【感想・ネタバレ】夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行くのレビュー

あらすじ

「分断する」言葉ではなく、「つなぐ」言葉を求めて。

今、ロシアはどうなっているのか。高校卒業後、単身ロシアに渡り、日本人として初めてロシア国立ゴーリキー文学大学を卒業した筆者が、テロ・貧富・宗教により分断が進み、状況が激変していくロシアのリアルを活写する。

私は無力だった。(中略)目の前で起きていく犯罪や民族間の争いに対して、(中略)いま思い返してもなにもかもすべてに対して「なにもできなかった」という無念な思いに押しつぶされそうになる。(中略)けれども私が無力でなかった唯一の時間がある。彼らとともに歌をうたい詩を読み、小説の引用や文体模倣をして、笑ったり泣いたりしていたその瞬間──それは文学を学ぶことなしには得られなかった心の交流であり、魂の出会いだった。教科書に書かれるような大きな話題に対していかに無力でも、それぞれの瞬間に私たちをつなぐちいさな言葉はいつも文学のなかに溢れていた。(本文より)

【目次】
1 未知なる恍惚
2 バイオリン弾きの故郷
3 合言葉は「バイシュンフ!」
4 レーニン像とディスコ
5 お城の学校、言葉の魔法
6 殺人事件と神様
7 インガの大事な因果の話
8 サーカスの少年は星を掴みたい
9 見えるのに変えられない未来
10 法秩序を担えば法は犯せる
11 六十七歩の縮めかた
12 巨匠と……
13 マルガリータ
14 酔いどれ先生の文学研究入門
15 ひとときの平穏
16 豪邸のニャーニャ
17 種明かしと新たな謎
18 オーリャの探した真実
19 恋心の育ちかた
20 ギリャイおじさんのモスクワ
21 権威と抵抗と復活と……
22 愚かな心よ、高鳴るな
23 ゲルツェンの鐘が鳴る
24 文学大学恋愛事件
25 レナータか、ニーナか
26 生きよ、愛せよ
27 言葉と断絶
28 クリミアと創生主
29 灰色にもさまざまな色がある
30 大切な内緒話
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Posted by ブクログ

ネタバレ

ロシア文学を勉強しにロシアに行き、文学大学に入学した日本人の学生の生活記録である。中にあるロシア文学の半分も翻訳されてはいない。ロシアの地理の棚にあったが、高等教育あるいはロシア語あるいはロシア文学の棚に置くべきものであった。黒田の日本でのロシア語の勉強についての本以上に面白く、ウクライナ情勢も書かれている。1年ちょっとで6刷も出版されているので、人気がある。あとは文庫本になるのを待つばかりである。
 ロシア文学に興味がある学生、ロシア語を学習中の学生へぜひ読むことが薦められる。

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2025年05月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「同志少女よ、敵を撃て」→「文学キョーダイ!!」からたどり着いた。
ロシアの文学大学留学中をメインとした、エッセイ。当時の様々な背景を持つ人々との交流や文学への愛が大いに綴られている。

恋をする同級生や、ニーチェ本で卒倒する子。おかゆ文化、3人で教会へ行く話等もある。この大学は、日本人は奈倉先生1人。ロシア語で全てコミュニケーションを取り、ロシア語をフランス語に訳す授業もあったらしい。自分なら直ぐに帰国するので、純粋に凄いと思う。

ロシア内部の不穏な空気も描かれている。突然人が消えたり、警察が犯罪を平気で行ってたり。教授が「ロシア語よりウクライナ語より文学的で優れている」と言ったり。歴史で学ぶこととは異なり、現地の雰囲気が味わえた。
日本で行えば、即退場レベルなことが行われているが、居続けた奈倉先生は肝が据わっていると思う。

↓印象的だった言葉達

ある大教室の壁には、レフ・トルストイの言葉が掲げられていた―ー「言葉は偉大だ。なぜなら言葉は人と人をつなぐこともできれば、人と人を分断することもできるからだ。言葉は愛のためにも使え、敵意と憎しみのためにも使えるからだ。人と人を断するような言葉には注意しなさい」227ページ

「そうしてようやく、先生に出会ってからの「学び」がそれまでとどう違い、自分の身になにが起きたのかを知った。それは私にとって、少しずつ生まれ変わることだった。新しいことを知るたびに、それは単なる知識ではなく、細胞がひとつひとつ新しくなるような喜びだった。浮き輪につかまって海に入ったようなかつての心もとない学びではなく、いくらひとりでいても孤独ではない安心感があったーーだって、私はひとりではなかった。
そしてこの先もずっと、永久にひとりになることはない。いつのまにか、かつての自分といまの自分はまったくの別人というくらい、私の内面は変わっていた。私を変えた人はこれからもずっと、私を構成する最も重要な要素であり続けるだろう。」258ページ

エレーナ先生やアントーノフ先生との出会いが、奈倉先生の人生に大きく関わっていると思う。純粋に羨ましい。自分もそんな人達に出会えると良いな。


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「19世紀の伝統的なロシア詩では耳で聞いてわかりやすい、二拍子なら二拍子、三拍子なら三拍子で統一されたリズムの詩が多く、なかでも一行のなかで弱強格を四回繰り返す四脚ャンプが好まれました。」129ページ

↑これを体感したいため、某動画サイトで詩を読んでいる人を探したが、見つからなかった。ご存知の方がいらっしゃれば、教えてください!

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2023年10月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ


その国で出会ったすべてがつながって。

ロシアに留学していた日々を綴ったエッセイ。渡航時の不安、出会った人々、文学大学の授業、日常と事件、そこから考えた自分、国、文学、言葉。どうして、と問う事態になっている今だからこそ、ロシアを見つめる。

途中まではふむふむと、米原万里を思い出したりしながら読んでいた。しかしアントーノフ先生の話を一通り終えて、これは壮大なラブレターだと思った。恩師への敬愛と感謝を込めた大きな意味でのラブレター。そう思ってから全体的に見て、やはりこれはラブレターだと思う。ロシアへの、文学への。

歴史には詳しくないけど帝国ロシア、ソ連、ロシア連邦と変わってきた中で、幾度ともなく変わる思想と政治と国境。変わってしまう人と、変わらないために戦う人と、どちらもがそれぞれ抱える痛み。著者が見つめるロシアの、一言では言い表せない姿。一言では伝えられないから散文となるのに、直接には表せないから詩になるのに、文字にすると現実とは異なる意味が加わり、ありのままの姿はそこにない。そんな文学の苦悩と価値。文学が語れる言葉は止めてはならない。ありのままじゃないからこそ、読む人がそれぞれ考えるからこそ、文学は時間も空間も超えて人と人を繋げる大きな力を持っている。

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2025年08月17日

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