話あり、どれも読み応えがあるが、特に後半の25〜30が素晴らしかった。
文学性と論理性が両立した文章でとても良かった。

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2024年03月16日

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読んでいて何となく堀江敏幸氏の本を思い出した。

なにも言えなかったのは、言うべきことがなかったからではない。ただ、どの言葉も心を表しはしなかったからだ。そして言葉が心を超えないことを証明してしまうような瞬間が人生のどこかにあるからこそ、人はどうしてその瞬間が生まれたのかを少しでも伝えるために、長い長い叙述を、本を、作り出してきたのだ。

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2023年11月17日

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外国文学を徹底して学ぶということを知った
ほかのプロ翻訳家がどのようにして外国語を学ばれたのかがとても気になる
著者の熱量に圧倒された

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2023年10月30日

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翻訳家、奈倉有里さんのロシア留学中の話。

ロシア語で会話してることを忘れるくらいルームメイトや教授との会話がナチュラルで、奈倉さんが深くロシアの人と関わり合いながら生活していたのがよくわかる。

穏やかに進む物語のなかに、民族事情や社会情勢の変遷が描かれていて「へぇ、ロシアってこんな感じなのか」と好奇心をくすぐられる。

仕事でくさくさしている時に読んだのだけれど、心地よくフラットな描写に心が洗われた。

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2023年07月22日

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筆者の奈倉友里氏は、ソ連崩壊後、2002年にロシアに単身留学し、ペテルブルクの語学学校から、モスクワの国立ゴーリキー文学大学でロシア文学を学び、同大学を卒業した最初の日本人となった。
今はロシア文学の翻訳者としても活躍している。
その彼女が、ロシアで過ごした学生時代の思い出を、毎回ロシアの伝統的な文学作品や、ソ連時代に政府に隠れて発行されていた地下文学、詩作などと絡めながら語る。
そして後半は自分が大きく影響を受けた講師との、どこかしら淡い恋愛感情さえも感じさせる交流も語られる。
昨年あたりからソ連時代に書かれた作品や、ソ連という国家について書かれたものなどをいくつか読んできたが、そこで描かれていたソ連という国の暗部、そして時には命をかけて抵抗し、見つかれば重罪となった政府を批判する作品を地下出版していた人々の物語などが、ここにも出てきていた。
そして、何よりも奈倉氏の大学での友人やルームメイトたちが、ウクライナやベラルーシから来ていた事なども今の情勢と照らし合わせて、なんだかモヤモヤしてしまう。

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2023年02月04日

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文学を、あるいは文学の勉強を語る筆致がとてもイキイキと楽しそう。学ぶのが心の底から好きなんだなあ、この人。読み終わると切なさも残る。

そしてロシアとウクライナがこうなってしまった今読むと更に、いろいろ思う。こうなってはしまっているが、ロシア文学やロシア文化の深さ豊かさは変わるものではない。そのことは心しておきたい。

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2022年08月10日

Posted by ブクログ

ロシア文学者の留学時代の思い出。ロシア文学というジャンルにハマるというのは凄い縁ですね。好きだからこそここまでできたのですね。私は文学というもの、更にロシア文学というものと全く縁遠く、ついていけない内容も多々ありました。著者のロシア文学への愛を感じ、そしてソ連崩壊後の大学教育や言論への締め付けの悲しみを感じました。文学って、思想?なんですかね?深く噛み締めたら引き込まれるものなんでしょうね。

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2023年11月06日

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ロシアの日常の空気感、留学生の生活を感じることができた。文章も美しく読みやすい。
大学の講義内容については読み飛ばしてしまうところもあった。

夏目漱石のこころが引用されている箇所があった。
「恋に上る楷段なんです。異性と抱き合う順序として、まず同性の私の所へ動いて来たのです」
文学を読み込んでいる人は日常生活のなかで本から学んだことを思い起こして、自分の気持ちを整理したり、客観的に分析したりすることができるのか、そんな風に文学を自分の血肉としているのは格好いいなと思った。

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2023年01月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 小さく副題として「文学を探しにロシアに行く」とあるが、タイトル、装丁から、ロシア関連図書とは思えない本書。2月以降、どの書店でもロシア関連図書のコーナーがあり、そこで出会えた。いいこともある(← もちろん皮肉を込めて)。

 高校卒業後、ロシアに渡り、ST.P、モスクワで暮らし、文学大学を卒業した筆者が、大学での授業、ロシア文学を軸に当時の生活と、現代につながるロシアの日常をリアルに描き出す。

 ロシア文学、ロシア語への造詣は実に深く、とはいえ、米原真理ほど破天荒な性格ではないからか(あくまで推測)、地に足の付いた、実に飾り気のない実直な日々が真摯に描かれていて、親身に感じられて好印象。

 1991年夏のクーデター。著者は9歳だった。 私は、まさに秋からのロシア赴きの準備中で、この先どうなるのか?と戦々恐々だった時だ。そんな冒頭第1章の記述から、現代に至るまでのロシアにまつわる体験談なだけに、共にこの30余年を振り返ることが出来て、懐かしい。

“ 「ヒトラーの誕生日には外出しないように」という主旨のメールが日本大使館から届いていた。ヒトラーの誕生日にどうしてスラヴ人がアジア人狩りをしなければいけないのか皆目見当がつかなかったが、そもそも排外主義は知識や論理とは無縁だ。

 こうした 2000年代に入ってからのキナ臭い空気も、同じモスクワで体験していたんだと、勝手ながらに親近感を覚える。

 時節柄、今はロシアとウクライナの問題、世界との軋轢、分断に言及した箇所に、ついつい目がいきがちだ。 2014年以降の章には、そうした記述が増えるのも事実。

「ロシアでは、言論の画一化があきらかに進んでいた。(中略)まず、マスコミの変化 — 独立系テレビ局や新聞社への弾圧やスタッフの(政府によって都合のいい人員への)総入れ替え、出版社へのモスクワ中心地からの立ち退き要請といった現象が立て続けに起こった。」

「大学時代の私やマーシャに「ロシアとウクライナが戦争をする」などと言っても、私たちは笑い飛ばしていただろう。」

 終盤の章で引用されるトルストイの言葉も胸を突く。

「言葉は偉大だ。なぜなら言葉は人と人をつなぐこともできれば、人と人を分断することもできるからだ。言葉は愛のために使え、敵意を憎しみのためにも使えるからだ。人と人を分断するような言葉には注意しなさい。」

 そんな箇所に読者が気を取られるのは、著者にとって望んでいたことではないだろう。本書には、異国の地で、その国の文学を通して学ぶ生活、思想、文化、語学を通じて理解し合える人と人との繋がり、広がりゆく世界、洋々たる未来、そんな喜びに満ち溢れている。

 そして敬愛する恩師への感謝と愛を綴った最終章。 その文末にだけ記された日付を見れば、本書は何のために編まれたかは一目瞭然なのだった。亡くなった恩師への弔辞、いや、ラブレターと言ってもいいものだろう。
 恩師への愛、文学への愛、ロシアへの愛、言語や文章、書物に秘められた人類叡智への果てしない愛情が感じられる、とても温かい作品。

 本書を、
“「分断する」言葉ではなく、「つなぐ」言葉を求めて。”
 という帯の惹句で紹介しなければならない世相を恨む。

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2022年05月17日

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